三勇合体
「チッ、このままじゃラチが明かねぇな」
乗機フィアドルーグ・ゼータの中で国見咲哉はうんざりと呟く。彼は炎魔術で敵を薙ぎ払うが、次から次へと新たな敵が現れる。こちらが巨大兵器を使うのに対抗して、巨人の兵が続々と送られてきている。一体一体は大した事が無いものの、視界を埋め尽くす彼らの群れは見ていられない。その上相手も巨大人型兵器を使ってきているのだから厄介さはより一層増す。それぞれ藍と優奈が椿と、鈴と沙里が彩香と、夏威斗が剣人と、翔が梗とそれぞれ戦い、咲哉は全体のサポートをしている状況である。勇者側の機体は五年間の中でパワーアップしているがそれでも魔王側の方がスペックは高く、厳しい戦いを強いられている。
「いっそアレやるか? アレ」
剣人が操る二刀流の機体の猛撃を何とか受けながら、夏威斗が提案した。すると鈴が苦言を呈する。
「あの燃費最悪のアレ? 魔力を無駄に消費して、すぐに機体が使い物にならなくなっちゃうアレをここで?」
「だって、このままじゃここでやられるかも知んないぜ? そうなっちゃ本末転倒じゃん」
「それはそうだけどさ……アレは本当に切り札で奥の手で、魔王と戦う時に取っておくんでしょ。ここは何とか乗り切ったけど結局魔王は倒せませんでしたじゃ、それこそ本末転倒だと思うけど」
夏威斗と鈴は戦いながら意見をぶつけ合う。二人の意見はどちらにも一理あると咲哉は思う。『今』を重視する夏威斗と『後』を重視する鈴。二人の考えのうちどちらを取り入れるべきか考え、咲哉は結論を出す。
「鈴、夏威斗が言うみてーにアレをやるぞ」
「おう!」
「待って!」
対称的な答えが返ってくる。咲哉は鈴を説得する。
「鈴、俺達がまず最優先しなきゃいけねーのは、今生き残る事だ。後の事は後で考えりゃ良い」
「……まあ、そうよね。よし、やるわよ」
「おいおい、咲哉が言ったら一発かよ」
あっさりと納得した鈴に夏威斗は疲れたような声を出す。そして鈴の承諾を聞いた翔が笑い声をこぼす。
「梗、見てろよ? お前、今からスゲーもんを相手にしなきゃいけなくなるぜ」
「そんな事を言ってる余裕があんだったら、反撃でもしてみろや」
スペックの高い機体で梗は翔を圧倒していた。翔の機体は既に右腕を失い、全身もボロボロだった。機体のダメージは搭乗者にもフィードバックされ、翔は全身に激痛を感じている。だが翔は痛みをこらえてかつての友の前に立ち塞がる。
「オレにはもうムリかもな。でも、アイツらならやってくれるぜ?」
「あんな奴にオレは負けない!」
「お前には分かんないか。アイツの凄さ。……まあ、すぐに分かる」
翔は首を咲哉の機体に向ける。それに釣られるように梗も同じ方向を見る。
「つーことで、行くぞ! 夏威斗、鈴」
「ああ」
「仕方ないわね」
咲哉の声に二人は頷く。彼らはそれぞれの乗機に組み込まれたある機能を発動しようとしている。そのためには音声認証により、掛けられたロックを解除する必要がある。
「燃える魂炎に込めて」
「煌めく正義の雷落とし」
「この世の闇を凍て付かす」
「フィアドルーグ・ゼータ」
「サーダペガース・オメガ」
「イースフィンク・シグマ」
「「「三勇合体・アリアミーク・スティグマ」」」
とある機能――それは合体である。翔が設定したワードを三人が詠唱する事によって機体の変形機能が使用可能となる。三機はそれぞれ赤、黄色、水色の光をまとって宙に浮く。咲哉のフィアドルーグ・ゼータは人の上半身、鈴のイースフィンク・シグマが下半身、そして夏威斗のサーダペガース・オメガは兜、鎧、下駄など各種パーツとなり、それらが合体し、彼らの奥の手である最終兵器、アリアミーク・スティグマが完成する。機体の大きさは他に比べておよそ倍。しかしその出力は計り知れない程の倍率を誇る。弱点として、機動可能時間が極端に短く、およそ五分経てば合体は解除され、それぞれの機体も動けなくなる。登場する三人は合体の過程でフィアドルーグ・ゼータの中に集まる。だが機体は咲哉の動きのみに対応し、後の二人が動いても邪魔になることはない。当初翔は三人が息を合わせて動かす方式を提案したが、あまりにもロマンを重視しすぎて現実的ではないという事で咲哉が却下した。鈴に言わせてみれば、五分しか動けないという時点で現実的ではなく、分離した状態のまま連携しての戦いを極めるべきだと思ったのだが、咲哉と夏威斗は合体機構の導入に強く賛成した。何が彼らをそこまで駆り立てるのか、鈴には分からなかった。
「時間が無い。さっさと終わらせるぞ」
「鈴、何だかんだでノリノリだったじゃん」
「うるさい。まったく、佐藤の奴……。後で覚えてろ」
三者三様に言葉を紡ぐ。その様子を、敵対している四人は驚愕の表情で見ていた。ヴェルダリオンが合体するなど聞いたことがない。
「そんなもの……見た目倒しだ!」
剣人は二本の剣を振り上げて、アリアミーク・スティグマへと襲い掛かる。
「遅い」
咲哉は一言だけ呟き、左腕を前に向ける。対応して機体の左腕も挙がり、剣人機に向けられる。そして雷光が疾る。その一撃は剣人機の足元の地面を大きく抉る。重力に従い、剣人は落下する。
「おわあああああああ!」
「何、あの威力……! おかしくない!?」
雷撃を見た彩香が驚愕に目を見開く。そして悟る。目の前の機体は決して見掛け倒しではないと。咲哉は意図して攻撃を外したが、もしこれ以上徹底抗戦すれば、確実に自分は一瞬で終わる。その確信があった。
「どうする? 次は当てるぞ」
「チッ、アンタだってこっちの事情分かってんでしょ?」
「関係ねーよ。俺は魔王をブッ殺す為には躊躇なんかしねー。もう一度言う、次は当てるぞ」
咲哉の放つ気迫に彩香は圧されつつも、退く決断は出来ない。彼女も親を人質に取られている。それを感じ取り、鈴はため息をつく。
「どうする? 本当に当てちゃう?」
「その前に、もうちょっとビビらせる。使える時間はすくねーし、まずはザコ共を一掃する」
「そう。じゃあ頼むわよ」
咲哉は機体を跳躍させる。異常なほどのエネルギーをふんだんに使ったジャンプは大地を揺るがす。それに構わず右手に持った大剣を振り上げて、その先端に魔粒子を集める。その一方で左手でも氷の魔粒子を集め、解き放つ。
「ちょっと寝てろ」
放たれた冷気は周囲の大地を凍らせる。そこにいる巨人達も、その向こう側に待機していた敵兵もまとめて地面に固定する。
「かーらーのー」
夏威斗が囃し立てると同時に剣への魔粒子チャージが完了。掲げられた剣に炎が渦巻き天へと昇る。それはさながら龍の如し。怒り猛る龍の咆哮を思わせる轟轟とした音が響き渡る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
咲哉は叫び、剣を振り下ろす。同時に炎は広がり、巨人と魔族、魔物の軍勢を焼き尽くした。燃え盛る炎は遠めでもはっきり見えるほどに爛々と輝き、ここに鬼神の如き強さの戦士がいる事を広く知らしめた。その圧倒的強さは敵に回った元クラスメイト達にも当然のように伝わり、腰を抜かした彩香は機体ごと尻もちをついた。
「やっぱすごいな、咲哉は」
味方である藍も驚きを声にする。彼女と茶番の戦闘を行っている椿も驚きながら、声に出さずに語り掛ける。
『カッコいいね、国見君』
『う、うっせぇ! 関係ないだろ!』
『関係ないって何が? 私は単純にカッコいいと思ったから言っただけだけど?』
『うぅ……』
表面上は敵同士であるこの姉妹は誰にも悟られずに微笑ましいやり取りをする。すると椿は心の中の声をまじめなものにする。
『まあ、藍が国見君の事を好きって事はあの世界にいた頃から分かってたけどさ、今でも好きなの?』
『だから、そんなの関係ないって……』
『はいはい。それでさ、告白とかしたの?』
誤魔化す姉を無視して、妹は強引に自分の質問をする。藍は自分の咲哉への想いを認め、答える。
『出来る訳無いだろ。アイツはとっくに鈴とくっついてて……』
『関係ないよ。ねぇ、知ってる? この世界は一夫多妻を認めてる国がほとんどだそうよ?』
『そんなのは嫌だ。あたしのす、好きな咲哉は、一人の女だけをずっと愛し続けるような……か、カッコいいヤツであって欲しいから』
『難儀な性格ね』
『うるさい! 大体、椿だってどうなんだよ! アンタだって藤川の事好きなんだろ?』
その言葉に椿は驚く。
『知ってたのね』
『自分だけが相手の事を分かってると思ったら大間違いだ。……で、どうなんだよ?』
『告白はしたわ。でも、フラれちゃった。もっとカッコ悪い事に、藤川君は私の気持ちに気付いてて、でも私が傷つかない様にって気を遣ってもらっちゃって』
『結局、あたし達は揃って叶わない恋をしちゃったって事か。ホントそっくりだね、あたし達』
互いに機体が向き合って立っている状況で、藍は皮肉気に呟いた。元の世界にいた頃の彼女達は仲が良いとは言えず、学校どころか家に帰っても話をすることはあまりなかった。優等生だった椿に藍はコンプレックスを持ち、不良へと身を落とした藍を椿は無意識に見下していた。だが、『繋がり』というユニークスキルによって互いの意識を通じ合わせていく内に、いつの間にか幼少期のように些細なことでも話すようになった。
『本当ね。あなたは校内でも有名な不良、私は文武両道の学級委員、全然違うタイプの人を好きになったのに、二人揃って届かないなんて。それに私も藍と同じで、好きな人には一途な人っていうのがタイプだったっていうのも皮肉。それで、この茶番はいつまで続けるのかしら? 合体ロボは動ける時間が短いんでしょ?』
『まぁ、それは伊藤達次第だよ。つーかこの状況、まともな指揮官なら退くべきなんじゃないかって思うんだけど。それとも何か? 絶対に逃げるな的な命令されてんの?』
『そんな事は無いと思うけど……高橋君は国見君から逃げるような事はしないんじゃないかな』
『だろうねぇ』
梗が咲哉をよく思っていない事は藍も前から知っていた。元の世界でもそんな兆候はわずかに見られ、この世界に来てからそれが明るみに出た。彼らとずっと行動を共にしていた藍はそれを手に取るように感じていた。それがいつか爆発するかもしれないとは思っていたが、それを止めることは出来なかった。
『さてさて、高橋君はどう出るか』
彼女達の視線の先では驚きから覚めて立ち上がった梗の機体が咲哉達の機体と対峙していた。
「梗、お前の負けだ」
「……そんなの反則だろうが! 何偉そうにしてやがる。強いのはお前じゃなくて、そのロボじゃねぇか! それに……オレはまだ負けてない!」
未だ敵意を剥き出しにしている梗。その目の前まで咲哉機は歩み寄る。梗機はその巨体さに後ずさる。
「確かにそうだ。これは翔が俺達の為に頑張って作ってくれた機体だ。俺がこうやって王手を掛けられてるのは翔のお陰だ。だからどうした、事実として俺はお前に勝っている。戦いは部活の試合じゃない。勝った奴が正義なんだよ」
「黙れよ! オレは昔っからお前の事が嫌いだった! ムカつくんだよ。元々オレと翔と亮の三人でつるんでた所にお前と夏威斗は入ってきたと思えば、いきなりオレ達にリーダー面してきたな。その時からお前は嫌いだったんだよ。知ってたか? クラスの連中はオレ達を、お前の子分ABCみたいな目で見てた事によ。お前のせいで、オレ達は惨めな思いをしてたんだよ!」
これまで吐き出せずにいた思いを梗は吐露する。涙を何とかこらえながらの訴えを、咲哉は黙って聞く。鈴と夏威斗は言い返そうとしたが、咲哉はそれを黙らせる。
「オレ達が神代をイジってた時、お前はやめとけと言ったよな? その後吉原達が根暗キモ女を登校拒否にさせた頃だっけか? オレ達があの豚野郎を標的にした時、お前は特に止めねぇで、逆に先陣を切ってイジってた。今思えばお前は何故か神代にビビってたよな? その癖にオレ達には偉そうに……ハッ、こういうのを小物って言うんだよな!」
「高橋、言わせておけば――」
「待て、鈴」
「でも……」
咲哉に止められ、鈴は不満げに呟く。そのやり取りを聞いて、梗は声を荒らげる。
「何か言えよ、国見ぃ! そんで謝れ。『小物のクセに偉そうにしててすみませんでした』ってな!」
そんな彼の言葉に藍と椿は言い合う。
『黙れって言ったり、何か言えって言ったり、めんどくさいな』
『しかも、自分の立場を分かってない態度。いや、国見君に本当はとどめを刺す気がない事を知ってるのかな?』
『無いな』
『無いわね』
そんなやりとりがされているとは露程も思わず、咲哉は重い口を開く。
「ああ、そうだ。俺は神代にビビってた。……いや、今でもビビってるって言った方が正しいな。アイツは狂っている」
「知った事かよ。亮はな、アイツのせいで傷ついてたんだよ」
「お前が亮を語るな!」
突如、翔が口を挟む。鈴木亮を殺した張本人である梗に、その名を軽々しく呼んで欲しくなかった。本来なら自分の事を今更友人のように言ってくるのも腹立たしかったのだ。それでも我慢はした。だが、亮の事となれば話は別である。
「黙れ、亮もお前も、オレの言う通りにしてれば良かったんだよ! オレの言う通り魔王軍に入れば良かったんだ!」
「そんな事する訳ねぇだろうが! 魔王軍なんてトコ入ったって、どうせ奴隷みてぇに良いように使われるだけだろ。お前こそ目を覚ませ!」
「バッチリ覚めてんよ。大体、単純に考えてみろ。人族につくのと魔族につくの、どっちが利口かってのをな。一部のバケモノを除きゃあ、基本的に魔族の方が強ぇんだ。勝ち馬に乗りてぇなら、魔王軍に入るべきなんだよ!」
「その勧誘は聞き飽きたぜ梗。お前が何て言おうとオレは国見のトコを離れねぇ。ま、もし仮に国見が魔王軍に入るってんなら考えるかも知んねぇがな」
その言葉に鈴が反応する。
「佐藤、咲哉は絶対に――」
「分かってんよ姉御。あくまで仮の話だ。とにかくだ、オレが言いてぇのは、国見はお前が思うほど悪い奴じゃねぇって事だ」
翔は一旦言葉を区切り、改めて話す。
「正直な、最初国見がオレ達のグループに入ってきてリーダー面してきた時はうぜーって思ったよ。オレ達三人がかりでケンカ仕掛けて、あっさり返り討ちにされた時なんか、マジでムカついた。でもさ、オレとお前と亮と、国見と西崎の五人でつるむようになって、段々コイツ良い奴かもなって思えてきたんだよ。お前、さっきクラスの連中に、オレ達は国見の子分ABCみたいな目で見られてるって言ったよな?」
「違うって言うのかよ?」
「いいや、違わない。でも、そういう目で見てきたのは何もそいつらだけじゃなかった。先公共もおんなじ目をしてたのは知ってたか?」
「ああ、知ってたよ。それがどうした」
梗は意味が分からないと訴える。翔はやれやれとため息をつき、説明する。
「あのな、学校でオレ達が好き勝手やってた時、先公共は『国見のせいだ』って思ってたんだよ。国見は自分から進んでワルになって、損な役回りになってた。つっても、当時は全然そんなのに気付かないで、好き勝手してたんけどな。授業中、普通にだべったり、適当な奴を捕まえてパシらせたりさ。そんでオレ達が何やっても、『国見の子分の仕業か』ってなるわけよ」
「翔、それ以上――」
「いいや、言わせて貰うぜ国見。お前がこういう事を話してほしくないってのは分かるけどよ、このバカはちゃんと一から十まで話さねぇと分かんねぇんだよ。そんでもって、梗を何とか説得しねぇとこの場は収まらねぇ。それともお前が全部自分で話すって言うんなら任せるけどさ、こういう事を自分からは話したくないだろ? だからオレが話す。良いよな? 姉御、西崎」
「ええ」
「ああ、任せるぜ」
鈴と夏威斗は頷く。咲哉としてはあまり言いふらして欲しい話でも無いが、状況が状況である為仕方ないとも思う。他人の口から自分の評価が上がる話をさせるのも、自分で言うのも、彼としては格好が悪いと思っていた。だが今はそんな自分のわがままは押し殺す。そんな彼らの反応を見て、翔は話を続ける。
「まとめるとだ。国見はオレ達が学校で自由にやれるように汚れ役をやってた訳だ。流石にその理由は知らねぇがな。オレ達は度々先公に職員室に呼び出されてたけどさ、その度に自分が一番嫌われるように振舞ってたろ? 無駄に先公を挑発したりさ。梗、お前はこの話を聞いても国見が小物だと思うか?」
「うるせぇ……!」
この期に及んで梗は反発の言葉を発する。だが、その口調は上擦っていた。まるで涙をこらえているように。
「うるせぇってんだよ……。本当は分かってたんだよ……! オレはな、国見のそういうとこが大ッ嫌いなんだよ! 本当に同い年かってくれぇ大人っぽくてよ、成績が悪ぃ割には頭が良くて、ケンカも強くて、部活の後輩とかへの面倒見が良くて、女子からはモテて……何だよこの完璧超人。ふざけんなよ……。おい国見ィ! オレはお前と一緒にいると自分がすげぇ情けねぇ奴だって事を再確認させられてイヤだったんだよ! ふざけてんじゃねぇぞ! お前はなぁ……お前はカッコよすぎんだよチクショー!」
「梗……」
梗の口から洩れた思わぬ本音に翔は驚き声を零す。驚いたのは彼だけではない。この場の全員がその告白に驚いた。特に驚いたのは当然と言うべきか咲哉だった。彼は思う、梗の中の自分は美化されすぎていると。自分は彼の言うような立派な人間ではないと自己評価している。
「お前がすげぇのはこの世界に来てからもだよ! 召喚された時にも先陣を切って、エリスに文句を言ってた。よく考えれば、何か余計な事をしたらどんな目に遭うか分かんねぇあの状況で、お前はわざわざ目立ってエリスを敵視した。お前のステータスはオレ達の中でも強くて、戦いじゃ大活躍だった。エルフリードからラフトティヴへの旅でもお前はリーダーとして、色んな国のお偉いさんと話もしてた。ムカつく事を言われてもオレ達の為に頑張ってた。そんでラフトティヴじゃ皇帝に気に入られて、真っ先にヴェルダリオンも貰った。この世界で一番デカい国の皇帝にだぞ? みんながお前を信頼してついていった。オレが魔王軍に入るっつっても誰も来なかったのによ! お前はな……すげぇ奴なんだよ、国見咲哉!」
泣き、怒り、褒め称える。様々な感情を渦巻かせながら梗は咲哉について語る。そして自然と彼は機体の外に出て、生身を晒した。ただでさえ圧倒的な戦力差があった相手の前に出る事は、降参を意味する。
「あっ……」
それから少し遅れたタイミングで、アリアミーク・スティグマの合体が解除される。機体は三つに分離し、搭乗者三人も強制的に機体の外へ排出される。それは丁度、梗の目の前に。
「梗……」
「なあ、国見。お前はすげぇ奴なんだって」
「それは今聞いた。だが……」
「うるせぇよ。オレの中ではそうなんだよ、オレの中ではな。だからさ……情けねぇ事言わねぇでくれよ。何でお前みてぇな奴が神代なんかにビビってんだよ。最強の国見咲哉でいてくれよ!」
梗は倒れる咲哉の首元を掴んで無理矢理起き上がらせて、思いの丈を伝える。その言葉に咲哉はハッとする。自分は神代聖騎を必要以上に恐れていた事に。だが今の自分は正々堂々と魔王の庭に攻め込んでいる。悪名轟く魔王ヴァーグリッドよりも聖騎は恐ろしい存在なのだろうかと脳内で疑問を呈し、そして否定する。今こそ協力関係にある彼と争う事は賢明ではないが、いずれ時が来れば戦わなければならないかもしれない。その為には恐れてなどいられない。そう思った。
「……ああ、そーだな」
咲哉は自分の足で地面を踏み締め、立ち上がって答えた。
「なあ、国見。オレはとんでもない事をしでかしちまった。魔王軍の奴に命令されたってのもあるが、オレよりもお前を選んだ亮が、オレを裏切ったように思ったんだ。笑えるよな、裏切ったのはオレの方なのによ」
「お前が次に言う言葉は『殺してくれ』。俺の答えは『断る』だ。俺はクズだが、ダチを殺すまでは堕ちてねーよ」
咲哉が予想した梗の言葉は正解だった。そして、こんな状況で自分を友だと言ってくれた咲哉に、感激の想いを抱く。
「やっぱ敵わねぇよ、お前には」
「俺なんかそう大層なもんじゃねー。で、ダチであるお前に聞きたいんだが、ここから先は一緒に戦ってくれるか?」
咲哉は右拳を握りしめて前に突き出す。すると梗も同じように右手を握り、ゴツンと咲哉の拳にぶつける。
「もちろんだ」
国見咲哉と高橋梗は、今日この時をもってして戦友となった。その状況を見て藍と椿は言い合う。
『何か急に良い感じになっちゃったけど、藍、どういうこと?』
『あたしに聞かれても……。つーか一緒に戦うって言っちゃってるけど、まだマズくないのか? 高橋の親もこの世界に来てるんだよな?』
『うん、それは確認してるけど……あれ?』
椿は視界に一人の妖精族が飛び込んできたのを怪訝に思う。その妖精族は咲哉の方へと飛んで近寄って行った。
「どうもどうもー、空気の読めるスクルアンのフワードでーす。早速別動隊からの報告でーす。人質についての心配はなくなったそうでーす。もうみんな、何の心配もなく魔王軍を裏切っちゃって大丈夫でーす」
その報告に咲哉達、事情を知っていた者達は安堵する。一方で梗や彩香などは意味が分からずポカンとする。夏威斗は彼らに事情を説明し、納得させた。梗、彩香、椿、剣人の四人は仲間となり、魔王城への進撃を始めた。鈴はフワードの言葉に引っかかるものを覚えたが、とにかく次の戦闘に向けて気を引き締めた。