十三話 ~知性と経験と~
「おい!!貴様ら!!ここで何があった!!」
俺達はあの戦いの後、街に戻ろうと町の方に歩いていたが、その途中で大勢の兵隊に出会ってしまっていた。
そう。
出会えたではなく、「出会ってしまった。」だ。
なんでも、あのオーク討伐から逃げられた人が居たみたいで、街に戻り国の兵隊に助けを求めて、その要請で銀色の同じような鎧を着た兵士たちが大挙して向かって来たようだ。
「貴様は全身黒い血まみれだな。何があったか言ってみろ。」
「優男のくせに女連れとは結構なことで。そんで、どうやって生き残った?魔物の慰み者にでもなったか?それとも運よく逃げ切れたのか?」
兵士達は下品な笑い声を上げながらいきなりそう話しかけてきた。
いや。
街の人たちを見て、教養とかが低いとか何とか言っていたが、本当に教養とか道徳心とかなんか欠片もない、この世界には屑みたいなやつが多いようだな。
マジで魔法剣でぶった切ってやろうかな。
少なくとも晴香になんかしようとしたら、俺は自制しないぜ。
「ランクBのエルサです。指揮官はどこでしょうか。」
「・・・え?・・・こ、これは失礼しました!!指揮官は後方にいます!!私が案内しましょう。」
「結構です。」
エルサはさっさと歩きだしてしまった。
ていうか、ギルドランクB??
エルサってそんなランク高いの!?
「おいエルサ。ランクBって確かかなり高いよな。お前そんなに凄い奴だったのか?」
「ランク高いだけよ。あんた達より弱いから、笑いたければ笑いなさい。」
「いや。笑わないけど。素直に凄いなっておも・・・」
「なにがすごいよ!!バカにしないで!!!あなた達の方が凄いわよ!!凄すぎよ!!!なんなのよあれは!!!なんで魔王倒せちゃってるのよ!!!ふざけないでぇぇぇええ!!!!」
そう叫ぶと、今まで見たことがないような血走った眼でこちらを凝視しだした。
正直、周りの兵士の目とかあるから大きな声で叫んだりして欲しくはないんだけど。
でも明らかにエルサの様子は今異常だし、何言っても絶対火に油注ぐようなものだし。
・・・エルサもまた、気を張り詰めていたのかな。
マジどうするか。
「エルサ落ち着いて。混乱しているのは分かるけど、今はやれる事をするのが先でしょ。私たちのことはあとで話せばいいし、今はやれることをしましょう。」
「くっ。分かったわよ。指揮官のところに着いたら、あんた達は何もしゃべらないで。強さはともかくランクは低いんだから、喋ると面倒よ。」
「わかったわ。面倒かけるわね。」
「いいわ。この騒動に巻き込んでしまったのは私だし、そのくらいはやるわよ。」
うん。
やっぱり晴香の方がエルサの操縦が上手いな。
とりあえずエルサの言うとおり、事が落ち着くまで喋らないのが無難か。
兵隊たちの横をすり抜けて、これまた立派な馬に乗ったイケメンさんが颯爽とやってきた。
どうやらこの人が指揮官みたいなんだが、なんだか胡散臭いイケメンだな。
ちょっとだけ目が鋭くて悪人顔だし、笑った顔がうさんくさいし。
「君たちが生き残りかな?魔性オークらしきものが居たらしいが、本当かな?」
「本当です。間違いありません。」
「だとしたら魔王がいるかもしれないのだが、それらしきものはいなかったかな?」
「いましたが、その。討伐いたしました。」
「・・・はぁ?君は魔性オークに襲われて、おかしくなってしまったのかな?派遣会社に聞いたが、魔王を倒せるほどの戦力はなかったはずだが?」
「間違いなく、魔王は討伐されました。」
「・・・いやぁ。これはまいったね。それが本当ならば私は助かったことになるのかな。」
「隊長!!この話が本当ならば、好機ですぞ。隊長が魔王を打ち取った事にすれば昇進間違いなし!!その際には私めも!!」
うわ。
ホンッット、腐ってるな。
討伐したって言っている相手の前で、堂々と手柄横取りしようとするとは。
これはこの国の権力者とその周辺には近付かない方がいいな。
「ううーん。そうだねぇ。あ、ジューク。こいつの首跳ねといてよ。こういうのいらないんだよね。」
「はっ。」
え?まじか?
「何故でございます!?私はあなた様の事を思って・・・。」
「あ。そういうのいいから。自分の力じゃない物で昇進しても楽しくないじゃん。それに、そういうことをいう屑は、消毒しないと国のためにならないからね。じゃあね。」
「お許しびょ。」
ぐちゃ。
・・・。
すげえ場面目撃しちゃった気がするんだが、なんで平然としているんだこいつら。
なんだか人間の命が物凄く軽いな。
ずっと寄り添っていた体中傷だらけの男が剣を振るったんだが、平然としてやがる。
まあ、さっきの屑よりはマシなようだが。
「それで、誰が討伐したの?間違いなく討伐したって言いきった以上、あいまいな事は言わない方がいいよ。」
「は、はっ。この者たちと魔性オークの足止めをしていた時に、何人かの兵士が飛びかかっていって魔王の首を飛ばすところを目撃しました。」
エルサ!!
庇ってくれたのか!!
でも嘘を言って大丈夫なのか?
とっさの嘘だろうから穴が結構ありそうだが、さっきの様子をみると正直に俺が倒したとか言ったら面倒臭そうだしな。
こいつ人間を殺すことに何にも躊躇していないし、危険じゃな・・・!!!
まずい!!目線合っちゃったよ!!
・・ばれてないか??
「ふむ。何人かの兵士で首を飛ばす事が出来たか甚だ疑問ではあるが、まあいいかな。」
ふぅ。
なんとかごまかせたか。
エルサが魔王を俺達が倒したことを言わないってことは、言ったら厄介事になる可能性が高いからな。
これ以上の厄介事はマジごめんだ。
「だが、この後ついてきて現場で説明してはもらうよ。疲れているとは思うが、よろしく頼むね。」
「そのくらいでしたら。」
「あと、後ろにいる二人も名前を告げてから、説明に付き合ってもらうから。」
マジか。
かなり疲れたからもう帰って寝たいんだが、この様子だと断れないしな。
「それとも、魔王と戦闘して疲れたから帰りたいとでも言うのかな?」
!!?
なんでばれた!!?
「・・っぷぷ。あっはっはっはぁ!!!そんな顔したらバレバレだよ。まあ、魔王や魔性魔物の血が黒いということを私が知らなかったら、なんとかなったかもしれないがね。」
っっ!!
こいつ、カマ掛けやがった!!
まずいまずい!!!
せっかくエルサがごまかしてくれたのにこのままでは・・・。
どうする!?どうする!?
「そんなに怖い顔をするんじゃないよ。おー、怖い怖い。まあ、悪いようにはしないさ。」
そんなの信用できるかよ。
なんとか晴香とエルサを連れて逃げられるか?
こんだけの兵士を連れているけど、なんとか切り抜けられるか?
「おかしなことはしない方がいいよ。もう三人の顔は大勢に目撃されているし、手配は簡単だ。まぁ、これから先ずっと尋ね者として生きていきたいならば、止めはしないがね。」
こいつ化け物か。
顔色だけで考えていること見抜きやがった。
・・・これは俺の負けだな。
エルサが助けてくれようとしたのに俺のせいでこうなった以上、晴香とエルサに変なことをされないように俺が見張るしかねえな。
「わかった。だが、二人になにか危害を加えようとしたら、容赦はしない。」
「そう怖い顔をするなよ。そんなことはしないさ。それに私はこれでも地位はそれなりに高い方でね。それに周りからの信用はそれなりにあると考えているよ。」
ニコニコ笑いながらそう言ってくる。
エルサがこちらを見てうなずいているところを見ると、この人は嘘は言っていないようだ。
少なくとも、様子的にみて多少は名も知られていて、良い噂もあるようだな。
・・・正直胡散臭いが、さっきまでの兵士よりはまともか。
だが。
「分かった。協力するが早くしてくれ。足止めの後も逃げ惑っていたから疲れているんだ。」
まだ信用はしない。
こういう頭がいいタイプの人間はよくよく観察しないとわからない。
最低限、こちらが聞かれてまずい情報は、ばれていたとしても否定しておいた方がいい。
「逃げ惑っていて・・ね。まあ確かにそうだね。今日は簡単に現場を見て、詳しくは後日にしよう。良い部屋を空けるように言うから大体のことが終わるまでは、派遣会社に泊まってくれるかな。」
「料金がそちらもちなら。それで結構です。」
「あはは。なかなか面白いね。君らを気に入ったからそれで良いよ。」
「ではそれで。」
「あぁ、あと。君達の名前は後で必ず聞かせてもらうよ。今は早めに現場に向かった方が良いみたいだからね。」
返事も効かずに歩きだした指揮官は、口元に微笑を浮かべながらさっさと行ってしまった。
どうみても悪人面なんだが・・・。
まあ今は、協力するか。