迷っている時間は無い
崩落から体勢を整えた卓也は、仲間達の身をを案ずる。その滅茶苦茶な状況の中、新たな現象に驚く。突如上から降ってきた膨大な光が周囲の壁を削ったのだ。そして彼が立っていた大木が上から見て円形に切り取られる。
「な、何だ!?」
事情がよく分からないまま、卓也は声を上げる。情人なら目を傷めてしまうその輝きを見て、上で何者かが戦っているのだろうかと予想する。彼の知る限り、この場にいない強力な光の魔術師は一人しかいない。
「神代……なのか?」
だが、実際に聖騎が上にいるとして、どのような過程でそこにいるのかが想像も付かない。そこで思考を放棄する。今の彼はそれ以上に気にするべき事が有る。
「無事か!?」
卓也は地面に転がっている渡瀬早織を見付けて、声を上げる。すると早織の腰から下が無くなっていることに気付く。この部屋の端にいた彼女は、上からの謎の光撃によって下半身を持っていかれたのだ。
「クソッ……」
恐らく、死体も残さずにいなくなった者もいるのだろうと卓也は考える。だが今は泣いている暇などない。まずはここを守る強敵を倒し、そして魔王の所に行かなければならない。彼は跳躍して階を上がり、上を目指す。すると彼は見知った顔を見付ける。
「国見……」
「……ああ、古木か」
咲哉も卓也の接近に気付き、軽く手を上げる。
「諸行無常の」「盛者必衰の」
二人同時に別の合言葉を言い、それぞれが想定していたとは別の方法で互いが味方である事を確認した。
「まあいい。お前、他に生きてる奴誰か見なかったか?」
「いたら一緒にここに来てるよ」
「そうだな。悪い」
その答えに咲哉は俯く。それでも二人は上に向かっていく。すると何人かと合流できた。勇者では伊藤美奈、土屋彩香、草壁平子、山田龍、フレッド・カーライル、、数原藍、御堂小雪、百瀬錬磨、緑野星羅、桐岡鈴、高橋梗、面貫善と、他に兵士や巨人族、飛行能力を持たない獣人族数人といった具合である。城に入った当初に比べてかなり寂しいものとなった。また、飛行能力を持つ妖精族や獣人、勇者は既に上で戦っているという報告があった。
「お前ら、上、投げる」
巨人族の一人がそんなことを言う。それにざわめきが起こるが、そんな中咲哉が言う。
「頼む」
するとそれに続き、他の者もそれに続く。投げられる事への恐怖はあったが、それが一番手っ取り早い方法である事は認めざるを得なかった。勇者達はポンポンと上に投げられる。
「煉君だったら最後まで断っていたでしょうね」
「そうだネ。無事だと良いんだケド……」
小雪とフレッドは飛びながらそんな会話をする。ここにいる勇者の中では最も戦闘慣れしている二人は、恐らく上で戦っているだろうと思われる煉の健闘を祈る。そうしてたどり着いた元の階にて、衝撃的な光景を見る。
「そんな……」
そこでは司東煉、藤川秀馬、永井真弥、佐藤翔、鳥飼翼、有森沙里、武藤巌、波木静香が背中を合わせて立っていた。それを囲うように、柳井蛇、黒桐剣人、宍戸由利亜、吉原優奈、浅木初音といった面々が立っている。
「一応聞く。どういう状況だ?」
咲哉は極めて冷静に質問する。すると剣人が答えた。
「オレ達はマスターの手駒だ」
「チッ、くだらねー事言わせやがって。人を何だと思ってやがるんだよクソジジイ!」
剣人達は既に殺されていて、マスターウォートの支配下に置かれている。それを知った咲哉は激昂する。他の者も怒りを露にするか動揺するかのどちらかである。そして怒っている方の一人である卓也は叫ぶ。
「もう限界だ! ここで全力を出す」
その叫びに、彼の内側の声が言う。
――――良いのか? この先も魔王との戦いが待っているのだぞ?
「よく考えれば、どうせ魔王はすぐそこにいるんだ。アイツ本体を一瞬で倒して、その勢いのまま魔王の所に行ってやる!」
――――流石は我の契約者だ、思い切りが良い。ならば我から言う事は何もない。
「そっか。じゃあ頼む」
――――いつも言っているであろう。我の力はあくまで貴様の力を借りて、勝手に消費して、増幅しているだけの事であると。我は貴様に力を与えているのではない、返しているだけだ。
「そんなの、どっちでもいい!」
内側の声に対して叫びながら、卓也は跳躍する。数百メートルはあるような高度に一瞬で達した卓也は、階段の上で余裕の表情を浮かべているマスターウォートに疑問を持たせる暇も与えずに、拳の連打を食らわせる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
一撃一撃が鋼を砕く拳を数え切れない程受けたマスターウォートは、即座に絶命する。その瞬間、彼の支配下にあった死体達はその場に倒れ落ちる。それに見向きもせず、卓也は一目散に上――魔王ヴァーグリッドの居場所を目指す。
(クソッ、これは最初から使うべきだった! 魔王と戦う直前のタイミングまで温存しておこうなんて考えなければ……。いや、今はどうしようもない! 志半ばで倒れたみんなの為に、俺は魔王に会わなくちゃいけない!)
そんな卓也の突然の変化に煉は呟く。
「あの動き……まさかアイツも神の力を?」
煉は右手に持つ、天叢雲の力の一部を授かった剣に目をやりつつ卓也を追う。他の者たちも随時それに続いた。