第3章1話 交融
奇妙な夢のあとも
二人の生活は当たり前のように続いていた。
白い光に包まれた、あの夢以外には、
元に戻れそうな予兆は何ひとつ見当たらない。
謙一郎は、この不可解な現象について
手がかりを探そうと試みてはいた。
だが、現実は思った以上に手狭だった。
ひっきりなしに届く部下からのメール。
ときおり、容赦なく踏み込んでくる隣人。
そして、簡単には整理のつかない元妻との距離。
どれもが目の前に積み上がり、
肝心の原因へと手を伸ばす余裕を、
少しずつ、確実に削いでいった。
一方、フィンは、まるで別の時間を生きているようだった。
日本での生活にすっかり馴染み、
当初は衝撃と混乱しかなかった剣道にも、
いつの間にか、自分から足を運ぶようになっていた。
汗を流し、竹刀を握り、
痛みすらも、日常の一部として受け入れている。
調べることなど、何ひとつしていない。
それでも、不安そうな様子はなかった。
まさに、
“Easy, easy. Everything’s gonna be fine.”
という、彼なりの人生哲学のままに。
時が経てば、
何かが自然と元に戻ると信じているのか。
それとも、戻る必要そのものを、
いつの間にか感じなくなっているのか。
対極にある二人の歩みをよそに、
運命だけは、静かに、しかし確実に動き始めていた。
果たして、二人が元に戻れる日は来るのだろうか。
それは神か、あるいは——
気まぐれな妖精のみぞ、知るところである。




