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昨日の友は今日の敵

「壮観だね。遠くに見えるキラキラしたものが全部異世界で、その一つ一つに文明が存在している」

「俺を満足させられる奴もいんのか?」

「これだけの世界があれば割といるだろうね。だけれども今はそれより先にやる事がある。その内強敵探しツアーに連れていってあげるから、今は我慢してほしい」

「ああ、分かった」


 世界群の圧倒的な光景を見てノアが呟いた一言に聖騎は答える。ノアはうずうずした様子を見せながらも頷いた。そこで聖騎はアジュニンに言う。


「この空間の魔粒子量は?」

「魔粒子自体はほぼ無いと回答。しかし、貴方が求める条件に合致した物質で構成された世界は発見」

「あはは……そうか」


 アジュニンの答えに聖騎は笑う。聖騎が先程までいた世界『コロニー・ワールド0207』は電磁波の影響を受けやすい物質で構成されていて、故に神代怜悧らに利用されている。それならばと聖騎は、同様に自分達が利用できる世界があるのではないかと考えた。そしてその仮定は間違っていなかった。


「ならば、始めようか。世界の搾取を」

「了解」


 リートディズは両手で持つ巨鎌ヘル・イマギニスを、例の世界へと向ける。すると巨鎌は黒く、まがまがしい光を放つ。その光は世界へと伸びていく。


「それにしてもマサキはえげつないコトを考えるわね。今までもクズだとは思ってたけど、これは今までと比にならないわ。ロクな死に方しないわよ?」

「随分と失礼なことを言うね。それを可能とするシステムを実現させた君に言われる筋合いは無いよ、ローリュート」

「あら、それもそうね」


 ローリュートはからからと笑う。そうしている間にも黒い光は世界を徐々に覆う。その世界の中には宇宙があり、銀河があり、惑星があり、数え切れない程の命がある。その星に住まう生物は、自分達の世界に何が起きようとしているのか知らない。そもそも、何か変化が起きている事にすら気が付かない。気が付くはずがない。


「さぁさぁ、愚かな世界よ。僕の糧となれ」


 世界を覆う黒の光は輝きを増す。それは世界を構成する物質を、異なる性質を持つ物質に変換させる。その世界に存在する全ての大地を、水を、空気を、炎を、そして命を無に還す。そしてそれらを魔粒子として再構成し、それはフリングホルニへと注がれる。その世界の生物は危機を知り抗う暇も与えられずに、無慈悲に、一方的に、理不尽に、命を奪われた。


「あはははははははは! すごい、すごいよこれは! 感じるよ、力が満ちていくのをね! 邪魔者を片付けるのに必要な力を!」


 聖騎は心から楽しそうに笑う。今の世界を全て収め終えたら、次はまた別の世界を糧とする予定である。だからとりあえず、作業が一段落するのを待った。



 ◇



「邪魔をしないで! これ以上神代聖騎の愚行を放っておく訳にはいかない!」


 高天原のアマテラスは珍しく声を荒らげる。その目の前にいるのは得体の知れない、少年のような姿の謎の神である。


「あはは、ダメだよ。神はそうそう容易く人間に干渉してはいけない。世界群のバランスが崩れてしまうからね。ただでさえ君の弟のした事による影響のフォローで大変なんでしょ?」

「黙りなさい! 神代聖騎を放っておけばそれこそ、世界群が滅茶苦茶な事になってしまう! 他の世界を容易く崩壊させるなど、人の身に余る罪です。私は彼に裁きを下さねばならないのです」


 飄々と笑う少年に対してアマテラスは激昂する。彼女が放つ炎の球は、少年が手をかざす事によりかき消された。


(やれやれ。随分とお怒りのようだね。ここはいっそ――)


 少年は心の中で何かを企み、ほくそ笑んだ。



 ◇



 一方魔王城。マスターウォートの操る死体の兵士達の量と耐久性に、卓也達は手こずっていた。勇者側の兵士達は次々と倒れ、敵の兵士として立ち上がった。今まで味方だった者に剣を向ける事には兵士達も抵抗があり、加速度的に味方が減って敵が増えていく。


「回復が間に合わない!」


 真弥もユニークスキルで仲間を回復させるが、それ以上に敵の殲滅速度の方が上である。


「チッ。パッと見で敵なのか味方なのか分かんねー!」


 ゾンビ化した元味方兵士の姿に咲哉は舌打ちする。マスターウォートの死体操作は巧みであり、味方の様に戦っていたと思えば急に斬りかかってきたりする。


「真弥、ゾンビを回復させたら逆にダメージ受けるなんてことは無いの!?」

「……それは無理。私が魔王軍にいた時はゾンビの回復役をさせられてたから」

「厄介ね!」


 鈴の閃きは真弥に一蹴される。鈴はぼやきながらも薙刀で敵を突く。この入り組んだ戦場では素早さが求められ、発動するのに呪文を唱えなければならない魔術は使うのが難しい。物理攻撃より魔術の方が得意な面々はハンデを強いられている。この状況の中で、二本の剣を飛ばして確実に敵を倒していた煉が声をあげる。


「散開しろ! 一旦散り散りに分かれて、陣形を整える!」

「ど、どこに……」

「どこでもいい!」


 突然の指示に戸惑う初音に煉は怒鳴る。一人一人に細かい指示を出している暇はない。勇者軍は思い思いの方向に向かって走り出す。しかしやはりと言うべきか、死体の兵士もそれに倣って散開する。明確に敵として戦う兵と、味方のふりをしている兵。それを明確に見分ける事は難しい。幾つかのまとまりが出来た所で、煉は言う。


「祇園精舎の」


 その時、勇者軍に属する兵士達は一斉に答える。


「鐘の声!」


 勇者軍の人族、妖精族、獣人族、魔族がそれに答えた。マスターウォートと戦う可能性を考慮し、煉達は合言葉を設定して敵味方を識別する方法を考えた。そこでこの世界の住人であるマスターウォートが知る由も無い、平家物語の最初の八文を兵全員に覚えさせた。つまり、八回限りの奥の手である。目まぐるしく戦況が変化する混戦状態の時は無意味であったが、今では効果的だった。間髪入れずに勇者軍は死体の兵士を攻撃する。脚部を狙った攻撃は移動力を奪った。


「ほう、合言葉か。考えたものだ。それにこの統制力……甘く見てはならないようだ」


 マスターウォートは煉を見る。そして彼がこの部隊の要だと認識した。その両目ははっきりと煉を捉え、煉もそれを感じ取った。他のところに散っていた兵を、マスターウォートは煉へと向かわせる。


「行かせないヨ!」


 フレッドはナイフで、自分に背を向ける敵兵の足の腱を次々と切る。その動きに無駄は無かった。


「中々やるな。勇者の中でも戦闘センスは突出していると見える。だが、貴様一人で出来る事にも限界はあろう」


 マスターウォートはフレッドを笑顔で称賛する。彼は冷静に戦況を眺める。そして自分の思い通りに兵を動かす。勇者側に敵と味方を見分ける術が有ろうと、そんなものはものともせずに敵を倒す。より効率良く敵を片付ける為に、効果的な兵の動かし方をする。この、彼のホームグラウンドともいえる魔王城で。


(フフフ……。良い感じにばらけたな。では、少しばかり本気を出すとしよう)


 マスターウォートが煉を集中攻撃している事は誰から見ても明らかとなっている。他に秀馬や真弥、咲哉など、勇者の中でも際立った存在には注目が集まっている。その一方で、あまり注目されない勇者数人をいつでも消せるように準備を進めていた。そして、それを今実行する。


「さあ、やってしまえ」


 その瞬間、彼が目を付けていた勇者達の心臓を凶刃が狙う。突然の攻撃に驚きつつも勇者の多くは難なく致命傷を避ける。彼らは既にこの世界で一流の戦士となっている。不意打ちへの対処も出来る。……だが、全員が全員という訳ではなかった。


「がはっ……」


 柳井蛇、吉原優奈、浅木初音の三人は致命傷を受けて倒れる。彼らも呆けていた訳ではない。マスターウォートが攻めるタイミングの直前に、前方の二人、三人の敵相手に対処していた。それに気を取られて、背後の敵に気付けなかった。あるいは、気付いても対処出来なかった。


「柳井氏!」

「優奈!」

「初音ちゃん!」


 山田龍、数原藍、緑野星羅の三人が、親友の容体に動揺の声を上げる。そこで真弥は即座に彼らの回復をしようとする。その時、彼女の真上の天井に穴が開き、そこから死体の兵が落下してくる。その兵は、巨人族だった。


「永井さん! 避けて!」

「待って! それより……」

「はぁぁぁぁ!」


 秀馬の注意喚起に真弥は戸惑い、その間もなく肉体を強化した巌が、高く跳躍して巨人に拳を叩き込まんと助走をつける。その時、彼の足場が無くなった。彼のいる階層の床が突如として崩れ、巌は敵味方多くの者と一緒に重力に従って落下した。するとその下の階も、さらに下の階も床が抜けた。


「ちっ……落ちて、たまるか!」


 煉は背中に背負っていた一枚の大きな板を掴む。それを『浮かしフロート』の力で浮遊させ、その上に乗る。そして愛用の二刀を握り締め、マスターウォートを目指す。その他にも佐藤翔が『創りメイク』で杭を創り、それを壁に刺したり、波木静香が飛龍に『化けチェンジ』で変身したり、鳥飼翼が『馴らしテイム』で支配下に置いているワイバーンの背中に乗ったりと思い思いの方法で助かり、仲間を助ける。だが、そうしている間にも上から降ってくる兵士がいて、それの敵味方の区別が付かない。ある者は自分だけが助かろうと他の者を見捨て、ある者は仲間かもしれないと助けた相手から攻撃を受ける。


「こうなったら……!」


 この部隊において貴重な魔法使いである真弥は木属性魔法により、床に大木を生やした。それは彼女の下を覆い尽くし、枝と葉がクッションを作った。木をそこまで大きくするのにはそれなりの時間を要したが、結果として一応の足場が出来て、落下者もそこから下には落ちない。やっと状況が落ち着いたと思ったところで、真弥は周囲を見渡す。気掛かりだった蛇、優奈、初音を探し、すぐにでも回復させなければならない。すると彼女は歩いている初音を見付ける。


「浅木さん!」


 真弥はすぐさま回復させようとする。だが気付く。初音は心臓部分に穴が空きながら歩いている事に。そして真弥は残酷な事実に気付く。


「そんな……」


 浅木初音は死亡し、マスターウォートの人形となっていた。

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