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闇の魔導師

 時は遡る。ノアの戦闘を遠巻きに見ているレシルーニアの報告を受けて、サリエルは聖騎に言う。


「中々大変そうよ。向こうに何人か強いのがいるみたいで」

「ノアが苦戦するレベルとなれば、僕の知り合いかも知れない。見た目の特徴は分かる?」


 聖騎に聞かれて、サリエルがその質問をそのまま仲間にする。答えはすぐに返ってきた。


「黒髪に、肌はちょっと黄色がかった……君みたいな感じだそうよ」

「これは確定だね。それなら僕も行くとしようか。サリエルは?」

「私も行くわぁ-。君のお知り合いは気になるし……ちょっと待って」


 仲間からの連絡にサリエルは言葉を断ち切る。その内容に彼女は軽く驚く。


「へぇー、何考えてるのかしら」

「何があったの?」


 聖騎の問にサリエルはニヤリと笑う。


「あちらさんの大将――シウルがこちらに向かっているとの事よ」

「ということはメルン様とお話がしたいのかな?」

「もしくは誘い出して始末する気か。どうやら大勝負を仕掛けてきたって感じね。シウル達が来たのは東からだけれど、四方から囲い込むように兵を動かして来てる。どうする?」

「無論迎撃だね。戦い方を考えるのは軍師である君の役割だよ」

「やれやれ、妖精使いが荒いわね。やるけど」


 仕方ない、と言わんばかりにため息をつくサリエルは、ローブを着ていてイマギニスを背負う『パラディンスタイル』の聖騎に、ふと思い出したように聞く。


「それで、どっち・・・で行くの?」


 聖騎の神御使杖は二本ある。一つは大鎌型のイマギニス、もう一つはパラソル型のオーブリューだ。


「オーブリューで行くよ。イマギニスは慈悲深き謎の魔術師パラディンの象徴だからね。今はまだ、虐殺に使ってはいけない」

「君のお友達が相手かも知れないけど良いの?」

「誰がいたとしても友達ではないさ。それに彼らは強い。だからこそ、手を抜く事は出来ない。僕は死にたくないからね」


 聖騎が答えると、サリエルはニンマリと笑う。


「そうじゃなくて」

「えっ?」

「オーブリューを使うなら、あの衣装を着なくちゃいけないっていうローリュートとの約束だったはずだけど良いの? あの姿を見せる事になっちゃうけど」

「ローリュートはここにはいな――」

「いるわよ。ほら」


 聖騎の言葉を遮って、サリエルは後ろを指差す。そこにいるローリュートは笑っていた。



 ◇



 時間は戻る。アジュニンの異空間にアクセスする能力により、墓地で出会った老人がマスターウォートであること、そしてその能力を知った聖騎は、かつてのクラスメートなど意識の隅にも置かずに老人を見据える。


「君を片付けるのには、相当手間がかかると聞いているよ」

「随分と舐めた口を叩くものだな、お嬢ちゃん。何だかんだで私を倒せると確信しているのか」


 聖騎の言葉にマスターウォートは、煽りの言葉を返す。だが聖騎は動じずに、ニヤニヤと笑う。


「あははははっ、穏やかな好々爺ぶっているみたいだけれど分かるよー。今、イラっとしたでしょ」

「身の程をわきまえたらどうかな、劣等種族」

「あれれー? 質問には答えてくれないのかなぁ? 違うなら違うってハッキリ言ってくれればいいのにー。もしかして、図星付かれちゃってもっとイライラしてる?」

「あのー、あんまり挑発しない方が……」


 愉しげに笑う聖騎に、椿が戸惑いながら言う。そして指差す。そこには遅れて現れたシウルと真弥の姿が有った。


「ふん、生意気な事を言っていられるのも今の内だ。この娘は貴様の顔見知りなのだろう? どうなっても良いの――」

「ううっ……」


 真弥を盾にするマスターウォートの言葉は遮られる。聖騎はオーブリューによる黒のビームで真弥ごと彼を貫いた。二人の胸に穴があく。


「永井さん!?」

「神代、どういうつもりだ!」


 秀馬が思わず声をあげ、善が非難する。


「どういうつもりって、僕は敵を攻撃しただけだよ」

「攻撃って、永井がいるのにも構わずかよ!」

「君は僕に、何もせずボーッと立って、ただやられるのを待てと言っているのかな? 僕に死ねと言っているのかな?」

「それは、話が極端だろうが!」


 善は聖騎に殴りかかろうと近付こうとする。その前に、妖精族の魂が立ちふさがる。全身黒色のシルエットのような見た目のそれには一種の不気味さがあった。


「何だよこれは!」

「僕だって殴られるのは嫌だからね」


 そう言いながら聖騎はビームを撃ち続ける。しかしマスターウォートが操る、死体となった兵士達により阻まれて届かない。生き残っていた兵士達は、死んだ仲間がゾンビの様になっている状況に怯えて退散しようとするが、その仲間だったものによって阻まれ、殺され、マスターウォートの手駒になっていく。そしてマスターウォート自身はシウル、真弥と共に距離を離していく。


「君達にはここから逃げる事を勧めるよ。戦うのは骨が折れるし、死んだとしても結局戦わなくてはならなくなる」

「オレ達だってなぁ、逃げれりゃ逃げてぇよ! でもそういう訳にもいかねぇんだよ!」

「それで僕を殺すと。あの魔族に良い様に利用されて、戦争に協力して、命令されるがままに人を殺すと。そういう事が言いたいのかな?」

「仕方ねぇだろ! アイツに刃向えば永井が殺されるんだからよ! なぁ、お前もアイツと戦うのはやめてくれよ」


 善は泣きそうになりながら叫ぶ。他の者達も悲痛な表情で俯いていた。彼らは悔しさと自分の無力さに打ちのめされていた。だが、聖騎は依然として淡々としている。


「これは戦争だよ。味方が全員無事なまま相手に勝とうだなんて甘えは許されない」

「でも……」

「ところで聞いたかい?」

「な、何を?」


 相変わらずビームを撃ちながらの聖騎の質問に、美奈が戸惑いの声を上げる。聖騎は椿の方を向いて言う。


「僕達の中から犠牲者が出た事」


 その答えに椿はハッとする。他の者達はその言葉の意味が分からなかった。


「どういう事だよ……?」

「いや、やっぱり僕の口から言うのはやめておこう。彼女にも何か考えが有るんだろうしね」


 椿はユニークスキル『繋がりコネクト』により姉の藍から鈴木亮が死んだこと、そして彼を殺した高橋梗が自らの意思で魔王軍についた事を聞いている。だが、自分達が窮地に陥っているこの状況で、更に仲間達を不安にさせる事を言わない方が良いと思い、一人で抱え込んでいたという状況である。


「おい数原妹、何か知ってんのかよ?」

「……何でもない」

「何でもなくねぇよ。何隠してんだって聞いてんだ」

「やめてあげて、面貫君。椿だって何か考えてるんだから」


 椿に詰め寄る善を美央が諌める。その様子を見ながら聖騎は、殺虫剤のスプレーで虫を殺すように敵のゾンビ兵を駆除している。だが、倒しても倒しても彼らは立ち上がる。それにうんざりとしながら、聖騎はため息交じりに言う。


「ノア、いつまで寝ているつもりかな?」


 敵兵士を倒し、善達と話す傍らに、妖精族の魂にノアの回復をさせていた。彼自身が光属性魔術によって回復させた方が効率は良いのだが、イマギニスが使えない今の状況では不可能である。未だ体に傷は残るが、動く分には支障はない。


「ふん、俺は寝てなどいない」

「へぇ。それなら、あのエセ好々爺に操られてる死体を食べちゃってよ」

「分かった」


 軽い調子で頷くノアは、不気味にうごめく敵兵士の死体を掴み、頭からガブリとかぶりつく。頭蓋骨を噛み潰す音に善達は嫌そうな顔になる。


「さて、君達本当に逃げなくて良いの? もしかしたら操られてる死体と間違えられて食べられちゃうかもしれないよ?」

「うっ……」


 聖騎の言葉に練磨が呻く。だが、それを気にする聖騎では無い。


「君達がなんと言おうと、僕はエセ好々爺を倒す。僕に手を貸してくれようと、邪魔をしようと勝手だけれど、中途半端な態度でいられるのは困るな」

「そんな……永井が人質になってんだぞ? それに、永井を助けるのもダメだ。そんなことしたら、アイツらに捕まってる永井のとーちゃんとかーちゃんが殺されんだよ! オレ達の親はまだアイツらに特定されてねぇからともかくとして……」

「関係ないよ」


 聖騎は歩を進め、ビームの威力を強める。敵の兵士の体を撃ち抜く。その先には真弥がいる。そこに秀馬が立ち塞がった。想い人である真弥を庇うように、聖騎の前で腕を広げる。


「なるほど、君は僕に消されたいのか」


 そう言いつつ、聖騎は秀馬の行動を意外に思う。彼は異世界に来て数日の頃に聖騎の心を読み、その邪悪さに心を壊して、聖騎の忠実な僕になったはずである。


「永井さんをやらせる訳にはいかない」

「そうなんだ」


 つまらなそうに呟いた聖騎は容赦なく、ビームで秀馬の胸を狙う。


「がぁっ!」

「藤川君!?」

「神代、何しやがる!」


 秀馬、椿、善がそれぞれ声を上げる。だが聖騎は動じない。ただ無言で、黒のビームを撃つのみである。


 このビームの正体は闇属性の魔粒子である。通常の神御使杖は人が呼吸によって体内に取り入れた魔粒子をエネルギーに変換するのだが、パラソル型神御使杖オーブリューは空気中の魔粒子を効率的に集め、それをそのまま行使できる。だがこれは、空気中の魔粒子一つ一つの動きが把握できなければ上手く操れない。シュレイナーの下で光幻術の修行をした聖騎だからこそ操れているのだ。しかし、闇属性の魔粒子を操るためには、体に闇属性への耐性が無ければ使えない。そこで聖騎の失われた右眼に闇属性の魔臓をはめ込んで、それを眼帯で覆った。そしてこれは、ビームだけではなく集中次第でいかなる形状をも創り出せる。聖騎はこれを、魔粒子を自らの意思で導くという意味で、魔術とも魔法とも違う『魔導』と定義した。


(まったく、面倒だけれどやるしかないのか)


 心の底からうんざりしながら『魔導師』聖騎は闇の力を存分に使役する。

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