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命刈魔鎌イマギニス

 神代聖騎がローリュート・ディナインの工房で神御使杖エンジェルワンドを注文してから三日が経った。聖騎が彼の工房に向かうと、切れ長の眼が印象的な、騎士のような出で立ちの人物が出迎えた。その人物はローリュートではない。


「こんにちは。こちらで神御使杖を頼んでいた者なのですが」

「はい、耳にしております。パラディン様ですね」


 ローブに仮面の聖騎が声をかけると、その人物は丁寧に答える。その人物は凛々しい雰囲気を醸し出していたが、声はやや高いように聖騎には思えた。顔もよく見ると女性らしく見えない事も無かったが、聖騎自身性別が分かりづらい容姿であることから、女性であると断定はしない。


「はい」

「申し訳ないのですが、ローリュート様は現在睡眠中で――三日間不眠不休で作業に取り組まれていたものですから、お疲れなのです。代理として私がお渡しします」


 謝罪したその人物は店の奥の部屋へと入っていく。その後、シンプルなデザインの黒い大鎌らしきものを抱えて帰ってきた。柄の部分と刃らしき部分の中間には、球体が輝きを放っている。


「それが、神御使杖でしょうか?」

「はい。こちらはローリュート・ディナイン様がお作りになられた、第三階級ソロネクラス神御使杖『イマギニス』でございます」

「イマギニス……」


 聖騎はその名を思わず反芻する。神御使杖に名前が付いている例を、彼は聞いたことが無かった。そして彼はその名を気に入った。


「はい。パラディンの適性属性が光属性でありましたので、光の神力受球プロヴィデンスフィアを使用し、その先端に弧状の金属をお付けになりました。これにより魔力のルートを指定して、呪文の詠唱を一部省略しても魔術発動が可能です。もっとも、従来の神御使杖のように、魔力を槍やナイフなどの形にすることも出来ます」

「この形にされた理由は何でしょうか? 格闘戦には不向きに思えますが」

「はい。失礼ながらパラディン様は、近接戦闘がお得意ではないとお聞きしました。そこで武器としての実用性は無視して、見た目のインパクトでハッタリを効かせる方向性を目指しました」


 聖騎の質問に、その人物は丁寧に答える。そして、イマギニスを聖騎に渡す。


「これは……意外に軽いですね」

「はい。武器として使うならばもう少し重いものをお作りになられたのですが、そうではないため軽さを追求されました。軽金属かつ丈夫で、更に魔力の通りが良い『キレンライト』という高級金属を使用しています」


 説明を聞きながら、聖騎はイマギニスを持って腕を色々と動かしてみる。動かしづらさは特に感じなかった。


「なるほど、これは良いですね。ディナイン様には感謝をお伝え下さい」

「了解しました。それと、これは私からなのですが……」


 次は何やら黒い布が差し出された。


「遅ればせながら名乗らせて頂きますが、私はフレイン・ネルイーヴ。ラフトティヴ騎士団・英仙隊えいせんたいに所属すると共に、このディナイン工房の用心棒をさせて頂いている者でございます。そして私は、魔服師でもあります」


 魔服師――布に専用の針などを使って魔術的な作用を組み込ませ、身に付ける事によってその人物に何らかの効果を与える衣服を織るという職業である。フレインは黒い布を広げる。するとそれがローブであることが、聖騎に分かった。全身は現在彼が着ているものと同じ漆黒であったが、わずかに光沢があり、持ち出しの部分にはこの世界の文字で『加護を与えんとする』と、金色の糸で刺繍されていた。


「このローブには、着る方の防御力を向上させる効果が組み込まれています」

「ネルイーヴ様がこれを織られたのですか?」

「はい。しかし意匠及び効果をお考えになったのはローリュート様でございます」

「ありがとうございます」


 聖騎は頭を下げる。


「いえ、ローリュート様に比べれば私のしたことなど高が知れております。……それと、差し支えなければ着替えてみてはいかがでしょう。更衣室はあちらにございます」

「では、お言葉に甘えて使わせて頂きます」


 聖騎はイマギニスをフレインに預け、ローブを着替える。そして防御力がどれだけ上がったのか確認するためにステータスカードを取り出そうとして、それはローリュートに預けてあった事を思い出す。今まで着ていたローブを左腕に抱えながら、聖騎はフレインのもとに戻る。


「お似合いでございます」


 洋服店の店員の常套句のような言葉をフレインは言う。


「ありがとうございます。皇帝陛下に私の力を見せ付ける為には、やはり見た目も重要でしょうしね」

「ところで、力を見せる……とはどの様な事をなさるのです?」


 興味本意でフレインは聞く。聖騎は答える。


「シュレイナー・ラフトティヴ皇帝陛下との、一対一での試合です」


 その返答にフレインは絶句する。ラフトティヴ帝国民にとってシュレイナーとは、絶対的な存在である。それと戦って勝てる存在などいるはずがない、というのが常識となっている。何も言えないでいるフレインに、聖騎は笑って言う。


「別に勝つつもりは有りませんよ。最強の人族と名高い陛下に、どれだけ戦えるか。それを示すのが目的です」

「……その言い方に説得力はありませんね。あなたは陛下に勝つ気でいます」

「気のせいですよ。陛下の武名は有名ですから。私など足元にも及ばない事は理解しております」


 聖騎は謙遜の言葉を紡ぐ。彼としては感情を表に出しているつもりは無かった為、あっさりと内心を見抜かれたのを意外に思った。


「まあ、良いでしょう。その試合は私も見ることは可能でしょうか」

「可能だと思いますよ。場所はこの帝都の闘技場です。本日の夕方に行われるとの話です。競技場には大勢入れる観客席が有りますからね。……しかし、部外者の私が言うのも筋違いかも知れませんが、用心棒のあなたが来てしまって店は大丈夫なのでしょうか?」

「ええ。これからしばらくローリュート様はお眠りになると思うので、店も閉じます。元々お客様も滅多に見ませんし、困る方もそれほどいないでしょう」

「酷い事を言うわねぇ、フレイン」


 突然カチャリと音を立てて開いた扉から、高級感のある寝巻きを着たローリュートが現れて言った。


「ローリュート様、起きたのですか」

「そろそろ来るんじゃないかしらと思って飛び起きたのよ。というかパラディンちゃんが来たら起こしてって言ったじゃない」

「まったく、ローリュート様はもう少し自分のお体を気遣って下さい!」

「別に良いでしょ、アタシの体だし」

「よく有りません! とにかく今は体を休めるために戻ってください……と言っても無駄ですね」

「その通りよ! ま、それはともかくパラディンちゃん。イマギニスとローブは気に入ったかしら」


 フレインの説教を聞き流したローリュートは、聖騎に問い掛ける。


「はい。最高の逸品だと思います」

「それは実際に使ってみてから言うことよ。ああそうそう、コレ返すわ」


 ローリュートはステータスカードを聖騎に渡す。そして言葉を続ける。聖騎もローリュートのステータスカードを返しながら話を聞く。


「話は聞いたわ。アンタ皇帝ちゃんと試合するって言うじゃない」


 この国に生まれてシュレイナーを「皇帝ちゃん」呼ばわり出来るのは恐らくローリュートだけであろう。だがフレインは何も言及せず、聖騎は頷く。


「はい」

「ま、一応だけど忠告しておくわ。この国において皇帝ちゃんの強さは絶対なの。アンタがとんでもなく強いというコトは知ってる。いや、強いからこその忠告よ」


 ローリュートの表情には真剣味があった。そして聖騎は彼の言わんとしている事に気付く。


「分かりました。気を付けます・・・・・・

「じゃ、せいぜい頑張ってね」


  フレインからイマギニスをひったくり、聖騎に渡してローリュートは激励の言葉をかける。


「それでは、私はそろそろ参るとします」

「はーい、がんばってねぇ」

「御武運を」


 店を出ていった聖騎に二人は声をかける。


「じゃあ、アタシ達も見に行くわよ」

「ローリュート様は寝てて下さい!」


 フレインはローリュートの頭を軽く叩く。体に疲れが蓄積していたローリュートは、あっさりと気を失う。フレインはやれやれとため息をつき、ローリュートを寝室へと運ぶのだった。

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