葛藤
ちょっと暗めの話。
4月22日。
中高一貫校のくせして部活が毎日あるのは流石崎草といったところか。
今日、この日の放課後、俺は初めて行動部……もとい帰宅部に出席しようとしているのである。本当に。
実に恐ろしいことに。
病院がとか塾がとか言って部活に出ないのはそろそろ限界かな、と思ってきていたし、それに。
閑野先輩がちょっと怖いよ―――と、雪長兄弟に言われてしまったというのも、ある。
おそらくそっちが本当の理由なのだろうけど。
だろうけど――出たくないのであれば、本当に嫌なのであれば、やめるという選択肢もあった。大いにあり得る話だった。そして俺はそうするべきだったのだ、今から思えば。
今から思えば、だから。
後の祭りなのだ。
覆水盆に返らず、なのだ。
やってしまったことは――否、やらなかったことは、もう手遅れでしかなく。やめてしまわなかったのは、俺が、帰宅部に何かを期待しているから、と――そういうことなのだろうか。
嫌だ。普通に嫌だ。
ともあれ。
帰宅部が得体のしれない活動をしているのは、広大な敷地の東側にずらりと聳える部活等の三階にある、第18選択教室だという。
またの名を、家、という。
帰宅部だから、帰る場所は『家』なのだ、と。
雪長兄弟が自慢げに話していた。
全くもってうざったらしいかぎりである。
『家』行こうぜなどと言われても俺には理解できない。
理解する気もないのだが。
石畳の上を歩くコツコツというローファーの音がやけに反響する。中途半端な時間である所為で、或いは校舎やグラウンドが微妙に離れている所為か、帰宅中の生徒は少ない。
居ない、ということはない。断じて。
他の人がいない場所に、俺は一人ではいない。
俺は一人にはならない。
一人でいることの恐ろしさを――俺は知ってしまった。
ただ……だからと言ってしっかりと前を見据えて歩いて行けているのかというと、けしてそういうわけでもない。肩を狭め、歩幅を狭め、存在を狭めて、鬱々として、俺はようやく歩けるのである。
嘘である。
真っ赤な冗談である。
そんなことをすれば余計目立ってしまう。
せいぜいが俯いて、まるで全生徒たちに迫害されているかのように(あながち間違っているというわけではないのだけれど)とぼとぼと歩くぐらいである。
それが俺に許された全て。
そのように歩けと、直接言われたわけではないのだが、俺が俺としてちゃんと崎草の一員であるために、やってきた方法。
処世術。
俺がここにいるために、俺には何ができるというのか。