表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/209

未確認飛行巨人

 紆余曲折有りながらも聖騎達は、何とか目的地にたどり着いた。彼らの目の前は、海を埋め尽くすほどの巨人の群れと、それと戦う者達とによって荒れていた。


「ふぅ……やっと着きましたかー。大丈夫ですか、パラディンさん」

「はい、ご心配おかけしました」

「いえいえ」


 軽く伸びをするミオンに聖騎は謝る。運軍車から降りた兵士達も体をほぐすために軽い体操をしている。聖騎も体育の授業の前にやっていた準備運動をして体をほぐす。


「しかし、あの数は半端なものではありませんね。この荒れた海の上でよく、船は浮いていられますね。あちらに乗っておられる兵士も無事なようですし」

「この街の漁師の船の扱いは一流ですからね。それに戦っている人達もみんな、百戦錬磨の猛者達です」


 聖騎が感想を漏らすと、ミオンは丁寧に解説してくれる。兵士達の中には目の前の激戦にウズウズしている者もいる。そんな状況の中で、この場の司令官であるキリルはフレインに命じる。


「フレイン・ネルイーヴ、後は任せた」

「了解しました」


 キリルが仕事だけを部下に任せて、名誉や報酬を手に入れようとするのはいつもの事である。フレインは嫌な顔一つせず頷いた。キリルは万が一があればいつでも逃げられるように運軍車内で待機し、運ばせるための巨人も確保している。


「運軍車でお話しした通り、私は凰雛隊と合流します。パラディン様は……お願いします」

「では、始めましょう。リート・ゴド・レシー・ハンドレ・ト・ワヌ・ファニール」


 ミオンに頭を下げられた聖騎は光幻術を発動し、目についた敵の巨人に使う。それにより見せた幻覚により、仲間の巨人を攻撃するよう暗示をかける。


「まだまだいきます」


 同じ魔術を続々と巨人達にかけていく。やがて海は、巨人と巨人が殴りあう地獄絵図となった。何かに取り付かれたように暴れる巨人達により海の荒れは激しさを増す。


(これは実戦をしながらの練習。魔術発動から幻術を見せるまでの時間を短縮させる為のね)


 洗脳された巨人は、時に別の洗脳された巨人を攻撃する。だがそれでも構わない。聖騎はひたすら魔術をかけ続ける。これにより、効率よく敵の数を減らす事が出来る。


(それにしても、アレがヴェルダリオンか。ちゃんと戦っているところを見るのは初めてだけれど、中々の迫力だね。僕も欲しい……けれど、乗ったら気持ち悪くなりそうだ)


 乗り物酔いしやすい体質の聖騎はそんなことを考えつつ、呪文を唱える。だが、別の事を考えながらの光幻術は上手くいかなかった。


(なるほど……やはり考え事をしながらだと難しいな。でも、戦闘をしているという事は常に何かを考えなくてはいけない。よし、別の事を考えながら光幻術を使う練習をしよう)


 聖騎の練習は続く。


(もしも僕がヴェルダリオンに乗るとしたら、光属性の『リートフェリル』だろうね。白いカラーリングにオオカミをイメージしたような頭部と爪。理論上の移動速度は全属性中最速だけれど装甲は薄め……うーん、性能はともかく見た目は僕の趣味じゃないな)


 聖騎は脳内で、自分の理想の機体を設計する。


(そうだね、もう少しスマートな感じが良いな。装甲は必要最低限にしてスピードを極限まで高めたい。後は、そうだな……武装はイマギニスのような大鎌、それなら機体自体のデザインは死神のような感じかな)


 そこまで考えて、聖騎は作業に慣れてきた感覚を覚える。いつしか巨人達はほとんどが倒れ、残りわずかになっていた巨人達はお互いに潰し合ったり、兵士に倒されたりでやがて全滅した。


「お疲れ、パラディン卿。アンタのお蔭で効率よく巨人を一匹残らず駆逐出来たぜ。アイツら、ザコの癖に無駄に数ばっかいてウザかったけどよ」


 兵士の一人が聖騎に労いの言葉をかける。彼の近くにいる他の兵達も、感謝を示している。


「いえ、私というよりは、私のような怪しい者に奥義を教えて下さったシュレイナー陛下のお蔭です」

「それでも、アンタはすげーよ!」


 謙遜する聖騎を、兵士はキラキラした眼で見る。聖騎はそれを無視して思案する。


(それにしても、アレで終わりなのかな? 裏に魔王軍がいるとすれば、何か考えているはず。ただ物量で押すなんていう単純な作戦だけではなく……その裏で何かを……あれ?)


 聖騎の思考が急に遮られる。彼の第六感が巨大な気配を感じ取ったからだ。その気配は、空から感じた。聖騎は見上げる。


「何だアレは!?」


 聖騎につられて上を見た兵士が驚きの声を上げる。空にある巨大な何かが北を目指して飛んでいた。他の兵士達も続々と上を見て、戸惑う。


「何だ、何であんなにデカいものが飛んでるんだ!?」

「ドラゴンか!?」

「バカか? ドラゴンなんている訳ねーだろ」

「じゃあ何だよ」


 未知の存在を前に、兵士達は喧騒を上げる。異世界に来て数日で戦った聖騎には分からない事だが、ドラゴンという生き物はこの世界でも伝説の生物だとされている。


「って、何かデカくなってねぇか?」

「バカ、落ちて来てんだよ! 逃げるぞ」


 頭上の物体は続々と、聖騎達のところへと落下してくる。しかしそれは全部ではなく、北に向かって進んでいく個体も沢山いた。


「リート・ゴド・レシー・サザン」


 聖騎は呪文を唱え、大鎌イマギニスから三日月型の光を飛ばす。しかしその巨体はビクともせず、落下を続ける。


「……ならば!」


 今度は金属を操る妖精族の魂を召還し、ドーム状の盾を造って周辺の兵士を守る。


「パラディン卿、これは一体……?」

「後でお話しします。とにかく私達は、想定外の強敵と戦うことになったようです」

「想定外の強敵……?」


 兵士は戸惑い、呟く。その呟きに聖騎は返す。


「はい。私の攻撃一撃で倒せない程の強敵です」


 次の瞬間、ドーム上部がミシミシと鳴った。そして、衝撃を和らげる構造であるドームの天井が砕け、巨体がゆっくりと落ちてきた。それは巨人だった。背中に大きな翼を持つ巨人だった。


「皆様、羽の生えた巨人に見覚えはありますか?」

「い、いや……あんなモン見たことも聞いたこともねぇ!」


 巨人はジロジロと下を向く。


「ええい、怯むな! 羽が有ろうと所詮は巨人、俺達の敵じゃない!」


 この場のリーダーである男が部下達を鼓舞する。兵士達は弓を構え、杖を持ち上げ、剣を抜く。こうして、未知の巨人との戦闘が始まった。



 ◇



 帝都ラフトティヴ。現在の南の状況を知らないこの都市の民は、いつも通りの楽しげな雰囲気だった。市場も賑わいを見せており、支援している孤児院の食料の買い出しに出ていたメルンも、子供達と楽しげに話す。


「メルンお姉ちゃんの家族、たのしそうだねー」

「そう、ウロスもフェーザもシュルも、みんな楽しいんだよ。いつか会わせてあげたいな」

「じゃあ、約束ね」

「うん、約束」


 購入した大量の野菜と肉と小麦粉を子供達と分担して運ぶ。すると前から、大量の食料の入った袋を持ってフラフラと歩いてくる者がいた。顔は袋に遮られてメルン達の方からは見えない。


「大丈夫、なのかな?」

「大丈夫じゃ、なさそうだね。ちょっとこれ持ってて」


 メルンは連れの少年に小麦粉の袋を預け、前の人物を支える。


「大丈夫?」

「あら、悪いわねぇ」


 メルンが声をかけると、袋の向こう側からは、やや低めの声が聞こえた。袋の横からは水色の長い髪が覗かせている。


「えっとじゃあ、一緒にあなたの家まで運んだげるけど、良い?」

「助けてくれるのは嬉しいんだけどぉ、そこのコ達は良いのかしら?」


 袋の持ち主の方にも、姿は見えずとも子供達の声は聞こえていた。彼らは手持無沙汰にメルンの様子をうかがっている。


「そうね……うーん。みんな、私がいなくても大丈夫?」

「だいじょうぶだよ!」


 子供達の中では最年長の少女が頼もしく頷く。しかし、残念そうな子供もいたのを見つけたメルンは優しく声を掛ける。


「ゴメンね、この人のお手伝いが終わったらすぐ帰るからね。そしたら、またお話してあげる」

「うん!」


 子供達はその言葉で納得した。そしてメルンは袋を支えたまま言う。


「それじゃあ、行こう。どっちに行けばいい?」

「悪いわね。あっちよ」


 お互いの顔も知らぬまま、二人は袋を運ぶ。そして子供達は孤児院を目指した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ