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誇り高き風華(1)

「すげーな。なんつーか、戦い慣れてるって感じだな」

「そうじゃそうじゃ。もっと褒めよ、崇めよ」

「うぜぇ」


 コーラムバインの戦闘を評価した創平は、不遜な態度の彼女にげんなりとする。


「なんじゃなんじゃ。ほら、お主らも妾の戦闘で感心した点を挙げてみよ。特別に一人一つで良いぞ」

「調子に乗んな」


 そんな漫才を創平としながら、コーラムバインは焼けたオークの右腕を引っ張って千切る。


「ほれ、お主らも食うのじゃ」

「見かけによらずワイルドなのね」

「妾は物心ついた時からここで暮らしておるのじゃ。これしきの事出来て当然じゃ」


 感想を漏らした静香はコーラムバインからオークの腕を受け取る。


「うぅ、相変わらずこの世界のお肉は臭い……。誰かコショウとか持ってない?」

「コショウとやらは知らんがそんなもの無くとも食えるぞ。ほれ」

「い、いただきまーす」


 恐る恐ると言わんばかりに静香はかぶり付く。だが、ただ焼いただけのオーク特有の臭みは異世界転移してからそれなりに過ごした彼女でさえきついものがある。他の者達もオークの肉を受け取って食べるが、美味とは言えない。


「とても美味しいです」


 そんな中小雪は小さく微笑んでお世辞を言う。するとコーラムバインは満足げな表情になる。


「それならば、私もそれを貰おうか」


 突然全員の耳に届いたその声は、彼らにとって未知の声だった。オーク達を従えてその場に姿を見せた声の主は、薄い緑の肌だった。つまり、人族ではない。


「ユーは魔族かい?」

「そう、私は魔族だ」

「オーケーオーケー。ユーの言いたいことは分かったヨ。オークを連れてるユーのネ!」


 笑顔でありながら目を細めるフレッドの指摘に、魔族はニヤリとも笑わず答える。肌色より濃い緑色のポニーテールが揺れる。


「随分と勘が良い。それならば隠しても無駄か。私は四乱狂華の一人、アルストロエメリア。貴様達を殺しに来た……と言いたいところだが、その前に一つ聞きたい事がある」

「何でしょうか」


 無表情に話すアルストロエメリアに、小雪は警戒心を露にして問う。


「多種族の特徴を集めたような獣人族に、見覚えは有るか?」


 その言葉に全員が反応を示す。彼らを代表して小雪は言う。


「この道をあちらに向かったのを見ました」

「そうか、ならば良い」


 その言葉を信じたのか、アルストロエメリアは頷き、腰の刀を抜く。


「ったく、結局そうなん――」

「安心しろ、すぐに終わる」


 創平が言葉を言い終えぬうちに、疾風の如き速さでアルストロエメリアはその正面に移動し、刀を突き立てる。


「ぐふっ……!」

「石岡さん!?」


 腹部に傷を負った創平の姓を小雪は叫ぶ。


「大丈夫……だ!」

「ふん……出来なくはないようだな」


 創平はユニークスキル『返しカウンターアタック』により受けたダメージを倍にしてアルストロエメリアに返す。想定外の反撃を喰らった彼女は一旦後退する。


「逃がしません!」


 小雪はそう言うと呪文を詠唱し、神御使杖から猛吹雪を発生させる。するとアルストロエメリアの左手から風が発生して吹雪とぶつかる。


「このぉぉぉぉぉぉお!」

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 二つの攻撃は拮抗し、二つの咆哮が響き渡る。しばしの激突の末、風は吹雪を霧散させた。


「なっ……!」


 眼を見開く小雪。アルストロエメリアはその隙を見逃さない。愛刀『シューニャター』を振り上げて、一気に距離を詰める。


「……」


 振り上げられた刀は無言のまま下ろされる。小雪は咄嗟に神御使杖を横に持って受け止めようとする。しかしアルストロエメリアは瞬時に体を回転させ背後に回り、その背中に刃を振り下ろす。


「かはっ……」


 小雪は吐血する。アルストロエメリアはスッと刀を抜いて、こびりついたものを衣服の裾で拭う。


「小雪……!」

「御堂さんから離れろぉぉぉぉぉ!」

「こっちにカモン! 四乱狂華」


 アルストロエメリアの圧倒的な速さについていけないながらも目の前の出来事に真っ先に煉が反応し、続いて静香とフレッドが叫ぶ。静香は龍人の姿に変身して突っ込む。それはアルストロエメリアが跳躍することにより回避される。洞窟は辺りがミシミシと軋み、細かい土がパラパラと降る。


「まったく、鬱陶しいブタ共じゃ」


 一方でコーラムバインは乗ってきた龍と共にオーク達をまとめて相手にしている。その表情には、アルストロエメリアとの戦闘に加勢できないもどかしさがあった。すると彼女に着く声がかけられる。


「久しぶりだな、コーラムバイン」

「……? お主、妾の名を知っておるのか?」

「ああ、そうだった。貴様は覚えていないのだったな」


 アルストロエメリアの言葉は幼い頃の記憶が無いコーラムバインにとって気になるものだった。


「そうじゃな、妾の事について教えろ……と言っても無意味じゃな」

「当然」

「ならば、お主を倒して聞き出すとするかのう」


 コーラムバインは宣言する。すると、アルストロエメリアの様子が変貌する。


「フフ……」


 それはくぐもった笑い声。とても面白い話を聞いて、どうにか笑いを抑えようとして、しかし抑えきれない笑い声だ。


「フフフフフフ…………フハハハハハハハハ!」

「何がおかしいのじゃ?」

「フハハ……いや、無知は罪だと思っただけだ」


 決壊したダムのように笑いが溢れ出すアルストロエメリアをコーラムバインは睨む。片や勇者達を、片やオークを相手にしながら、彼女達は話す。


「お主……随分と妾を舐めきっているようじゃのう」

「舐めもする。貴様の底を知っているのだからな」

「待っておれよ。すぐにお主を妾の前に跪かせてやろう」

「やってみろ。もっとも、今の貴様は全盛期に比べて弱体化しているがな。全盛期の貴様ですら私には敵わなかったぞ」

「いちいち癪に障る奴じゃ」


 コーラムバインは味方に影響を及ぼさない程度に炎を出して、数匹ずつ着実にオークを片付けていく。一方アルストロエメリアは怪我した体に鞭打って戦う創平に比較的余裕がある静香との接近戦をしながら、遠距離から魔術攻撃を放つフレッドと小雪も相手にする。


「オレはコイツらの盾だ」


 敵の攻撃を倍返しにする創平は、アルストロエメリアにとって一番厄介な相手である。彼女は攻撃を回避する事は得意な反面防御力は低い。しかし創平の能力は確実に大ダメージを与える。


(だが……体力はそれほど残っていなそうだ。一旦コイツは無視して、他の奴等を全員倒してから対処すべきか)


 そこで彼女が目を付けたのは手負いの小雪だ。簡単に倒せそうな相手から着実に片付ける。


「ふん」


 アルストロエメリアは自分を中心に竜巻を発生させて創平と静香を吹き飛ばす。二人が動揺を見せる前に強風を伴って、瞬時に小雪のもとに向かう。小雪は両腕をクロスさせて突撃を受け止めるが飛ばされ、後ろの壁に激突する。激痛に小雪はぐったりとうなだれる。


「クソッ」

「こっちにカモンと言っているだろう!」


 創平は毒づき、フレッドが叫ぶ。それを受けてアルストロエメリアはフレッドに注意を向ける。そして彼が常時魔術を発動している事に気付く。


(やはり、コイツを狙うべきか)


 視力を生まれつき持たないが、その代わり周囲の物体の存在を感知して、そのステータスを随時読むことが出来る彼女は考える。彼女にとって光の有無は関係無いが、普通に視力を持つ者にとっては違う。最初は放置しても余裕だろうと高をくくっていたが、想像以上に彼女は手こずっていた。


(だが……)


 ステータスを読むことが出来る彼女は、フレッドの残り魔力がジリジリと減っている事も分かっている。元々広範囲に影響する魔術を長時間使っていたのだ。更に、戦闘するにあたり攻撃魔術も同時に使っているため、消費魔力は加速度的に増えている。照明魔術の有効範囲を徐々に狭くしていっているが、その効果は慰め程度である。つまり、放っておいても近いうちに魔力は切れる。


(まあ、それでもとどめは刺しておくか)


 アルストロエメリアは刀を構える。近接戦闘を挑んでくる二人を強風でどかして、その風の勢いに乗り、フレッドへと一直線に翔ぶ。


(終わりだ……!)


 斬撃の命中を確信した瞬間、フレッドがニヤリと笑ったのを感覚で察知した。その理由を疑問に思う直前、腹部に激痛を感じた。


「なっ……」


 何だそれは、と言おうとして動揺し、言葉にならない。フレッドが神御使杖を持つ逆の……左手にある金属製の物体から煙のような反応を感じた。そんな彼女の疑問に、フレッドは答える。


「これはピストル……ボクの相棒だよ」


 その言葉と同時に、引き金を引いた。

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