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誇り高き風華(3)

「で、コイツを目の前にしたオレ達はどうすりゃ良いのよ、煉。逃げて良いか?」

「それが出来るなら俺もそうしたいが……」


 敵の強大さに創平が弱音を吐く。その意見に煉は答える。彼の――彼らの視線の先には、洞窟の天井を突き破り、自分達をまとめて吹き飛ばせそうな暴風を生み出した怪物がいる。煉達は各のユニークスキルや魔術を駆使して、降り注ぐがれきに対処しながら、風に耐える。


「いっそこの風に身を任せて飛ばされれば逃げられんじゃね?」

「アイツが風より速く飛べたら終わりだけどな」

「そこはアレだ、空中でクロールなり平泳ぎなりしてだな……」

「現実逃避はそこまでにしておくのじゃぞ」


 創平をコーラムバインはたしなめる。


「そうは言うけどよ、現実として逃げるのが一番マシな選択肢だと思わねぇか? オレ達は全員さっきの戦いでボロボロ、その上敵はパワーアップ。何だこの無理ゲー、いや、クソゲーは!」

「そうだネ、ボクもそう思うヨ。アレを倒すのは難しい」

「おう、そうか。それなら……」

「でも、アレがボク達を逃がしてくれるとは思えないよネ」


 フレッドの冷静な判断に、ぬか喜びした創平は声を上げる。


「じゃあ、どうすりゃあ……」

「逃がしてくださらないのなら、逃がしてくださるようにすれば良いのです」

「どういうことだよ、御堂」

「一瞬でも良いので、隙を作るのです。つまり、私達の勝利条件はあちらを撃破することではなく、逃げられる隙を作ることになります」

「どうやって……」


 そんな言い合いの合間に呪文を唱えて、がれきを破壊する創平。彼の魔力残量はかなり少ない。彼だけではなく、煉とコーラムバインを除いた一同の魔力は枯渇寸前である。


「そうよ、さっきから絶え間無くひたすら風を飛ばしてくるアレに、どうやって隙を作らせれば良いのよ。さっきのコーラムバインさんがしたみたいな心理戦も通じないでしょ」

「そうじゃな、レン。何か考えはあるかの? 妾には無いぞ」


 静香の言葉を受けたコーラムバインは、問題を丸投げする。


「無い」

「ちょっ」

「今も考えてる。少し待て」


 空中の剣で落石を次々と砕きながら、煉は答えた。


「それにしても、この風はいつまで続くのよ!」

「如何にあやつが屈強な怪物じゃろうと、生物であるのには代わりない。その内疲れて止まるじゃろ。その時が仕掛け時じゃ。それまでに、妾も策を練る」


 コーラムバインは言いながら、炎の弾丸をガトリングのように撃ちまくる。人型時のアルストロエメリアとの戦闘ではかなりの魔力を消費した。これから始まるの激戦の事を考えれば、無駄撃ちは出来ない。必要最低限の魔力消費でがれきに対処する。


「ったく、キリがねーぜ。なぁ、ここってどこだっけか」

「まだヘカティア大陸の下でしょう、恐らく」

「つまり敵の本拠地って事か、その内増援なんかも来んのか?」

「あの龍は広範囲に向けた攻撃が得意な様です。下手に出てくれば巻き込まれる可能性も有るでしょうし、可能性は低いかと思われます」

「でもよ、アイツの戦闘パターンみたいなのを熟知してるあちらさんがフォローに来るって可能性もなくねーか?」

「今は目の前の敵だけに集中するのじゃ、片手間で相手に出来る敵じゃ無いのじゃぞ」

「っ、りょーかい」


 風と岩石が舞い踊るこの空間では一瞬の気の緩みも許されない。かなりの集中力が必要とされ、神経が蝕まれる。そんな地獄の様な状況に彼らはいる。すると、静香の頭上には撃ち漏らした岩が迫る。呪文を唱え終えたばかりの彼女が次の呪文を唱えるのは間に合わない。


「ひ、ひぃぃぃっ」

「ちいっ」


 舌打ちした煉は高速で剣を飛ばして静香を守る。


「あ、ありがとう司東君!」

「構わない」


 礼を言う静香に煉は短く返す。そして静香は自分の防衛を再開する。すると龍は風の攻撃を止めた。


「煉、コーラムバイン、何か思いついたか?」

「いや、まったく」

「妾もじゃ」

「マジかよ、じゃあどうすれば」

「時間を稼ぐ」


 不安げな創平に煉は頼もしく答え、龍に向けて二本の剣を放つ。龍はかなりの高速で降下してきて、剣を弾き飛ばした。


「くっ」

「だぁぁぁぁっ!」


 呻きながら煉達は待避する。そして創平は土属性魔術によって防壁を造る。龍はそれに激突するが、土の壁は一瞬で砕け散った。決して勢いを殺さずに、近付いてくる。そして煉の眼前まで迫る。


「しまっ……」

「させっかよぉぉぉぉぉぉぉお!」


 隣の煉を庇おうと、創平は前に出る。しかし創平も煉も結局吹き飛ばされ、壁に背中を強打する。


「煉君、石岡君!」


 小雪が悲鳴を上げる。その声を聞きつつ煉は創平を見る。彼が龍との間に入った事により、煉に加わる衝撃は多少だが緩和された。だが、ダイレクトに攻撃を受けた創平は――――


「おい創平!」


 創平の姿は無惨なものだった。全身血塗れの状態だったが、わずかな呼吸音は聞こえた。


「マリア! 回復を」

「うん!」

「ま……て…………」


  慌てて頷いたマリア。それを聞いて、煉だけに何とか聞こえるような、か細い声で創平は言った。


「黙れ、しゃべるな」

「いや……いわせ……て、もらう……ぜ。魔力は貴重……もったい…………ねぇ」

「もったいなくない! アイツをどうにかするのには少しでも戦力が――」

「なら、尚更……だ。オレが戦力として……使えるようにするくらいなら……ごはっ」


 創平は血痰を吐く。現在、龍化アルストロエメリアは痛みに悶え、絶叫している。創平がギリギリのタイミングで食らわせたカウンターによるものだ。


「……へへっ、ざまぁ……ねぇな……強けりゃ強いほど、ダメージを……」

「マリアァァァ! 早くしろ!」


 創平の言葉を遮って煉は叫ぶ。しかしマリアは悲しげな表情で首を横に振る。


「レン、ソウヘイの言う通りよ。あなただって、分かっているんでしょう?」

「関係ない……俺は誰も死なせない。死なせては、いけないんだ!」


 悲痛な表情で煉は叫ぶ。


「冷静になって、レン! 下手すれば全滅よ!」

「その為に一人を犠牲になど出来ない! 俺はクラスの全員を元の世界に帰さなくてはいけないんだよ!」

「レン!」


 マリアは叫ぶ。この世界に生まれ、長い間戦いをしてきた彼女には、ここで創平を助ける事が非効率的であることが分かる。煉の口からは次々と言葉が溢れ出る。


「俺には罪がある。実は俺はあの日、異世界に飛ばされる事を知っていた。知っていた上で、お前達には何も言わなかったんだ……。だから俺には、お前達を死なせないという義務があるんだよ!」


 煉は告白する。非難されても仕方ないその告白を受けた創平は、にっこりと笑う。


「そうか……じゃあ…………みんな、を……たの…………む……………」

「レン!」


 創平の言葉を聞いているうちに、龍は自分を痛め付けた創平への怒りを込めて突進してきた。小雪、ロウン、コーラムバイン、静香、フレッドは再び発生させられた風により宙を舞っている。そんな中でコーラムバインは注意喚起の声を上げた。


「くっ……!」


 今から回避しようとしても間に合わないと判断した煉は浮かした二本の剣を自分の前に待機させる。相手の勢いを利用して突き刺そうとするのだ。一方でマリアも魔法攻撃をしているが、雀の涙である。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」


 込められるだけの魔力を込めて剣を飛ばし、迎え撃つ。


「これで……決めてみせる!」


 龍も剣の接近に気付いたのか、翼をはためかせ、風を起こして剣を落とす。だが煉はラジコンの様に自由自在に剣を動かし、再び龍を狙う。すると龍は翼で打ち落とす。


「ならば……!」


 煉は龍の翼を斬り落とす方向に考えを変える。剣は縦に回転する。狙い通り、剣は龍の両翼の付け根に刺さる。そのまま剣を押そうとした時、既に煉の眼前に到達しようとしていた。


「レン!」

「無理、なのか……?」


 今から逃げようにも間に合わない。大きさも移動速度も相手がかなり上回っている。龍の鋭い爪が煉を襲う。


「くっ」


 諦めたように、煉は眼を閉じて俯く。すると彼の横を何かが通り過ぎる感覚を覚える。


「おおおおおおおおおおっ!」


 煉は眼を開く。すると、満身創痍の創平が立ち上がり、再び彼の前に出ていた。そして、龍の神速で振り下ろされた爪は容赦なく、創平の身体を四方に散らせた。


「ブァァァァァァァァァァア!」


 すると龍は悲鳴を上げた。創平の最後の魔力を振り絞ってのカウンターは、必殺の一撃を何倍にも増幅して、龍の右腕を吹き飛ばした。だが、その功績者の姿はどこにもない。


「創平ぃぃぃぃぃぃい!」


 煉の叫びが木霊した。

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