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ダブルス  作者: aruko
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五話 ~覚悟と心の慟哭~




「上のほおぉぉ、あぁるこおおぉぉ。下ばかりぃ向いていると転ばないぃ。」


昔流行った「ナベヤキ」っていうを歌いながら、晴香はニコニコと歩いている。

懐かしい歌だな。

何気によくギターで弾きながらよく歌ったな。

・・・ハードロックバージョンで。


それにしても嬉しそうに前を歩いている晴香には驚かされる。

自分でも混乱しているだろうに、場をというか俺を和ませるためにあえて明るくしているのだろうか。

・・・そうだよね?


「でも、あのヘンテコな塔に向けて歩いているけど、それが正しいのかな?」


「他に明確な目標がないんだからしょうがないだろ。適当に歩くよりはいいし、目印付けてるから最悪さっきの小屋には戻れるだろうし、まぁ大丈夫だろ。」


そう、俺達の前方には塔がある。それもかなり巨大な塔だ。

近代的なビルとかではもちろんなく、どこか中世代にあったであろうような煉瓦っぽいもので作られているようだ。

赤茶けたその塔は、森の中にあるのがなんだか場違いなような気がするが、不自然な人工的感覚を惹起させる作りでありながら、不思議と違和感なくそびえ立っている。

頂上は『雲がかかりそう』などという装飾語が付きそうなほど高い位置にあり、鳥たちが周りを飛び回っている。


俺達は歩きながら木々に木刀で跡をつけ、とりあえず俺達は人工物であろうその塔に向かっている。

もしかしたら人がいるかもしれないし。

ていうか、この木刀はマジで凄い。

同じ木であるはずなのに木をぶん殴っても折れないし、むしろ巨木と言ってもいいほどの木を砕き、木刀には傷も付かない。

マジすげえ。

この魔木刀+19!!


「でも、ゲームみたいで楽しいね。実は私も仁とストレートストーリーしたかったんだ。なんだか嬉しいな。」


「言えばノーパソ貸したのに。俺も何気に晴香とゲームしてみたかったかも。」


「えー。借りればよかったかなぁ。」


「そうかもな。でもストレートストーリーを二人でしていたら、こんな感じだったのかな?なんだかウキウキするな。」


「うん!なんだか嬉しいかも。それにしても木ばっかりだね。また誰かに会えたらいい・・。キャッっ!!」


なんだ?

なんだなんだなんだ?


なんだあの黒くてでかい狸みたいなやつは。


てかあいつ。

晴香にぶつかったよな。


ぶつかったよなぁ!!


晴香。

なにうずくまってるんだよ。

返事しろよ。

おい!!


「・・晴香?」


てめえ、晴香に何したんだ。

おい。

おいおいおいおおい!!


「ぶりゃぁぁぁぁ!!」


俺は木刀を振りかぶった。

ズガァァァァン!!

ちょっと前に晴香が見せてくれた「ファイヤ」が着弾した時より大きなクレーターが俺の振りかぶった先にできた。

てか、正直そんなことはどうでもいい。


俺の晴香に。


「俺の晴香に何をしたぁぁぁ!!!」


昔地元で、車に轢かれた狸とか、蛇と戦っている狸を見たことがある。

昔見た狸は犬くらいの大きさだったが、こいつは大きめのイノシシ位ありそうだ。

無傷な様子を見るとさっきのは当たらなかったか!

何気にすばしっこいこの狸は、さっきの木刀の一振りをよけていたようだ。

・・・関係ない。

俺の晴香に手ぇ出したんだ。

ぜってぇ潰す。


「ギャアアァァァ!!」


「なめんなこらぁぁああ!!」


奇声を上げながら突っ込んできた狸の鼻筋に思いっきり木刀を振りおろし、つんのめって動かなくなったところに狸の腹を蹴り飛ばす。


「えぁ?」


狸が吹っ飛んで行った様子を見て、俺は思わず変な声を出してしまった。

木を何本かなぎ倒しながら地面に転がる狸を見て、俺は素直に驚いた。

俺はいろいろな格闘技を習ってはすぐやめてという幼少時代を過ごし、一つの武道を納めたりはしなかったが、喧嘩はそれなりに強かった。


そんなこんなで喧嘩をしたことはそれなりに多かったし、人間相手に蹴りを放った経験もあった。

しかし、人間くらいありそうな体積を持った物体が木々をなぎ倒しながら吹き飛ぶ様を見たのは、当然ながら初めてだ。


「・・っ。晴香ぁ!!」


・・・呼吸はしているし顔色もそんなに悪くない。

ステータスも確認したけど、HPは7しか減っていない。

しかし、状態が気絶になっている。

とりあえず晴香は無事のようだ。

・・・よかった。

・・・本当によかった。


「・・・えっと、回復は・・。‘セイント’。」


晴香を柔らかな光が包み込む。

膝の擦り傷とかちょっとした怪我が消えていく。

自分で唱えておきながら、異質な光景だ。


「おい、晴香大丈夫か?おい?」


「ううん。後十分ぅん。」


「おいいぃぃ!!!起きろし!!」


思わずつっこんでしまったが、寝ぼけながら幸せそうに寝ている様子からいって、多分平気だろう。

そんなにしないうちに目も覚めるだろう。


それにしてもさっきの狸はなんなんだ?

いきなり現れて晴香にぶつかってきたけど、冷静に考えるとあんなのが野生でうろうろしているなんて危なすぎるだろ。

まあ、これで間違いなくここには危険があるということが確実になったな。

今襲われたし。

これから歩くときにはさっきまで以上に周囲を警戒しながら行動する必要があるな。


・・・まあ、いいや。

とりあえず晴香が起きるまで少しここで休もう。


さっきの狸は少し先でピクリとも動かないし、腕が変な方向いていることから狸が起きても大丈夫だろう。

ともかく俺でもスキルは現実に使えることがわかったし、さっきの様子から俺の身体能力も異常なほど上がっているようだ。

なんていったってあんなでかい動物が蹴っただけで、木々をなぎ倒しながら吹っ飛んで行ったんだから間違いはない。

これからはそれらが生命線になるだろう。

ほかに俺が使えそうなスキルで便利そうなのは・・・、魔法剣とかいいかもな。

なによりかっこいいし。


「魔法剣は・・。‘エアロソード’。で、できたのか?」


魔法剣はというか、魔法系のスキルは基本としては四種類存在しているみたいで、ファイヤ系、アイス系、エアロ系、ガイア系が存在する。

魔法剣もそれに対応しているようだ。

晴香は闇属性の魔法系スキルを取得していたが、あれは多分最上位職である魔道士であるから取得できたのであろう。

ストレートストーリーでもそうだった。


・・・いや、やめよう。

考えをごまかすのは。

この世界はストレートストーリーに準拠した世界なんだ。

認めよう。

・・・ここは俺達の世界じゃないんだ。


・・・まあいい。

とりあえず魔法剣の確認をしよう。

見た目はなにも変わらないようだ。

ただ、木刀の様子はなんだか変わったような気がする。


「これはすごいな。目に見えはしないけど剣からシュンシュンと音がするから、多分スキルはかかっているんだろうな。威力はどうかなっと。」


シュン。

・・・ズガガガガガガガ!!

・・・。

異世界すげぇ!!

何の手ごたえ無く木刀で木がスパッと切れた!!

結構この木太いぞ!!

マジか!!


「ひゃ!!ど、どうしたの?」


木が倒れる音で晴香は起きたようだ。

まぁ、これだけ大きい音で起きない人間はいないか。


「魔法剣試してみたんだ。てか調子はどう?痛いところとかは?」


「大丈夫。でもなんでこんなところで私寝てたの?」


「覚えてないのか?大きな狸みたいなのにぶつかられたんだぞ。」


「うん?あ!!なにか衝撃があったかも!!」


「さっきまで気絶していたんだ。晴香。とりあえず回復はしといたけど。」


「ありがとう。んと、・・大丈夫みたい。それでその狸はどうなったの?」


「あそこだよ。」


俺は狸が倒れている方向を指さした。

狸は未だにピクリともせず、さっきと同じ態勢で倒れていた。

まわりの様子もさっきと変っておらず何本かの木がなぎ倒されており、・・・よく見たら結構派手に狸は転がっていたようだ。


「・・・これ仁がやったの?」


「う、うん。俺がやったて言うか、その、蹴ったらこんな感じに、なったというか・・。」


「・・・なんだか異世界って感じになってきたね。この様子だとスキルの効果もちゃんと出ているみたいだし。」


「・・・そうだな。とにかく危険があることが間違いなくなった以上、用心して行こう。さっきみたいになったら困るからね。」


「そうだね。さっきまで私ちょっと浮かれていたみたいだし、反省しなきゃ。」


「それと晴香。多分だけど、狩人のスキルの中に『索敵』ってなかったか?多分あると思うんだけど。」


「あ!!あったねぇそんなスキル!あれ使えばうまくすれば敵とかわかるもんね。」


「そういうこと。じゃあ、使ってみて。」


「うん。‘索敵’」


もともと、索敵っていうスキルはエリア内の敵の場所とかを確認するスキルで、ストレートストーリー内ではかなり重宝するスキルだ。

狩人系統の二次職で覚え、その後もずっとお世話になる優秀なスキルである。

俺の持っている忍者も上位職の暗殺者になれば覚えるが、忍者はまだL58だからまだまだ覚えることはないだろう。


「近くにあの狸以外の反応はないみたい。ていうかこのスキル便利だね!簡単な地図みたいなのが見えるよ!」


「よかった。索敵の効果はこの世界でも優秀みたいだ。まあ、その地図は晴香にしか見えないみたいだけど。・・・って、狸まだ反応してるの?」


「してるよ。」


「・・・っよし、倒してみるか。」


「え?倒すって、殺すってことだよ?」


「わかってる。でもこれからのためにも慣れておかなきゃ。何があるか分からないし。」


「う、そっか。・・・頭ではわかってるんだけどね。」


「ああ、晴香は徐々に馴らしていけばいい。でもさ、俺は晴香を守らなくちゃならない。こんなよくわからない世界で生きていくためには、倫理観なんか捨てなきゃダメな気がする。とまどって晴香になにかあったら俺は、自分が許せないし許さない。」


「・・・仁。」


「命は軽いもんじゃない。そんなことは重々わかっている。でもさ、それよりも大切なものがあるなら、俺は容赦しない。」


晴香の言葉を待たずに俺は狸の方に歩きだした。

近くで見たら狸はもう死にかけていた。

俺が蹴り飛ばした部分は裂けていたし、木にぶつかった拍子に枝が刺さっていたのか、体には何本も枝が刺さっていた。


「ううぅ。」


正直すごくグロい。

生々しい。

もう死にかけているようだが、野生の生命力というか、まだギリギリ生きているようだ。

エアロソードの効果が切れた木刀を、振り上げる。


「‘ファイヤソード’」


木刀に手元の方から火がともる。

次第に刀身は炎に包まれ、チリチリと音を鳴らす。

一瞬木刀に火が灯ったことに気を取られたが、今回は気を張っていたせいかあまり驚かなかった。


「お前の命は俺の糧になる。晴香を襲ったのが運の尽きだったな。・・・だから、お前の命を俺にくれ!!」


ジャシュッッ!!

斬った切り口から炎が燃え上がり、次々と炎が狸の肉体を包み込んでいく。

狸の油に火が付いて、余計に燃え上がっているようだ。

臭い。草食だか肉食だかなんだか知らないけど、肉が焦げる匂いって、こんな臭かったっけ?

あぁ。命って、こんなに簡単に潰えるし、肉の燃える匂いって本当は臭く、こんなにも禁忌すべき香りだったんだ。


・・・きもちわるい。


風に吹かれて焦げかすの匂いが消えた頃、晴香が俺を抱きしめていた。

女くさく、良いにおいの晴香は、よくわからないが泣いていた。

泣くなよという俺の言葉を無視して、ひたすら晴香は泣いていた。

気が付けば俺の顔も、濡れていた。






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