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彼は何故その部に入部することにしたのか? 

  俺は走っていた。

 何故なら、遅刻しそうだからである。

 今日は4月3日。小3の頃から勉強に勉強を重ね(おかげで小4~小6までの友達は皆無だった)、決して易しくはない先草学園の入試を突破し、首席で合格してから迎える二回目の春の最初の登校日。

 つまり、入学式。

 中一の時から先生や生徒に期待や羨望などの目を向けられていた俺は、主席の名に恥じない優等生、というわけではないが、それなりの評価を得ていたということを自負している。だが俺は、その評価が良ければ良いほどミスを犯した時のリスクが高いことを知っている。そのミスが、どんなに小さいものであっても、だ。

 それを恐れて俺は今まで遅刻などしたことがなかった。学校には、所定の時間に登校しなければならない。それが、ルールだから。

 それなのに、俺は入学式という大事な日に遅れてしまいそうなのである。

 初体験なせいでどう対処していいのかわからない。

 学年首席という立場である以上、学校で行う大きな大きなイベントとなると先生から数々のことが任される。入学式も、また然り。今回俺は、新一年生の案内役と中学2年生の代表を割り当てられていた。案内役はともかく、代表の言葉は俺しか原稿を持っていないため代役はアテにならない。

 「代役が当てにならない」仕事をミスった場合、それは当然小さなミスにはなりえない。今日から俺に向けられる視線には非難と同情と憐憫、もしくはそれに類する感情に限られるだろう。

 それは――――嫌だ。

 突き刺さる高校生の目から逃れるように、俺は校門を走り抜けた。

 ふと、学校の時計が視界に入ってくる。今、8時15分。入学式は8時30分。

 間に合わない?まさか、間に合わせるさ。

 急いで中1の教室へと向かった。


「えー、ただいまより、崎草学園中等部、西暦2014年、第128回入学式を始めます」

 講堂の中に、理事長の声が響く。校長が壇上に上がるのを見ながら、俺は心底ほっとしていた。俺がもし今年から中1の教室が変わっていたことを思い出していなかったら100パーセント遅れていたよ・・・・・・。俺がダッシュで中1の教室に向かったときには、もう既に中1が廊下に並んで待機していた。

 中1、ナイス。

 ところでこの学校は、多くのマンモス校がそうであるように入学式は中高別々だ。全校生徒が3000人を超える先草学園の全生徒は、当然全員が2000人収容の講堂に入るわけもない。とは言うものの、広いものは広いのだが。

 このばかばかしい広さの所為で一列も相当長いし、一学年並べるのにも相当苦労するのだ。もう一生やりたくはない。

 一応出席しているとはいえ中2、中3のやることは少ない。というか無いに等しい。だらだらとどうでもいい事を考えるうちに入学式は終わりを告げた。中1から順にぞろぞろと教室に帰る。中1はこれから学校生活について話を聞かされるのだが、先生によってはどうでもいい事・・・・・・つまり自分の武勇伝を語り始めるのだ。そんな先生が担当になったらその年は諦めるしかない。そういう奴はまともに授業しない奴が殆どだからな。

 心の中で静かに中1にエールを送る俺の隣には――誰もいない。

 なぜか?

 わざわざ問うまでもない。友達と呼べる存在がないからだ。

 俺に向けられてきた視線――期待、羨望・・・・・・そして嫉妬と敬遠。皆が皆、俺には手も届かないと自分の中で決着をつけ、俺を遠ざける。自尊心・プライドが傷つかないようにするために。

 こいつ・おれをなんとかして位置の座から引き摺り降ろしてやろうという気概を持った人物は、一人もいなかった。

 今までに、一人も。これからも、きっと。

 周りがそんな状況だったために――まあ元々俺は一人が好きだったからどっちから始まったかは定かではないが――お互いがお互いに近づけない。避けてしまう。いつのまにか、嫌な悪循環が廻り始めていた。

 クラスに戻ると既に大半がいて、それぞれ会話などに興じていた。俺はゆっくり絵と歩いて席へ戻る。確かまだあのミステリ小説読み終わってなかったよななどと思いながら椅子に座ると、ドサッ、と、目の前に大量のプリントが置かれた。ぱっと上を見ると、隣席の女子がいた。あぁ、これを配れと。

「大丈夫、やっとくから」

「へっ・・・・・・、あ、あ・・・・・・お、お願いしますッ・・・・・・」

 別に敬語じゃなくても、という前に彼女はだっと駆け出して去っていった。

 整理する風を装って聞き耳を立てていると、彼女やその友人の話し声が聞こえた。

「みなみちゃん――っ、怖かったよ――っ」「あー、はいはい」「呉澤さんって確かにちょっと近づけない感じがありますよね・・・・・・何か言われたのですか?」「グ、ぐすっ・・・・・・だ、『大丈夫、やっとくから』って言われたー」「あれ・・・・・・・? 思ったより怖くなくない?」「凛ちゃん、怖いって、先入観じゃないんですか?」「まあ近寄りがたい感じは確かにあるけどな」

 いぃよっしゃぁぁああああ―――――――!! 誤解が少しだけ解けたぞこれはっ・・・・・・!

 ふふふ、と笑う。人目? 気にするものか。俺は今、誤解が解けたんだぁああっ!

 僅かに顔をにやけさせながら中2全クラスへプリントを配りに行く。

 俺のクラスでは、彼女たちが俺を見て、なんか笑ってたよ、何考えてるか分かん無いな、やぱっり怖いですねってか気持ち悪いです、なんて呟いていることにも気づかずに。

 そういえば、と俺は思い出す。

 部活・・・・・・なんにするべきか。まだ迷っているんだよな。

 とはいえ、この時期に部活の選択に迷うのは、なんら珍しいことではない。というかそれが普通なのだ。

 何故なら、まだこの学年では誰も部活に入っていないから。

 崎草学園の部活制度は他校とは少し変わっている。他の数多の入学1、2ヶ月程度で多くの生徒が入部するが、この学校は体験しかさせない。覚えることの多い中1を部活で縛るのはよくないという考えを持っているからだ。

 そして、これはまあたまにあることだが、この学校は全員部活に入らなくてはいけない。

 こんな二つの校則がある所為で、俺はわざわざたくらすまで言って個々人の名前が書かれたプリントを全員に配らなければならなくなったのだ。ふざけるな。俺が友達がいないことを後悔するのは大体においてこういうときだ。つまり、一人じゃ終わらない仕事するとき。俺の印象が酷いのは他クラスでも同じで、俺がプリントをせっせと配っていても全員が全員揃って無視。挙句俺のことをちらちらと見ながらひそひそ話。別に捕って食ったりしねーっつーの。

 そんなわけで一人寂しくプリントを配り終え、クラスに戻る。

 さて、部活だ部活、どうしようか。どこに入ろうがこれ以上周囲の目は変わらない気がするので部活によって差別とかは市内が、できれば上下関係が厳しいところがいい。先輩と仲良くなれるところだと、俺の孤独さが顕著になるからな。水泳部、バスケ部、剣道部や弓道部、硬式テニス部などの運動部がその筆頭だろう。そう思って上下関係の厳しい運動部は一通り廻ったのだが、基本的にこの学校は勉強面以外ではそこまでルールに縛られない学校のため先輩後輩が仲のいい部活が多い。だから、俺の理想に合う部活が見つからないのだ。

「はあ・・・・・・」

 本日五度目くらいになるであろう溜息をつく。本当にもう、どうしてこう上手くいかねーんだろーな。

 終礼を早く終わらせるためにやる気のない担任に挨拶させ、とぼとぼと廊下にでる。

 俺はどう映っているのだろう。

 帰り道も、いつも一人。二宮金太郎のように本を読みながら猫背気味に歩く俺の図方を見て、何処かの誰かが嘲笑っているのではないか、と。考えてしまうのだ。

 怖いのか? 俺は、怖がっているのか?

 そうだな、俺は怖いのかも知れない。

 いつも一人でいる癖に、人目はとても気になる。

 たいした矛盾だな。

 自嘲しながら校門を潜り抜け、行きに走った坂を下って行く。この学校は通学路が学年ごとに違う。つまり。俺が今歩いているこの坂には、中2しかいないのだ。そして、中2にもなって友達が一人もいない奴など俺くらいしかいない。

 要するに何が言いたいかというと、皆、友達と帰るのだ。

 人は群れる動物だから。

 ・・・・・・なんて、格好いい言葉で言っても無駄だな。

 行動自体は滅茶苦茶格好わりーもんな、俺。

 サンタでも何でもいいから、俺に友達をくれよ、と、本日6度目くらいになるであろう溜息をついた。

        

えー、色々間違えました。どうしてこうなった私。


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