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サディスティック・サキュバスクイーン

(この先は……見張りが多いわね。戦いは避けられないわね。やっぱり、変身能力を持つ波木さんを連れてくるべきだったかしら)


 ヴァーグリッド城をコソコソと進む二葉は、内部を警備する魔族の存在に頭を悩ませる。

 

(とはいえ、この状況は想定内。先手必勝、騒がれる前に片付ける)


 二葉は通路の曲がり角の先にいる魔族に神御使杖を向けて、呪文を唱える。


「クダン・ゴド・レシー・トゥハンドレ・ト・ワヌ・アロン・ストラ」


 闇属性の矢を飛ばし、警備兵の喉元を貫く。警備兵は苦悶と驚愕の表情を浮かべ、倒れた。その様子にもう一人の警備兵が驚きつつも、攻撃のあった方へと走る。


「何だ!? 何故人族がここに」


 敵に姿を確認されると同時に、二葉は思い切り前へと走る。その右手に握られているのは鞭。


「ふふっ」


 二葉は鞭を往復させる。鞭が動く度に敵は苦悶の声を上げる。学園に二年遅れて入学した彼女だが、小学校を卒業してからの二年間は鍛練を重ねてきた。その際に鞭の扱いもマスターした。ちなみに彼女は『女王の快鞭サディスティック・ウィップ』というスキルを手に入れており、鞭で叩いた相手の魔力を回復させる効果を持つ。もっとも、この状況では使う機会は無いが。もっと言えば、このスキルは自分には適用できない。


「悪いけど、遊んでる時間は無いから一気に眠って……貰うわ!」


 鞭のラッシュが終わり、もう片方の敵も床に伏した。彼のボロボロに破けた衣服を見て、二葉は呟く。


「もし金属の鎧でも着てくれてたら、変装に使えたのに。ま、それだと鞭は効かないし仕方ないわね」


 やれやれとため息をつき、二葉は歩を進める。城内を歩いていく過程で、日本人と思われる人間を何人か見かけた。城内の清掃をしている様子で、見張り役の魔族に「もっと丁寧にやれ」などといった小言を言われていた。二葉はクラスメートの誰かの親だろうとは思ったが、それ以上の感情を持たずに無視をした。


 やがて城の最上階に続く階段を見付ける。よほど重要な場所なのか警備も分厚く、何より見取り図によれば階段は扉の中に隠されている。ここを穏便に通るのは不可能だと思った。


(彼らがさっきの警備兵レベルの強さなら、何とかなりそうだけど……あの中に一人でも、妖精王レベルのがいれば……中々危ないわね。でも、やるしかない)


「クダン・ゴド・レシー・ファイハンドレ・ト・ワヌ・ボル・ストラ」


 闇の大球を放つ二葉。それに巻き込まれた兵士達は一斉に吹き飛ぶ。そこに間髪入れず二葉は鞭を持って走る。その運動能力は高く、反応を見せようとした敵を鞭で叩き、怯ませる。その際に左手の杖は放さない。


「ふぅ、案外なんとか……あら?」


 警備兵を全員片付けた二葉は一息入れようとした所で怪訝に呟く。突然空間に穴が開き、そこから何者かが現れるのを発見したからだ。それはどことなく豪華な水色のドレスに身を包んでいた。二葉も見覚えのあるその者の名は、舞島水姫。


「えっと……ひきこもりちゃん。久し振りね」

「誰?」


 水姫は本音を口にすると共に右手を突き出し、水流を放つ。二葉は身を反らすが、わずかに被弾する。


「随分とせっかちね。如何にも権力者って感じの服装だけど。それに、私に戦意は無いわ」

「私は魔王様に魅入られた四乱狂華。それで、あなたはここに何をしに来たの?」


 水姫は自慢げにドレスを見せびらかしながら質問する。


「四乱狂華ねぇ、予想以上の出世っぷりね。権力もそれなりには有るのかしら?」

「お世話をしてくれるメイドが一人いる程度には」

「それは羨ましいわ。あ、私の名前は振旗二葉」


 二人は互いに相手の出方を伺う。


「私の質問に答えてない。あなたの目的は?」

「ある人……っていうか魔族に会いに来たのよ。バーバリー・シーボルディって言うんだけど、知ってる?」


 二葉の口にした者の名を水姫は聞き覚えがない。


「知らない」

「そう。まあ、この上にいるみたいなんだけど」


 階段を上ろうとする二葉。すると水姫はその前に立ち塞がる。


「駄目」

「どうして?」

「ここから先に部外者を通すわけにはいかないから」

「それは、魔王様に言われているの?」

「うん」


 水姫に頷かれ、二葉はニヤリと笑う。


「そう。ならばあなたを倒さなくちゃいけないのかしら」

「そうなる」


 水姫は再び水流を飛ばした。二葉は鞭を自分の胸の前で回転させる。それは彼女を守る盾となり、水流を霧散させる。そして、水圧を感じながらじりじりと前に進む。


(それにしてもアレは何かしら。呪文も無しで水を出すなんて、まるで魔族)


 二葉が疑問を覚えていると、水姫は舌打ちし、そして今度は雷撃を放つ。しかし鞭は絶縁体の素材で出来ており、雷撃を防ぐ。


「ちっ……」

「うふふっ、あなたの能力はすごいみたいだけど、それに溺れてないかしら?」


 攻撃が無効化されている事に気付いた水姫は雷撃を停止する。そのタイミングで二葉はその眼前に跳び、その腹部に蹴りを入れた。


「がぁ!」

「安心して。すぐに気持ちよくなってると思うわ」


 思わず仰向けに倒れた水姫は、起き上がる為に体を横に転がす。そして背中が上に来たところを、二葉の右足が押さえ付ける。


「かはっ……」


 水姫は逃れようともがくが、重圧はかなりのものだ。二葉は嗜虐的な笑みを浮かべて、鞭を振り下ろす。


「あぁっ……」

「いい声で鳴くのね。あぁ、良いわぁ……。自信に満ちてた子の無様な姿は大好物よ……。そぉれ!」


 二葉は鞭でひたすら水姫の臀部を叩き続ける。乾いた音が空間に響く。


「あっ……あぁ……! や、やめ……」

「ふふっ……そう言われるともっとやりたくなるわぁ……」


 二葉の顔が愉悦に歪む。痛みと屈辱に流れた水姫の涙をペロリと舐める。水姫からは抗う気力が抜けていた。呪文と杖さえあれば使える魔術と違い、魔法を使うにはある程度の集中力が求められる。故に、今の水姫は魔法を使えない。そして、戦闘を魔法に頼り切っている彼女は、杖も持っていない。


「さて、そろそろフィニッシュといくわ」


 鞭を手放し、両手で水姫の顔を押さえて、その唇に自分の唇を重ねる。


「ん……んぐ」

「……」


 ほぼ放心状態の水姫は口付けを受け入れる。二葉が舌を突き出すと、反射的に水姫も舌を絡ませた。ネチョネチョという音がこの場を支配する。水姫は意識が薄くなっていくことに気付かぬまま、快楽に溺れる。


「んん……」


 二葉は相手の背中に両手を回し、同時に豊かな双丘を押し付ける。互いに官能的な喘ぎ声が漏れる。しかし不意に水姫の声が止み、ぐったりと意識を失った。二葉は彼女を解放する。


「ごちそうさまでした。中々楽しめたわ」


 二葉は満足そうに声を溢す。実は彼女はただ快楽の為に水姫に絡んでいた訳ではない。彼女のユニークスキル『吸いドレイン』は、魔力や体力を吸い取る際に、その対象とより密接に触れ合う程に効率良く吸い取る事ができる。これは王都エルフリードにいた頃に、クラスメートや貴族相手でこっそりと確認済みである。そして、毒牙にかけた相手は忠実な手駒にしてある。二葉は水姫のドレスをまさぐり、ステータスカードを発見するなり目を通す。


(あぁ、なるほど、スキルを奪う能力ね……それでこんなに沢山のスキルを……。あら?)


 二葉はズラズラと大量に並ぶスキルの中に『騙しチート』の字を発見し、ニヤリと笑う。


(へぇ、神代君この子に負けちゃったんだぁ。あの生意気な顔が怒りに歪めば面白いんだけど……想像できないわね。いつか私の前に跪かせて、靴の裏を舐めさせて許しを乞わせてみたいわ)


 二葉の表情は楽しげだ。ステータスカードを水姫に戻し、おもむろに口を開く。


「ねぇ、古木君が四番目、あなたが三番目、神代君が二番目……そして私が一番目。何の事だか分かるかしら?」


 その問に、気を失っている水姫の答えは無い。


「ふふっ、あなたとはもっと話したいけれど、今は行くわ」


 最後に軽く口付けをし、二葉は長い螺旋階段を登っていった。

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