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第7話:「臭いのよあんた!」

翌朝。  目覚めた俺の体調は、驚くほど重かった。体調が悪いわけではない。超ド級のパイパイが俺を圧殺しようとたくらんでいるのだ。


「んむぅ……主様、あったかいですぅ……」


 隣では、俺の布団(と俺の体)を占領したフェンが、幸せそうな寝顔で涎を垂らしている。  このまま二度寝と洒落込みたいところだが、空腹がそれを許さなかった。


「……腹減ったな。胃に優しいもんでも作るか」


 俺はそっとベッドを抜け出し、キッチンへと向かった。  今日こそはきちんとした朝食を摂るのだ。


 俺は空中にウィンドウを展開し、食材データを呼び出した。  作りたいのは、日本人のDNAに刻まれた最強の回復食――『お粥』だ。


『 生成(Create):[ 利尻昆布(最高級) ] [ 魚沼産コシヒカリ ] [ 軟水 ] 』 『 生成(Create):[ 本醸造醤油 ] [ 本みりん ] [ 片栗粉 ] 』


 まずは鍋に水を張り、昆布を入れて火にかける。  沸騰直前で昆布を取り出すと、黄金色に透き通った出汁だしができあがる。これだけで勝ち確だ。  そこに洗った米を投入し、弱火でコトコトと煮込む。米の花が咲き、ふっくらとした『全粥』になるまでじっくりと時間をかける。


「さて、ここからが本番だ」


 ただの白粥じゃない。今日はひと手間加える。  別鍋に用意した昆布出汁に、醤油とみりんを数滴。香りづけに少しの塩。  煮立ったら、水溶き片栗粉を回し入れて――。


「できた。『鼈甲餡べっこうあん』だ」


 とろりと艶めく、琥珀色の餡。  これをお粥にかけることで、冷めにくく、かつ喉越しの良い極上の一品となる。


「主様……? なんだか、お出汁のいい匂いが……」


 鼻をひくつかせながら、フェンが起きてきた。  だが、テーブルに置かれた丼を見るなり、彼女の耳がぺたん、と倒れた。


「あ、あの……主様。その、ご飯の上にかかっているドロドロした液体は……なんでしょうか?」


 フェンが怯えたように後ずさる。  無理もない。この世界には「あんかけ」という調理法がないらしく、彼女の目にはスライムか何かに見えているようだ。


「毒じゃないぞ。出汁に『とろみ』をつけたんだ。冷めないし、美味いんだぞ」 「と、とろみ……? ヌルヌルしてますけど……」 「騙されたと思って食ってみろ」


 フェンは恐る恐るスプーンを手に取り、餡と粥を掬って口に運んだ。


「んむ……ッ!?」


 瞬間、彼女の琥珀色の瞳が見開かれた。  怯えの色は一瞬で消え去り、代わりに至福の表情が広がる。


「はふっ、はふっ……! おいしいっ! なにこれ、おいしいですぅぅ!」


 口いっぱいに広がる昆布の旨味と、優しい醤油の香り。  とろっとした餡が、米の一粒一粒に絡みつき、喉を滑り落ちていく快感。


「このヌルヌル、凄いです! 口の中がずっと旨味でコーティングされてるみたいで……! 体の中からポカポカします!」 「だろ? これが『あんかけ』の魔力だ」


 あっという間に丼を空にしたフェンは、「おかわり!」と尻尾を振った。  病み上がりの朝食は大成功だったようだ。


 ◇


 腹を満たした俺たちは、ログハウスを収納し、再び北を目指して歩き始めた。  山道を進みながら、俺はずっと気になっていた“重大事項”を、なるべく真面目な顔で切り出した。


「なあフェン。一つ確認なんだが」 「はい! 何でしょう?」 「これから行く『隠れ里』の獣人たちって……もしかして全員、フェンみたいにマイクロビキニだったりするのか?」


 ここ、重要だ。  フェン曰く「これが狩猟形態」とのことだが、もしそれが種族全体のスタンダードなら、その里は俺にとって楽園エデンということになる。


「………………」


 フェンが、露骨に視線を逸らした。  耳がピコッと跳ねる。尻尾が、気まずそうにふよん、と揺れた。


「……主様」 「なんだ」 「……そうですっ! 銀狼族の女子は、みんな機能性重視なんです!」


 ビンゴォォォォォッ!!  俺は心の中でガッツポーズをした。  機能性万歳。銀狼族の伝統万歳。この世界の創造主には、後で菓子折りを持っていく必要があるな。


「楽しみになってきたな。よし、急ごうか」 「むぅ……主様のエッチ」


 フェンが頬を膨らませるが、その足取りは軽い。  やがて俺たちは、険しい岩山の裂け目――結界で守られた『隠れ里』の入り口へと辿り着いた。


隠れ里の入り口には頭骨(skull)が共同体の入口などに掲げらている。どうやらこれは獣人族の風習で、儀礼の後に宴をし、長く掲げられるものらしい。


あれ…これ…?


 本来なら人間は通れない結界だが、俺の視界には『認証キー入力』のウィンドウが見えている。  サクッと『Enter』キーを押して解除し、俺たちは里の中へと足を踏み入れた。


 そこは、山間に広がる美しい隠れ里だった。  清らかな水路が巡り、石造りの家々が並ぶ。  そして――


「止まれ! 何奴だ!」


 鋭い声と共に、岩陰から小柄な影が飛び出してきた。  タンッ、と軽快に着地し、俺たちの前に立ちはだかる少女。



挿絵(By みてみん)



「――人間!? 姉様、どうして人間なんかがここにいるの!」


 そこにいたのは、フェンによく似た、けれど対照的な魅力を持つ少女だった。


 長く艶やかな銀髪は、お尻を隠すほどに伸びている。  フェンと同じく褐色の肌だが、その体つきはもっと小柄で華奢ペティートだ。  身長は150センチそこそこだろうか。  頭には大きな狼の耳。両腕の肘から先は、フェンと同じく真っ白な毛並みの『獣のパウ』になっている。


 そして何より目を引くのは、その衣装だ。  やはりマイクロビキニ。  だが、フェンのような黒の紐ビキニではない。清潔感のある真っ白な『チューブトップ(バンドゥ)』タイプだ。  小さな胸を精一杯包み込む白い布と、健康的な褐色肌のコントラスト。  下も際どい白のボトムで、未成熟ながらも引き締まった太ももが眩しい。


「ルナ! 待ちなさい、このお方は――」 「黙ってて姉様! 人間なんて、どうせろくな奴じゃないわ!」


 彼女――ルナは、敵意剥き出しの琥珀色の瞳で俺を睨みつけた。  手には、身の丈ほどもある巨大なブーメランのような武器を構えている。


「おいおい、いきなり物騒だな」 「寄らないで! ……うわ、何この匂い」


 ルナが鼻をつまみ、露骨に嫌な顔をした。


「……変な匂いがする」


 ガーン。  俺は固まった。  15歳の女子に「変な匂い」と言われる。


「お、俺……臭いか? 朝、ちゃんと体拭いたんだけど……」 「臭いっていうか、なんか異質な匂いなのよ! この世のものじゃないっていうか……生理的に無理!」


 生理的に無理。  追撃コンボが入った。俺のライフはもうゼロだ。  おそらく、俺のまとっている「管理者権限」特有の、データ的なノイズ臭のようなものを感じ取っているのだろうが、今の俺には「思春期の娘に嫌われた父親」のような絶望感しかなかった。


「……それに、さっきからどこ見てるのよ」


ルナは自身の小さな胸を両手で隠し、ジト目で俺を睨む。




「その……姉様と同じく、涼しそうな格好だなと思って」 「H!バカ!痴漢!変態! 「やっぱり人間なんて滅ぼすべきだわ!」


 ルナの殺気が膨れ上がる。 そんな格好してる方がわるいだろ… まずい、このままだと「問答無用で削除デリート」の対象にされかねない。  そう思った時、フェンが俺とルナの間に割って入った。


「いい加減になさいルナ! このお方は、私の命の恩人なのよ!」 「……え?」 「瀕死だった私を救ってくださったの。それに、すっごくお料理が上手で、優しくて……私の『つがい』になるお方なんだから!」


 フェンが胸を張り、俺の腕にギュッとしがみつく。  ルナは驚いたように目を見開き、ブーメランを下ろした。


「姉様が……人間を、つがいに?」 「そうよ! 文句ある?」 「……姉様がそこまで言うなら、今は見逃してあげる」


 ルナはフンッ、とそっぽを向いたが、その瞳にはまだ警戒心が残っている。  ツンデレの「ツン」が100%の状態だ。これは攻略しがいがありそうだ。




 ◇ ◇ ◇


 一方その頃。王都の王城にて。


「――それで? 成果はどうなっているのだ、勇者アレクよ」


「――いや、愚者、アレクよ」


 玉座の間。  国王の冷ややかな声が響き渡ったと同時に笑い声が響き渡った。 その前に跪いているのは、泥だらけで装備もボロボロになった勇者アレクと、そのパーティメンバーたちだ。


惨めに必死に逃げてきたのだろう 彼らの表情には疲労と徒労。勇者でありながら敵前逃亡してきてしまった。敗北感


「も、申し訳ございません陛下! ですが聞いてください! これは不可抗力なのです!」


 アレクが必死に弁解する。


「全てはあの荷物持ち、カイ・ウォーカーのせいなのです! あいつがパーティを抜ける際、我々に『呪い』をかけていったに違いありません!」 「呪い、だと?」 「はい! そうでなければ説明がつきません! 我々の剣がゴブリン如きに弾かれ、魔法が当たらず、ポーションすらドロップしないなど……! あいつが何か小細工をしたのです!」


 国王は呆れたようにため息をついた。  王家は勇者支援のために、莫大な予算と装備を与えている。  それを「荷物持ち一人の呪い」のせいにして、成果ゼロで帰還するなど、言語道断だった。


「……見苦しいぞ、アレク。貴様らの無能を、追放した者に擦り付けるか」 「ち、違います! 本当なんです! あいつは『ノイズ』という不吉な職を持っていました! きっと我々を妨害しているに決まっています!」


 アレクの目には、狂気じみた光が宿っていた。  自身の無能を認めるわけにはいかない。悪いのは全て、自分より下等なはずのカイでなければならないのだ。


「陛下、どうかご慈悲を! 必ずやカイを見つけ出し、この呪いを解かせてみせます! そして奴の首を陛下に――」 「もうよい。下がれ」


 王は冷たく言い放ち、謁見を打ち切った。


「くそっ……くそぉぉぉぉッ!!」


 廊下に出たアレクは、壁を蹴り飛ばした。


「カイ……! カイ・ウォーカー……ッ!! 絶対に許さんぞ……! 俺に恥をかかせやがって!」


 逆恨みもいいところだが、プライドだけが高い勇者にとって、今の状況は耐え難い屈辱だった。


「探すぞ! 奴は北の森へ捨てたはずだ。まだ生きているなら、見つけ出して……俺たちのために一生タダ働きさせてやる!!」


 勇者たちは、血走った目で北の方角を睨みつけた。  彼らはまだ知らない。  自分たちが向かおうとしている先には、すでに「神」ごとき権限を持った元荷物持ちと、規格外の神獣姉妹が待ち構えていることを。








おまけ


挿絵(By みてみん)

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