表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

葛藤

ちょっと暗めの話。

4月22日。

 中高一貫校のくせして部活が毎日あるのは流石崎草といったところか。

 今日、この日の放課後、俺は初めて行動部……もとい帰宅部に出席しようとしているのである。本当に。

 実に恐ろしいことに。

 病院がとか塾がとか言って部活に出ないのはそろそろ限界かな、と思ってきていたし、それに。

 閑野先輩がちょっと怖いよ―――と、雪長兄弟に言われてしまったというのも、ある。

 おそらくそっちが本当の理由なのだろうけど。

 だろうけど――出たくないのであれば、本当に嫌なのであれば、やめるという選択肢もあった。大いにあり得る話だった。そして俺はそうするべきだったのだ、今から思えば。

 今から思えば、だから。

 後の祭りなのだ。

 覆水盆に返らず、なのだ。

 やってしまったことは――否、やらなかったことは、もう手遅れでしかなく。やめてしまわなかったのは、俺が、帰宅部に何かを期待しているから、と――そういうことなのだろうか。

 嫌だ。普通に嫌だ。

 ともあれ。

 帰宅部が得体のしれない活動をしているのは、広大な敷地の東側にずらりと聳える部活等の三階にある、第18選択教室だという。

 またの名を、家、という。

 帰宅部だから、帰る場所は『家』なのだ、と。

 雪長兄弟が自慢げに話していた。

 全くもってうざったらしいかぎりである。

 『家』行こうぜなどと言われても俺には理解できない。

 理解する気もないのだが。

 石畳の上を歩くコツコツというローファーの音がやけに反響する。中途半端な時間である所為で、或いは校舎やグラウンドが微妙に離れている所為か、帰宅中の生徒は少ない。

 居ない、ということはない。断じて。

 他の人がいない場所に、俺は一人ではいない。

 俺は一人にはならない。

 一人でいることの恐ろしさを――俺は知ってしまった。

 ただ……だからと言ってしっかりと前を見据えて歩いて行けているのかというと、けしてそういうわけでもない。肩を狭め、歩幅を狭め、存在を狭めて、鬱々として、俺はようやく歩けるのである。

 嘘である。

 真っ赤な冗談である。

 そんなことをすれば余計目立ってしまう。

 せいぜいが俯いて、まるで全生徒たちに迫害されているかのように(あながち間違っているというわけではないのだけれど)とぼとぼと歩くぐらいである。

 それが俺に許された全て。

 そのように歩けと、直接言われたわけではないのだが、俺が俺としてちゃんと崎草の一員であるために、やってきた方法。

 処世術。

 俺がここにいるために、俺には何ができるというのか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ