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絵に描いたようなアホ皇族

 聖騎はミオンと共に巨人ミーミルに乗せられてラフトティヴ帝都を巡っていた。その最中、街の喧騒に気付く。


「あのーすみません、何があったんですか?」


 ミオンは道行く者に尋ねる。すると「巨人族がこの国に攻め混んで来ているらしい」との答えが返ってきた。だがその者は大して慌てていない。他の者達も騒いではいるが深刻な表情をしていない。巨人族が直接攻めてくるというのは珍しいが、強力な戦士が集まるこの国にとっては脅威ではない。


「だ、そうです、パラディン様。私は一度マニーラ様に指示を仰ぎに行ってきます」

「それでしたら、ミーミルに送らせましょう。大宮殿ですよね?」

「はい! ありがとうございます!」


 聖騎の申し出をミオンは嬉しそうに受け入れる。聖騎はミーミルに指示を出した。



 ◇



 大宮殿にたどり着いたミオンはすぐにマニーラに会いに行った。巨人でも問題なく入れる宮殿のエントランスホールでミーミルと共に待機していた聖騎は、大声を上げている豪奢な衣服に身を包んでいる男に目を向ける。


「だから、私の服はもっと大事に扱えと言っているであろう!」

「も、申し訳ありません……!」

「もういい、死ね」


 男はペコペコと頭を下げるメイド服の女の謝罪に耳を貸さず、腰に下げた剣を抜いてその首を撥ねた。鮮血と女の涙が飛び散った。男の傍にいた別のメイド服の女はいそいそと死体を片付ける。その光景はホール中の注目を集めていた。


「まぁた皇弟殿下が機嫌を損ねたぞ」

「無能の癖に偉そうに」

「まったく、陛下とは大違いだ」


 貴族達のヒソヒソとした呟きが聖騎の耳にも入る。


(キリル・ラフトティヴ……)


 男――キリルの名は聖騎も知っていた。先代皇帝の次男で、皇帝シュレイナーの弟である。歳は五つ下の二十歳。ラフトティヴ皇族に代々伝わる赤い髪を伸ばしている彼の外見は美男子と言って申し分ない。だが、その性格が褒められたものでは無いことは帝都でも有名である。魔術も剣術もそれなりの才能はあるが、兄には遠く及ばない。その上性格も悪い。頭だけは兄より上だが、人類の中では中の上といったところである。だが、権力はあり、何人もの使用人を抱えている。そんなキリルは宮殿内で異様な服装をしている者――つまり聖騎を発見し次第、近付いていく。


「やぁやぁ、君はパラディン君と言ったかな?」

「左様です、キリル殿下。ご機嫌麗しゅうございます」


 横柄な態度で話しかけてきたキリルに、聖騎はへりくだって挨拶する。


「聞いた話によれば、兄上とは随分仲良くしているらしいじゃないか」

「はい。シュレイナー陛下には日頃お世話になっております」

「フン……権力者に尻尾を振る俗物か。つまらん人間だな君は」


 聖騎が頭を下げると、キリルはあからさまな侮蔑の視線を向ける。


「恐縮です」

「まあいい。君など所詮、星の数ほどあるクズの一つだ。思う存分媚を売って、金でも女でも好きなだけ手に入れられるよう、せいぜい頑張ればいいさ……行くぞ」


 頭を下げた聖騎にキリルはそんなことを言い捨ててから、使用人に声を掛けてその場を去る。


「ご主人様……」

「心配は無用ですよ、ミーミル」


 散々な言われ様だった聖騎にミーミルが労りの言葉をかける。


(それにしても、随分と言ってくれるね。星の数ほどあるクズ、か。本当にそうだったら苦労はしなかったんだけれど。まあ、僕の事なんて知る機会なんて無いんだし仕方ない)


 聖騎は自分を見下してくるキリルの視線を思い出す。


(話を聞く限りではシュレイナーに随分とコンプレックスを持ってる。もしかしたら自分が皇帝になりたいとも思っているかもしれない。まあ、今のキリルが皇帝になっても国民は誰も認めなくて、国はメチャクチャになるだろうね)


 そのように評価を下しているところに、ミオンが帰ってきた。


「お待たせしましたー! 取り敢えず沿岸部の都市に対処は任せるとのことですが、念のために帝都からも応援を送るそうです。私はパラディン様のお世話を続けていて大丈夫だそうです」


 ミオンは満面の笑みで報告する。聖騎は言葉を返す。


「そうですか」

「それじゃあ、次はどこに行きます?」


 ミオンは質問する。すると聖騎は少しだけ考えてから答える。


「それでは私も沿岸部に――巨人との戦闘を拝見してみたいですね」


 その答えにミオンは驚く。


「沿岸部……ですか!?」

「問題が有るのでしたら諦めます」

「いえ……それは多分大丈夫だと思いますけど……すみません、もう一度マニーラ様の所に行ってきます」

「お手数をお掛けてしまって申し訳ありません」

「いえいえ」


 ミオンはその場を立ち去った。その数分後に返ってきた彼女は言う。


「行っても問題無いとの事です。応援部隊と合流して私と一緒に行き、ミーミル様は巨兵隊と同行することになります。構いませんでしょうか?」

「はい、感謝申し上げます」

「それでは、待機場所に行きましょう」


 ミオンは聖騎とミーミルを案内する。案内先にはラフトティヴ

 騎士団の兵士達が整列していた。その隊を率いている人物は、聖騎にとって見覚えがあった。


「フレイン様ではありませんか。その節はどうもお世話になりました」


 聖騎が声をかけたのはフレイン・ネルイーヴ。ディナイン工房の用心棒を務めており、聖騎には自作のローブを送った。フレインは聖騎を見る。


「パラディン様……こちらにはどうして……?」

「巨人との戦闘の見学と、必要となればお力になりたいと思い、皆様に同行させて頂こうと思いまして」

「それは心強いです。ですが、恐らくはパラディン様の出番は無いかと。ところで……」


 フレインは聖騎の右目を覆う眼帯に視線を向ける。

 

「その眼はいかがされたのです?」

「まぁ、色々あって使えなくなりましてね……」

「そうですか……御愁傷様です。それにしても眼帯ですか……。ローリュート様が開発中のアレと組み合わせれば……」


 フレインは何かをひらめいたようにボソボソと呟く。聖騎はそれを怪訝に思いつつ反応は示さない。すると彼女はハッとする。


「失礼しました、つい……」

「いえ、構いませんよ」


 そんな会話をする二人。一方でミーミルは他の巨人達の許に向かう。統一されたデザインの服を着ている彼らは、『巨兵隊』という部隊である。彼らは過去にラフトティヴ人によって捕獲された巨人族の子孫であり、生まれながらに奴隷として育てられた、人にとって忠実な戦士たちである。巨人は知能の低さ故にラフトティヴ帝国の配下にあるとはいえ、単純な一対一の戦闘ならば彼らの方に軍配が上がる。聖騎達勇者や、皇帝シュレイナーなど、単体で巨人を倒せる人族もいないことは無いが、一般的な魔術師では巨人族には敵わない。また、単純な戦闘力以外にも建築物の建造などでも役に立っている。


 巨兵隊の者達は自分達とは違う服であるミーミルが近づいてきた事を訝しんでいる。だがその間ミオンが巨人達を指揮する人族の男に事情を説明し、その男による説得を受けた巨人達は納得した。「彼は敵じゃない」と言うだけで説得できる程に彼らは単純である。


 この場に待機しているのは巨兵隊の他に未成年の少年により構成された『鳳雛隊ほうすうたい』、未成年の少女により構成された、ミオンの本来の所属でもある『凰雛隊おうすうたい』、格闘戦に秀でた戦士達による『龍武隊』、巨大兵器ヴェルダリオンを操る『騎機隊』、そして国でもトップクラスの実力を持つ魔術師によって構成された『英仙隊』である。フレインは英仙隊の中でも上位の実力者であり、本作戦では隊長を務めることになっている。これらの隊は全てラフトティヴ騎士団の中に存在し、これらの他にもさまざまな隊がある。そして、本作戦の全体を指揮する者は――


「見慣れない者もいるが全員揃っているようだな」


 キリル・ラフトティヴは整列している本作戦への参加者の様子を見てそう言った。彼は簡単そうな作戦が行われる時には指揮官を名乗り出て、それが成功する度に功績を自分のものにしている。これが、彼を権力者足らしめている原因の一つである。


「殿下、私も同行させて頂きます」

「ふんっ、あのいけ好かない女から聞いている」


 聖騎の挨拶に、キリルは適当に返す。いけ好かない女というのはマニーラの事だろうかと考えながら、聖騎はミオンを見る。尊敬している恩人に悪意を向けられて不快感はあるものの、それを押し殺している。そんな事とはつゆ知らず、キリルは全軍に向けて告げる。


「諸君、出陣するぞ! 私の足を引っ張るなよ!」

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