十二話 ~殺戮のダンスを~
遅れました。申し訳ない。
レポート課題大量発生と初戦いシーン描写激ムズのせいです。
あ、あとタイピングが遅いせいもあるか。
とにかく十二話です。
「た、助けて。」
「まだ死にたくないっ。」
「普通じゃないよ。聞いてない。なんでこんなところ、にゃ。」
グシャッ。
なんでだよ。
どうしてだ。
なんでみんな死んでいるんだよ。
オーク討伐って簡単なんじゃないのかよ?
みんなさっきまで笑ってたじゃないか。
恐怖に染まった顔で俺を見るなよ。
首だけでこっちを。
こっち見るなよ。
・・・・俺を見るなよ!!!
晴香。晴香ぁぁぁ。
帰ろうよ。
あの二人でいて満ち足りていた、あの部屋に帰ろうよ!!
夢なんだろ。
夢であってくれよ!!こんなこと!!
こんな世界。認めていいわけないだろ。
なんなんだよ。
楽しくないよ。
帰りたいよ。
あああああああああああああ。
・・・・・・
オーク討伐に来た俺達はまさに地獄にいた。
いや、地獄すら生易しいかもしれない光景が目の前に広がっているかもしれない。
前衛にいた人間はみな死んだみたいだ。
今はただのタンパク質の塊とカルシウムの塊が、無造作に数多く転がっているだけだ。
少なくても見た感じ、俺の前方で生きている人間らしき生き物はいない。
無論、確かめたわけじゃないから分からないけど、前方に味方らしき人影はないのは間違いない。
むしろ前方は、黒いオーク、オークオーク!!
涎を垂らした不細工な黒いオークしかいない。
晴香は茫然としているから、自主的に逃げさせるのは無理だろう。
・・・エルサ。
お前しかいないか。
「お前は晴香を頼むわ。ここは俺が任された。晴香がなんて言おうと、なんとしても逃がせ。」
「死ぬ気・・なの?あれは単純なオークなんかじゃないわよ。あれは人間には、私たちにはどうしようもない相手よ。」
「うるせえ!!・・・早く行け。」
「まって。仁。わたしは。」
「わかった。晴香は、私が何としてもここから逃がすから。」
最後の小声が伝わったのか、エルサは晴香の言葉を無視して連れて下がっていった。
エルサには借りができたかな。
返す機会があるか分からないが、今度あの美味いサンドイッチみたいなのをおごってやるよ。
・・・晴香が助かるなら、俺がどうなろうと構わない。
晴香は何かを叫びながら、泣いていた。
・・・しょうがないだろ。
俺の勝手ですまん、けど!!!
・・・幸せになってくれ。
お前のために生きられて俺は、少しだけでも幸せだったよ。
まだ敵は来ない。
殺した人間を食うやつもいるから、侵攻はそんなに速くないみたいだな。
だけど、これがギリギリ。
前方にいて、さっきまで単独で奮戦していた金ぴかの鎧の指揮官は、もう首から上はなくなっていて、今はオークもどきに踏まれて見る影もない。
エルサ曰く、かなり強いはずなんだがな。
あの人。
俺は木刀を右手で抜き払う。
新しく作った極・魔道木刀+8は、作ったことに感謝しつつふるわせてもらうよ、晴香。
前作った魔木刀よりかは役に立つだろう。
少しぐらいは、晴香が逃げる時間を稼げるかな。
・・・いや、絶対稼ぐ!!
「晴香。・・・後は頼んだぞエルサ。」
「‘ハイエアロソード’、‘メガドライブ’。」
目の前には絶望しかない。
けど!!
ザッシュ!!
「晴香が逃げるまでは!!!」
俺が持たせてみせる!!
「私が、私が悪いのよ。なんで、仁。」
仁に任されて、私は晴香を連れて逃げるために走っていた。
晴香はあの後ずっと自分を責めながら泣いていた。
なぜこんなに自分を責めているかは分からないが、混乱した人間などこんなものだろう。
あの魔物はやばすぎる。
やばすぎるんだ。
あれは多分、魔性オークだろう。
本で読んだことがあるし、その本には絵が書いてあって、「魔性」になった魔物の特徴も乗っていたから多分間違いない。
黒く変色した皮膚を覆う毛に、暗い瞳。
普段狩っているオークとは明らかに違う見た目と圧力。
あれらがいるということはあそこには魔王がいるんだろう。
たとえ下位の下級魔王であっても、人間にもエルフにも勝てない。
そう絶対に勝つことができない。
「生きるのよ。仁の実力は分からないけど、信じて走るのよ。」
・・・多分もう仁は死んでいるだろう。
あれだけの数の魔物、ましてや魔性魔物に囲われて生きていたら奇跡も良いところだ。
あんなものに囲まれて生き残れるとしたら、それこそ空想上によくある勇者位のものだ。
絶対にあり得ない。
私は仁に晴香を任されたのだ。
そもそも、この討伐には私が誘ってしまったんだ。
せめて晴香だけでも、この場から逃がさなくては。
ッッ。
回り込まれていたか。
やはり魔王という指揮官が居ると、普通の魔獣や魔物とは違い軍隊みたいな戦い方をするのか。
クソッ。
ヤバい!!ヤバい!!
このままではもう・・・。
「・・・・すれ・・・・たんだ。私は・・・。」
ドガアアアン。
なんで、晴香は神官のはず。
それにこんな威力の火炎スキルを使えるなんて。
そんな。
「こうすればよかったんだ!!私は仁と!!」
「これからもまた暮すんだから!!‘ハイアイス’!!」
氷の欠片が幻想的に舞う。
こんな血生臭い戦場じゃなかったら、絶対見惚れていただろう幻想的な光景が広がる。
‘アイス’系統にこんな使い方があるなんて。
魔性オークはブヒャっといった叫び声を上げながら、木に回り込み回避しようとしている。
しかし、晴香が作り出した氷の欠片達は太い木を貫き、魔性オークの肉を引き裂きながら食い込んでいく。
「‘ダークフレア’!!」
ダークフレアですって!?
まさか晴香は上位職の魔道士!?
レベル100以上なんて。
嘘でしょ。
神官だって言っていたじゃない。
それにしても、なんてスキルを使ってしまったの。
フレアなんて名前が付いているけど、あれは闇の炎なんて生易しいものじゃない。
あの魔法は小規模のブラックホールを作り出す、大魔法スキル。
周囲を更地にしてしまう威力を最低限発動できる段階程度でも持っている・・・いや、この状態では持ってしまっている、か。
あんな魔法こんなところで使うなんて、死ぬつもり?
「行って!!」
晴香の手の平にある黒い球体から小型のボールみたいなものが飛び出して行って、魔性オークを次々襲う。
晴香の手から離れたボールたちは障害物の木などにぶつかりながら向かっていくが、その様子は普通ではない。
木の幹や葉などを、そこに何もなかったかのように触った部分を消滅させながら、魔性オークを次々と消滅させていく。
こんな使い方が、ダークフレアにはあるのか。
もう、私達を遮っていた魔性オークはいなくなった。
ついでに前方の森も無くなったが、そんなことは些細なことだろう。
人間とは体のスペックもスキルの威力もケタ違いの、いいや二桁は違う魔王に改造されたオークをこんなに簡単になんて。
あり得ない。
・・・こんなことあってはいけないんだ。
そう、あってはいけないことなんだ!!
「なんで。」
「エルサ!!戻りましょう!!」
「なんであなたが魔法を極めているのよ!!わたしがまだなのに、なんでよ!!」
私は自分でも気付かずうちに、叫んでいた。
どれくらいたったのだろう。
自分が生きているのか死んだのか分からない。
・・ああ。
黒いのがまたきたよ。
木刀振りゃあいいんだろ。
また黒くて臭い水を流しながら、足元に転がるんだろ。
いつだったかなぁ。
俺が小さい頃、地元で遊んでいたときにのら犬に追いかけられたことがあった。
あの時は怖かった。
犬にじゃない。
自分より強い存在が居ることが怖かった。
まだまだ幼かった俺はただただ怖かった。
だから、蹴り飛ばした。
噛まれようと引っ掻かれようと、ただただ殴り、蹴り飛ばした。
俺のちっぽけな尊厳を守るために。
動かなくなった犬を見て急に怖くなった俺は、家まで走って逃げた。
お袋は全身泥だらけでしかも、犬に噛まれた腕を見てすぐに青くなり、俺をすぐに病院に連れて行った。
病院にいて、順番を待つ俺は死を経験して泣き叫んだ。
そう、幼かった俺は死を受け入れきれなかった。
きっと、殺すという行為に俺は耐えられなかったんだろう。
多分今の俺は、あの時と変わらないだろう。
もうオーク達を生物だと考えていない。
言い方がおかしいな、生物だと思わないようにしている。
晴香を生かすためだとしても、耐えられなかった。
精神がもたない。
擦り減っていく。
「驚いたな。貴様本当に人間か?同じ魔王とかじゃないよな。」
「なんだよ。わけわかんね。」
急にオーク達が来なくなったと思ったら、今度は髪が長い変なおっさんかよ。
なんなんだよ、こいつ。
自分のこと魔王とか言っちゃってるけど、頭大丈夫か?
精神科行った方がいいぞ。
「わけがわからないのはこっちだ。簡単に終わらせるはずだったのに、なんなんだお前。」
「知らねえよ。」
「ふん。まあいい。オークじゃらちが明かん。アル!!ベリィ!!お前らがやれ。」
「「はっ」」
同じような顔をした、なんだか大人びた小学生位の子供が前に出てくる。
場違いもいいとこだろ。
「我らは魔王デル様の眷属である。デル様の邪魔をするなら。」
「我らが相手をする。」
「うるせえよ、クソ餓鬼ども!!なんだか知らんが邪魔するんじゃねえ!!まだ時間稼がなきゃならねえんだよ!!‘ハイガイアソード’、‘メガドライブ’」
「死ぬと分かっていて戦うか。‘ファイア’」
「虫けらのくせに生意気。‘アイス’」
さっき魔王とか名乗ったおっさんから指示されてなのだろうか、クソ餓鬼が前に出て魔法を放つ。
晴香がこの世界に来た時に放った魔法スキルみたいな様子ではなく、赤と青のビームみたいな物が向かってきた。
同じファイアとかなのに、様子が全然違うんだな。
俺は二つの帯を「見切」る。
アイスを魔法剣で切り裂き、ファイアを余裕を持って避ける。
かなりの速度で向かってきた魔法スキルであるが、「見切」れば問題ない。
「よ、避けただと!!そんなはずはない!!‘ハイファイア’」
「・・・まぐれに決まっている。‘ハイアイス’」
先ほどの帯状の魔法スキルがいくつも作られ、赤と青のいくつもの帯が向かってくる。
だがそんなもの。
様子からいって、数が増えただけで威力は変わらない。
「数を増やしたところで!!!」
弾幕と言っていいほど飛んでくる魔法スキルを「見切」りながら、二人の子供に向かう。
少々強引に向かったせいで直撃コースの物もあったが、そんなもの魔法剣で切り落とせばいい。
ただそれだけでいいんだから、ごちゃごちゃ考えるより簡単だろう。
「なんで!?なんでだよぉぉぉぉおお!!」
「死ね!!死ね!!しねぇぇぇぇええ!!!」
半狂乱に叫ぶクソ餓鬼二人に近づく。
二人とも恐怖に染まった顔色で、バカみたいな量の魔法スキルを使っている。
絶望の表情。
敵とはいえ、子供相手にこんな表情を俺が作りだしたんだよな。
なら、せめて!!
「一撃で。」
「‘スレイブ’」
「苦しまないように。」
一振りで二人を切り裂き、上半身と下半身にわかれた様子を横目に、魔王が笑っていた。
・・・なぜ笑っていられるんだ。
お前の手下なんじゃなかったのかよ。
「魔法剣に剣士のスキル。・・・そうか!!貴様が爺どもがいっていた、約束させられた者か。ククク。どうやら今日の俺は運がいいようだな。」
「お前!!なんで笑っている!!」
「そいつらの死を悲しめとでも?また作るからいいさ。」
「てめえ!!」
「それよりも闘争を楽しもう。ああ。・・楽しみだ。」
気持ち悪い笑いを浮かべ、魔王は両手を上げていく。
武器なんかは持っていないが、上等そうな服と鎧が合わさった物を着ている。
おそらく、魔法主体のスタイルなんだろう。
判断に迷うが、どんな魔法を使うか分からないから自分から動くのは危険だ。
猪突猛進に突っ込むべきじゃなく、ここは様子をみてから考えるべきだ。
近接戦闘ならば「見切」りと聖剣技、身体強化スキルの「ドライブ」のおかげで上手く立ち回れるだろう。
なんとかそっちに持っていきたい。
そこに勝機を見出すのがより確実だな。
「我が名はデル。下級魔王ではあるが、魔王である。とりあえず、死ね。‘メガファイア’」
あれはやばい!!
なんだあの熱量、熱線は!!
様子見の待ち戦法が裏目に出たか。
「くそ!!‘メガガード’」
俺の周りに光の壁が出現する。
剣士系の防御スキルである、光の壁を作り出す‘ガード’。
それの三段階ある一番強いスキルである‘メガガード’。
魔法系統のレベルが弱い俺に出来る、最大の防御スキルであろうはずである。
・・・くっ。
破られるのか!?
戦士系最強の防御スキルだぞ!!!
マジか!!
「‘メガアイス’!!」
キィィィィィイイイン!!
甲高い音があたりに響き渡り、不意に圧力がなくなる。
「さっさと決めるよ!!‘ダークフレア’」
煙の中から小さい黒い玉がマシンガンのように、数多く魔王の方に向かっていく。
この声は・・・あいつは、なんで逃げなかったんだ!!!
砂埃が無くなっていき、魔王が見える。
左半身が穴だらけだ。
マジか!!なんて威力だよ!!
「くそが!!!なんだこれは!!!」
「あなた誰よ!!とにかく仁に何するのよ!!!」
「黙れ!!私の腕を!!!殺す!! ‘メガファイ・・’‘メガファイ・・・’何故だ!!なぜスキルを使えない!!!」
「知らねえよ。」
「!!?」
「とりあえず死んどけ。‘ハイエアロソード’‘スレイブ’」
シュィイン。
人を切る音って案外、静かなものだな。
俺は下から前方に向いた腕の付け根ごと首を刈り取る。
切ったときの一瞬の静かになるのもそうなんだが、手ごたえってあまりないものなんだな。
シャァァァァアアア!!!
首と腕を失った身体から黒い血が噴き出す。
「やられたのか!!私が!!!あはははは!!愉快よ!!!決まりには抗えなかったか!!」
首だけになっても喋れるとかどんだけ化け物だよ。
あり得なさすぎるだろう。
「だが、我は所詮ポーン。ただの兵隊よ。人間、貴様は何のために戦うのか。」
「知らねえよ。俺は生きたかっただけだし、晴香と一緒にいたいだけだ。」
「ふふふ。何をどうしようと貴様は必ず巻き込まれる。そういう風にもう決まっているのだから。」
「はあ?!どういうことだ。」
「ふはは。せいぜい踊れ。」
「くっ。・・・死んだか。」
せいぜい踊れだと。
決まっている・・・だと。
ふざけるな!!!
・・・ホント、ふざけるなよ。
一体この世界は・・・、どうなっているんだ。