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追い返される無能

 ドラゴンを倒した聖騎達が洞窟の奥に進んでいる頃、卓也は王宮へと向かっていた。その門にたどり着いた彼は門の警備兵に止められる。


「どうした、お前は洞窟にいるはずだろう。いかにお前が無能だろうとそれは変わらないはずだぞ?」

「えっと……洞窟に行ったら大きなドラゴンが出てきたので応援を呼ぶように言われたんです」


 勇者として召喚されたにも関わらず体術も魔術もダメな卓也は王宮内では有名になっていた。そんな彼の言葉など、門番は相手にしない。


「バカな事を。かなり深くまで進まない限り、ドラゴンなんて出てこないと言われているんだぞ。そもそもドラゴンなんてのが本当にいるのかすら信じられねえしな。下らないことを言ってる暇があったら鍛練しろ鍛練。お前に足りないのは気合いだ。ガッツだ」

「本当ですよ! 本当にドラゴンが!」

「はいはい、分かったからさっさと帰れ」


 門番にまったく相手にされない卓也だが、それでも食い下がる。すぐにでも応援を呼ばないと級友達が危ないと考えている彼は諦めるわけにはいかない。実際にはドラゴンは既に倒されているのだが、それは彼の知りようの無いことだ。二人の言い合いはまだまだ続く。その様子を見た民は卓也を悪質なクレーマーのようなものだと考えた。国中の者達から尊敬されている王家に仇なすものだと考えた彼らは、門番に当たらないように気を付けながら石を投げ付ける。


「痛い!」


 卓也は思わず声を出す。門番は怒鳴って投石をやめさせた後、疲れたように告げる。


「なぁ、もう良いだろ? 俺だって暇じゃ無いんだ。お前みたいなクズの相手をしてる時間なんてねーの。いい加減分かれよ」

「でも……」


 それでも卓也は諦めない。すると門の外が騒がしい事に気付いたマリーカが城門の上から現れ、メイド服のスカートをはためかせてシュタッと着地する。すると、ここにいた卓也を見て目を見開く。


「フルキ様。何故あなたがこちらに?」

「その、洞窟で大きなドラゴンが出てきて、すごく苦戦してるので軍の人たちを連れてきて欲しいと頼まれたんです」

「左様ですか……」


 マリーカは想定外の事が起きたように困った表情をする。それを怪訝に思いながらも門番が言う。


「お前からも言ってやってくれ。こんなデタラメを言って訓練をサボろうとしてるコイツにちゃんと戦えってよ」

「そうですね……」


(『勇者伝説』ではフルキ様のような方が洞窟の中で一人取り残されている。しかし、今は逆にフルキ様のみが洞窟の外におられる。この状況は偶然でしょうか。それとも……)


 マリーカは門番に答えながら考え込む。そして疑問を口にする。


「ところでお聞きしたいのですが、フルキ様はご自身でここにいらっしゃる事を決めたのでしょうか?」

「い、いえ……藤川に言われて……」


 突然の質問に戸惑いながらも卓也は答える。


「フジカワ様ですか……カミシロ様では無いのですね?」

「は、はい」


 マリーカの意図が分からない卓也。同様に分からない門番が苛立つように言う。


「何だって良いだろ。おいクズ、さっさと行け」

「そうですね……確かに早く戻った方がよろしいかも知れません」

「えっ、いや、俺一人が行ったところで……」

「増援はすぐに準備できるものではございません。後から増援はお送りしますのであなただけでもすぐにお戻りください。今すぐに」

「えっ……」

「急いで!」


 かなりの剣幕でまくし立てるマリーカに卓也はたじろぐ。そして、腑に落ちないまま彼は走って洞窟へと戻っていく。


「なあ、お前がそんなに慌てるなんて珍しいな。そこまで必死になっていう事か?」

「勇者様には色々とあるのでございます」

「色々ねぇ……」


 門番が呟いた瞬間、マリーカは跳躍する。そして門を飛び越えて主エリスの下へと向かう。


「言ってくれたら門くらい開けるんだが」


 門番の呟きは誰にも届かない。



 ◇



 エリスの部屋。マリーカは今起きた事をエリスに報告する。


「それで、フルキ様は洞窟へと向かわれたのね」

「はい」

「そう……」


 エリスはどこか申し訳なさそうな顔で言う。そして口を開く。


「ねえ、マリーカ。『勇者伝説』ではフルキ様のような方が一人取り残されるのよね? 元の世界の御友人とは離れ離れになって」

「しかし、彼には友人と呼べる存在は……」

「マヤは話してたわ! フルキ様がどれだけ心の優しい人か。あなたも聞いてたでしょう?」


 エリスは真弥を含めた数人の勇者と名前で呼び会うまでに親しくなっている。


「確かにナガイ様はフルキ様に好意を抱いているようです。ですが、私達の世界を救うためには彼に茨の道を進んでもらうしか無いのです。非常に酷な事ですが、あなたは王女としてこの世界の人間を救う為の選択をしないといけません。そしてそれは、『勇者伝説』をなぞる事で達成できます」

「異世界の方々を理不尽に呼び出しておいて、私には王宮で大人しくしてろだなんて本当に最低ね。『勇者伝説』って」

「ですが私達は無力です。古より受け継がれてきた伝承にすがるしか無いのです」


 不満げなエリスをマリーカは諭す。ベッドに押し倒しながら。メイド服を脱ぎ捨てて下着姿となった彼女はエリスの衣服に手を伸ばして脱がし始める。


「ねぇ、マリーカ」

「何でしょうエリス様」

「まだ昼間よ?」

「関係ありません」

「まったく……仕方ないんだから」


 生まれたままの姿になった2つの女体が絡み合う。



 ◇



 エリスの部屋からは艶かしい声が響く。それを聞いたメイドの少女、ナターシャは顔を赤らめる。マリーカの部下である彼女はエリスへの連絡の為にここに来たのだが、この声を聞いてしまえば迂闊にドアをノックする事も出来ない。


(うう……私も一人前のメイドになってエリス様と…………じゃなくて! これを邪魔したら後でマリーカさんに睨まれちゃうかも……でも、これは早く伝えないと……)


 困った彼女はエリスの部屋の前を右往左往する。しかし事の重大性を知る彼女は意を決してドアをノックする。「ひゃあ!」と声をあげるエリスに申し訳ないと思いながら、彼女は声を少し震わせて用件を伝える。


「も、申し訳ございません! 突然ですが、すぐにお知らせしたい事が有るのです」

「な、な、何かしら!?」

「えっと、その……この王都に魔王軍が攻めてきたとの情報が……!」

「えぇっ!?」

「北からかなりの軍勢が来ているとの事です。まだ街の中には入っていませんが、入ってくるのも時間の問題かと思われます」

「北からって、セベストスやハデーサを越えてきた事になるじゃない! だとしたらもう少し早く魔王軍が来てることくらい分かったんじゃ……」

「申し訳ありません。そのあたりの詳しい事は分かっていないようでして……」

「そう……。騎士団は動いているのかしら?」

「はい。別の者が騎士団長様の所へ大急ぎで向かったので、今頃は既に出撃していると思われます。また、民には外に出ない様に呼びかけています」

「それなら私も出るわ」


 ナターシャの報告を受けたエリスは部屋のドアを開けて言った。マリーカによって既にドレスを着ていた彼女は、メイド服を着たマリーカを従えていた。しかしその言葉にマリーカは反論する。


「いえ、エリス様は王宮内でお待ちください。ここは私達が様子を見ていきます」

「でも……」

「エリス様はこの国における最重要人物のひとりなのです。そう簡単に戦地に赴くことは国王陛下が許しません」


 不服そうなエリスにマリーカは言い聞かせる。しかしエリスは納得しない。


「だからと言って、こんな安全なところでぬくぬくと待っているだけなんて私には出来ないわ!」

「死なない事こそがあなたの役割なのです。ご理解ください」

「それならお母様は!」


 エリスは思わず怒鳴る。その剣幕にナターシャは思わず怯む。それに気付いたエリスは我に返る。


「ごめんなさい、ナターシャ」

「い、いえいえいえいえ滅相もございません!」


 エリスに謝られたナターシャはぶんぶんと首を横に振る。そしてマリーカはエリスを見つめて言う。


「ともかく、エリス様は待っていてください。ご安心ください。私は必ずエリス様の元へと戻ります」

「マリーカ……」


 エリスは不安げな視線をマリーカに向ける。そんなエリスをマリーカはきつく抱きしめる。


「エリス様、そんな顔をなさらないでください。これまでだって、私は何度もあなたの目の前に帰ってきたでしょう?」

「…………分かったわ、マリーカ。私はあなたの帰りを待つわ」

「ご決断、感謝いたします。では行きましょう、ナターシャ」

「はい、マリーカさん!」


 2人のメイドは走りだした。

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