スタートライン
古木卓也の体はバタンと倒れ、その後はピクリとも動かない。その胸部――心臓がある個所からはドクドクと血が流れ続けていて、彼の生存は絶望的と言える。真弥は龍化したまま卓也を回復させようとするが、変化はない。如何なる傷も癒すことが出来る彼女だが、死者を蘇らせることは出来ない。それだけは絶対に認めたくなお真弥は魔力を注ぎ込み、諦めずに卓也を回復させ続ける。その甲斐あって彼の肉体は綺麗なものになった。だが、卓也は目を開かない。
「ガァッ、ガァァァァァァァァッ!」
天を仰ぎ、真弥は咆哮する。そして咲哉は聖騎に向けて叫ぶ。
「神代、何をした!」
「私は許さない。私の敵を」
「あぁ? 何言ってやがる?」
咲哉は聖騎の様子に違和感を覚える。すると秀馬が怒りに声を震わせて言う。
「違う……あれは舞島さんだ。舞島さんが神代君の身体を乗っ取って、動かしているんだ」
「クソッ、そこの神代モドキ! お前ならソイツが来る事に気付いたんじゃねぇのか!? どうして見捨てた?」
咲哉は怒鳴る。サタディはニヤニヤと笑って返す。
「随分と失礼な呼び方をするね。まぁいいや。うん、君の言う通り僕は舞島水姫の魂がここに来て、棒輪の間から手を伸ばして古木卓也の心臓を潰して、そして神代聖騎の身体に取り憑いた事に気付いていた。あれ、君達は棒輪の間を知らないんだっけ? まぁ、関係ないか」
「あぁ、よくわかんねーけど関係ねーよ。お前は古木の事を気に入ってたんじゃねぇのか!? なのに、何で……」
「あははっ、そうだねぇ。でも分からないかなぁ? 気に入っていたからこそあまり介入したくないものってあるじゃん? あるよね? その結果として死んじゃったけどねぇ。いやぁ、もったいない」
古木卓也の死を、サタディは軽い口調でハッキリと断言した。彼にとって卓也はあくまで観察対象であり、必要以上の介入はしない。
「あの人の敵は、容赦なく殺す。死にたくなければ、許してあげる」
「テメエ……」
「ハッキリと言ってあげる。私の空間魔法の前では、あなた達はただのゴミクズに過ぎない。試してみる?」
聖騎の口を通して水姫が告げる。そして倒れる卓也に首を向ける。彼は何の前触れもなく倒れた。そのからくりも分からずに敵意を見せれば、抗う間もなく心臓を潰される。それを思うと、そうそう簡単に動けない。そんな彼らの様子を見た水姫は満足そうに頷く。
「お利口ね。そういう訳だから、私はここで消える」
水姫は棒輪の間へと消えた。現在、聖騎のステータスは数値もスキルも全て水姫のものになっている。だから聖騎の体でも水姫のスキルが使え、逆に聖騎のスキルは使えない。勇者達は悔しげに水姫のいた場所を見て、そしてすぐに卓也の許に駆け寄る。目を覚ませ、生きているんだろ、などと言った声が掛けられる。それを目にしたサタディが静かに笑う。
(あぁ……これは神代聖騎が最も見たかったであろう光景だね。だが、それ以上に面白いものを見たな。まさか生きている人間の中に別の魂が入って体を動かすなんて。普通の魂に出来るのは精々、力を貸す程度。もしも体の主導権を握ろうとすれば、魂と魂が混じり合ってアイデンティティが喪失するはず。それが気を失っている魂だとしても。……恐らくは舞島水姫という、神代聖騎に勝手に全てを依存している特異存在が生んだ奇跡だろうね……おぉっと)
一人うんうんと唸るサタディは、そこに新たに現れた者達を見て笑みを深くする。
「見ない間に、随分と数を減らした様ですね」
突如響いたその声は聖騎の母親、神代怜悧のものだった。この戦場には似つかわしくない白衣に身を包んだ怜悧は、同じくらいこの場には不釣り合いなメイド服を着た女にお姫様抱っこをされながら飛んできた。そのメイド服の女に煉が反応する。
「近衛茉莉!」
「お久しぶりです、煉様。そして小雪様。お二方とも見違えられましたね」
「どういう事でしょう、あなた達がこの世界に来るなんて」
茉莉は怜悧を床に降ろし、両手でスカートの裾を持ち上げながら丁寧に頭を下げた。煉は彼女を睨み、小雪も敵意を剥き出しにしながら質問する。それには茉莉ではなく怜悧が答えた。
「私達の研究に対する邪魔が入り、頓挫する羽目になったのでここに避難してきたのです。協力関係にあったKMMと神世七代が裏切ったせいです。まぁ、私達もただ逃げてきただけでは有りません。敵として出てきた司東焔さんやエスター・カーライルさんなどをこの世界のとある治安の悪い国に送っています。中年男性である焔さんはともかく、エスターさんは割と人目を引く容姿をされていますから少し心配ですね」
表情をピクリとも変えない真顔のまま、怜悧は淡々と言う。その言葉に、エスターが育ての親であるフレッドが反応する。
「どういう事ダ!?」
「今言った以上の言葉はありません。詳しい場所は後でお教えします。それより……」
怜悧はそこで言葉を打ち切り、首を上に向ける。その視線の先にいたサタディはニヤリと笑う。
「あなたとは少々お話する必要がありそうですね」
「君に会えて嬉しいよ、神代怜悧。僕にとっての君というのはどういう関係なんだろうね?」
「あなたについては前々から存在を認知していました。サタディ・スペルビア……聖騎さんが生み出した最悪最狂の邪神。傲慢で、自分をありとあらゆる概念の上位存在だと考えている。まぁ、それは仕方ないでしょう。聖騎さんがそのように創られたのですから」
あくまで表情を保ったまま、質問を無視して怜悧は言葉を紡ぐ。それを面白がるようにサタディは聞く。
「考えている……というか実際にそうなんだけれどねぇ。まぁ、それはいいや。それで、僕に何の用?」
「あなたならここに聖騎さんを呼ぶことも可能でしょう? 是非お願いしたいのですが」
「やれやれ。神使いが荒いねぇ。まぁ、僕にとっては容易い事だけれど」
サタディがそう言うと、怜悧の目の前に聖騎が現れた。
「えっ……」
今も聖騎の体を支配している水姫が突然の自身の移動に戸惑い、キョロキョロと辺りを見渡す。
「悪いねぇ、そこのお姉さんがその体の持ち主に用があるそうだよ」
「誰?」
水姫は首を捻ると怜悧が僅かに声を弾ませて答える。
「神代怜悧。聖騎さんの母親で、あなた達がこの世界に来る切っ掛けを作った者です。舞島水姫さん」
「あ……ああ……」
怜悧の言葉を聞いた水姫は口を震わせる。そして何とか体を制御制御して、興奮した様子で言葉を絞り出す。
「あなたが、神代怜悧様なのですね!」
「はい」
「そうですか……。この方をこの世に生み出し、そして私をこの夢の世界に導いてくださったお方! あぁ……私はこの出会いを神に感謝します!」
「やっほー、神だよー」
「あぁ……神様」
興奮する水姫にサタディが言うと、諸手を合わせて拝みだした。その予想外の反応にサタディは少し戸惑いつつ、とりあえず両手を腰に当ててえへんと胸を張る。
「それはいいのです。聖騎さんを出してください」
「私も出来ればそうしたいのですが、まだ傷付いていて出られなそうなんです。申し訳ありません」
心から申し訳なさそうに、水姫は頭を下げる。
「そうですか。ならば仕方ありませんね。サタディさん、無理矢理にでも聖騎さんを引きずり出す事は出来ますね?」
「僕が出来ないということを考えもしないんだね。いや、出来るけれども」
「お願いします」
怜悧に言われ、サタディは聖騎の体内に眠る彼の魂を呼び出す。
「あ、ああ……。ぼくの……ちから。ぼくの、ちからが……。あぁ、あぁぁ…………」
突然聖騎の体が崩れ落ちたと思うと、ブツブツと呟き出す。目の前にいる怜悧と茉莉にも気付いた様子は無い。その痛ましい光景を、怜悧は何も言わずに見る。
「いやぁ、物の見事に壊れているねぇ。叩けば直るかな?」
サタディは面白がるように言う。それを無視して怜悧はゆっくりと聖騎に近付いていく。
「あぁ……せかいが……。ぼくのせかいがぁ…………」
眼前まで母親が寄ってきた事にすら気付かず呟き続ける聖騎。そして怜悧は掌を広げ、振り上げる。
「あははっ! まさか本当に叩くの? 昔のテレビじゃあるまいし。見た目は若くても中身は――」
「黙りなさい」
からからと笑うサタディに、茉莉が隠し持っていた手裏剣を投げ付ける。手裏剣は彼の頬を捉え、弾かれる。
「すごいすごい! 忍者だ! 忍ぶどころか暴れてるけど」
「怜悧様の侮辱は私が許しません」
茉莉に睨まれてもなおサタディは態度を変えないが、口を閉じる。そのやり取りの外で怜悧は掌から水属性魔法を発動する。出された水は聖騎の顔を打つ。
「あぁ……、あぁぁぁ…………。あ?」
冷水を浴びた聖騎はここで、怜悧の存在を認知する。
「あぁ……、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」
だが、聖騎の精神はまだ回復していなかった。彼自身自覚していなかったが、聖騎にとって怜悧とは恐怖の対象だった。特に何をされたでもない。ただ本能的に、聖騎は得体の知れない怜悧を恐れていた。しゃがみこんだ姿勢のまま両手を後ろの地面に付けて、必死の形相で後ずさる。
「私はあなたに謝らなければならない事が沢山ありますね。しかし私はそれから目を逸らし続けてきました。私は母親としてあなたと向き合う事もしませんでしたし、私はそれを特に問題だとは思っていませんでした」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃっ!」
「私はあなたをただの研究対象として見てきました。しかしあなたは私がお腹を痛めて生んだ唯一の子供です。そして、厳密には人間ではないあなたを孕んだ私の身体は、もう妊娠する事が出来なくなっています。つまり、これまでもこれからも、私の子供はあなただけです。それを思うと……私の中にはあなたを大切にしたい、そんな気持ちが湧いてくるのです」
怜悧は真顔のまま、聖騎に言葉を告げる。どのような表情で話せばいいのか分からないのだろうか、とサタディは適当に考える。研究漬けの日々を送り続けてきた怜悧はコミュニケーション能力に難がある。そして彼女の言葉も虚しく、聖騎は依然として怯えた表情で怜悧を見ている。
「ひぃ……ひあぁぁぁっ」
「あなたの言葉は画面を通して聞いていました。バーバリーとの対話で言っていた『生まれたくなかった』という言葉も聞いています。そうですね……あの時の私は衝撃を受けました。そこで気付きました。私はあなたには今後何をするにしても、希望を持って生きてほしいと親として思います。私の事はどう思おうと構いません。それでもあなたには、ポジティブに人生を送って欲しい。心からそう思います」
怜悧は何とか頭を回転させ、言葉を絞り出して紡ぐ。そして聖騎はボロボロの体をどうにか後ろに下がらせようと手を動かす。その光景に怜悧は背後の茉莉に助けを求める。
「茉莉……」
茉莉は聖騎をずっと育ててきただけあって、実の母以上に聖騎を理解している。そして聖騎からの好感度も高い。自分の代わりに聖騎を立ち直らせて欲しい、という言葉が喉元まで出かかったが押し留める。だが茉莉はその意図を完全に汲み取り、微笑みながら告げる。
「そう難しい事はございません。口で思いを伝えるのが駄目でしたら、行動で想いをお示しになれば良いのです」
「行動、ですか……」
自分を見て恐怖に震える聖騎。そんな彼を怜悧は、一先ず安心させてやりたいと思った。その為に最適な行動、それは頭で考えるより先に体が自然に行っていた。
「……」
それは抱擁であった。ガクガクと震える息子を胸の中に抱き寄せて、言葉も無くぎゅっと腕を絡ませる。怜悧の胸の鼓動が聖騎の耳元で響く。すると聖騎は震えを止め、怜悧に身を委ねた。
「おかあ……さま」
「何も心配する必要は無いのです。聖騎さん、いえ…………聖騎」
怜悧はしばしの間をおいて、息子の名を敬称を付けずに呼んだ。その言葉に込められた意味を聖騎は感じ取る。怜悧が敬称を付けずに名を呼ぶのは彼の知る限りでは茉莉だけだった。そこから察するに、怜悧は自分を親しい間柄だと認めたのだろうと彼は悟る。
「お母様……僕は駄目だったんだ……。どんなに頑張って手を打っても、敵は理不尽なパワーアップをして何度も何度も立ち上がるんだ。僕はもう嫌だ……。世界が思い通りにならないのなら、僕はもう生きたくない」
そして無意識のうちに、彼は心境を吐露していた。その言葉を怜悧は黙って聞く。
「お母様、僕を殺してくれないかな。自分で自分を殺そうとすれば、手が震えてしまう。だから……」
だが、聖騎の言葉はそこで止まる。怜悧の平手が彼の頬を打ったからだ。頬にはじんわりと痛みが広がり、聖騎は言葉を失う。怜悧は語る。
「私は研究者として、長年様々な研究を行ってきました。その結果として私は、人が驚くような様々な発見をいくつもしてきました。ですがそれらは、何百何千といった失敗を繰り返したからこその結果です」
怜悧は少しだけ早口に言葉を述べる。その言葉には感情が籠っているように聖騎には思えた。
「あなたは理想の世界を創るのでしょう? そのようなスケールの大きい事を成し遂げるには、失敗の積み重ねが必要です。……あなたは生まれながらに才能に恵まれていました。それにより苦しむほどの努力をせずとも結果を出してきました。そして、あなたはこれまで挫折らしい挫折を経験せずにここまで来てしまいました。聖騎、あなたの心は未熟です。あなたは自分を同世代の方々の上位存在だと考えていますが、あなたは彼らが当たり前のように経験してきた事をしていないのです」
「……」
「ですがあなたは今ここでようやく、彼らと同じスタートラインに立ったのです。あなたのこれまでは所詮プロローグ、ここからが本番です。目的を諦めるのは、きちんとスタートしてからです」
怜悧の言葉は聖騎の胸の中に響く。彼女は決して諦める事を否定しない。その上で今の聖騎には諦める資格が無いと言う。それはとても説得力があるように感じた。
「お母様……僕は」
そして聖騎は決意を口にする。
「僕は理想世界の創造を、まだ諦めない。何年かかるか分からないけれど、僕には無駄に長い寿命がある。この世界の愚民達を僕の手で教育して、世界をより高みへと導く。その為に、僕は何だってする!」
それはあまりにも傲慢で、一般的な親ならば息子がそんな事を口にすれば冗談だと受け取るか、反対するであろう。だが、怜悧は聖騎が自分で選んだ道を否定しない。
「素晴らしい意気込みです。流石は私の息子です」
「それは良いけどさぁ、良いの? みんなに存在を忘れられてそうなソレ、彼が殺した訳だけれど?」
感慨に浸りながら優しく微笑む怜悧にサタディは言った。彼は地面に転がるヴァーグリッドの死体を示す。ヴァーグリッドは怜悧の愛すべき対象であり、彼女が人生の全てを捧げていた存在である。しかし怜悧は動じずに答える。
「聖騎は今までスタートラインにすら立っていなかったのです。彼に責任を問うのは酷でしょう。死んでしまったヴァーグリッド様は私が復活させればいいのです。研究者として、どれだけ時間が掛かろうとも」
「あぁ、やっぱり君は狂っているね」
「どうとでも言ってくださって構いません。……さて、聖騎さん。私は親としてあなたの人生を支えたいと思います」
怜悧の微笑を受けて、聖騎も小さく笑う。
「お母様……僕はあなたを頼って良いんですね……?」
「勿論です。私はあなたの母親なのですから」
怜悧は聖騎を抱く腕に力を込める。すると聖騎も怜悧の背中に腕を回した。 その光景を茉莉は目に涙を湛えて見ていた。これまでまともに関わり合わなかった母子の抱擁は、彼女にとっても感慨深いものだった。そんな光景をよそに、言葉が響く。
「で、パッと見感動的展開だけどさ、あなた達って全ての元凶とド畜生サイコパスじゃん。自分達がしてきた事を差し置いて、何やっちゃんてんの? って感じなんだけど」
その言葉は星羅のものだった。そしてその言葉は勇者達全員の意見の総意であった。するとサタディが大声で笑い出す。
「あはははははははは! 確かにそうだ! ここにいるみんなは家族と会えず、沢山の友達を失って、やっとの思いで倒せた神代聖騎が復活したと思えば、一人だけ良い思いをしているんだからね。それは許せないよねぇ……あははははは! でも、どうするのかなぁ? またこれから戦う? でも正直みんなそういう気分じゃないよねぇ?」
サタディの言葉は正しかった。勇者達の中には今すぐにでも聖騎や怜悧を倒したいという願望がある。だが今日は激戦に次ぐ激戦を経験し、肉体も神経もかなり疲弊していた。
「ざっ……けんな」
それでも咲哉は吠える。彼の正義は聖騎達を許すことが出来ない。そんな彼を嘲るようにサタディは言う。
「よく考えてみなよ国見咲哉。神代怜悧はこの世界の研究の第一人者だ。そして彼女達はいつこの世界に行く事になっても良いように準備をしていた。つまりだ、彼女達の体はこの世界で強者となる為に調整されていると考えるのが自然じゃないかなぁ?」
その言葉を聞いて、咲哉は納得する。ここで戦いを挑んでも、ただ犬死にするだけだという予感が彼の中で浮かぶ。そして命を無駄にする事は彼としても避けたい。夏威斗をはじめとする死んでいった仲間達の本懐を果たすためには、着実に準備をして、きちんと勝算がある状態で戦いを挑むべきである。そんな理屈は理解できる。理解は出来ようとも、一時的とはいえ聖騎達を見逃すという事に拒否感が生じた。
「咲哉……今は諦めよう?」
鈴も憔悴しきった表情で言う。そこには複雑な感情が混ざっていた。怒り、悲しみ、憎しみ……それらの感情は彼女から戦意を奪っていった。この状態で余裕のある怜悧と戦おうとするのは無謀である。それに加えて、サタディという不確定要素がいる。
「あぁ、そうだな」
咲哉は唇を血が滲むほど噛み締めて、首肯した。勇者達は全員これ以上の戦闘は行わない事に賛成し、聖騎もそれに応じた。
これをもって、作戦名オペレーション・ブレイブは終結した。この戦争は『魔勇戦争』の名で後世に伝わる事となる。
◇
聖騎はパラディンとして世界中に向けて、魔王ヴァーグリッドの討伐を宣言した。その情報は妖精族によって広く伝えられ、パラディンの名は英雄として世界中に広まる事となる。また、異世界から召喚されたという勇者達の活躍も伝わった。
パラディンは人族と魔族の共存を宣言。彼の声によって生まれた国際連合には各国代表に加えて魔族、妖精族、巨人族、獣人族が加入した。そして国際連合の本部はラートティア大陸北部、旧ディルーマ帝国帝都に設置された。全世界の同盟による世界平和を目的として創られた国際連合の影響力は多大なものとなり、特に連合の発足を提案したロヴルード帝国の国際的発言力は強まっていった。連合が出来たからと言って戦争が無くなった訳ではないが、それでも世界は少しだけ変わった。
パラディンはロヴルード帝国公爵、パラディン・デュランダルとして国内では名実ともに皇帝メルンに次ぐ権力者となった。その正体については様々な憶測が立てられたが、その正体は謎に包まれた。彼に関する噂の一つとして『その正体を知ろうとした者は酷い目に遭う』というものが広まる事となる。それを広めたのは聖騎本人であるが。大貴族でありながら素顔を公の場に晒さないそのスタンスには不思議と、反対する者がいなかった。
また、パラディンはロヴルード七曜大罪神についての教えを広めるために、世界中に教会の設置を広めた。それに対する反対活動は各地で起こったが、国際連合の『多数決』という極めて民主的なシステムにより強引に推し進められた。また、連合の理念に反対する国には制裁が下される事もあった。七曜大罪神の教えは時を経て世界中に広まっていく事となる。
兎にも角にも、聖騎の世界征服は順調なスタートを切った。
これにて本編は終了です。
本日0時頃に最終章のエピローグを投稿して、拙作は完結となります。
少し早いですがここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!




