コトノコト
その街は、水に溢れていた。
道という道に水が満ち、人々は船を使わないと濡れずに進めないような場所。
人々は敬意込め、この街を『湖の都』と呼ぶことにした。
そんな街に、旅人は訪れていた。
「どうだい旅人さん、この街の様子は」
街の入口で外から来た人に足を提供して賃金を稼ぐ船頭が、自分の船に乗せた旅人に訊ねる。
この街に、広場と呼ぶ場所はありますか? 旅人は訊ね返した。
「この街は湖都と呼ばれる故に道は水だ。こうして船じゃなきゃろくに移動も出来ないし、買い物の類いは販売船が各家庭を回ってるからそれでほとんど済ませるから買い物をしないし人なんて滅多に通らない。無理なことは言わねぇ、この街で露店は止めておけって」
……仕方ありませんね 旅人は残念そうに肩をすくめて断念した。
「残念だったな。そうだ、代わりに良い場所へ連れてってやるよ。なに、俺の勝手だから追加料金は取らねぇさ」
船頭は船の方向を変え、湖都の間を進む。
どこへ向かうのですか? と旅人が訊ねても、船頭は「いいから任せな」とだけ言って船を進めていく。
しばらくしてたどり着いたのは、建物の何も無い平らな水面だった。
奥には水面より高い壁があり、まるで器に入れた水のような場所。
その中心で、船頭は船を止めた。
「旅人さん、下を覗いてみな」
言われるがままに旅人は船から顔を乗り出し、水の底を見ると―――
そこには、かつて都だったものが存在していた。
旅人が思っていたより深くなく、光が通り水底が見え、底は整えられた道になっている。
誰かが住んでいたであろう、今の都のものと似た形をした家々が建ち並び、今では魚が住み処のように出入りをしている。
澄んだ湖都の底は、過去に人が過ごしていたであろうもので溢れていた。
船頭が口を開く。
「この街が雨に襲われて、湖都と呼ばれるより前の街だ。地形のせいでこうなってな、今ではこの街の観光スポットさ。名前は……湖都ノ古都」
コトノコト 旅人は繰り返し言い、それ以上の呼び名はありませんね と納得した。
商売はせず、旅人はコトを後にしたのだった。
湖の都で、『湖都』古い都で、『古都』
現在の湖の都の過去の古い都で、『湖都の古都』
約二か月ぶりの旅人さん、今回は短めでお送りしました。
題名にあるように、コトノコトなのですが、コトには上記した以上の意味合いを含んでいます。それを見つけていただければ幸いです。
それでは、