第51話:シルクの語るこの世界の勢力図
勝利の美酒、というには少々健全すぎるが、俺たちは街から少し離れた森の開けた場所に、俺の建築コマンドで生成したログハウスで祝杯をあげていた。
木の温かみを感じるリビングのテーブルには、所狭しと料理が並んでいる。
「肉ぅ! 肉肉肉ぅ!」
ルナが目を輝かせ、ワイルドに噛みついているのは、巨大なボアの丸焼きだ。
しかも三頭。 香ばしい脂の匂いが部屋に充満する。あいつの胃袋はどうなってるんだ。
「ん〜っ! このハンバーグ、絶品です主様! 肉汁が溢れて……ソースも濃厚で……幸せですぅ」
フェンは上品にナイフとフォークを使いながらも、目の前には山盛りのハンバーグタワーが積まれている。
彼女の好物に合わせて、特製のデミグラスソースをたっぷりとかけてやった。
「ウチはやっぱり、これじゃね。温かいシチューと、カリカリのパン。それにチーズがあれば文句なしじゃ」
悠乃はフランスパンをホワイトシチューに浸し、とろりと溶けたチーズを絡めて幸せそうに頬張っている。塩レモンをふんだんに使ったシチューだ、美味くないわけがない。
そんな肉食獣と乳牛の横で、意外な食生活を見せているのがスライム姉妹だった。
「シャキシャキして美味しい……」 「新鮮ですね。この世界の野菜は栄養が豊富で、私たちのような種族には良い栄養補給になります」
スーとシルクは、山盛りのサラダを食べていた。 スライムは雑食だが、どうやらこの二人はヘルシー志向らしい。
ルナがいきなり「スー!あんたやるじゃない!」といきなり背中をたたいた。その拍子にスーの胸がぶるんっ!と揺れる。酔っぱらった親戚のおっさんかよ。スーとルナは顔を見合わせて微笑みあう。
悠乃とフェンもスーの横に行き感謝を告げる。
「スーちゃん…有り難うございました。今回は主様のご判断により、危うく貴重な一日を無駄にするところだった…でもあなたのおかげで無駄に一日を消費せずに済みました…」
ぐはぁっ!90°の鋭利な角度から遠距離攻撃を喰らう俺。多分自覚はないんだろう。
でもそれ、俺に刺さってるから。なんちゅーステルスアタックだ。
フェンがスーを抱きしめて頭を撫でている。スーはまんざらでもない顔で顔を赤くし、「えへへ」と微笑んでいる。
「ほんまよ…スーちゃん…かっこよかったわあ…カイが颯爽と助けに来るんかと思ったら、まさか、英雄スライム様のご登場とは!もうご主人様交代せんといけんのんじゃないか?」
こいつ…悠乃は明確に俺の首を絞めてくる(言葉)。まあ確かに!俺の判断はよくなかったけど!
悠乃はスーを抱きしめ、なぜか耳を舐めている。「ほんまかわいいわぁ…」
「ふぁっ…♡そこちょっと気持ちいいかも…」シルクは止めに入らず、ルナと親し気に会話している。
「ほら、カイも食べんさい。いっぱい食わんと大きくなれんで?」 「ああ、そうだな。……っと、そうだ。スーとシルクのために、栄養価の高いやつを追加しとくか」
俺はコンソールを開き、健康的で完全栄養食に近い野菜を生成した。
[Command: Create_Food (Type: Boiled_Broccoli, Quality: S)]
ポンッ、と皿の上に鮮やかな緑色の「ブロッコリー」の山が現れる。 湯気が立つ、蒸したてホクホクのブロッコリーだ。
「ビタミンCにカリウム、食物繊維も豊富だ。筋肉にもいいし、風邪予防にもなる。さあ、遠慮なく食え――」 「「「ヒィッ!?」」」
俺が皿を差し出した瞬間、フェン、ルナ、悠乃の三人が、同時に椅子から転げ落ちるほど仰け反った。
「主様! そ、それをしまってください! 緑のアフロが脳裏に!」 「や、やだ! なんか語り掛けてきそう!『愛』とか言いそう!」 「カイ……すまんがウチもそれは無理じゃ……夢に出る……」
三人はガタガタと震え、涙目でブロッコリーを凝視している。 ……まあ、無理もないか。
ついさっき、アレクのあの姿――ブロッコリーの化身となって妖精に膝枕されている映像――を見せられたばかりだ。これを見て食欲が湧く方がおかしい。
「とはいえ、ブロッコリーに罪はない。栄養価において隙がない最強の野菜だ!食え!お前等も!食わないとブロッコリーにするぞ!」
「「「ひ、ひえええええ!」」」
怯えすぎだろ。なんで定期的にIQが低くなるんだ。俺はパクりとブロッコリーを口に放り込んだ。うん、マヨネーズが欲しいな。
「あ、そうだスー。言い忘れてた」
俺は咀嚼しながら、隣で野菜を頬張るスーに向き直った。
「お前の『テクスチャバグ』、さっきの戦闘中とネイキッドオペレーティングシステムの最中にコードいじって直しといたぞ。意外と複雑だったが。まあ、もう服を着ても透けないはずだ」 「えっ……?」
スーが自分の体を見る。 さっきまでは服を着ていてもノイズが走って裸に見えていたが、今はしっかりと服の繊維が見えている。
「ほ、本当だ……! 治ってる……!あんな激しい戦いの最中に、僕のバグまで直してくれてたんですか……!?」
「まあな。デュアルコアで処理してたから、片手間でできたんだよ」
「カイさん……ありがとうございます!」
スーが嬉しそうに笑う。 だが、その向かいでシルクだけが、フォークを止めて驚愕の表情を浮かべていた。
(……信じられません。あの激戦の中、片手間で『直した』ですって……?)
シルクはゴクリと唾を飲み込み、改めて俺という存在の異質さを噛み締めているようだった。
◇
食後の茶を飲みながら、話題は自然と今後のことへと移っていった。 シルクが真剣な表情で切り出す。
「カイ様。貴方という強大な力を持つ方が現れた以上、この大陸の勢力図についても共有しておくべきでしょう」
シルクはテーブルに指で地図を描きながら、冷静な口調で語り始めた。
「現在、この世界は大きく分けて四つの勢力が存在します」
一つ目は『魔王軍』。
魔王様が支配するエリアであり、人類最大の脅威とされる。
「魔王軍の特徴は『個』の強さです。彼らは繁殖欲求をあまり持ちません。なぜなら、個体として完成されすぎているから。群れる必要がないほど強力な悪魔や魔人が生き残っており、魔王様に至ってはこの世の理から外れた強さを持つと言われています」
二つ目は『人間軍』。
王国と教会を中心とした最大勢力。
「数は多いですが、リソースが常に不足しています。しかし、個の力で言うと、ガルム様や、魔王様などの様な最強クラスの人間はいません。まあ、アレクがそうなる予定だったのでしょうが…人間軍は魔王軍の脅威をプロパガンダとして利用し、国をまとめています」
三つ目は『野菜妖精の森』。
アレクが落ちたあの場所だ。 「中立にして不可侵の混沌領域です。そこには『野菜神』と呼ばれる平和主義の実力者がいると言われていますが、詳細は不明。……アレク様があそこで受け入れられているのは、おそらく彼の頭がブロッコリーそのものだからでしょう」 「……説得力がすごいな」
そして四つ目。『中立・亜人連合』。
銀狼族、牛人族、スライム族、その他巨人族や鳥族などが、緩やかに連携している勢力だ。
「ここを束ねているのが、銀狼族の長・天狼ガルム様です。彼の実力は魔王様に匹敵するとも言われ、人間たちが容易に手出しできない抑止力になっています。……ルナちゃんやフェンちゃんが規格外に強いのも、ガルム様の直系だからというのはご存知ですよね?」 「ああ。ルナとフェンからもう聞いてる。」
シルクはそこで一度言葉を切り、俺をじっと見つめた。
「そして今、新たな勢力が現れました。ダークたちの様な『管理者』です。この世の理そのものを改変する、あってはならない強力な力……」
それは俺に対しても言えるのかもしれない。
シルクは溜息交じりに続けた。
「私は、今後は別の人間の街に拠点を移そうと思います。ウラスレートやアリシアに留まる意味はもうありませんから。……それに、やはり人間側の動きがきな臭いのです」 「きな臭い?」 「ええ。特に『勇者アレク』の存在です」
シルクは眉をひそめた。
「はっきり言って、アレク様は弱すぎました。歴代の勇者と比べても比較にならないほど。それに、人格者というわけでもない。……なぜ教会は、あのような者を『勇者』として担ぎ上げたのか。その存在理由がわかりません」
俺も頷いた。 確かに、アレクの実力はお粗末だった。奴はただの神輿で、本命は別にいるのか?
「まあ、今はわけわからん謎のブロッコリーになってるけどな」 「ええ。……というわけで、私はここで皆さんとは別行動をとることになります。」「次はどこに向かうんだ?」
シルクが一呼吸を置く
「神殿のある王都「オルガン」で人間に擬態し、生活します」
「「「「!?」」」」
俺がバグ扱いされた憎い神官や、貴族の住む「オルガン」で生活するってことは…
「なあ、いくらなんでもそれは危険じゃないか?ただでさえきな臭い、王のお膝もとで擬態して生活するなんて…」
フェンも心配そうにしている
「そうです…それに、王だけではありません…王の子飼いとなった『堕ちた大賢者』も以前強力ですし、ダークが言っていた『管理者・イシス』も暗躍しています。女騎士セシリアよりもっと強力な『無銘の断罪者』達もいます。」
「なんじゃそれ?『無銘の断罪者』?」「…」
「勇者になれなかった者たちで構成された集団です。女神にそっぽを向かれた勇者くずれ…しかし、アレクとは比にならない圧倒的な『武』や『魔力』を持っている…魔王軍がうかつに王国に手出しをしない理由の一つともいわれています。詳細は分かりませんが…」
シルクが含んだ笑いを浮かべる。
「大丈夫です…私は数年もの間、人間に擬態して生活しておりました…今回の様な件でもない限り、ばれることはありません。」
シルクが俺に向き合う
「カイ様。妹を王都に連れて行くのは危険ですが…あなたとなら安心です。妹のスーを……よろしくお願いします」
シルクが深々と頭を下げる。 俺は「任せとけ」と返し、隣でモジモジなにかしているスーに声をかけた。
「俺たちは明日にはスライム村に向かうつもりだ。なあ、スー! 案内してくれよな!」
すると、スーがビクッと肩を震わせた。
「あ、ああああああああああ母ははあハウ! ゴボウは確かに大地の味がしてたまらんけんの!?」 「……は?」 「あ、いえっ! な、なんでもないですぅ! は、はい! 案内しますぅ!」
なぜか悠乃みたいな訛りと意味不明な言動でパニックになっている。 どうしたんだこいつ。話聞いてなかったのか?
バグは直したはずだが、頭のバグは残ってるのか?
「さて、夜も遅い。そろそろ寝るか」 「そうじゃな。ウチも眠くなってきたわ……」 「お腹いっぱいで……むにゃ……」
悠乃が欠伸をし、ルナとフェンもとろんとした目をしている。 シルクもこっくりと船を漕ぎ始めた。
「……あれ?なんか急に……」
ドサッ。 ドサドサッ。
次の瞬間、俺以外の全員が、糸が切れたようにテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
「おい、どうしたお前ら? 食い過ぎか?」
俺は揺すってみるが、起きる気配がない。 規則正しい寝息を立てている。まるで、強力な睡眠薬でも盛られたかのような……。
俺は何ともない。俺のコップには何も入っていなかったからだ。
「……カイさん」
静寂に包まれたログハウスで、鈴を転がすような声がした。 振り返ると、突っ伏して寝ているはずのスーが、顔を真っ赤にして立っていた。
「スー? お前、起きて……」 「……入れました」 「え?」 「みんなの飲み物に……眠り草を吸い取った濃縮エキス、入れました。カイさん以外のコップに」
スーが、潤んだ瞳で俺を見つめながら、ゆらりと近づいてくる。 その顔は、普段の気弱な僕っ娘のそれではない。 どこか熱っぽい、危うい色気を帯びていた。
「なんでそんなこと……」 「……僕、おかしくなっちゃったんです」
スーが俺の目の前まで来ると、俺の胸に手を置き、背伸びをした。
そして
――チュッ。
不意打ちのキス。柔らかい唇の感触が触れる。
「……っ!?」 「あの時……テクスチャバグで、街の中を裸で歩き回った時……」
スーは俺から唇を離すと、とろりとした目で俺を見上げ、耳元で囁いた。
「恥ずかしくて、死にそうで……でも、心臓がバクバクして……体の奥が熱くなって……」
「お、おい……」
「外で、誰に見られるかわからない……そんな状況で、カイさんに助けられて……僕……」
スーの手が、俺の手をぎゅっと握った。
「……誰かに見られるかもってドキドキしながら……カイさんに、好き放題されたい……です……」
スライム族の少女は、バグによってとんでもない扉を開いてしまったようだ。
スーが服を脱ぐ。テクスチャのエラーはない。今回は正真正銘。本当の全裸だ。青い透明の肌からは想像できないピンク色の頂点がツンと立っている。
「来て……ください」
スーが俺の手を引っ張る。 彼女が向かおうとしているのは寝室ではない。
ログハウスの出口。
誰の目があるかもわからない、外の世界へ。
「街の方へ……行きましょう?外で……してほしいんです」
俺はゴクリと唾を飲み込み、その潤んだ瞳に吸い寄せられるように立ち上がった。
もし、この作品が最終章まで行ったら、今度はカイ、フェン、ルナ、スー、悠乃とかが出るスピンオフとか書こうかな スローライフ系か… 現代に異世界転移して頑張ってカイを頼りにして生活させてもいいし
まあ未定です。需要がありそうならやるか




