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第9話 村の秘密 酩酊するセリアとフェン ※挿絵追加 セリアさん

※挿絵追加 セリアさん 


挿絵(By みてみん)


 里へ戻った俺たちを待っていたのは、盛大な歓待だった。  だが、うたげの前にやらなければならない重要な儀式がある。


「主様、これを」


 ガルム族長から手渡されたのは、俺が仕留めたグランド・ボアの巨大な頭蓋骨スカルだ。  俺は教わった通り、里の入り口に設けられた祭壇――木の枝で組まれた高い場所に、その頭骨を丁寧に安置した。


「……我らに肉と毛皮を与えてくれた森のカムイに感謝を」


 俺が祈りを捧げると、周囲で見守っていた獣人たちが一斉に唱和した。  これは銀狼族の――いや、この地方の獣人たちに伝わる古い習わしだ。  獲物の魂を天へ送り返し、その骨を高く掲げることで、再訪を願う。そして何より、この獲物を皆で分け合うことこそが、共同体における最大の「名誉」であり「信用の証」となるらしい。


「カイ殿。貴殿の働きにより、里は潤った。今宵は貴殿を『同胞』として歓迎しよう」


 ガルムの言葉に、里人たちが歓声を上げる。  どうやら俺は、この閉鎖的なコミュニティに受け入れられたようだ。


 ◇


 儀式が終われば、次はお楽しみの宴会だ。  広場には大鍋が用意され、俺が解体したボアの肉が山盛りにされている。


「さあ、調理はお母様に任せてくださいね」


 フェンの母上――名をセリアという――が、張り切って鍋に水を張り、豪快に肉を放り込んだ。  そして、手にしたのは……巨大な岩塩の塊だけ。


「え、セリアさん? 調味料はそれだけですか?」 「はい? 素材の味を活かすには、お塩と水だけで煮込むのが一番ですよ?」


 セリアさんがキョトンとする。  周囲を見渡しても、みんなそれが当たり前という顔だ。  ……なるほど。文化的には素晴らしいが、美食家的にはNGだ。  猪肉、特に野生のボアはクセが強い。塩茹でだけでは、どうしても獣臭さが残ってしまうし、肉も硬いままだろう。


「セリアさん。せっかくの最高級肉です。俺に少し手を加えさせてもらえませんか?」 「あら、カイ様がお料理を? でも、伝統の味付けが……」 「安心してください。もっと皆が笑顔になる魔法をかけますから」


 俺はウィンクをして(セリアさんが少し頬を染めた)、システムウィンドウを展開した。


『 生成(Create):[ 熟成合わせ味噌 ] [ 根菜セット(大根・人参・牛蒡) ] [ 生姜 ] [ 日本酒 ] [ 砂糖 ] 』


 そう、猪肉と言えばこれしかない。『牡丹鍋ぼたんなべ』だ。


 俺はまず、薄切りにしたボアの肉を、大皿の上に「牡丹の花」のように美しく盛り付けた。  鮮やかな赤身と真っ白な脂身のコントラストが美しい。これを見せるだけで、周囲から「おおぉ……」と感嘆の声が漏れる。


 鍋には昆布出汁を張り、たっぷりの日本酒と生姜を投入。  そこに、特製の合わせ味噌を溶かし入れる。  グツグツと煮立った濃厚な味噌スープに、ささがきにした牛蒡ごぼうや大根などの根菜を放り込む。


「いい香り……! 味噌の香ばしさと、生姜の爽やかな匂いが……!」


 フェンが尻尾をブンブン振りながら鍋を覗き込む。  最後に、主役であるボアの肉を投入し、軽く火を通す。脂身が透き通り、縮れた頃が食べごろだ。


「よし、完成だ。『特製・銀狼風牡丹鍋』。召し上がれ!」


 ◇


「「「いただきます!!」」」


 里人たちが一斉に器を持ち、ハフハフと肉を頬張る。


「これはなんですか…!!!!!」 「うめぇ!!?」 「脂が甘い! 味噌と絡んでとろけるようだわ!」


 あちこちで絶叫が上がる。  特に、最初は「どうせ泥の味よ」と悪態をついていた次女のルナは――。


「ん……っ! くぅ……!」


 無言で震えていた。  器の中の肉汁と味噌が染み込んだ大根を齧り、次に肉を口に運び、目を閉じて咀嚼する。


「……悔しいけど、美味しい。……お替わり」


 完敗を認めたのか、空の器を突き出してきた。素直じゃないが、可愛いもんだ。


「さあ、カイ殿も飲まれよ! これは里一番の秘蔵酒だ!」


 上機嫌のガルム族長が、俺の杯にドボドボと酒を注いでくる。  強い果実酒のようだ。匂いだけで酔いそうなくらい度数が高い。  俺は下戸ではないが、この場の全員が潰れるまで付き合わされる予感がした。ここで泥酔しては、万が一の事態(主にルナの襲撃など)に対応できない。


(……すまんが、チートを使わせてもらうか)


 俺は杯を口に運ぶフリをして、指先で小さくコマンドを入力した。


『 Target : Cup_Contents 』 『 Edit_Property : [ Alcohol_Content : 0% ] 』 (対象:杯の中身 > プロパティ変更:[ アルコール度数:0% ])


 見た目も味もそのままだが、成分だけは「ただの美味しいジュース」に書き換わった。  これならいくら飲んでも酔わない。


「いただきます!」


 俺は杯を一気に煽った。


「おお! いい飲みっぷりだ! 気に入ったぞカイ殿!」


 ガルムが豪快に笑い、俺の背中をバンバン叩く。  こうして、宴は深夜まで続いた。


 ◇


 宴もたけなわ。  ふと、俺は妙なことに気がついた。


(……そういえば、男がいないな)


 広場を見渡す。  賑わっているのは、美しい銀髪の女性や、愛らしい少女たちばかり。  男性の姿をしているのは、族長のガルムだけだ。他の男たちは狩りに行っているのかと思ったが、これだけの宴にいなければおかしい。


「ガルムさん。この里、男性が少ないようですが……」


 俺が尋ねると、酔いの回ったガルムは、少し寂しげに、しかし誇らしげに空を見上げた。


「少ないのではない。ワシ『しか』おらんのだ」 「え?」 「銀狼族のオスは、一つの群れに一匹しか生まれん。ワシが死ねば、ワシの魂はまた誰かの腹に宿り、次のオスとして生まれ変わる。そうやって血を繋いできたのだ」


「……転生、ですか」 「うむ。だからこの里の娘たちは皆、ワシの娘であり、家族だ。だが……」


 ガルムは意味深に俺を見た。


「異種族の男を受け入れたのは、カイ殿が初めてだ。もしや、森の神は新たな血を求めているのかもしれんな……」


 ガルムの言葉に、俺は背筋がゾクリとした。  男は一人。死んだら転生。  つまり、もしガルムがいなくなれば、この里の「唯一の男」は――。


(……いやいや、考えすぎだろ)


 俺はその思考を振り払おうとした。  だが、今の状況はすでにハーレムの前兆を示していた。

挿絵(By みてみん)

「主様ぁ~ん♡ 飲み足りないですぅ~♡」 「あらあら~、カイ様ぁ。お肌ツヤツヤで素敵ですねぇ~♡」


 両脇から、重量感のある感触が押し寄せてきた。  右からは、泥酔して呂律が回っていないフェン。  左からは、これまた顔を真っ赤にして色気が倍増した母・セリアさんだ。




「フェン、飲みすぎだぞ。セリアさんも……」 「いいじゃありませんかぁ。ねぇ、カイ様。私のお酌じゃ不満ですかぁ?」


 セリアさんが、豊満な胸を俺の腕にむぎゅぅぅぅ、と押し付けてくる。  フェン以上の熟れた果実の弾力。そして大人の余裕を感じさせる甘い香り。  親子丼どころの騒ぎじゃない。この母にしてこの娘あり。遺伝子の暴力だ。


「マ、ママぁ~! 主様は私のぉ~! とっちゃダメぇ~!」 「ふふふ、早い者勝ちですよぉ?」


 二人の美女(しかも布面積極小)に挟まれ、俺はサンドイッチの具状態だ。  ノンアルを飲んでいるのに、フェロモンだけで酔いそうになる。


「……もう、だらしないわね二人とも」


 少し離れた場所で、ルナが呆れたようにため息をついていた。  だが、その手にはしっかりと猪鍋の残りが入った器が握られているし、顔も少し赤い。


「カイ殿、すまんが妻と娘を頼む……ぐぅ……」


 頼みの綱のガルムは、すでに酒樽を抱いて沈没していた。  マジか。


「うぅ……主様ぁ……眠いですぅ……おんぶぅ……」


 フェンがとろんとした目で俺に抱きついてくる。  意識も限界のようだ。


「仕方ないな。部屋まで運ぶか」


 俺はセリアさんを近くの女性陣に任せ、フェンを背負い上げた。  背中に伝わる圧倒的な柔らかさと熱に理性を削られながら、俺は彼女の部屋へと向かった。


 ◇


 通された客室(という名のフェンの私室)に、彼女をベッドに降ろす。  無防備に寝転がったフェンの姿は、あまりにも刺激的すぎた。  マイクロビキニの紐は緩み、褐色の肌が月明かりに照らされている。


「んぅ……主様……大好き……」


 寝言で愛を囁かれ、俺は思わずドキリとする。  布団を掛けてやろうと身を乗り出した、その時だった。


 ガシッ。


「……え?」


 フェンの両腕(獣の手)が、俺の首に回された。  寝ているはずの彼女が、強い力で俺を引き寄せたのだ。


「……逃がしませんよ……? 主様……♡」


 薄目を開けたフェンが、妖艶に微笑む。  その瞳は、酔っているようでいて、獲物を狙う狩人のように鋭く光っていた。


 ドサッ。


 抵抗する間もなく、俺はベッドに引きずり込まれた。  上に乗ってくる、熱い体温と甘い匂い。


 これは……まさか、そういう展開ラッキーイベントなのか――?


(続く)

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