彼は何故その部に入部することにしたのか? Ⅲ
「あ……」
どちらも声が出せないでいる。
なんで。
なんでここに。
あんたは、
引っ越して、遠くに行ったんじゃなかったのか。
俺のことを裏切るまで裏切って、
使い捨て玩具のように放り投げて、
どこかに消えていったんじゃなかったのか。
今更のように俺の前に現れて、
「あんたは一体、何を考えてるんだ」
ごめんなさい、とその瞳から涙を流して謝る彼女の声も、聞こえない。
聞く気がない。
「なんだよ彗斗、知り合いだったのか? 教えてくれればよかったのに」
千並が冗談めかした声で聞いてくるが、本当は知っているのだろう。
俺と彼女との間に何か確執があることを。
千並だけでなく、小並もどこか心配そうな目で俺たちを見ている。一歩引いているのは俺の視線が余りに激しかったからだろうか。
「ごめんなさい――ごめんなさい、すいくん、ほんとに、ほんとに、ごめん、なさい……!」
「先輩――あんた自分が何したか本当に分かって言ってるんですか。先輩がしたことの結果は、今でもちゃんと残ってるんです。俺が周囲から、どんな目で見られてるか、わかってるでしょう」
「すい、くん――」
「俺と小学校が一緒だったやつがこの学校にいる。それだけで周囲の俺に対する接し方はまるで割れ物だ。誰も接しようとしないし――俺だって関われなくなっている。それだって――その涙だって――嘘泣きなんでしょう」
「彗斗! 何があったのか知りませんが――流石に言いすぎですッ」
「小並は先輩のことを知らないから――だからそんなことが言えるんだ」
俺達が先輩について口論をしていると、不意に先輩が声を上げた。
「あっはは、やっぱりすいくんはすいくんだねえ。なんで引っかかってくれないかなあ。そうしたらあたしすいくんの有利になるように事を進めてあげたかもしれないのに」
その顔には、さっきまであった深い悲しみの色など一塵も浮かんではいない。
その様子に、小並と千並は絶句する。
「先輩は……閑野先輩は、そういう人なんだよ。わかっただろ。閑野先輩は、俺の人生をぶっ壊した人なんだ」。
俺が断言すると小並は、認めてはいないものの、僅かに納得した様子を見せていた。
「とっころでさー、すぅーいくんっ、帰宅部、入るの? ねえ、入るのっ?」
そういいながら俺に思いっきり抱きついてくる。
「・・・・・・・抱きついてこないで下さい、うっとうしい。それに俺はあんたがいる部活になんて入る気はない」
「くふっ、そう言わずにさーあ? 帰宅部楽しいよ? 一昨年同好会から部活に昇格して、知名度も上がったから部員数も増えたけど、同好会当時のアットーホームな空気もなくなってないらしいしねー」
「あ、えと、その、か、閑野・・・・・・先輩、ですか? 俺たちは、その、入ろうと思ってるんですけど」
「うん? うんうん、そうかあ。じゃあ入部届け出すときはすいくんも引き連れてきてねー」
「あ、は、はい・・・・・・」
「とりあえずこれから部活あるけど・・・・・・・・あ、帰宅部は基本毎日あるからね。んっでー、何だっけ? 見学だっけ? んー、あたしのほうから言っといてなんだけど思うけど、あんまり見学の意味ないと思うんだよねー・・・・・・・・・・・基本駄弁ってるだけだから。あ、でもいろいろ活動することもあるよ?」
「そ、そうなんですか・・・・・・? た、例えば?」
「地域の祭りで歌ったりとか、お菓子食べたり、ライブやったりとか、かな? コレが結構うけがよくてね? いやー面白いんだよなー」
「そうなんですかー」
小並は平然と返している。俺は話を聞くのも嫌になって踵を返した。
「えー、すいくん帰っちゃうの? こなみん、ちなみん、今度は引き摺ってでも連れてきてね?」
「は、はいっ」
ウインクをされ千並は顔を赤くする。ていうかこなみん、ちなみんってなんだ。
俺はもう付き合いきれなくなり、階段を下りて三号棟から出た。
うーん・・・・・・案の定今回ではまだ彗斗は部活に入ることができないままです・・・・・・今回で入れてもいいかなと思ったんですけどー、まあもう少し時間を置いて。 今回は正直どうでもいいことを長々と書きました・・・・・・
彗斗の先輩に対する嫌悪がかければそれでいいかなーと。