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妖精王の出迎え

 煉達は前方に小さな光を発見する。


「オー、アレがゴールだネ!」

「気を引き締めろ、フレディ。お前らも、魔術の準備はしておけ」

「分かってるヨ!」

 

 表情を輝かせたフレッドに煉が忠告する。フレッドは明るく頷き、他の者達も臨戦態勢に入る。取り合えず彼らと手を結ぶ選択をしたロウンも前を警戒する。


「それと、改めて確認するがこれはあくまで偵察任務だ。危ないと思ったらこの洞窟を目指して走れ。余裕がない限りは自分の命を最優先に行動しろ」

「りょーかい」


 創平は頷く。そんな中でマリアが口を開く。


「感じるわ……。外には色々な種族が待ち構えてる。そして向こうも、私の気配に気付いてるはずよ……いや、来る!」


 妖精族には、ある程度近くにいる他の種族の存在を感知出来る能力がほぼ例外なく備わっている。


「それなら、私が前に出るわ」


 二葉はそう言うと、神御使杖エンジェルワンドを構え、最後の一言だけを残して呪文を唱えた。ここから先、呪文を発動するまで二葉は言葉を発するどころか息をすることすら許されない。


「もう少し……もう少し……もう少し……、はい、頼むわ!」

「……スパード!」


 マリアが合図をすると、二葉は最後のキーワードを口にする。彼女の神御使杖からは闇の魔力がもくもくと霧のように吹き出し、広がっていく。


「な、何だこれは!?」

「力が、抜けてく……!?」


 前方からはそんな声が響く。二葉は妖精達の魔力を奪い、自分のものにしていく。マリアからは既に、妖精族は魔力を失うと死んでしまうという話を聞いている。故に、二葉は妖精族の天敵である。ただし、奪った魔力をそのまま自分のものにするのではなく、八割掛けした数値の分だけが自分のものになる。魔術を使いながらのユニークスキル発動は魔力の消費が激しい為、使用可能時間には限界がある。また、魔術の適用範囲を広げれば広げるほど消費魔力量は増えるので、敵が距離を取り、それを追いかけるとなると消費する魔力は更に増える。そこで二葉は霧を解除した。


「ふぅ、結構魔力をゲットできたわね」

「お疲れさま。敵は取り合えず撤退したようよ」


 満足そうに呟く二葉にマリアは労いの言葉をかける。


「ならば、次はどう来るか。やはり洞窟を出るタイミングを見計らって袋叩きでもするつもりか。それとも、振旗の能力に恐れをなして、しばらくは様子を見るために撤退か」

「後者の気がするわ。この奥から敵の反応はしないもの」

「お前、本当に便利だな」


 自分の疑問に答えてくれたマリアに対して、煉は素直な感想を口にする。するとマリアは照れ臭そうに頬を赤らめる。


「そ、そんなことはないわ。普通よ普通。妖精族ならみんな持ってる能力だもの」

「私だって便利ですよ、煉君」

「お前は何を張り合ってるんだ」


 マリアに続いて小雪が言うと、煉は呆れたように言葉を返す。そんな彼に静香や創平は呆れ顔を向け、フレッドは何故か楽しそうに笑っていて、二葉も含み笑いをする。そんな彼らにロウンはどこか、懐かしいものを見るような目をしていたが、自分の様子に気付いた彼は即座に仏頂面になる。


「とにかくだ、ここから敵の本拠地に入る事になる助けられそうな人質は助けるが、俺達の目的はこの大陸の調査だ」

「なぁ、煉。前から気になってたんだけどさ」


 創平は煉に問いかける。


「どうした? 創平」

「お前、なんつーか、こういうのに慣れてる感じがするよな。それも、この世界に来てからの付け焼き刃って感じじゃなくてよ……」


 創平は少し言い辛そうである。煉と創平は親友であるが、それ故に煉が何かを隠している事には気付いていた。


「……いや、そんなことは無い。この世界に来てから、必死に身につけたものだ」

「そう……か、頼りにしてるぜ。危なくなったら、俺の事助けてくれよ」

「当たり前だ」


 口を濁す煉に不快感を示すことなど微塵もなく、人の好い笑みを浮かべる創平。煉もそれにぶっきらぼうに返す。煉は能力により二本の剣を浮かせて、いつでも動かせる状態に置く。


「出るぞ」


 そう言う煉を筆頭に彼らは洞窟を抜ける。だが、遠方から見えた光はまだまだ先のようで、石で出来ていると思われる建物の中は薄暗かった。そこでフレッドが光属性魔術を小さく発動し、辺りを照らす。すると周りには鉄格子らしきものが見えた。


「地下牢……か」


 ここが地下牢だということはロウンから既に聞いていた。だが、改めて見てみると不気味な感覚を覚えた創平は呟いた。この地下牢はそれなりの広さを有しているが、囚人はほとんどいない。魔族の魔王ヴァーグリッドへの信仰は絶対であり、それ故に彼が定めた決まりを絶対に破らない。ここに捕まっているのは主に獣人族と妖精族である。少しでもヴァーグリッドに不敬にあたるような発言をすれば、見せしめとして捕まり、酷い場合には公開処刑が行われる。


「本当にお父さんやお母さんはいないんだね」


 牢を見回しながら静香は呟く。この大陸に連れてこられている人族は奴隷のような扱いをされていて、大陸各地で雑用などを強いられたり、魔族のストレス発散のはけ口にさせられたりしている。


「ロウン……さん」


 牢にいる犬の獣人族が、ロウンを見付けるなりか細い声で呻く。


「無事……だったんですね。妖精共が謎の反撃に遭ったと慌ててましたが」

「ああ……この人族共がいなければ危ないところだった。俺の部下達は全員やられたがな」

「人族……ですか」


 犬の獣人は腑に落ちない表情になる。彼は魔族を面白く思わない一方で人族のことも憎んでいる。


「別に仲良しこよししようという訳ではない。妖精共に攻撃をされたのが気に入らなくてな。少々利用してやろうと思っているだけだ」

「そうですか……。ところでロウンさん、看守が――」

「ああ、それなら――」


 犬の獣人の不安げな言葉に、ロウンは首を後ろに向ける。そこには一人の魔族が倒れていた。身体中を刃に引き裂かれている。その側では煉がつまらなそうにそれを見詰めていた。


「あの人族が倒した」

「信じられません……看守はものすごく強いのに……」

「そのうち鍵も見付かるだろう。そうすれば、お前達を解放できる」

「いや……俺はここにいます。ヴァーグリッドに逆らったら捕まってしまいますし、下手したら公開処刑です。……ロウンさんもやめてください。確かにヴァーグリッドには思うところもあるかもしれませんが、逆らってはいけませんよ」


 犬の獣人は悲痛な叫びに、ロウンの心は揺れる。そこに二葉が口を挟もうとする前に、新たな声が現れる。


「そこの犬ッコロの言う通りだ。もっとも、あの攻撃はヴァーグリッドではなく俺の判断だがな。まあ、そんなものはどうでもいい。予想通り人族は生き延び、同胞達は敵の得体が知れないと言い出した」


 自信に満ちた表情の、その声の主はオーベロン。突然現れたその妖精族に、煉達も気を引き締める。


「おっと、そう生意気な顔をするな。殺したくなるだろう」


 オーベロンの言葉が終わらないうちに、その姿が消える。


「きゃあ!」

「ま、お前達がどんな顔をしていようと、殺意は消えないがな」


 オーベロンは風を伴い静香の眼前に現れ、腹に蹴りを入れていた。


「このぉ!」

「お前達の存在を消し去ってやるよ。ありがたく思え」


 創平はオーベロンへと走ろうとする。だが、次の瞬間にはその姿が消えていた。そして、創平の身体は後方へと吹き飛ぶ。


「ワッツ? テレポート使いデスカ?」


 フレッドはオーベロンを見て分析する。彼の言葉は正常に翻訳されたらしく、オーベロンは言う。


「そんなんじゃねぇよ、劣等種族」

「それなら何ですか――といっても、教えてもらえませんよね」

「当たり前だ」


 小雪の言葉に、オーベロンは嘲笑するように答えた。そこにロウンが吠える。


「妖精王、お前はさっき言ったな。洞窟に放たれたあの攻撃はお前の意思によるものだと」

「おお、生きていたか。人族などとつるんで恥ずかしいと思わないのか?」


 ロウンの問にオーベロンは答えず、侮蔑の表情を向ける。


「質問に答えろ!」

「あー、うるさいうるさい。これだから獣人族は嫌いなんだ。その品の無さは人族とさほど変わらないな」

「黙れ!」


 オーベロンに煽られて、ロウンは激昂する。次の瞬間、彼を唐突に頭痛が襲う。


「がぁ……!」


 ロウンは地面に倒れ、暴れだす。オーベロンはそれを意識の隅に追いやり、改めて言う。


「よくもぬけぬけとここに足を踏み入れたな、劣等種族。お前達全員、俺の手で地獄に送ってやるとしよう」


 まさに王といった貫禄でオーベロンはその場にたたずむ。そしてその姿は消えた。

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