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勝利と成長

「いやあ、ハイドランジアは強敵だったね」


 腹に空いた大きな穴から血を流しながら倒れているハイドランジアの表情は憎しみに歪んでいた。それを見ながらの聖騎の呟きに、秀馬は答える。


「少し可哀想な気もするけど」

「どんな理由があろうと、この子は魔王軍として沢山の人間を殺してきた以上こうなって当然だよ」

「それも……そうか」


 秀馬は少し悲しげに呟く。それを横目に見ながら、聖騎は彼女の側に落ちていた長い杖を手に取る。


(さっきは勢いでなんとか信用させる事が出来たけれど、後で冷静になったら敵になりかねない。だから、殺すしか無かった)


 聖騎が無言のまま杖を眺めていると、真弥や咲哉などが彼らのもとへと走ってくる。


「さっきまで、私達はこの子と戦っていたんだよね? こうして見ると、普通の女の子だけど」

「ムカつくガキだったけど、こうなってるのを見るとね……」


 真弥の感想に鈴が続く。二人はなんとも言えない虚しさを感じていた。否、二人だけではない。ハイドランジアの亡骸を見た多くの勇者が虚無感を覚えていた。勇者として戦う上で、敵を殺める事に対する拒否感を薄めさせる魔術を定期的に受けている彼らだが、実際に人間の少女が死んでいるのを見るのは堪える。


「ねえ神代君、本当にこうするしか無かったの? 殺さなくてもせめて縛っておけば……」


 目に涙を滲ませながら、真弥が大声を上げる。


「無理だよ。この子は神御使杖が無くても炎を操れる様だし、この世界では時間が経てば魔力は回復する。縄で縛る程度では意味なんか無いよ」

「でも! 他に方法があるかも知れなかった!」

「かも知れないけれど僕には思いつかなかった。あのね『癒す者』、この子は容赦なく人間を殺すんだよ。この子を助けていたら、多くの悲劇が生まれたかも知れない。もしそうなったら、君は責任をとれるかい?」

「それは……」


 真弥は口ごもる。彼女以外の、ハイドランジアを殺したことに思うところがあった者達も黙り込む。どんよりとした空気を切り裂くように、咲哉が話題を切り出す。


「でもよー、こっからどうやって帰んだよ。ここまで来る道、ブッ壊れちまってるし」

「さっきも言っただろ、オレが道を掘るって」


 咲哉の疑問には夏威斗が答えた。咲哉は納得して頷く。しかしここで鈴が口を挟む。


「でもアンタ、魔力残ってんの?」


 その指摘に、夏威斗は魔力の残量を確認すべく自分のステータスカードを見る。そこで彼は驚愕する。


「ちょ、なんかスゲー! いやマジ、ちょ、マジで」

「何よ」

「いや多分みんなもスゲーってマジで」


 興奮している夏威斗に言われて鈴もステータスカードを確認し、他の者達も続く。聖騎も例外なくステータスカードを取り出す。そこには、次のように書かれていた。




 名前:神代聖騎

 種族:人族(異世界人)

 年齢:15

 性別:男

 職業:勇者

 レベル:75

 体力:384/900

 魔力:7286/20000

 攻撃:12

 防御:16

 魔攻:300000

 魔防:700000

 俊敏:70

 スキル: 異世界言語理解 体力自動回復(微) 魔力自動回復(極) ユニークスキル『騙しチート』 第六感

 称号:召喚されし勇者 光属性魔術師 騙す者チーター 神に気に入られし者 巨龍殺し 炎魔殺し 心抉の外道 セルフフラグブレイカー 炎華殺し 炎華の撃滅者



 ハイドランジアとの戦闘に参加した12人の平均レベルは約70。平均体力は30000、平均魔力は5000、その他の平均は8000程度である。聖騎のスキルに『第六感』が追加され、称号は『心抉の外道』以降が新たに得たものである。聖騎はそれらの解説を詳しく見る。



 第六感:消費した魔力に比例した範囲において、生物の存在を感じることが出来る。

 心抉の外道:敵に対して執拗なまでに精神攻撃を与えた者に与えられる称号。精神攻撃を行った対象に多少のダメージを与えることが出来る。

 セルフフラグブレイカー:異性に好意を持たれつつも、自らの行動により無にした者に与えられる称号。異性から惚れられにくくなる。

 炎華殺し:魔王軍・四乱狂華の炎使いを倒すのに貢献した者に与えられる称号。炎属性の攻撃を半分にして受ける。他の称号の効果とも重複して発動する。

 炎華の撃滅者:魔王軍・四乱狂華の炎使いを倒した者に与えられる称号。スキル『第六感』が使用可能。


 炎華殺しの称号は12人全員が得たが、他の称号及びスキルは聖騎のみが得たものである。ただ、他の者達も各々がしたことに関連する称号を得ている。彼らは互いにステータスカードを見せあっていたが、鈴が思い出した様に言う。


「って、話をそらすんじゃねぇよ西崎。もう一回聞くけど、アンタの魔力は残ってんの?」

「お、おう。レベルアップしたときに魔力はめちゃくちゃ増えたから問題ないよ」

「そ。なら頼むわ」

「まかせろー」


 夏威斗は頷き、壁に手を当てて能力を発動。緩やかに上がる坂道を作っていく。


「結構長く掘れんのな」

「まぁな。……おおっと、貫通したみたいだ」


 感心したように呟く咲哉に答える夏威斗は、急に手ごたえが無くなったのを感じて能力を停止した。そして全員に向かって言う。


「そんじゃ、倒れてるヤツらを運んで帰ろうぜ」

「でも、この道を歩いてる間に崩れたりとかはしないの? この辺りはすごく不安定な事になってると思うけど」


 秀馬に口を挟まれ、夏威斗はたじろぐ。


「ええー、……大丈夫だと思うけど」

「思う?」

「……」


 口ごもる夏威斗。すると咲哉がフォローに入る。


「まー、俺は夏威斗の穴を信じるぜ」


 鈴が咲哉の頭を叩く。


「何すんだよ、鈴」

「アンタ言い方がキモい」

「は? 顔赤くしてどうしたんだ?」

「何でもない!」


 咲哉の追及に鈴は怒鳴る。それを興味無さそうに眺めながら聖騎は口を開く。


「他に方法が無い訳でも無いけれどね。この下にはドラゴンの巣がある。ドラゴンを適当に捕まえてその背中に乗っていけばわざわざ狭い通路を通らなくても、あの大きな穴からすぐに出られる」

「アレを手なずけるって事? 気でも狂った?」


 聖騎の言葉を鈴が遮った。


「心外だなぁ。僕の能力を使えばあんなドラゴンの1匹や2匹なんて敵ではないよ」

「それは良いけど万が一落ちたらヤバいから。……そういえば変ね」


 淡々と答える鈴はふと疑問を覚える。咲哉は聞く。


「変だぁ?」

「ええ。あのドラゴン達はこの洞窟の中、つまり土の中に棲んでんでしょ? それならなんで翼なんてあるのかしら。それに、こんな洞窟にあんなにデカいドラゴンが何匹もいるのは変、言い方を変えれば不自然よ」

「そんなもんか?」


 鈴は釈然としない。しかし咲哉は彼女のいう事がピンとこない様子である。


「それは今考えたって無駄な事だよ。……話を戻すと、ドラゴンに乗せてもらうというのはナシということだね。僕には他の案は思いつかないし、『掘る者』が掘った穴を利用することに異論はないよ。『読む者』、君はどうかな?」

「そうだね。ぼくもそれに従う。ただ、この下には魔王軍のちょっとした基地があるみたいだよ」

「俺はパス。もしアイツよりつえーヤツが出てきたらどうしようもねーし。お前がまだやりたんねーんなら勝手にしろ」


 秀馬の言葉に咲哉はうんざりと答える。秀馬は他の者にも尋ねる。


「みんなはどう思う?」

「僕はさすがに疲れたし、今すぐにでも街に帰って休みたいな」


 聖騎は答え、他の者達も同じような事を言う。全員の意見が一致したため彼らは夏威斗が掘った穴を通って王都へと帰ることに決めた。すると真弥がハッとする。


「あっ、そういえばシルア先生達は……」


 自分達を見届ける為に来ていた教師役の魔術師達。咲哉達によって気絶させられた彼らは、地面が崩れた際に瓦礫と共に落下し、瓦礫に巻き込まれて全員死んでいる。聖騎達はその様子を確認したわけではないが、状況を考えればその結論にたどり着いた。厳しいながらも自分達に戦い方を教えた者達の死。それを真弥は受け入れられないが、認めざるを得なかった。せめて死体を探そうと思ったが、聖騎と秀馬に後にしようと説得されて諦めた。真弥はレベルアップによって増えた魔力をふんだんに使い、倒れていた者達を全員復活させた。しかし彼らの体力はかなり少ない状態で復活したため、聖騎を含めた数名の回復魔術が使用可能な属性の魔術師が彼らの体力を回復させた。事情を聴いた彼らは混乱したが、取り敢えずは納得した。そして穴を通りながら、聖騎は重要な事を思い出す。


(『読む者』が読んだ情報によると、魔王軍の上位にいる人達はピンチになると自動的にドラゴンに変身するんだったね。だとすると、僕がハイドランジアと戦う前に王都に来たあのお姉さん――ファレノプシスだっけ――も……)


 幻術によって自滅に追い込んだ氷使いを思い出しながら、聖騎は『観る者』山田龍に王都の様子を見てもらうように頼んだ。


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