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人を憎みし炎華(5)

 聖騎達がこの世界に飛ばされた次の日の夜。秀馬は自室に入ろうとしていた聖騎の心をユニークスキル『読みリード』を使って読んだ。異世界に来てから裏でコソコソと何かをしている彼が何を考えているのかが気になったからだ。


「うぅぅぅぅ……何だこれは!」


 秀馬が覗いた聖騎の心。それは邪悪を具現化したかの様に黒いものが渦巻いている。秀馬はそう感じた。


「おや、こんな所でうずくまってどうしたのかな?」


 崩れ落ちるようにしゃがみ込む秀馬に、聖騎が話しかける。


「き、みは……狂っている……!」

「いきなり失礼な事を言うね」


 聖騎は首をかしげる。


「惚けるな……ぼくは君が何を考えているか読んだ。君がしようとしてる事は間違っている!」

「あははっ、なるほどねぇ。それで急に様子がおかしくなったんだねぇ。でも、僕が考えている事ってそんなにおかしいかなぁ?」


 勝手に考えている事を覗かれた事に対する嫌悪感は聖騎には無かった。単に、自分の考えを否定された事ヘの疑問だけがあった。


「正気じゃない! そんなことをして何があると言うんだ!?」

「僕が……僕達が元の世界に戻ったとすれば、生活する上で必要な措置だと思うのだけれどね。僕の考えを読んだ君には言うまでもないかも知れないけれど」


 秀馬は聖騎の心を読んだ瞬間、思わず能力を解除した。故に、聖騎の考えている事を完全に把握している訳ではない。そして秀馬の好奇心は、邪悪な内容ながらも――否、邪悪だからこそ、くすぐられた。そして再び能力を使う。


「ううう……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 鈍痛が秀馬を襲う。再び体が崩れ落ちる。


「うわぁぁぁぁぁ……うあ……うあ……うあははははははは! あはははははははははは! あははははははははははははははははは!」


 急に豹変した秀馬に、流石の聖騎も戸惑う。まさか自分の考えを読まれただけでこのような事になるなど予想も出来なかった。


「えぇ……」

「あはははははははは……はぁ、はぁ…………。すごい、すごいよ! ぼく達の世界とこの世界、ふたつの世界を巻き込んだ君の企みに感服したよ! 君の計画の為の歯車に、ぼくはなりたい! お願いします。ぼくを……いえ、この私めをあなた様に協力させて下さい」


 イキイキとした目を聖騎に向けた秀馬は頭を下げる。一瞬馬鹿にされているのではないかと聖騎は疑ったが、そのためだけにここまではやらないだろうと判断し、言う。


「歓迎するよ。でも、条件がある」

「条件……ですか?」


 歪んだ笑みを浮かべながら秀馬は聞き返す。


「これまでの態度で僕に接して欲しいな。というよりは、君が僕と協力関係にあることは秘密にしてくれると嬉しいよ。ところで、他の仲間が誰なのかはは僕の心を読めば分かるよね?」

「はい……じゃなくて、うん。分かったよ。でも、誰が仲間なのかという所はまだ見てなくて……」

「遠慮なく見てくれて構わないよ」

「それじゃあ……」


 秀馬は能力を使おうとする。しかし、急に体が拒否反応を起こしたかのように小刻みに震える。


「でき……ない」

「えっ?」

「出来ない……能力を使おうとすると……。何で!? なんでなんでなんで!?」

「まあ、落ち着いて。僕の心を読んだ結果、君の体が能力を使うことを拒んでいるんだよ。認めたくはないけれどね」



 ◇



 それ以来、秀馬はユニークスキルを使うのをためらうようになった。聖騎だけでなく、誰に対して能力を使おうとしても体が震え出す。ただ、使えない訳ではない。


(よし、やれる……やるしかないんだから)


 震える身を押さえながら、秀馬は上の穴の向こう――赤いドラゴンを睨み付ける。


(見せてもらうよ……君に心があるのなら!)


 ユニークスキル『読み』を発動。頭痛が激しさを増すが気にしない。


「う、うう…………まだまだぁぁぁぁぁ!」

 

 ドラゴン――ハイドランジアの心を揺さぶる為の何か。それを探るために秀馬は心を覗く。だが、彼に見えるのは壮絶な過去。少女ハイドランジアが視力を失い、そして魔王軍最強の四人の戦士――四乱狂華の一人として成り上がるまでの波乱万丈な人生。それは、数日前までただの中学生だった秀馬には想像も出来ないような厳しいものだった。聖騎の心中など比にならない。


「うぅぅ…………くっ!」

「藤川君!?」


 その場に倒れた秀馬のもとに真弥が駆け寄る。


「大……丈夫だから」

「でも!」


 真弥は心配そうに秀馬の体を支える。


「大丈夫……大丈夫だから…………」

「藤川君……」


 ふらつく秀馬の目に秘められた熱いものを見つけた真弥は、その覚悟を認める。そしてただ、彼の成功を祈る。


「おいおい、まだ攻撃はダメなのかよ」

「そうだね。『読む者』、まだかかるかい?」


 苛立ちながらの咲哉の愚痴を受けて、聖騎は聞く。


「ッ……うん……もう少しで、たどり着くから…………」


 秀馬は頭痛に苛まれながらも、集中する。


「もう少し、もう少しなんだよ……!」


 ハイドランジアの壮絶な記憶。これを覗くうちに、秀馬は突破口を開くための情報を見出した。


「見えた!」

「分かったよ、お疲れ様。それじゃあ作戦開始」

「待ってたぜ」

「待てよ咲哉、オレが先だろ?」

「チッ」


 合図を受けて意気揚々と攻撃しようとした咲哉をたしなめて、夏威斗が杖を上に向ける。そして呪文を詠唱。


「サーダ・ゴド・レシー・ハンドレ・ト・ワヌ・ブレン・キンプ」


 彼の杖からは雷の刃が発生する。それに『掘り』を適用。雷刃が触れた天井に穴が空く。この穴はドラゴンの腹部へと通じている。その位置は山田龍の『観』の能力により確認した。


「じゃー、次は俺の――」

「俺達の番だな」


 咲哉の言葉を巌が遮る。そして彼らを含めた数名が穴に杖を向けて呪文を唱詠する。腹部へと集中的にダメージを受けたドラゴンは激痛に叫び、暴れる。それにより天井がミシミシと音を鳴らしながら崩れ落ちる。


(やっぱりアレだけでは倒せなかったかぁ…………でも)


 聖騎は痛みに悶え続けるドラゴンを見据えながら小さく笑う。


(すぐに終わらせてあげるよ)


 聖騎はユニークスキルを発動。秀馬が読み取った情報をもとに作った幻覚をドラゴンに見せる。

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