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余裕を打ち砕く炎の龍(1)

 休憩を終えた勇者35人と見届け役の魔術師6人は、先ほどまでネズミを狩っていたエリアよりも奥に進んだ。ここには今までよりも二周りほど大きなネズミの他、地球のものよりも少し大きなコウモリが辺りを飛び回っていた。動きの素早いコウモリは攻撃を次々と避けるため、勇者達はネズミを優先して倒していた。だが、聖騎の広範囲高威力魔術で5匹程のコウモリが一掃されたのを見た勇者たちは、それを真似してみるも中途半端な威力の魔術となってしまい、思う様に倒せなかった。聖騎の圧倒的な魔力量と魔攻の値による魔術は他の者には実現が難しい。


「リート・ゴド・レシー・トゥハンドレ・ト・ワヌ・トルード・スネク」


 聖騎の杖からは竜巻のような光の塊が蛇の様に洞窟内を動き回る。それは彼の思う通りに洞窟内を蹂躙する。獲物をとられたと抗議の声があがるが、聖騎にとっては馬の耳に念仏である。


「神代、俺を回復する分の魔力は残してるんだろうな?」

「安心して。まだまだ余裕はあるから」

「アレだけやって余裕とかバケモノかよ」


 あっけらかんと答える聖騎に国見咲哉は呆れる。


「まあまあ、任せておいてよ」

「任せる。お前のサポートのお蔭で順調にブッ殺せんだからな」


 現在咲哉のレベルは12で、現時点での勇者達の中では最高となっている。時点で藤川秀馬がレベル11、山田龍、柳井蛇がレベル10、聖騎はそれに次ぐレベル9であり、永井真弥もこれに並ぶ。勇者全体の平均レベルはおおよそ7、そして古木卓也は未だレベル1だ。


「もうちょっと奥に行こうぜ。もっとつえーヤツと戦いてー」

「調子に乗るなバカ者。戦場で死ぬのは己の実力を過信した奴だ」


 咲哉の提案をシルアが跳ね除ける。しかし咲哉は食い下がる。


「でもよ、ここのネズミ共の相手も俺にとっては役不足なんだよなー。俺にふさわしい戦いはこの奥に有るというか……まーいい、行ってくるわ」


 咲哉は走っていく。


「おい、待てクニミ!」

「先生、彼を追いましょう」

「そ、そうだな……!」


 聖騎の提案にシルアは賛成する。聖騎、龍、蛇、シルアが咲哉を追いかけ、それを見ていた他のパーティの者達も「面白そうだし俺達も行ってみようぜ」というノリで追った。秀馬や真弥のような優等生達や見届け役の魔術師達も仕方なく追い、一人残された卓也も向かう。


 更に奥へとたどり着いた咲哉は、ネズミやコウモリの他に全長2メートル程の二足歩行するトカゲがウヨウヨといるのを見付けた。


「そんじゃてめーらも倒してやるぜ」


 咲哉は意気揚々と魔物達が集まる所へと走り、剣を振る。追い付いた他の者達も武器を持って魔物に駆け寄ったり、その場で魔術を使用したりと好戦的である。彼らは戦ってきた中でそれなりにダメージを受けているが、それでも全ての敵を倒してきた。それ故に彼らは自分の力に自信を持っていた。


 すなわち、調子に乗っていた。


「このトカゲ……かってぇな」

「クッ……結構食らったかも。回復頼む!」

「確かに強いけど、勝てない相手じゃないわ!」

「おっしゃー、1匹撃破!」

「ウチもまだまだいける!」


 トカゲの強さは彼らの予想以上のものだった。だが、脅威と言えるほどではない。だからこそ彼らは止まらない。シルアは声を上げる。


「お前らにここはまだ早い。今すぐ引き返せ!」


 彼女に続いて他の見届け役の魔術師も警告を出す。しかし咲哉達は止まらない。魔術師達は彼らを力づくで引っ張っていこうとする。しかしそれは適わなかった。既に咲哉達のステータスは彼らを凌駕していた。異世界から勇者として召喚された者はシルア達現地人を遥かに上回るステータス上昇率を誇る。


「お前達、いい加減にしろ!」

「うるせーな、まだまだ余裕だっつーの」


 咲哉がトカゲと接近して戦っている以上、見届け役としてもそれに加勢せざるを得ない。それを後方から聖騎が見ていると、『聴く者』柳井蛇が報告する。


「神代氏、やたらと巨大な何かが近づくような音が聞こえましたぞ」

「そうか、ならば確かめないといけないね。『勇者伝説』と君たちの教えてくれた小説の類似性について」


 聖騎はなにかを期待するように事態を静観する。すると数十秒後、洞窟の奥から巨大な影が現れる。それと同時に、その場にいたネズミやトカゲ、コウモリ達がどこかへと逃げるように去っていく。


「あー? 何だ」


 咲哉は思わず呟く。するとシルアは叫ぶ。


「ドラゴンだと!? こんな浅い所にくるなんて! ……お前ら、すぐに逃げろ! アイツは今までのトカゲとは次元が違う!」


 そこに現れたもの。それは咲哉達が戦っていたトカゲを10倍以上に巨大化させ、翼が生えたような姿をしていた。だが、咲哉達は退かない。己の力を過信する彼らは『自分の力がどこまで通じるか』に興味を抱いていた。


「面白そーだ。お前ら……アレ、倒すぞ」

「おう、アイツの経験値は美味そうだ」

「倒せばレベル、メチャクチャ上がるわよね」

「そんじゃ、気合入れていきますか」


 目の前の圧倒的な存在にも彼らは動じず立ち向かう。


「バカ野郎共! 逃げろっつってんだろ」


 シルアの叫びなど、咲哉達には何一つ影響を与えない。彼らは各の魔術でドラゴンを攻撃する。炎、水、風、雷……。しかしそれらの攻撃が通用したとは聖騎には思えなかった。


(うーん、これまでのトカゲとは全く違うねぇ。当たり前だけど)


 聖騎は咲哉達に能力付加魔術をかける。それに対して礼も言わずに放たれた魔術も通用しなかった。


(それなら僕自身が……)


 そう考えた聖騎が杖を構えた瞬間、シルアが怒鳴る。


「バカ野郎、お前はさっさと逃げろ」

「では、彼らを見捨てろと仰るのですか?」

「違う。アイツらもすぐに逃げさせ――」

「無理ですよ」


 聖騎は短く言い放つ。


「しかし――」

「あのドラゴンを倒す。彼らを助けるにはそれしかないと思うのですが」

「私達はドラゴンと戦った事など無い。滅多にお目にかかるものでは無いし、もしも見つけたらすぐさま逃げろと教えられている。そもそも、こんな浅い所にドラゴンがいるのがおかしいんだ」

「そんなことは知りませんよ。リート・ゴド・レシー・ファイハンドレ・ト・サザン・ラヌース・ストラ」


 聖騎の杖からは1000本の光の槍が飛び出し、ドラゴンに突き刺さっていく。しかし、ドラゴンが痛がる様子はない。


「リート・ゴド・レシー・トゥハンドレ・ト・ビリーオ・ニーフ・レーン」


 聖騎は攻撃を止めない。10億のナイフをドラゴンの頭上に出現させ、それらは豪雨のように激しく降り注ぐ。しかしドラゴンは悠々と、何事も無かったかのように佇んでいる。


「なら……リート・ゴド・レシー・フォハンドレ・ト・ワヌ・ボル・ストラ」


 次は一つの巨大な球体が聖騎の杖から飛ぶ。ドラゴンの腹部に命中するが、堪えた様子はない。


「うーん、ダメですね」

「だから言っただろう! アイツの強さは桁違いなんだよ」


 呑気に言う聖騎にシルアは叱る。


(正直、まったく通用しないとは思わなかったなぁ。僕も彼らと同じく慢心してた訳か)


 内心で少しショックを受ける聖騎はシルアに問う。


「ではどうするのですか? あのドラゴン、攻撃はしない様ですけど、こっちの攻撃も効かないのでは倒せませんよ。彼らは諦めてない様ですが」

「それはだな……」


 シルアは考える。もう咲哉達が逃げるのを期待するのは止めた。ならば倒さねばならないとも思うが、そう簡単に倒せるものではない。ベテラン魔術師6人と、才能があるとは言え実戦などほとんど経験していない35人の勇者。この全力で悪名高きドラゴンを倒せるか、シルアには自信が無い。しかし――――


「倒すしか無いようだな。まったく、あのバカ共は」

「どうします? 逃げた人も結構いますが」

「呼び戻せ。使えるもの全てをつぎ込まないと、倒せるものも倒せない。それに……」


 シルアは一度言葉をとぎる。


「仲間を置いて逃げてその仲間が死んじまったら、後で辛い思いをするだけだからな」


 彼女の目は何かを後悔しているように、聖騎には思えた。

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