第53話:乳神様の降臨。
スライム村へ向かう道中、あたしたちはのんびりと街道を歩いていた。 天気は快晴。風も心地いい。 でも、あたしの心の中は嵐だった。
「……」
あたしは、前を歩く三人を見比べた。
「それでですね、私たちの村と牛人族をつなぐ街道で、春見草の出る時期にお祭りをするようになったんですよ」
お姉ちゃん――フェンが楽しそうに喋っている。
歩くたびに、銀狼族にしてはデカすぎる胸が、ボヨン、ボヨンと揺れている。まあみんな私以外でかいんだけど… 服はいつもの黒のマイクロビキニ。本人は「機能性が高いから」とか言ってるけど……絶対嘘でしょ。 そんなこと言ってんの村でもお姉ちゃんくらいだよ?本当は見せつけたいだけじゃないの?
まあ、あたしもバンドゥビキニを着てるから、露出度で言えば人のことは言えないけど……中身の詰まり具合が違いすぎるのよ。
「へぇ、そういう経緯があったんじゃなー。スーもいつか牛人の村と銀狼の村にきんさい。ママが案内するで!」
隣を歩く悠乃も、ニコニコしながら相槌を打っている。
悠乃は相変わらずデカいわね……。夜伽の時とかもそうだけど、なんか全部デカいのよ。
「肩が凝るわー」とかよく言ってるけど、それ、持たざる者の前でひけらかさないでくれる?
まあ……大きいから甘えがいがあるんだけど……いや、今はそういう話じゃない!
「へえ……スライム村は皆さんの村から遠いから交流がないから知らなかったけど……いいなーぜひ今度僕も連れて行ってください!」
一時的に加入してるスーが目を輝かせている。今は人型スライム状態。服は胸元がガッツリ開いた青いチャイナドレスを着ている。
あんたそれ、スライムに必要? そんなに可愛くて、なおかつ胸もあの二人ほどじゃないけど大きいって……
いる? それ? いる!?
不定形なんだから、そこは空気を読んで平らにしておくとか、そういう配慮はできないわけ!?
三者三様の「揺れ」が、あたしの視界を埋め尽くす。 イライラが頂点に達した。
「ああああああああもうッ!! なんでどいつもこいつも乳がそんなにデカいのよぉぉぉぉ!!」
あたしは頭を抱えて叫び出した。 街道に絶叫が響き渡る。 三人とカイがビクッとして振り返り、そして一斉に駆け寄ってきた。
「ルナ!? どうしました!? 敵襲ですか!?」
「ルナちゃん!? どこか痛いんか!?」
「ルナさん! 大丈夫!?」
「ルナ!どうした!?乳がなんだって!?」
みんな、真剣な顔であたしを覗き込んでくる。 そこには一点の曇りもない、純粋な心配があった。 ……虚しい。 この純粋な善意が、逆に今のあたしにはナイフのように突き刺さる。
「……なんでもない。なんでもないわよ……」
あたしは力なく項垂れた。
◇
その夜。 夕食を済ませ、 カイの腕枕で眠りにつく。 夢の中でも、あたしはおっぱいにうなされていた気がする。
そして、朝。 目が覚めると、胸元に違和感があった。 重い。 物理的に、何かが乗っかっているような重さだ。
「……ん?」
あたしは寝袋から身を起こし、自分の胸を見た。
「……え?」
そこには、二つの巨大な山があった。 メロン? いや、スイカ? お姉ちゃんや悠乃にも負けない、圧倒的な質量がそこにあった。
「あ、ある……! あたしにも、あるぅぅぅ!」
あたしは天を仰いだ。 乳神様、ありがとうございます! ついにあたしの時代が来たのね!
鏡を見る。おお…でっか。何よこれ、そりゃこんだけデカけりゃ男を誘惑なんて簡単にできるわ。ジャンプしてみる、胸を張る、前かがみになってみる。なんだこの魔乳は…何をしても様になるじゃないの…
その時だった。
「きゃあああああああああああああッ!!」 「な、ないぃぃぃぃぃッ!?」 「ウチのが……ウチの自慢のミルクタンクがぁぁぁッ!?」
フェン、スー、悠乃の悲鳴が聞こえた。 さらに、カイの絶望的な叫び声も響き渡る。
「俺のおっぱいがあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
部屋の中は大パニックだった。 あたし以外の全員が、胸を押さえて泣き叫んでいる。 お姉ちゃんも、悠乃も、スーも、全員が洗濯板のように真っ平らになっていた。いや、そんなに悲しまないでくれる?貧乳時代の私の価値って何なの?
「嘘……私の……私のアイデンティティが……」 「な、なんで……どうして……」
「いや…こんなの…嫌…死んだほうがまし…」
彼女たちは青ざめ、震えながら慰め合っている。いやそれ過去の私の前で同じこと言える?
「ごめんね、ルナ……」
ペタンコの胸を押さえたお姉ちゃんが、涙目で私を見て言った。
「お姉ちゃん、知らなかった……こんなにもおっぱいが無いことが死ぬよりもつらかったなんて……もともとおっぱいがないルナは……私より辛かったよね……」
グサッ。 お姉ちゃんの優しさが、胸に刺さる。優しいふりして殺そうとしてない?
「そうじゃ……これは……バツが下ったんじゃ……」
悠乃が虚ろな目で呟く。
「乳がデカい……それをあたかもステータスのように振る舞うこの社会……ルナちゃんは悪くない……貧乳という遺伝子が悪いんじゃ……」
グサグサッ。 悠乃の同情が、さらに深く刺さる。遺伝子って言うな。
あたしは……あたしは今、勝ち組のはずなのに! この豊満なバストを見せつけて、「ざまあみろ!」ってマウントを取ってやるはずだったのに!
「ふ、ふん! いい気味ね! いつも見せびらかしてるからよ!」
あたしは精一杯、意地悪く言ってみた。 でも、みんなは怒らなかった。 それどころか、慈愛に満ちた、可哀想なものを見る目で私を見てくる。
最後にとんでもない伏兵がいた。スーだ。
「えーでも僕、最初は辛かったけど、今すっごい楽だよ!」
スーがパタパタと平らな胸を叩きながら言った。
「肩も凝らないし! 下着もつけなくていいよねこれ!すごいすごい! 貧乳の人って下着をつけなくていいんだね!すごい合理的!」
さらに無慈悲な追い打ちをかける。
「服も着なくていいんじゃない?だってこれだと男の人と変わらないよ!いいなー!ルナちゃんは。貧乳で。」
「ぶち殺すぞお前ぇぇぇぇぇぇッ!!」
あたしはブチ切れて叫んだ。
◇
「はッ!?」
ガバッ、と体を起こす。 荒い息を吐きながら、周囲を見渡す。
いつものベッド。いつもの朝の空気。
恐る恐る、自分の胸に手をやった。
「……ない」
そこには、いつものなだらかな多少の丘が広がっていた。
重みもない。揺れもしない。 安心感と、絶望感が同時に押し寄せてくる。
あたしは、一筋の涙を流した。
「……これでいいんだ……私は生涯、死ぬまでこれで……」
悟りを開きかけたその時、隣で寝ていたカイがモゾモゾと起きてきた。
「んぁ……? どうしたルナ、泣いてんのか?」 「……カイ……」
カイはあたしの涙を見ると、後ろからギュッと抱きしめてきた。 そして、あたしの胸に手を回し、優しくこねくり回し始めた。
「ん、よしよし。お前のちっぱい……可愛いなー」 「っ……!」
大きくはない。むしろ小さい。 でも、カイの手は愛おしそうに、あたしの胸を包み込んでくれている。
今日だけじゃない。毎晩だ。毎晩皆の巨パイと同様に触ってくれる。
夢の中で「俺のおっぱいがー!」と叫んでいた男とは思えないほど、優しい手つきだ。
「もう……お兄ちゃんったら……」
あたしはカイの腕に身を委ね、小さく呟いた。
……まあ、いいや。別に。ちっちゃくても。 こうして、好きな人に触ってもらえるんだったら。




