養子縁組で義姉に恋した俺は養父母の離婚で別れ離れになった義姉と再会し結婚することになったのだが
「や~い、健太の捨てられっ子ぉー!」
「親無しはこの公園で遊ぶなよ!」
次の瞬間、俺の頭に石が投げつけられる。
小さい頃は自分をイジメてくる奴らに何も逆らうことができなかったが12歳になった俺は違う。
そいつらをキッと睨みつけて俺に暴言を吐いた奴らに掴みかかりケンカになった。
だがそいつらの方が人数が多くて俺はすぐにボコボコにされてしまう。
「こらーッ! やめなさい! あなたたち!」
「うわ! また鬼婆姉ちゃんが来たぞ! 逃げろ!」
俺を殴りつけていた奴らが蜘蛛の子を散らすようにいなくなる。
「もう! 鬼婆姉ちゃんなんて失礼しちゃうわね! 健太、大丈夫?」
そう言って俺を助け起こしてくれたのは俺より4歳年上の俺の義姉の優実だ。
俺は5歳まで施設で育ったが5歳の時に優実の家に養子として引き取られた。
優実は仏頂面をしていた俺に手を差し出し「これから私がお姉ちゃんになるからよろしく」と笑顔で微笑んだ。
その笑顔に幼い俺の心に熱い恋の炎が宿ったことは秘密にしている。
幼いながらも優実は俺の義姉であり家族になるのだから恋をしてはいけないと分かっていたからだ。
それから優実は俺のことをいろいろ面倒みてくれる。
施設育ちというのはそう簡単に隠せるものじゃない。
同級生の奴らは俺を「親無し」と呼びイジメたがその度に優実がいつもどこからか飛んできて俺を助けてくれた。
そのことに感謝したいのだが俺は素直にそれを表現できないでいた。
「別に優実が来なくてもあいつらに負けなかったのに」
「はいはい、そうね。健太は強い子だもんね。でも殴り合いのケンカはしちゃダメよ。イジメる子たちに勝ちたいなら勉強で勝ちなさいね」
「俺は優実のように頭よくないから無理だよ」
「そんなことないわよ。どんなことも諦めちゃダメなんだから。でも健太がダメな義弟の方がいいこともあるけど」
「な、なんだよ、俺がダメな義弟の方がいいなんて、どういう意味だよ!」
「フフフッ、だってその方がいつまでも私を「お姉ちゃん」として頼ってくれるから嬉しいかなって」
「…っ! 俺は優実を姉さんなんて思ったことないよ!」
俺の中では優実は初恋の相手であり大人になったら義姉であっても自分の気持ちを告白して結婚しようと思っていた。
義理の姉弟なら結婚が可能だと自分なりに調べて知っていたからだ。
だから一度も優実を「優実姉さん」と呼んだことはない。
すると優実は少し視線を落とし寂しげな表情になる。
「そうか、私は健太のお姉ちゃんとして失格なのね……健太にそこまで嫌われてると思わなかったな……」
そうじゃない! 優実のことを異性として見てるんだ!
義姉じゃなくて恋人になって欲しいんだ!
心の中でそう叫んでもその言葉を今口にすることはできない。
優実も俺もまだ子供だから大人になるまでは家族としていなければならないのだから。
「でも私は健太のことずっと好きだから安心してね」
ニコリと微笑む優実に俺は何も言えず黙って二人で自宅に戻った。
そしてそれから一月ほどした時に俺と優実は両親から離婚することを伝えられた。
優実は母親に俺は父親に引き取られることになった。
俺は優実と家族としてさえ一緒にいられなくなったことに大きなショックを受ける。
そして母親と優実が家を出て行く日。
優実と離れ離れになる事実に俺が顔を俯けていると優実が俺に声をかける。
「健太。私は健太のお姉ちゃんにはなれなかったけど健太はずっと私の家族だからね。必ず大人になったら健太に会いに来るからそれまで何があっても生きて待ってるんだよ。約束だからね」
優実の母親は仕事の関係で離婚した後は海外に行くらしい。
だから優実の言う通り、大人になるまで優実と再会することはないだろう。
「うん。大人になったら俺が優実に会いに行くから!」
涙が零れそうになるのをグッと堪えてそう答える。
優実は俺と初めて出会った時と同じ笑顔で俺を強く抱き締めたあと母親と共に出て行った。
それから俺は中学生になり将来は少しでも立派な大人になって優実と再会した時に「結婚」を申し込もうと勉強を頑張った。
特に将来、外国に住んでいる優実を迎えに行く時に困らないように外国語に力を入れた。
その結果、一流学校とまではいかなかったがそれなりの大学を卒業し俺は社会人となった。
しかし俺が就職した会社はブラック企業で世間では名の知れた企業だったがパワハラなども横行しサービス残業など当たり前。
そんな毎日に段々と俺も心身ともに追い詰められていく。
「こんなこともまだできないのか! この馬鹿が!」
「す、すみません! 課長!」
書類を頭に投げつけられた俺は自分の上司である課長に謝る。
自分の席に戻ると今度は主任の先輩に書類の束を押し付けられた。
「これ、明日の朝までにやっておけよ。たいした実績もないお前がこの一流会社にいられる理由は荷馬車の馬のように働くことだけなんだから」
「は、はい……」
社会に出ても俺をイジメてくる奴らはいる。
最初はそんな奴らを見返してやりたいと思ったこともあったがもうそんな気力もない。
もう、俺はダメかもしれない……
そんな想いを抱きながらなんとか仕事を片付け深夜に会社から帰宅するために道を歩いていた。
転職することも考えたが優実と再会した時にそれなりに有名な会社の会社員になっていれば優実も俺との結婚を考えてくれるかもと思うと二の足を踏んでしまう。
だけど……もう限界だ……ごめん、優実……
横断歩道の赤信号で歩みを止めた俺だが疲れ切った俺に悪魔の声が聞こえる。
ここで一歩踏み出せば楽になれるかも……
「ねえ、あなた、健太でしょ?」
「え?」
足を踏み出す寸前で俺は自分の名前を呼ばれてハッと我に返る。
声のした方を振り返るとそこには外車が一台停まりその運転席から女性が顔を出していた。
「もしかして……優実……?」
「そうよ、優実よ。久しぶりね、健太。ようやく再会できて良かったわ」
その女性は髪型が変わり化粧をして大人の顔になっているが間違いなく俺の義姉だった優実だ。
優実はニコリと微笑む。
「これから帰るんでしょ? 送ってあげるから車に乗って。いろいろ健太とも話したいし」
「う、うん……」
俺は優実の笑顔に操られるようにして車の助手席に乗り込む。
すると優実はすぐに車を発車させた。
「優実は日本に帰っていたのか?」
「帰って来たのは最近よ。健太に大人になったら会いに行くって約束したからね」
「そうだったね……俺も……優実に会えて嬉しい……でも、俺……本当は優実を迎えに行くつもりだったんだ……」
俺は優実と再会できた嬉しさと同時に今の自分の惨めな状態が悔しくて涙が止まらなくなってしまう。
「苦しいことや私に言いたいことがあるなら全部聞いてあげるから話して、健太」
「う、うん……実は……」
優実に促されて俺は酷いパワハラや残業続きで辛かったことと立派な大人になって優実と結婚したかったことを全て打ち明けた。
優実は黙って俺の話を聞いた後にニコリと微笑んだ。
「そうか。健太が一度も私を「お姉ちゃん」と呼ばなかったのは私を異性として見ていたからなんだね」
「ごめん、優実。こんな俺、気持ち悪いよな……」
「あら、どうして? 実は私も健太のこと異性として好きだったのよ。でも私も健太の「お姉さん」じゃなきゃいけないって思ってた」
「え? そ、それじゃ……」
「私は健太のことが異性として好きなの。健太、私と結婚しましょ」
「ほ、本当に……?」
「嘘を吐いてどうするのよ。昔は「姉弟」としての家族だったけど今度は「夫婦」としての家族になりましょう。それに仕事は転職しなさい。健太は私を迎えに来るつもりだったんなら私が住んでいた国の言葉を勉強したんでしょ?」
「う、うん。勉強したよ」
「それなら私の働いてる会社を紹介してあげるわ。うちの会社は日本に進出したばかりで通訳できる人材を探していたの」
「わ、分かった! それで優実と結婚できるなら俺は転職する!」
後日、俺は優実が紹介してくれた会社に転職して優実とも結婚した。
優実も働いているこの会社はアラビア系の企業だ。
優実が母親と移り住んだのはアラビアのある国だった。当然、そこではアラビア語が話されている。
だから俺は優実と別れてからアラビア語を習っていたのだ。
その会社で俺は日本語とアラビア語の通訳者として重宝されている。
以前の会社のようにサービス残業などもパワハラもない快適な職場だ。
優実とは所属する部署が違うので会社で会うことはないし帰宅時間にもズレがあるがそれぐらいは許容範囲だろう。
今日も俺の方が先に自宅に帰ったのでテレビでニュースを見ていた。
すると俺が勤めていた会社のニュースが流れる。
『Rグループの本社にサイバー攻撃があり数百万件の個人情報が流出しました。個人情報にはクレジット情報や個人口座などの情報も含まれていたとのことです』
個人情報の流出か。これだけ大規模に情報流出されたらあの企業の信用もガタ落ちだな。
あのパワハラ課長も意地悪な主任も慌てふためいてるだろうぜ!
まったくこれ以上のざまあはねえぜ! アハハハハハハッ!!
その後もその会社の株価が暴落していたり顧客からの問い合わせの対応に四苦八苦している状態だとニュースで流れていた。
俺もいい時期に転職していて良かったな。
全部、優実のおかげだ。愛してるよ、優実。
『ユミ。君の能力は素晴らしいね。これでRグループは失脚して我が社と取引きのあるKグループが日本で業界トップになれるよ』
『ありがとうございます。社長』
『そういえばユミは結婚したんだよね。日本人の従業員をひとり雇うだけで君と雇用契約を結べるのは嬉しい限りだ。それに君の夫殿は予想外に役に立ってくれているし』
『社長。この件はくれぐれも私の夫には内緒にしてくださいね』
『分かっているよ。私たちは世界でもトップレベルのハッカーの君を敵に回すほど愚かではないよ。今後とも君の能力に期待している』
社長室を出た優実はタブレットを操作して映像を映し出す。
そこには自宅でテレビを見ながら笑っている愛する夫の健太の姿がある。
自分が仕掛けておいた隠しカメラからの映像を見ながら優実は微笑む。
「健太。あなたがRグループの奴らにイジメられていたのは遠くに居ても知っていたわ。あなたが私のことを好きなのも。情報を得るのは私の得意分野だからね。だから愛するあなたを傷つけたRグループを徹底的に潰すことにしたの。ケンカというのは拳で殴るだけがケンカじゃないのよ。あなたにケンカを売る奴らは私が『情報』という武器で叩きのめしてやるわ。だってあなたは私の唯一の「家族」ですもの。昔も今も未来永劫にね。愛してるわ、健太、フフフッ」




