七話 ~敵か味方か~
椅子が一つ置かれた向かいに二十歳前後の女性が座っていて、ニコニコ笑いながら俺と晴香に椅子に座るように促した。
「登録ですね。二人でよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
「では、登録を行います。登録はエルサが担当させていただきます。文字は書けますか?」
「お願いします、エルサさん。多分書けます。」
「では、この書類に記載をお願いします。」
そう言い、エルサと名乗った女性が俺と晴香に一枚ずつ紙を渡した。
項目には、名前や性別などの基本的な項目や職業、レベルなどのいかにも異世界的な項目が並んでいた。
・・・レベルって正直に書いて大丈夫か?
俺と晴香の最大レベルは150と111。
たぶん高レベルだろう。
登録もしたことがない奴がレベル150とレベル111だったら、なんだかめんどくさい事になりそうだな。
全くの嘘のレベル書くのも確認の手段とかあったらすぐにばれるだろうし、とりあえず低めのレベルのやつを書いておいた方が無難か。
「(晴香、神官のレベル書いとけ。一応な。)」
「(了解。)」
晴香の一番低いレベルは神官のレベル83だから、俺も同じくらいのレベルである槍使いのレベル74を書きたいところだが、俺は槍を持っていない。
そこから考えると少しレベル差が開くが魔法剣士のレベル60を書いておいた方が無難か。
「書き終わりました。」
「はい、ではいただきます。・・れ、レベル83の神官とレベル60のま、魔法剣士ですか!?ほ、ホントに?」
「は、はい。・・なにか問題でも?」
「いえ、大丈夫です。ただ、こんなにも高いレベルの方が登録に来ることが初めてだったので、ビックリしてしまって。」
「(まずいな。)い、田舎から出てきたばかりなので。初めてなんです。」
「な、なるほどそうですか。わかりました。では、登録カードを作ってくるので、少々お待ちください。」
「わかりました。」
このレベルでも驚かれるか。・・やっぱり低いレベルで書いておいて正解だな。
あのお姉さんの笑顔が引きつってたし。
でもこのレベルでこのくらいの強さとしてみられるとかの判断基準が分からないから、今回はしょうがないよな。
この機会にわかったらいいんだけど・・。
「お待たせしました。これが登録カードです。紛失したら再発行に一万円かかるので、なくさないように注意してください。では認証のために、カードとこの箱に手を置いてください。自動的に魔力をカードに通しますので。」
「「わかりました。」」
「・・・認証しました。では、簡単な説明を行います。」
説明の内容は今回の登録自体には費用はかからないが三か月に一度、一万円を最寄りの派遣会社に納める必要があることや、討伐や護衛などの仕事は派遣会社内の掲示板に掲示してあるなどの細かい説明があった。
また、職業のレベルとは別に派遣会社でのランクがあり、最初は誰もがランクHから始まるらしい。
ランクが低くてもすべての依頼を受けることができるが、用紙に推奨ランクやレベルが書かれているので、参考にして欲しいということ。
依頼人が断ることもあり、不用意に上位の依頼を受けて死んでしまっても、派遣協会は一切責任を負わない。
資源の買取が一割高くなったり、道具の販売価格が一割安くなるという売買的優遇などがあり、ランクによって保障の度合いが変わるがこの登録カードは最低限の身分証明になる。
まあ、こんな感じで説明を受けた。
「説明は以上です。・・あと、個人的に聞いてみたいことがあるんですが、いいですか?」
「なんですか?」
「先ほどの書類で年齢が21歳と伺いましたが、その年齢でレベル83と60という高レベルになるにはどんなことをしたんですか?わたしはもう60歳なのにまだレベル47の魔法使いなんです。」
「え?六十歳!?本当ですか??」
「私はエルフですから、人間とは寿命が違いますので。」
「エルフですか、始めて見ました。」
「そうですか。エルフは長寿なので、私は人間で考えたら20歳位ですよ。」
「じゃあ、同じくらいの年齢なんですね。」
「そうですね。私も一応冒険者なんですが、今は伝手でこの派遣会社でアルバイト中なんです。」
「なんだか大変ですね。」
「そうですね。書類仕事より走り回ってる方が私には合っているようです。今回のアルバイトでつくづくわかりましたよ。・・・それで、どんなことしたらこの若い年齢でこんな高いレベルになるんですか?」
「(しつこいな。)・・・そうですね。特になにかしたということはないんですが・・、自然とですかね。」
「そ、そうだね。自然とだったね。」
とりあえずごまかすしかないよな、この場合。
実際戦ったことは一回ですとか言ったら、絶対信じてもらえないだろうし。
てか、なんでこんなにしつこく聞くんだ?
なにか疑われているのか?
「そうですかぁ。やはりレベルは地道に上げるしかないんですかね。あ、あと五日後に大規模なオークの巣の討伐があるのですが、参加しませんか?私も参加予定なんですが、人の集まりが少し悪いので参加してくれると助かるんですが。ちなみに報酬は一人につき前金二万成功八万です。」
どうするか。
正直前金二万は喉から手が出るほどほしい。
無一文はマジやばいからね。
「やります。」
「はっ晴香!!」
「やるからね。このままじゃ駄目だし。」
「・・・わかったよ。」
「よかったです。お二人のレベルならオーク討伐なんて簡単な討伐かと思いますが、よろしくお願いします。」
「(言葉に棘があるな。)ちなみに推奨ランクとレベルはどれくらいですか?」
「推奨ランクはDでレベルは35です。オークにしてはランクもレベルも低いですが、こちらの人数が多い討伐ですのでこのくらいですかね。」
「そうですか。あと、依頼を受ける代わりにといったらなんですが、旅の常識など教えてもらえませんか?田舎から出てきてまだあまり経っていないので、何かと常識がなくて。」
「簡単なものなら大丈夫ですよ。せっかくだから、オーク討伐の時に組んでやりませんか?お二人のレベルなら私も安心ですし。」
「よかったです。お願いしますね。仁もいいよね。」
は、晴香。
相手がなんだか不審に思っているの気づいていないのか?
・・・いや、そんなことはないな。
晴香はあえて乗っているんだな、これは。
「・・・では、そうしましょうか。」
この状態なら晴香の考えに乗るしかないか。
今までの態度からして、たぶんエルサさんは俺達のレベルに不審感をもっているのだろうな。
登録に使ったレベル83と60でも、まだレベルは高かったようだ。
・・・本当の最高レベルを書かなくて本当によかった。
本人の一存か、上司などの上役からの指示かまだわからないけど、最悪の想定として考えられる事はレベルが本当だったら利用できるだけ利用して、そうじゃなかったら放置というところか。
・・・正直かなり面倒臭いが、利点はあるな。
この世界の常識を手に入れることができることが最大の利点で、次点が戦闘の様子を見ることができることかな。
・・・利点の方が少し大きいか。
晴香かあんなわかりやすくて、あえて自分たちに監視を付けるような提案に乗るわけだ。
まあ晴香の提案に乗った以上、これ以上悪い状況を作らないように注意するしかないか。