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鋼鉄の巨人

 ラフトティヴ帝国沿岸部――ラートティア大陸最南端の都市ネールエルは巨人との戦いの最前線となっている大都市である。とはいえ巨人が攻めてくる事はほぼ無い。逆に巨人を狩りに行く為の造船技術が発展している。対巨人用魔動人型兵器ヴェルダリオンや巨人兵を送り、生け捕りにしたものや死骸、それ以外に鉱物などを持ち帰る為の巨大で丈夫な船が造られている。


 また、この都市には凄腕の魔術師や戦士、ヴェルダリオン搭乗者が集まっている。彼らは自分達が狩った巨人の数や大きさを競い合う。そんな彼らは海を渡ろうとしている巨人達との戦闘に入っていた。


「はぁっ!」


 大剣を掲げた剣士が船上から跳び上がり、巨人の胸に剣を突き立てる。赤い血がかなりの勢いで飛び散り、絶命した。その剣士は剣を一気に引き抜くと同時に巨人の胸を思い切り蹴る。そして、別の巨人の右肩目掛けて大剣を振り下ろす。右腕は綺麗に取れて飛んで行った。彼は勢いを止めずに新たな得物へと切り込む。


 彼の他にも弓使いは巨人の目を撃ち抜き、魔術師は様々な攻撃による嵐で巨人達を撃退している。国内、ひいてはこの世界の人類でも屈指の戦闘力を誇る彼らは荒れ狂う海の中で縦横無尽に暴れていた。だが彼らとは一線を画する存在がある。それこそがヴェルダリオンである。


「ふんっ!」


 赤い巨人からはそんな気合の入った声と共に海底を蹴って走る。炎属性ヴェルダリオン・フィアドルーグである。それが走るだけで海は荒れ、風が起きて、持っている剣は次々と巨人をなぎ倒す。そんな状況の中で船団は見事な操船術で何とか無事を保っている。彼らの苦労など露程も知らず、フィアドルーグは海を駆ける。


「まったく、随分と乗りこなしたモンだな」

「そーか?」


 フィアドルーグの活躍に、青い巨人――水属性ヴェルダリオン・クーアウィヴァンの搭乗者が声を掛ける。声を掛けられたフィアドルーグの搭乗者――国見咲哉はそっけなく答えた。彼らの他にも数体のヴェルダリオンが作業の様に巨人を片付けている。見る見るうちに、大量の巨人の亡骸が転がっていった。だが、新たな巨人は続々と現れる。


「次から次とうっとうしい。サクヤ、頼んだ」

「ああ、行くぜ」


 突然の依頼に咲哉は頷く。するとフィアドルーグはライフルを構える様に剣を両手で持った。


 ここでヴェルダリオンの操縦方法について説明する。ヴェルダリオンの両掌にはとあるスキルを持つ者によって異空間へと繋がるゲートのようなものが作られている。ここを通る事により搭乗者は異空間へとワープする。この異空間の中で搭乗者が体を動かすと、ヴェルダリオンは同じように機体を動かす。搭乗者が歩けば機体も歩き、剣を振る動作をすれば機体も剣を振る。また視覚聴覚触覚などの感覚を機体と搭乗者は共有しており、機体が見たものを搭乗者が見て、触れればその感覚が搭乗者にも来る。これは機体のダメージも例外ではなく、機体の損傷は搭乗者に痛みという形でフィードバックされる。


「一気に焼き尽くしてやんよ!」


 咲哉が叫ぶと、剣の先端からは炎が放出される。炎は広範囲に拡がり、巨人達を一瞬にして焼死させる。魔術の炎は海水にも影響されず、目標物を消すまで消えない。ヴェルダリオンを動かしているのは搭乗者の魔力である。魔力を機体内で何百倍にも増幅しているが、機体を動かす為の消費魔力は膨大なものである。故に魔力は無駄遣い出来ない。しかし、緊急時には魔力を消費する事で生身の時とは比べ物にならない威力の魔術を使用可能である。一方で勇者故に桁外れの魔力と魔力回復力を持つ咲哉には、多少の無駄遣いは許される。


「流石だな、サクヤは」

「大した事ねーよ」


 咲哉は相変わらずそっけない。元々巨人を狩りにここに来ていた咲哉は、この国で新たに知り合った者を含めた仲間達と共にヴェルダリオンを操っていた。


「キリがねぇなぁー」


 そんなぼやきを口にする夏威斗もその一人である。彼の搭乗する雷属性ヴェルダリオン・サーダペガースは槍を操り、巨人を屠る。


「にしても何で、巨人どもはこっちに来てんだ?」

「そんなこと考えてる場合か、口より手を動かせサクヤ」

「だが……何か理由があるはずだ」

「巨人ってのはバカばっかりだ。アイツらは何も考えちゃいねぇよ」


 疑問を抱く咲哉をクーアウィヴァンの搭乗者がたしなめる。咲哉は胸にモヤモヤしたものを抱えつつ、戦闘を続行する。休んでいる暇は彼には無い。


「仕方ねーな……とにかくてめーら全員ブッ殺すぞ」

「おう」


 咲哉と夏威斗は互いの機体の背中を合わせてそう言った。



 ◇



 一方、南下している聖騎達。巨兵隊と騎機隊は先行し、歩兵である聖騎達は運軍車に乗り、巨兵隊とは別の巨人族に牽引されて移動している。運軍車というのはかなり広い板を壁で囲い、車輪を付けたという単純な構造の車である。これが数台あるわけだが、キリルはその中で唯一桁外れに豪奢な装飾をして、装備も充実している運軍車に一人で乗っている。そして聖騎はミオン、フレイン等と同乗している。


「伝令による情報によれば、巨人はかなりの軍勢で海は大荒れ、と。しかしどうしてでしょうか」

「どうしてって、巨人達が何かを考えているとは思えません」


 聖騎が疑問を呈すると、ミオンは反論する。十年間この国で暮らしていた彼女は巨人を見る機会はかなり多かった。故に巨人達が何か目的を持って行動しているとは考えられない。すると聖騎は横に首を振る。


「確かにその可能性は極めて低いでしょう。ですが、現象には必ず理由が有るはずです」

「理由ですか……?」

「はい、今まで起こらなかった事が急に起こったのですから、何かしらの理由があるとしか思えません」


 首を捻ったフレインに聖騎は言い聞かせる。フレインもミオンもその理由を考えてみるが、なかなか思いつかない。するとミオンは尋ねる。


「パラディン様には何か心当たりがあるんですか?」


 聖騎は頷く。


「はい。とはいえあくまで不確定な憶測です。……まず前提として、巨人族は魔王軍と協力関係にあります。私も以前、魔王軍と共闘する巨人族に遭遇しました」

「えっ、それは……?」

「まさか……!」


 ミオンとフレインは驚愕する。


「確証は持てませんが、今回の巨人族の行動にも裏に魔王軍が噛んでいる可能性があります」

「しかし……どうしてこのタイミングで」

「魔王軍にも何かがあるのでしょう。人族を殲滅しようと考えているらしい彼らにも」


 聖騎は言いつつ、思案する。魔王軍は何を考えているのか、そもそも本当に魔王軍が関わっているのか、では違うのならば他に考えられる原因は何か……しかし、納得の行く答えは出てこない。


(まあ、単に遊んでいるだけの可能性もあるか。魔王軍――中でも四乱狂華の強さはケタ違いでその気になればいつでも倒せるんだろうし。いや……そろそろ遊びじゃなくて本腰を入れてきたのかもしれない。向こうでも何かしらの準備が出来たという事なのかな?)


 沈黙する聖騎をミオンとフレインは見る。聖騎はなにやら俯くような姿勢になった。


(それに、しても……)


 進む運軍車の上で聖騎は自分の腹部を撫でる。


(揺れが、激しい……!)


 聖騎は吐き気を催していた。


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