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死にたくない

 一方、鈴は格納庫にしまわれていた乗機・イースフィンクを取りに行っていた。そして、そのメンテナンスをしていた佐藤翔、及びその手伝いをしていた鈴木亮と高橋梗がここにいた。


「姉御、もうちっと待ってくれねぇか。もう少しでイースフィンクをヒューマンモードからビーストモードに変形できる機能を……」

「そんなモンいらねーよ! 今、外はヤバいんだからアンタ達も手伝え」

「分かったよ……亮、梗」


 翔の言葉を一蹴して、鈴はイースフィンクに乗り込む。翔は友人二人に声をかける。すると、梗は言う。


「何で、ンなことしなきゃいけねぇんだよ?」

「梗?」

「なぁ、何でだよ」


 梗の急変に一同は戸惑う。翔は彼の言葉に答える。


「何でって、外が危ねぇって話だからだろ」

「知るかよ、大体何で俺達はずっとここにいるか覚えてるか? 国見がここにしばらくいたいっつったからだろ? つまり、こんなことに巻き込まれてるのは国見のせいだ! 俺は悪くない!」


 梗は怒り、わめく。鈴は声を上げる。


「だからって、そんなこと言える状況だと思ってんの?」

「そもそも何で俺はこんなとこにいんだよ! 俺達普通の中坊だぞ? 勉強つまんねーとか言いながら学校に行って、ダチと駄弁って、古木をイジって、それで良かったんだよ! 何で……何でこんな異世界なんかにいなくちゃいけねぇんだよ! 俺は何も悪くねぇのに!」

「そんなこと、今更……」


 論点がずれている事も気にせず梗は思いをぶつける。


「知るか! 知るか知るか知るか! 嫌だ俺は! 嫌なんだよ!」


 梗は地面に仰向けに倒れ、じたばたと暴れる。そこ豹変に翔と亮は驚く。


「梗、落ち着け!」

「ああああああああああああああ!」


 亮の諌めにも耳を貸さず、ただただ暴れる。らちが明かないと思った鈴は対処を諦めて機体に乗る。


「じゃあとにかく私は行くから。高橋の事はお前らに任せるから」

「姉御、出撃する時は決め台詞を! 『桐岡鈴、イースフィンク、出る!』みたいな感じで」

「言うかバカ」


 翔のリクエストを無視して、鈴は機体を歩かせて格納庫を出る。翔と亮は互いに顔を見合わせる。


「なあ、翔。どうする?」

「どうするって言っても、姉御は行っちゃったし。でも外じゃ姉御以外にも強い奴らが戦ってる。俺達が行ったところで意味あんの? って気はするな」

「その割に、戦いたそうな顔してるじゃねぇか」


 呆れた口調の亮に指摘され、翔は小さく笑う。今も梗は駄々をこねて暴れている。


「バレたか。……ここは格納庫兼整備所だ。予備のヴェルダリオンの為のパーツがゴロゴロある。ヴェルダリオンは国の許可を受けた奴しか乗れねぇ。パイロットになる為の儀式的なものを受けなくちゃ、乗れねぇことになってる。だが俺は、こんなこともあろうかと、用意してたものがあったんだ!」

「何だ何だ、その台詞言いたかっただけか?」

「そう茶々入れんな。こんなこともあろうかと、予備パーツをチョロまかしてこっそり機体を造ってた」

「二回言った!? やっぱ言いたかっただけだろそれ!」

「良いからこれを見ろぉ!」


 翔はバンッと幕を下ろす。そこには、通常のヴェルダリオンより一回りほど小さい、三体の巨人が立ち尽くしていた。


「こんなこともあろうかと用意してたのは、このヴェルダオンだ」

「もうツッコまないぞ……って、ヴェルダオンなのか? ヴェルダリオンじゃなくて」

「ヴェルダリオンの劣化版だからヴェルダオン。だが、劣化版つっても、ノコノコ生身で出るより何倍も良いぞ。注意点としては、登録したパイロットしか乗れないヴェルダリオンと違って、属性さえ合ってれば誰でも乗れるから、盗まれる可能性がある。後は出力も落ちるな」

「なるほどな、その話乗った」


 自慢げに語る翔に亮は言う。翔は頷く。そして、泣き疲れてただ寝転がっている梗を見る。


「そんじゃ梗、俺達は行くぜ」

「何でだよ……」

「そりゃ、死にたくねぇからだよ」


 亮はそう言い捨て、翔と共に機体へと歩いていく。そして、翔の耳元でそっとささやく。


「正直、梗がああなったから俺は冷静でいられるって感じだ」

「まあ俺も似たようなモンだよ。ロボに乗りたいのはガキの頃からの夢で、実際に乗れるのは嬉しいけどよ、敵がめっちゃ強いって聞けば正直怖い」

「だがやるしかねぇんだろ。魔王は多分、巨人の何倍も強い。つまり、俺達が帰るには巨人くらい余裕で倒せなきゃダメって事だ」


 そんな話をしながら、二人は出撃する。一人残された梗は呆然としていた。



 ◇



 ラフトティヴ大宮殿。この国でも最も堅牢なこの建物には、帝都中の貴族達がこぞって押し寄せていた。貴族がそれぞれの使用人を大量に連れてきたことで、ここの人口密度はかなり高くなっていた。そんな中に、シウル・ラクノンもいた。彼がこの国に連れてきた兵士は、翼付き巨人との戦闘に駆り出されている。そして五人の腹心の部下と共に非難している。


「なんとも歯がゆいね。本当なら私は前線に立って戦いたいんだけど」

「総大将であるシウル様を未知の強敵と戦わせる訳にはいきませんので」

「でも、この国の皇帝陛下はノリノリで戦っているよ?」

「あの方の国民へ与える影響力は半端なものではありませんからね。兵の士気にかなり貢献しているでしょうし。そして何よりシウル様はここにおいて他国の次期皇帝……失礼、他国の家の次期当主という立場ですから。そのようなあなたがこの国で命を落とすとなれば、国家間の問題になりかねません」

「その言い間違いは気が早いよ。まぁ、確かに君の言う通りだ。本当なら君も部下だけに戦わせずに自分も戦場に立ちたいと思っているんだろうに、耐えているのだからね」

「滅相も有りません! シウル様を直接お守り出来る事こそ私の誇りです」


 従者とそんな会話をしていると、シウルの背中に何者かの肩がぶつかった。背後を振り返って謝罪すると、向こうも謝ってきた。どこかで見覚えがある顔だと思い、考えた結果、その少女はシュレイナーの妹だった。話を聞いてみると、この都市で戦っている長兄シュレイナー、そして南に行ったきり行方が知れない次兄キリルの身を案じていた。


(そう言えばメルンの姿が見えないな。マサキ君はキリル殿下と一緒に南にいると聞いたが、彼と一緒なのだろうか……だが、それなら私の耳にも入っているはず。もしかして、今ここで戦っていたりとかしないよね?)


 彼の危惧している通り、メルンはこの都市で戦っている。売名活動等による工作の結果、母国リノルーヴァ帝国での彼女の人気、知名度は大きなものとなっている。それこそ、シウルと肩を並べるほどに。


(いや、既に私を超えているかも知れないな。つまり、メルンがこの国で死んで、それがリノルーヴァに伝われば間違いなく国民は動く。そんなことになれば、同盟なんて無かった事になる。メルン、君は今の自分の立場が分かっているよね?)


 シウルがそんな事を考えている中で、シュレイナーの妹は混乱する貴族達に落ち着くよう、声をかけている。


(あの子はメルンと同い年だったね。強いが無鉄砲な所があるシュレイナー陛下、彼にコンプレックスを抱いてひねくれたらしいキリル殿下と違って、しっかりしているね。……それは良いとして、翼付き巨人だ。あんなものが何故、今更ここに現れた? どこかに封印されていて、その封印が解かれたとでも言うのか? もし本当にそうだとして、封印は故意に解かれたのか、それとも自然にか……。故意に解かれたのであれば、それは誰なのか。知能の低い巨人族でも解けるような単純なものなのか……違うのか)


 頭を回転させるシウルは、やがてとある可能性に思い至る。


(まさか、魔王軍の差し金だとでも言うのか? だとすれば、マスターウォートはこれを知っているのか?)


 協力関係にある魔王軍の男の顔をシウルは思い出す。頼りになるが、胡散臭い老紳士だ。


(マスターウォート……今、何をしている?)



 ◇



「……なるほど、空撃巨人は問題なく動いたか」

「はい。現在はパッシフローラ様の指揮下にて暴れております」


 リノルーヴァ帝国某所。部下であるサンパギータからの報告を受けたマスターウォートは満足そうに頷く。


「そうかそうか……。アルストロエメリアは逃亡者への追撃。新入りはその補佐。そしてもう一人の新入りは……」


 マスターウォートはチラリと横に首を向ける。そこにいる者に何を言うことも無く首を戻す。


「まあ良い。さて、我々も仕事をしようじゃないか」


 ただそれだけを言って、立ち上がった。

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