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第五章エピローグ・隠された邪神

 神代怜悧は今日もコロニー・ワールドの観察をしている。無言でモニターを眺めていると部下達が、この場のトップである天原考司郎に報告をしていた。


「空撃巨人はこの世界の住人の強さを示す基準として上手く機能しているものと思われます。たとえば一般兵士は多数で掛かっても倒すのはほぼ不可能、勇者は数人いれば余裕をもって倒せ、シュレイナー・ラフトティヴは奥の手さえ使えば容易に倒せる。一般兵士でも魔動兵器に乗れば問題なく戦え、それを勇者が操るとなれば多勢に無勢でも余裕。そしてこの人造獣人は一撃で倒せて、神代聖騎は安全な状況にさえいれば簡単に殲滅可能、と」

「ふむ。確かにな。だが、神代聖騎の場合、相手の間合いに入った時点で、防御手段が無ければ死亡確定。一方で他の勇者は生身でも、攻撃にはある程度耐えられる。これは面白いサンプルだ」


 天原は戦闘記録を見ながらうんうんと頷く。そんな状況の中、大声でわめく男が一人。


「善! お前たちよくも善を!」


 この部屋の隅で取り押さえられている男の名は、面貫仁。コロニー・ワールドに無理矢理送らされた少年の一人である面貫善の兄である、元刑事だ。現在はこの研究室で弟の様子を見守っている。見守る事しかできないという状況なのだ。そして件の善は現在、藤川秀馬や数原椿と共にマスターウォートの所にいて、彼の手駒のようになっている。


「さあ、私達は何も手を出していない。君の弟が危険な状況なのには変わりない」

「何もしてねぇ……って、そもそもテメェらが善達をこんなトコに送ったのが原因だろうが!」

「今更それを言うかね」


 激昂する仁だが、天原は全く悪びれない。それが善の苛立ちを加速させる。


「まあ良い。ならば君が我々に望む事を言ってみたまえ。この世界に戻す以外でな」


 善の真正面に天原は顔を持ってくる。悪魔とはこういう顔をしているのだろうかと仁は思った。


「俺が望む事……?」

「とりあえず何でもいいから言ってみたまえ。それに応えるかどうかは別としてだがな」


 天原の胡散臭い顔を見ながら仁は迷わずに答える。


「俺をこの世界に行かせてくれ」

「ほう」

「もうこれ以上見ているだけなんて嫌なんだよ! 善も、親父もお袋もこのコロニー・ワールドなんてとこにいて、俺だけがのうのうとこんなところにいる! なあ? 出来るだろ!」


 捲し立てるように言う仁。すると天原はその言葉を最初から分かっていたかのように頷く。


「ふむ。だが危険だぞ?」

「俺の家族はとっくに行ってるんだ、関係ねーよ」

「そうかそうか。まあ、ここでしばらく過ごして、繋世ゲートから流れてくる異世界の空気を吸っている君なら、コロニー・ワールドへの耐性は付いている。ステータスも勇者並だろう。ただ、レベル1から始めるとなると大変だ。助けに行ったところで足を引っ張るだけで、結局何のために行ったんだという話になる」

「じゃあ、レベルを上げた状態で行ったり、あらかじめステータスをいじったりするっていうのは出来ないのか?」

「どうやらレベルを外部から操作する事は出来ないらしい。だが、ステータスをいじる事自体は出来る。しかし、我々の方針として、あまりやりたくはない」

「じゃあどうするってんだよ?」


 露骨に不機嫌さをアピールする仁。すると天原は人の悪い笑みを浮かべる。


「妖精族と獣人族と巨人族、どれか一つになれるとすればどれを選ぶ?」



 ◇



 コロニーワールド計画に携わる者の中でも上層部に認められた者しか入れない部屋。ここに怜悧と天原がいた。


「ついに彼も行きましたか」

「ああ。これも実験の一環だがね。ステータスの数値をいじるのは好きではないが、今回はステータスの『種族』の項目を改変し、それがもたらす影響を調べる」


 怜悧の言葉に天原が楽しそうに答える。コロニー・ワールドにおいて、各種族毎にステータスの数値の傾向が違う。人族は個体差はあるとはいえ、種族全体で見れば偏りは無い。妖精族は物理系の数値が低く魔法系とスピードが高い。巨人族は妖精族と真逆。獣人族は物理系こそ巨人に劣るものの高く、スピードもある。そして魔族は人族の上位互換である。ただし、人族唯一のメリットとして成長率が良い事が挙げられる。低レベルの時こそ特出したステータスは無いが、レベルが上がるにつれて魔族にも劣らないステータスを手に入れられる。しかし今回の仁の場合は、即戦力となる事が求められるので、人族ではなく他種族になる事を天原は勧めた。


「しかし、妖精族を選んだか。理由こそ聞かなかったが恐らくは弟くんと『契約』を結ぶつもりなのだろう。実のところ他の種族にも、似たようなものが確認されているのだがな。まあ良いか」

「一番人族に近い容姿というのもあるでしょう。もっとも、妖精族の中でもどのような種族になるかで容姿は変わりますが」


 そこまで話したところで、二人の興味は仁から失せる。


「それにしても、サリエルさんが接触したというアジュニンさんというロボット、一体何物なのでしょう」

「我々の世界とは別の異世界から来たと言っていたな。元々レシルーニアの棲みかだった穴蔵の中にあった繋世ゲートから現れていた。アレが元々いた世界と接触がしたいものだが」

「まったく、そんなものと直接接触出来るとは、聖騎さんも幸運ですね。まぁ、この世界に来てからの聖騎さんは異常なまでに幸運であるとも言えますが。流石は『神に気に入られし者』なだけあります」


 怜悧は聖騎のステータスを眺める。


「ああ、彼がこの世界に来たときから持っていた称号だな。その本質は、称号を持つ者にご都合主義的補正をかけるというもの。そして、その称号を持っているという事は、自分以外には知られない。だから神代聖騎が神に気に入られている事は他の誰も知らないし、他に同じ境遇の者がいることも知らない」


『神に気に入られし者』の称号の保持者は聖騎以外にも存在する。


「そうですね。勇者全員という訳でもありませんが、聖騎さんを含めた何人かは神に気に入られています。……比喩ではなく、本物の神に」


 怜悧は天原の顔を見る。これといった特徴の無い平凡な老人の顔を。老人は笑う。


「神に課せられた掟として、必要以上に下等種族に接触する事は禁じられている」

「しかし神の中には掟を破る者もいます。たとえば、日本神話のイザナギノミコトから生まれながら、その悪どさ故に古事記でも日本書紀でも存在が抹消されている邪神とか」


 聞く者が聞けば驚愕するであろう言葉を怜悧はサラッと口にする。


「意地の悪い事は言うものではない、神代君」

「そうですね。少々口が滑りました。申し訳ありません」

「構わないよ。ともかくだ、自分が応援している者が窮地に陥れば、神は力を貸すだろう。いや、既に力を貸している者もいたな。まあいい」


 天原は感慨深げに、雲に隠れながらも太陽が沈む西の空を観る。怜悧はコーヒーカップに口を付けて一言。


「ああ、私も神になりたいです」

「相当痛々しい事を言っている自覚はあるかね? 四十ウン歳」

「いくら天原先生と言えど、言って良い事と悪い事が有りますよ。せっかく魔族の因子を体内に注入して、二十代半ば、最高の状態の若い肉体を手に入れているこの私を現実に引き戻すような事は禁忌に等しいです」

「そうかい、これは失礼したね」


 淡々としながら怒りを滲ませた怜悧の言葉を、天原は軽く受け流す。怜悧もその態度に何か言うでもなく、白衣の襟を正して、改めてモニターを注視する。


「まあ良いでしょう。ただの人間である私は、せめて神様ごっこを続けるとします」

「励みたまえ。君には期待しているのだからな」


 怜悧の肩に手をポンと置いて天原は言った。

現時点での勇者達の動向

ラフトティヴ帝国

神代聖騎 国見咲哉 西崎夏威斗 桐岡鈴 佐藤翔 鈴木亮(死去) 吉原優奈 数原藍 有森沙里

ヘカティア大陸(北の大陸)

舞島水姫 永井真弥 黒桐剣人 山田龍 柳井蛇 土屋彩香 草壁平子 宍戸由利亜 振旗二葉 高橋梗

エルフリード王国王都

武藤巌 緑野星羅 渡瀬早織 御堂小雪 鳥飼翼 浅木初音 

リノルーヴァ帝国方面

藤川秀馬 数原椿 面貫善 伊藤美奈 百瀬練磨 久崎美央

地下洞窟

司東煉 石岡創平 波木静香 御堂小雪 フレッド・カーライル

エルフリード王国北部

古木卓也

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