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誇り高き風華(4)

 創平の最期は煉のみならず、他のメンバーも目にしていた。全身が衝撃によりバラバラになり、肉片や血液が飛び散り、そこに石岡創平という少年の存在は跡形も無くなっていた。彼が愛用していた盾も無惨なもので、いくつもの欠片となって散らばっている。


「そん……な……」


 小雪は目の前の出来事が信じられないかのように、呆然と呟く。他の勇者達も同様に動揺している。


「お主ら何をしておる、今こそ好機じゃぞ!」


 そんな中でコーラムバインは、右腕を失い痛がっている龍に炎の弾丸を撃ちながら叱咤する。その言葉によりフレッドが最初に立ち直った。


「そうだネ、ソーヘーが作ってくれたチャンス、逃しはしない!」


 フレッドは光属性の槍を右腕の付け根部分を狙って放つ。狙い通り、龍は更なる絶叫を上げた。


「我が一族の怨み、ここで晴らす!」


 ロウンは飛翔し、やはり右腕の付け根を狙う。


「絶対に許しません」


 涙をこらえて、小雪は冷気を放出する。


「やらなくちゃ、やられるんでしょ……!」


 静香は怯えながら龍人の姿のまま、敵へと迫る。しかし龍も黙ってはいない。あぎとを開き、魔法による風を吐く。それは自分への攻撃を無効化し、攻撃者を吹き飛ばす。


「うううっ……!」


 その呻きは誰のものか。やがて風は刃に形を変えて敵対者を斬り刻む。


(ふむ……やはりまだまだ元気か。先程逃げようとしても失敗した可能性が高そうじゃな)


 コーラムバインは空中でバランスを取り、風の刃でボロボロになりながら応戦する。


(何か無いのじゃろうか。レン達を何とか逃がす方法が)


 彼女は創平がいた場所から動かずに、ただ震えている煉に眼を向けて思案する。


(それにしても、妾はこの龍を知っておるのじゃろうか。見覚えは無いはずなのじゃが、何故か知っておる、そんな気がする。あの者も妾を知っているかのような様子じゃった。なぜ妾がこの洞窟におるのか、それも分かっておるのじゃろうか)


 コーラムバインはかつて魔王軍に所属していた。しかしある事件を切っ掛けにして追放され、四乱狂華パッシフローラの時間遡行魔法により、魔王軍に入る前の状態まで時間を戻された。つまり、彼女は何も知らない少女の状態でいきなり見知らぬ洞窟に独りでいたのだ。


(妾とあの者達には何か、因縁があるのじゃろうか。……まあよい、今はそのような事を考えておる時間では無いな)


 自嘲するコーラムバイン。彼女が仲間達に眼を向けると、皆魔力が尽きたのか、武器を持っての接近戦に突入していた。このままでは全滅する、そう思った。


(どうすれば、どうすれば良いのじゃ……)


 敵はひたすら欲望の赴くままに破壊を生み出している。正面からぶつかって勝てる相手ではなく、搦め手で戦うにも味方の魔力が無い。


(別に倒す必要は無い。あやつらを逃がすための隙さえ作れればそれで良いはずなのじゃ。ただそれだけじゃと言うのに……ここまで困難じゃとはな)


 龍は長い尻尾で静香、フレッド、そして小雪を立て続けに打ち、意識を奪った。そして龍は次に、コーラムバインへと首を向けた。


「ほう……」


 彼女の中に諦めが生まれる。だがせめて、一矢でも報いようとは思った。残存魔力を絞り出し、それを放出する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 炎はバーナーのように敵をあぶる。だが敵は怯まず、勢いを止めず、彼女へと激突する。その瞬間、コーラムバインは思う。


(この景色、見覚えがある)


 龍は怒りに叫び、翼を広げて迫ってくる。その光景を見たことがある気がするが、それがいつ、どこでだったのかは思い出せない。……思い出せなかった。この瞬間までは。


(思い……出した!)


 コーラムバインの脳内に記憶の奔流が流れ込む。その過程で気付く。


(そうじゃ、そうじゃった……あの時も!)


 しかし彼女の意識は、龍の激突によりそこで失われた。


「レン! レン!」


 次々と仲間達がやられていくが、目の前で創平を失ってショック状態の煉は動かない。そんな彼にマリアは何度も声を掛ける。しかし煉は反応を見せない。


「どうした、随分と無様なものだな」


 龍との戦闘でも何とか残っているロウンが言い捨てる。だが煉は反応しない。


「ふん、下らん奴だ」

「……」

「こんな奴をあの人族は助けたと言うのか。だとすれば、やはり人族は愚かな下等生物だと言わざるを得ないな」


 煉を見下ろして言うロウンにマリアが反論する。


「ちょっと、そこまで言わなくても……」

「なら、何と言えば良い?」

「それは……」


 マリアは口ごもる。そこに龍の襲撃が来る。ロウンは舌打ちして立ち向かう。生み出される風は未だに強く、ロウンにも耐えきれなかった。


「レン! 立ち上がって!」

「……」

「あなたは言ったでしょ、あなたのお友達は絶対に死なせないって! 確かにソウヘイはダメだった。それであなたが落ち込む気持ちは分かる! でもね、今はそうしてる場合じゃないでしょ!」

「……」

「他のみんなはまだ、救えるかもしれない。でも、その為にはあなたが立ち上がらないとダメなの! それに、よく分からないけど、あなたはこの世界に何か目的があってここに来たんでしょ? その目的っていうのは、ここで寝ることなの?」


 目的、その言葉に煉は思い出す。


(目的……か)


 京都の名家に生まれた彼は、彼の家が代々所属している、とある組織の一員である。組織の名は信仰組織『神世七代かみよななよ』。古事記や日本書紀に記された神々を信仰し、更にその研究を目的とした組織である。彼らは日本神話の舞台となる『高天原タカマガハラ』、及びそこに住むとされている神々の存在を信じ、実際に神を自らの目で見ることを最終目標としている。組織に所属する者にはそれぞれ崇拝する神が存在し、煉の生まれた司東家は代々、スサノオノミコトという神を崇拝している。


(スサノオ……)


 崇拝する神の名を煉は内心で呟く。彼と小雪の目的は、実際に異世界に行くことで別の異世界、すなわち高天原へと行く方法を探ることである。その為に、魔王ヴァーグリッドへ接触すれば何かが分かるかも知れないと考え、ひとまずの目的をそれとしている。


(そうだ……俺は負けられない。組織の為……そして、創平の為に)


 宗教への関心が薄い人には理解されがたく、偏見を持たれた事もある彼の信仰。それは彼の生きる上での礎となっており、絶対に揺るがない。


(スサノオ……俺に力を貸してくれ!)


 心の中で煉は叫ぶ。すると、彼に答える声があった。


 ――――あぁ?


 突然の返答に煉は驚く。その声の主に心当たりが無い。男の声だが創平ともフレッドともロウンとも、そして自分とも違うその声の主に心当たりが無い。


「だ、れだ……」

「レン……?」


 煉が呟くと、マリアはキョトンと戸惑う。


 ――――何だ、せっかく名前を呼ばれたから出てきたってのによ。


 周りを見回しても声の主は見付からない。脳内で響くだけである。だが、言葉の内容からその正体を推測は出来た。出来たが、それを簡単に信じることが出来ない。


「まさか……」


 ――――そ、俺様はスサノオノミコト様だ。お前のコトはずっと見てたぜ。


 謎の声――スサノオノミコトの名乗りを受けても、煉は信じられない。


「ありえない……」


 ――――おいおい、異世界転移なんて事を経験してるヤツがそんなコト言うなって。それともアレか? ウケ狙いか? ……まぁ、それは良いんだ。お前が俺様に言いたいコトがあるんだろうが、それは後回しだ。お前を助けてやんよ。


 その声が本当にスサノオノミコトなのか、煉には判断がつかない。だが、違うとしても只者では無いであろう事は感じられた。


「俺を、助ける……?」

 

 ――――あぁ、もしもお前らの世界のマンガとかなら、何の伏線も布石も脈絡も無い唐突なご都合主義的展開だろうが、神である俺様が直々に助けてやるっつってんだよ。


「どういう事だ……?」


 ――――まぁ、俺様が今すぐお前んトコに行って、そこのヘビをブッ殺すのは造作もねぇんだが、それは俺様達……神の中ではアウトって事になってる。だから俺様は、お前にヒントを与えるだけにするぜ、司東煉。


「俺の名前を……?」


 ――――そこは大して驚くポイントじゃねぇ。とにかくだ、俺様はお前にパワーアップフラグを立ててやる。それ相応のペナルティは有るがな。


 その言葉を聞いて、煉は違和感の正体に気付く。古来から日本神話で語り継がれている神が、外来語を当たり前のように使って会話をしているのだ。それをありえないと考えているところに、あきれ声が届く。


 ――――おいおい、神を舐めんな。お前の何千倍も何万倍も生きてる俺様達は、平安時代の言葉も江戸時代の言葉もお前の時代より未来の言葉も完全にマスターしてる。その上で、お前の時代の言葉に合わせて話してやってんだ。感謝しろよ。お前の好みのしゃべり方があんなら、リクエストしてみろ。再現してやるぜ。


「いや、今のままでいい」


 ――――オーケー。じゃあとりあえずそこの龍人、ロウンに食われろ。


 その言葉に、煉は龍相手に苦戦するロウンを見ながら、言葉を失った。



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