彼は何故その部に入部することにしたのか? Ⅱ
「すーいーとっ」「ぐはあっ」
と、そのとき背後から超大声から呼ばれたかと思えば背中に直撃したドロップキック。背骨が折れたかと思った。てか、足跡つくだろ。
「なんだよ……千並」
雪長千並、小並兄弟。一卵性の双子で、見分ける箇所は故意に作らないと全くない。二人はいつも髪型で分けている。ショートが小並、肩まで結んだ髪を結んでいるのが千並だ。
俺に声をかけた奴は髪を結んでいた。つまり、千並。だが、
「残念、俺は小並。千並はこっち」
まさか、と思い、千並だといわれたほうを見る。髪は短かった。
「……おい」
「くくっ、今一瞬引っかかりやがりましたねっ、やりましたですっ、くくっ」
と、髪の短いほう……つまり小並が言う。
「くく、じゃねえよ……なんて低レベルな……楽しいかこんなことしてて……」
『いや、全く』
声をそろえて言うなよ。
「寧ろこっちが教えてほしいですよ彗斗。彗斗は何か楽しいこととかないのですかっ? 僕と千並はなんかもう全てが楽しすぎてライフスタイルすら崩壊しそうな勢いなんですが」
「しらねーよ」
「知っとけよ」
「いやいやいや義務みたいに言われても」
「義務ですが何か」
「義務なのかよ!」
まるで自分たちが世界の中心かのように。
「てーか、彗斗がいままでそれを知らなかったことに少なからずショックを受けているんだが」
「それこそ知ったことかよ!」
僅かに荒くなった息を抑えると、俺は千並に言った。
「それはまあどうでもいい事として」
「どうでもよくないですよ彗斗!」
「どうでもいいんださっさと話をさせろ馬鹿! で! それで! えーと……あー、もうなんかなに言いたかったのかすら忘れちゃったじゃん! そう! そう! ……えーと、あ、思い出した、何の用?」
「そのたった5文字を忘れるくらい俺たちはお前に苦戦を強いていたというのか!?」
「え? いや、まさかまさか、いくら彗斗でもそれはない――」
「なんだ、その――疲れてんだからさっさとしてくれ」
『!?』
俺の一言で二人が息を飲む。え? ごめん話聞いてなかった。なに? 何の話? え? 俺?
「俺にどーしろってんだよもー……まーいいから早く話せ。少なからず時間を無駄にしたじゃねーか」
「いやいや、てか、まーそんなたいした用でもないけど、部活、のことで」
「本当に大したことじゃねーな」
嘘だけどな。
「それで? その部活がどうかしたか?」
「いやさ、実は俺ら『帰宅部』に入ろうと思っているんだが、彗斗もどうかなっと」
「は? 帰宅部? いや、崎草って部活絶対に入んなきゃいけないんじゃなかったっけ」
それとも俺の記憶違いだったか? いや、もう入学して一年経つ。流石にそれはないだろう――なら、帰宅部ってなんだ?
「違いますよ彗斗。崎草には実際帰宅部というものが存在するのです。ただ帰るのでは当然ないですが。この学校の不思議なところです。部活申請したところは大体認められてしまう。勿論二年間の同好会の実績を経てからですが――同好会から部活に昇格しなかったところは皆無だとか。あれ、知りません? 有名ですよ」
「いや、俺は運動部を中心に見てきたからな……」
「いや、それでも知ってる人は知ってると思うのですが……それにしても珍しいですね。彗斗なら選ぶのはきっと文化部かと思っていたのですが」
いや、だって俺友達いないし。なら上下関係厳しいところに入ったほうがいいだろ。思ったようなところはいまだに見つかってねーがな。
それを二人に伝えると、
「え……俺たち彗斗に友達認定されてなかったの……? 小学校からの腐れ縁だというのに?」
「腐れ縁と友達は違うだろ」
「いやでも腐れ縁の友達というのはよく聞きますし、そもそもこの会話を聞いていて僕たちが友達ではないといわれて納得する人など皆無だと思いますが」
「五月蝿い黙れそして死ね何回でも死ね」
「逃げたな」
「逃げましたね」
あーあー聞こえない聞こえない。何回も言ってるはずだが違うんだってば。なんと言うかちゃんと説明できないけど、俺が本当にほしいのは中学に入って、また一緒だねー、みたいな友達じゃなくて、始めまして、な友達なんだよ。
「ごほん、まあとにかく、それで、どうかな彗斗。帰宅部に入ってみる気はない?」
「てか、何をするんだよ帰宅部」
『知らない」です」
「おい!」
何故ろくに調べないでったし。
「いや、だってさ。知らないものは知らないんだよ。ポスターもない、勧誘もしてない、なのに存在だけはしてる謎の部活」
「はあ・・・・・・じゃあお前ら一体どこで知ったんだよ」
「その帰宅部かと思われる先輩に出会ったんだよ、彗斗。先生の手伝いで中三のいる三号棟にいったんだけどな、そしたら帰宅部、て声が聞こえて。その人に話しかけてみたら帰宅部の部員だって。君は運がいいね、て言われてさー。それでそれでな、よく聞けよ彗斗、その先輩がすっげ――――――可愛いんだよ!良かったら入ってねってもうズッキュ――――――ン!」
落ち着け。
それにしても、女、か。そんなに得意ではないんだが。あの人のことがあったからな。だが、
「まあ、いくだけなら」
と、了承した。
見学とかしたかったら私に言ってね、って言ってたからとりあえず三号棟行こうぜ、という千並に続いてその「先輩」の元へと向かう。
少しはしゃぎながら三号棟のドアをギィ、と開け、三階へと向かう。「先輩」のいる三年八組は三階だそうだ。
階段を上りきると、一人の少女がこちらへ歩いてきていた。童顔めのその少女。
千並が、あ、どうもこんにちは、という。
彼女は動かない。
俺も動けない。
その人は。
長いストレートの栗色の髪に薄水色のチェックのリボンをつけ、
幼い顔に青い瞳を輝かせる、
その人は。
俺の初恋の相手。
初めて告白した人。
初めて裏切られた人。
女性が嫌いになった原因になった「あの人」。
怒涛の急展開です。
それにしても彗斗くんは吃驚のポリシーを持ってますね。自分で書いててなんですが。
幼馴染と友達は違う、ですか。まあ違う……といえば違うかもしれませんが……。
さて、今回はなんか先輩童顔少女が出てきました。
よく考えてみたら。
この人たちまだ中学生な訳で、初恋とか、マセてますねー。
……リア充が。
次か次くらいに彗斗くんは部活に入るでしょうか。
たかが入部にどれだけ時間をかけているのでしょう私は……