第61話:粘害 Wave 1~2
ヨルが地面に突伏し、勝負は決した。
広場には静寂が戻り、地面には彼女の残骸である青い粘液が飛び散っているだけだ。
「……粘害……」
最後に聞こえた、呪詛のような呟き。
俺はその言葉の意味を反芻していた。
「粘害? なんだそりゃ。新しい嫌がらせか?」
まあ確かに、このスライム発情地獄(天国)は粘害とも言えるかもしれないが。
俺が訝しげに眉を寄せた、その直後だった。
ビビビビッ!
視界の端に、か強烈な警告音が鳴り響いた。
目の前に真紅のシステムウィンドウが展開される。
[WARNING: WORLD_EVENT_TRIGGERED]
[Event_Name: Viscous_Disaster (Level: Catastrophe)]
[Target_Area: GLOBAL (All_Map)]
「おいおい……『グローバル』だと? ここだけじゃなくて、世界規模かよ」
俺が舌打ちをした瞬間、地面が揺れた。
地震ではない。
地面そのものが、脈打つように蠢き始めたのだ。
「主様! 足元を!」
フェンの鋭い声。
見れば、地面に染み込んでいたヨルの残骸――青い粘液が、増殖分裂を繰り返している。いや、それだけじゃない。土、草、水たまり。ありとあらゆる有機物が「スライム」へと変換され、ボコボコと泡立ち始めていた。
ズモモモ……。
不快な音と共に、地面から無数のスライムが湧き出した。
青、緑、黄色。
一般的なRPGでよく見る、最弱モンスターの群れだ。
「こ、これは……なんという数じゃ……!」
「村の外からも来ます! 囲まれてるわ!」
悠乃とルナが背中合わせに構える。
視界を埋め尽くすほどのプルプルした集団。数千、いや数万はいるかもしれない。
[System Announce: Wave 1 Start]
空中に無機質な文字が浮かぶ。
「Wave制かよ。タワーディフェンスのつもりか?」
俺はため息をつきつつ、群がるスライムの一匹を軽く蹴り飛ばした。
パァン!
スライムは弾け飛び、粒子となって消える。
「……弱いな」
拍子抜けするほど脆い。
これなら、ただの雑魚掃除だ。
「フェン、ルナ。適当に散らせ。スーと悠乃は俺の後ろに」
「はい! 任せてください!」
フェンが手を振ると、広範囲に吹雪が発生した。
最前列のスライム数百匹が一瞬でカチコチに凍りつく。そこへルナが突っ込み、ブーメランで次々と粉砕していく。
「らぁっ! 邪魔よ邪魔!」
「ふんっ! 数だけの有象無象が!」
一方的な蹂躙だった。
スライムたちは「ピキー!」と鳴きながら飛びかかってくるが、俺たちの防御を抜ける気配すらない。
「なんだ、これなら余裕じゃん。ビビらせやがって」
俺はあくびを噛み殺しながら、近づいてきたスライムをコマンド一つで消去した。
[Command: Delete (Target: Slime_Group_A)]
範囲内のスライムがごっそりと消える。
経験値稼ぎにもならない作業ゲー。
ヨルの捨て台詞にしては、随分とショボい花火だと思った。
だが。
その「作業」が十分ほど続いた頃、空気が変わった。
ゴゴゴゴゴ……。
地面の震動が大きくなる。
湧き出てくるスライムの色が、明るい原色から、どす黒い色へと変質し始めた。
[System Announce: Wave 2 Start]
「……次が来るぞ」
俺が声をかけた瞬間、地面から噴き出したのは、今までとは違う個体だった。
サイズが一回り大きい。
そして、体表にトゲがあったり、硬質の殻を被っていたりする。
「ギギィッ!!」
金属を擦り合わせたような鳴き声と共に、トゲ付きスライム(スパイク・スライム)が飛びかかってきた。
「危ないっ!」
ルナが迎撃しようと蹴りを放つ。
だが、ガキンッという硬い音がして、ルナが顔をしかめた。
「いっ……! 硬っ!? こいつら、硬化してる!」
さらに、フェンの氷結魔法を受けたスライムたちが、凍りつきながらも無理やり動いて前進してくる。
「氷への適応……!?スーやヨルと同じです! さっきの個体とはレベルが違います!」
俺は即座に解析をかけた。
[Target: Iron_Slime (Level: 35)]
[Attribute: High_Defense]
「レベルが上がってやがる……。しかも、統率が取れてるな」
ただ闇雲に突っ込んでくるだけじゃない。
防御力の高い個体が前衛となり、後ろから酸を吐く個体が援護射撃をしてくる。
ジュッ!
酸の塊が俺の頬を掠め、後ろの岩を溶かした。
「ひぃっ! 溶けちゃう!」
「カイ! キリがないぞ!」
スーと悠乃が悲鳴を上げる。
倒しても倒しても、地面から次々と新しい個体が湧いてくる。
さっきまでの「余裕の掃討戦」の空気は消え失せ、広場全体が泥沼のような消耗戦の様相を呈し始めていた。
俺は舌打ちをし、コマンド入力を加速させる。
「チッ……ただの災害かと思ったが、これは明確な『侵略』だ」
粘つく悪意が、世界を覆い尽くそうとしている。
スライム村の外に大きな洞窟を生成する。小さな風穴だけ開けて空気の通り道を確保する。
[Command:Create (Slime village’)]
俺は念のために村にいたスライム娘たちと族長と思わしき老人を、をその洞窟に転送した。
これから長いタワーディフェンスが始まることを予感がしたから。
おまけ
フェン×スー
ルナ
これ…いずれ建国編をやる予定なんですよ…
まああと40話くらいで…多分…
建国編になったら…もっとスローライフ系の…ほのぼの+ちょいエッチによった話をしてもいいんじゃないんだろうか…




