第52話:スーの気持ちいいところ
夜の21時。ウラスレートの街並みは、家の窓から漏れる明かりと街灯に照らされていた。
ちらほらと人通りが減ってきてはいるが、依然としてメインストリートにはまだ人が多い。酒場から聞こえる笑い声や、残業帰りの兵士の足音が響いている。
そんな街の一角、シルクの家の裏手に、空間が歪んで俺とスーが現れた。
二人とも、一糸まとわぬ全裸だ。
俺は管理者権限で認識阻害をかけているわけではない。正真正銘、素っ裸の不審者として降臨していた。
「……ここでいいのか?」
俺が小声で尋ねると、スーはフルフルと首を横に振った。
上気した顔で、俺の手をギュッと握りしめてくる。その手は汗ばんでいて、小刻みに震えていた。
「違います……もっと、人の気配がするところへ……」
スーが俺の手を引っ張る。
俺たちは路地の闇に紛れながら、大通りに近い広場の方へと足を進めた。
夜風が直接肌を撫でる。その冷たさと、隣にいるスーの異常な体温の対比が、俺の理性をじわじわと削っていく。
広場の隅。
石造りの噴水がある場所まで来ると、スーが足を止めた。
すぐ近くを、酔っ払った集団が通り過ぎていく。
見つかれば即通報、下手をすれば騎士団が出動するレベルの事案だ。心臓が早鐘を打つ。
「……っ、ふぅ……」
スーが熱い吐息を漏らしながら、おもむろに俺の首に腕を回してきた。
そして、広場の真ん中で、俺の唇を塞いだ。
「ん……っ……」
柔らかく、ひんやりとしたスライム特有の感触と、熱い舌が絡み合う。
こんなだだっ広い場所で、人に見られるかもしれないリスクの中でキスをするなんて、正気の沙汰じゃない。
だが、その背徳感がたまらなく興奮を煽った。スーの震えが俺にも伝染し、俺は彼女の腰を引き寄せ、さらに深く口づけを交わした。本当に深く。文字通り一つの生命体になるんじゃないかってくらい。
「……場所、変えよう」 「はい……あっちの、路地裏へ……」
俺たちはもつれるようにして、広場から一本入った薄暗い路地裏へと滑り込んだ。 ゴミ箱と建物の隙間。街灯の光が届かない、わずかな死角。
そこで、俺たちは獣のように求め合った。
「あ、んっ……カイさん……!」
スーの肌は、興奮すると少しだけ粘性を帯びる。 吸い付くような肌の質感。指が沈み込むような柔らかさ。 彼女は自身の体を自在に変形させ、俺の体に絡みついてくる。
「すごい……うねってる……」 「カイさん……もっと、僕をめちゃくちゃにしてください……誰かに、聞かれちゃうくらい……」
スーはもう我慢の限界だったようだ。 理性のタガが外れた彼女は、声を抑えることも忘れ、貪るように俺を求めてくる。 水音のような音が路地裏に響く。 俺もまた、その「人間ではない」極上の肌の虜になり、愛をはぐくむのをやめられなかった。
その時だった。
「なんか声がうっせえな…」
路地の入り口から、足音が近づいてきた。 誰かがこっちに来る。
「っ!?」
俺とスーは凍りついた。 このままでは見つかる。
全裸で抱きしめあっている変態カップルとして、ウラスレートの歴史に名を刻んでしまう。俺たちは慌てて体を離し、大きなゴミ箱の陰に身を隠した。
だが、足音は止まらない。確実にこの路地に入ってきている。
心臓が破裂しそうだ。
どうする?
コマンドで消すか?いや、彼には何の罪もない。
何故か、スーの方向から異様な音がする。今、そこ触っちゃダメだろ。やばい、こいつ、見つかりそうな危機感と、見せつけたい欲求のせいで、テンションが上がっている。今にもこの男の前に飛び出してすべてを見せつけに行きそうだ。
こいつ、脳のタガが外れすぎだろ。 俺はとっさに、意味の分からない行動に出た。
裏返った声で、武器屋の親父のモノマネをしたのだ。
「へいらっしゃい! 今日は鉄の武器が割安だよ!なんと!1000000金貨だ!」
静まり返った路地裏に、俺の頓狂な声が響き渡った。足音がピタリと止まる。
数秒の沈黙。 永遠にも感じる時間。
「……なんだ……ぼったくりの店主の鳴き声か…とっとと寝ろよ!」
通行人が店主の鳴き声に向かって言う。
おれも元気よく「あいよ!」と返事をする。
興味を失ったように踵を返し、去っていった。
……ぼったくりの店主の鳴き声ってなんだよ。 この街にはそんな生態系のオッサンが生息しているのか?
足音が遠ざかると、俺とスーは顔を見合わせ、プッと吹き出した。
「ふふっ……あははっ……カイさん、今の……」 「いや、俺もわからん。テンパりすぎた」
極限の緊張と緩和。 それが最高のスパイスとなった。「私…でも…ああいうのがないとダメになっちゃったかもしれないです…」「…どういうことだ?」「ふふ…見せてあげればよかった…僕たちがお互いを食べあって、脳を吸いあってとろけてるところ…ってこと。」
俺たちの営みは、朝まで終わることはなかった。
◇
チュンチュン……。
小鳥のさえずりが聞こえる爽やかな朝。 森のログハウスに、俺とスーが帰ってきた。 もちろん、何も着ていない。 朝日を浴びた俺たちの肌は、やり遂げた清々しさで輝いていた。
玄関を開けると、そこには腕を組んだフェン、ルナ、悠乃、そしてシルクがニヤニヤしながら待ち構えていた。
「おかえりなさい、主様。……随分と激しい夜だったようで」
フェンが俺の全身(特にキスマークだらけの首筋)を見て、艶かしく微笑んだ。
「別に、睡眠薬なんて入れなくても……私達に言ってくれれば、全然貸し出しますよ……? スーちゃんになら」 「うっ……」
核心を突かれ、俺は言葉に詰まる。 ルナがケラケラと笑いながら俺の腹を突いた。
「あーあ、真っ裸で朝帰りなんて、野生動物でももうちょっと隠すわよ?」 「カイ……精力が有り余っとるのぉ。ウチのミルク、効きすぎたかの?」
悠乃も呆れつつ、どこか楽しそうだ。 そして、シルクがおっとりとした口調で、目をこすりながら、笑顔で近づいてきた。
「あらあら、カイ様。妹がお世話になりました。……街中から聞こえてきた『ぼったくり店主の鳴き声』というのは、まさか貴方様のことではありませんよね?」
「……ご想像にお任せします」
俺は視線を逸らした。こいつ、地獄耳かよ。
「…僕達…お風呂入っていい…?」「当り前よ…この淫乱スライムさん♡」「うう…僕ってばなんて大胆なことを…」
何故か今更ながらスーはルナの弄りに対し、恥ずかしそうな顔で下を向いて対応する。あんなに大胆なことやっておいて、よくそんな顔できるな。まあそれがかわいいんだが。
俺たちは全員でログハウスの広い浴室へと向かった。 湯船に浸かり、疲れた体を癒やす。 俺の体力は精神的な充足感と疲労感は、心地よく俺を包み込んでいた。
俺はシルクに念のため「ボタン」を渡しておいた。王都「オルガン」で何か合ったときにどでかい《《振動アラート》》が俺の、脳内に鳴り響くようにしている。
何かあったらこれを押せ。と念入りに伝えておいた。
そしてシルクをとりあえず銀狼の村に転送した。あそこからスタートすれば安全に到達しやすくなる。次の目的地でもあり、俺のスタート地点でもあった「オルガン」の町から。
こうして、スライム村への出発を延期し、朝を過ぎ、夕方頃に出発する。
♢♢♢
(シルク視点…)
スー…お姉ちゃん…あんなスーの乱れた姿初めて見ちゃった…村を出る前はあんなにもかわいくて、弱虫で、心も純粋だったのに…
カイ様…なんで私があなたの物まねのことを知っていたかわかりますか?私には睡眠薬の類は効きません…
お姉ちゃんね、あなたとカイ様の一部始終を全部見ちゃった。かわいくて大きな胸を揺らしながら歩いていくスーに、広場で大胆にも舌を食べあうスー…その後路地裏に行き、野性に返ったスー…
お姉ちゃん…今まであんなに興奮したことは今までなかったかも…
全部、お姉ちゃんの網膜に焼き付けたから。それを夜に思い出すから。一人、ベッドの上で。




