六話 ~街並と派遣会社~
塔がかなり近くに見えてきた頃、俺達は町と言っていい規模の集落に辿り着いた。
大狸(俺命名)に遭遇した後、晴香の指示に従いながら俺達は塔に向かったのだが、索敵の能力はやはりかなり優秀だった。
晴香は何度か俺達以外の生物を見つけたようだが、なんとか迂回してやっと塔に辿りつけた。
正直あの大狸位だったらなんとかできるだろうが、あの周辺に大狸より強い生物とかいたらマジ怖い。
それにあの時はキレてて何にも考えていなかったが、今考えたら命のやり取りはちょっと怖い。
とにかく本当に索敵は優秀だ。
まあ、なんとか人が居そうな集落には着いた。
その集落はさっきから見えていた塔を囲むように街並みが整えられ、良く言っても古き良き、悪く言ったら時代遅れの街並みである。
家には煉瓦も使われておらず土壁であり、人智を尽くしたビルなどを見てきた俺からしたらやけに古くさくて地味な印象を受けた。
塔を囲むようにある集落の周辺をさらに土と石を使った壁で覆われているようで、門番がいる壁がない部分が森と集落の出入り口のようだ。
幸い集落に入るのに金などは必要ないようで、俺たちは無事に集落に入ることができた。
「いらっしゃい!!」
「安くしとくよ。」
商売人のどんな世界でもよくあるありきたりな商売文句を背に受けて、俺と晴香は人波をかき分けてメインストリートらしき通りを歩いている。
風景とは合致しないほどの人数の人がごった返し、生活水準的にみれば明らかに今まで生きてきた世界より低い。
メインストリートとおもわしき道を埋め尽くす人混みは絶えることなくはなくて、人口密度どれくらいだよとつっこみたくなるくらいの様子である。
街並みの中の店としては食べ物屋が多く、歩いている多くの人は食べ物が入った包みやクレープのようなものを片手に店を見ながら、思い思い過ごしているようだ。
俺たちは入口から三本に伸びた道の内一番大きな通りに足を進めたが、他の二本の道はまた違った店がきっと広がっているのだろう。
とりあえずまずは泊まる所を確保すべきだ。
腹も減ったし何か買ったついでに聞いてみるか。
「晴香なにか食べたいものあったか?朝に果物食べただけだし、そろそろ腹減ったろ。」
「そうだね。さっき会ったケバブみたいなやつがいいな。」
「・・・あ。」
「なに?」
「俺ら金なくね?」
「・・・あ。」
「・・まずは金を稼ぐ必要があるな。」
「そういえば、あのベンって人が言っていた派遣会社ってあそこかな?」
「ホントだ。看板に派遣会社って書いてあるな。・・ってか、文字も日本語なんだな。」
「とにかく入ってみようよ。何か良い情報があるかもしれないし。」
「そうだな。入ってみよう。」
カランカラン。
扉を開けると少し鈍い音の鈴が鳴り、俺たちがこの建物に入ったことを知らせる。
正面に窓口が三つ。上には左から『登録』、『受け付け』、『支払い』と書かれた看板が掛かっていて、窓口のさらに左には大きめの黒板見たいなやつが置いてあり、紙が張られたり文字が書かれていたりしていた。
「ここは初めてか?」
背後からいきなり声をかけられた。
声をかけた人を見てみると筋肉質の背の高い、ちょっとゴツい男性が立っていた。
右胸には案内役というこの人にはあまり似合わない札が付いていた。
「はい。そうです。」
「会員登録はしてあるか?」
「会員登録ですか?していないです。」
「そうか。見た感じ冒険者だろう?なら会員登録はしておいたほうがいいぞ。旅をする時の利点が多いからな。」
「利点ですか。どんな利点があるんですか?」
「何も知らないんだな。一番大きいのは最低限の身分保障と資源の買取が一割高くなったり、道具の販売価格が一割安くなるという売買的優遇だな。まあ、金がないやつから見たら、派遣会社に泊まれることが大きいようだがな。」
「結構利点が大きいですね。登録に何か条件はあるんですか?」
「登録にはないな。登録後に三カ月に一度一万円納めればいい。まあ、一万円程度なら何回か簡単な仕事をすればすぐに稼げるから、あまり気にすることもないだろ。」
「そうですか。登録する人は多いですか?」
「多いな。旅をしている人は大体登録しているし、町人も半分以上の人が登録している。小遣い稼ぎに簡単な仕事とかもできるしな。」
「そうですか。俺とこの子の二人なんですが、登録したいです。」
「そうか。じゃあ、一番左の窓口に行ってくれ。」
「わかりました。いろいろありがとうございました。」
「仕事だからな。気にしないでくれ。」
ゴツいのになかなか優しい案内の人から離れて、俺と晴香は教えてもらった一番左の窓口に向かった。