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ダブルス  作者: aruko
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十四話 ~月の光に導かれて~

気が付いたら1年以上放置していました。ごめんなさい。

言い訳を言わせてもらえるならば生活が劇的に変化してしまい、手直しくらいしかしていませんでした。

さて、今回は短いですがまたちょっとずつ更新をしていきたいと思いますので、気が向いたら読んでやってください。

あの悪夢のオーク討伐から三日が経った。

人間というものは強いもので、あんなことがあっても数日経てば人々はいつも通りの生活に戻っていき、未だ心が曇っている俺達は少し戸惑っていた。


黒オークが出て最初に連絡が来た時にはかなりの混乱があったようだが、現実感がないのか、はたまた死ぬときは死ぬと考えているのか混乱はもうない。

俺の感覚とはかなり違った反応だと言わざるを得ない。


今日で腹黒指揮官の呼び出しも終わり、ようやく一段落ついた。

俺達は何度か呼び出されたが簡単な事を聴取された程度で終わり、腹黒指揮官の心の内を見透かすような眼と言動を除けばたいしたことはなかった。


あのにやにやした顔をして人の内面をズバズバと見抜いてくるのはむかつくが、体裁を気にしてか俺達を本当に気に入ったのか何なのか分からないが、そんなに悪い対応はされなかった。


腹黒指揮官は約束通りに派遣協会内の2LDKの家具が完璧に揃っているという、かなりいい部屋を用意してくれた。

俺達は少なからずそこで心身共に休めることができたのだからその点では感謝してもいいだろう。


欲をいえばもっと楽しめるような精神状態であの部屋に泊まりたかった。

それにエルサがそれなりの立場にいたのも対応がよかった一因として大きいかもしれない。



腹黒指揮官の呼び出し以上に俺にとってストレスになった事は、魔王の襲来があったにもかかわらずその被害は二、三十人の死という程度で済んだなどといい、「前代未聞」だとか「ラッキィ」とか「よかった」などとほざく輩が派遣協会のロビーや憩いの場にたむろしていることだ。


あの地獄を知らないくせに勝手なことを言いやがって。

泊まっている場所が派遣協会の三階の部屋であることから、下に降り派遣会社のロビーに行けば嫌でも目に入ってしまう。

たまに突っかかってくる奴や仲間になろうと近付いてくる奴もいて、呼び出しよりもこっちの方がよっぽど疲れた。


俺達は生き残れたことから二段飛ばしでFランクに上がりそれはいいのだが、やっかみがかなりうっとうしい。

それと街の人たちからの魔王を足止めしたスゲーやつ扱いもいい加減辟易している。


あと晴香にちょっかいをかけてくる男が増えたのも困っている。

というかこれが一番むかつく。


当然あの後エルサにも色々聞かれた。

だけど晴香と相談して話せそうなことと話せることの区別を付けるのに時間がかかると判断した結果、未だに何も話していない。

あれだけ助けてくれたのだから何でもかんでも話してしまってもいいのかもしれないが、面倒事は御免なのでよくよく考えた上でエルサに話した方がいいだろう。

心苦しいが。


それに晴香の様子もおかしい。

俺にとってはそれが今一番の気がかりである。

ふとした瞬間にさみしげな表情をするのだ。

やはり親とかに会いたいのだろうか。


ちなみに、あの自重しない武器づくりをしていなかったら俺達は死んでいたらしい。


腹黒司令官とかエルサによくよく聞いたらあの黒オークは俺が想像していたよりめちゃくちゃ強いらしい。

普通はあんなにするすると斬ることはできなくて(というよりありえないらしい)、魔王にいたっては第三武器以上かつ高レベルでない限り斬りつけても傷一つ付かないらしい。


正直、強く作りすぎたと思っていた装備が生存最低ラインだったと聞いたときは俺も晴香も顔が真っ青になった。


夜中。


不意に目を覚ました時に晴香はベッドにいなかった。

晴香は俺に比べて寝つきがいいし、一旦寝たらなかなか起きない。

トイレかなとも思ったが少し気になって、俺は辺りを見回した。

するとベランダへ続くガラス戸が開いており、青いカーテンがフワフワと揺れていた。


その奥のベランダで、晴香は一人体育座りをしていた。

いつもの元気の良さはなりを潜め、ずっとうつむいたままだった。


今夜はいい月が出ており晴香を幻想的に照らしていたが、美しい反面なぜか悲しげだった。


「晴香?」


「あ・・・。仁起きたの。」


「ああ。こんなところに座って、どうしたんだ?」


「うん。ちょっとね。」


「色々あったからな、この短い期間で。」


「・・・そうだね。」


「大丈夫だから。晴香は俺が守るから、なんとして「私ね。勘違いしてたんだ。」・・。」


「なにがだ?」


「私。この世界に来て、本当は嬉しかったんだ。仁とまたいられるって。」


「晴香?」


「でもね、仁はやっぱり仁で、私のために考えてくれていた。それが嬉しくて私は舞い上がっていたみたい。」


「そうか。」


「仁が死んじゃいそうになった時、私は後悔したの。なんでこの世界に来てしまったのだろう。なんで舞い上がっていたんだろう。なんで、・・仁が死んじゃいそうになっちゃってるんだろう。って。」


「晴香。」


「ありがとう。仁。ありがとう。」


いつの間にか晴香は静かに泣いていた。

さらりと頬を濡らす涙を月が照らして、滴が顎から床に落ちた時、俺は晴香をそっと抱き寄せた。


晴香は何かに懺悔するかのようにありがとうと繰り返している。

泣きだした晴香を抱き寄せたものの俺はどうしていいか分からず、ただ抱きしめることしかできなかった。




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