第49話:女騎士「くっ…殺せ…!」
ダークとの決着がつくと同時に、フェン、ルナ、そして悠乃が俺の元へと駆け寄ってきた。
「カイ! かっこよかったで! あんな恐ろしいことどうやってやったん!?」
悠乃が目を輝かせて俺の腕に抱きついてくる。
柔らかい感触に癒やされながら、俺は彼女の頭を撫でた。
「ありがとうな、悠乃。お前のおかげだ」
「えっ? ウチなんもしてないで?」
「いや、お前のミルクだよ。毎日飲ませてくれたおかげで、基礎ステータスが爆上がりしてた。あれのおかげでスムーズに攻略できた。」
俺が感謝を伝えると、悠乃は「えへへ、役立ってよかったわ……」と照れくさそうに頬を赤らめた。
「ちょっと! あたしも褒めなさいよ!」
ドンッ、と背中に衝撃。ルナが飛びついてきたのだ。
「あんた、あんな凄いことできたの!? なんか敵がずーっと上にいったりきたりしてたよ! あれなんなの!?」
「そうだなぁ、あれは新技だ。……ルナもよく我慢したな。飛び出したいのを堪えて、フェンに任せたのは偉かったぞ」
「むぅ……まあ、カイが言うなら……」
「今回は、俺とフェンの見せ場にしたかったんだ、個人的にな。……ま、今度はベッドの上で『While(無限ループ)』しちゃおうかな☆」
「っ!? ば、バカ! 変態! もーカイったら☆」
(本音はお前のパワーとスピードなら多分女騎士が消し飛ぶし城がめちゃくちゃになるからな!)
ルナが顔を真っ赤にして背中をポカポカと叩いてくる。
(やったー…楽しみ♡ベッドの上でのWhileって何♡?)
そんな二人を微笑ましく見つめていたフェンが、静かに歩み寄ってきた。
「主様……」
「フェン」
「ご無事で何よりです。……やっぱり、主様はかっこいいです」
フェンはうっとりとした表情で、俺の胸に顔を埋めた。
「いや、俺もびっくりしたよフェン。あんなにいつも甘えてくるやつが、あんな氷のように冷たくてかっこいい戦い方するんだもんな。……惚れ直すぞ?」
「ふふっ……主様のためなら、私は修羅にも氷像にもなりますから」
甘い空気が流れる俺たち四人。
その様子を、少し離れた場所で見ていたシルクは、呆然と呟いていたらしい。
「何者でしょうか……彼は……。あんなに圧倒的な力……。天狼のガルム様や魔王、あるいは歴代最強と言われた勇者と同クラス……なのか…?ポテンシャルだけなら…あるいは…」
「えへへ、でもよかったねお姉ちゃん。あんなに心強い味方ができて」
スーが姉の手を握る。シルクもまた、妹の笑顔を見て、ゆっくりと頷いたようだ。
◇
「さて……」
ひとしきり再会を喜んだ後、俺は表情を引き締めた。
視線の先には、大広間の中央で氷の彫像となっている女騎士団長・セシリアがいる。
「とけろ」
[Command: Thaw_Object (Target: Cecilia)]
指を鳴らすと、セシリアを拘束していた氷が一瞬で霧散した。
「はっ……! こ、ここは……!?」
セシリアが膝から崩れ落ち、荒い息を吐く。
全身が冷え切って震えているが、命に別状はない。
彼女はすぐに状況を理解し、俺を睨みつけた。
「殺せ……! 敗北した騎士に、生き恥を晒させる気か!」
「さて、騎士様。俺たちは対話を求めた。お前たちは剣で答えた。……なら、俺も『俺のやり方』で答え合わせをしようか」
俺は冷徹な瞳で見下ろした。
「まず、その硬そうな鎧が邪魔だ。話が聞こえにくい」
[Command: Delete_Object (Target: Cecilia_Armor & Clothes)]
パシュンッ。
乾いた音が響いた直後、セシリアのミスリル製の鎧と、その下のインナーが一瞬でデータ消去された。
「……え?」
セシリアが自分の体を見下ろす。
そこには、鍛え上げられたしなやかな騎士の裸体が、白日のもとに晒されていた。
松明の明かりが、彼女の白い肌を照らし出す。
「ひゃあぁっ!? き、貴様……なにを……ッ!」
セシリアは悲鳴を上げ、慌てて両手で胸と股間を隠そうとする。
だが、俺はそれを許さない。
[Command: Gravity_Control (Target: Cecilia, Value: x10)]
ズドンッ!
「ぐぅッ!?」
強烈な重力が彼女を襲った。
隠そうとした手すら動かせず、彼女は強制的に床に額を擦り付ける姿勢――「全裸土下座」の形に固定される。
白いお尻が高く突き出され、屈辱的なポーズで縫い留められる。
「くっ……! あ、悪魔め……! こんな……こんな辱めを受けるくらいなら……!」
セシリアは涙目で俺を睨み上げ、叫んだ。
「殺せ……ッ! いっそ思い切り殺せぇ……ッ!」
(おっ、教科書通りの『くっころ』頂きました)
俺は内心でニヤリとしながらも、表面上は冷酷な「魔王」の仮面を崩さない。
「フェンたちは『報復が怖いから』お前を殺さないと言った。……なら、『報復できない体』にすれば解決だな?」
「な、何を……する気だ……」
「お前たち全員を『悪質なプレイヤー(PK)』と認定する。ペナルティとして、特定対象へのアクションを制限するパッチを当てる」
俺はセシリアの額に指を当てた。
同時に、広場に倒れている兵士たち全員を範囲選択する。
[Command: Grant_Condition (Target: Area_All_Soldiers)][Effect: Friendly_Fire_Reverse (Rate: 200%)][Safe_List: Kai, Fen, Luna, Yuno, Sue, Silk...]
ブウンッ。
セシリアと兵士たちの体に、赤黒いノイズが一瞬だけ走り、消えた。
「完了だ。これでお前らは、俺たちが登録した『保護対象』に対して、攻撃判定が発生しなくなった」
「ふざけるな!」
重力制御が解除されると同時に、セシリアが立ち上がった。
裸であることも忘れ、落ちていた剣を拾い上げ、俺に向かって振り下ろす。
「貴様ごときの呪いなど――!」
だが、剣を振り上げた瞬間だった。
ガクンッ。
「……ぁ?」
彼女の腕の力が、まるでバグったように「0」になった。
剣が手から滑り落ち、カランと虚しい音を立てる。
さらに。
「グハッ!?」
セシリア自身が、まるで剣で斬られたかのような衝撃を受け、その場に大量の血を吐いて崩れ落ちた。
俺には指一本触れていない。なのに、彼女の体には深い斬撃痕が刻まれていた。
「が、は……な、ぜ……?」
「言ったろ? 『報復できない体』にしたって。俺たちに害意を持って攻撃すれば、その筋力はキャンセルされ、ダメージは200%になって自分に返ってくる」
俺は血を吐くセシリアを見下ろし、淡々と告げた。
「つまり、俺たちを殴ればお前の骨が折れ、斬ろうとすればお前が死ぬ。……詰みだよ、騎士団長」
「あ……ぅ……」
セシリアの瞳から光が消えた。
暴力という唯一の牙を抜かれた絶望。
彼女は震える体で、床にうずくまるしかなかった。完全に心が折れたのだ。
俺は彼女の顎を指で持ち上げ、視線を合わせる。
「だが、魔物や悪党相手なら今まで通り戦える。……これからは『騎士団長』という地位を使って、俺たちの生活を守れ」
「生活を……守る……?」
「ああ。それと、王都や教会の動向を逐一報告しろ。お前は今日から俺の『スパイ』だ」
セシリアは涙を流しながら、力なく首を縦に振った。
「……承知、いたしました……私の負け、です……」
「よし」
俺は満足げに頷くと、パンッと手を叩いた。
「――なーんてな。もうお前は十分辱めを受けただろ」
[Command: Restore_Object (Target: Cecilia_Armor)]
パシュンッ。
「えっ?」
セシリアが瞬きをすると、消去されたはずのインナーとミスリルの鎧が、元通りに着用されていた。
傷もいつの間にか回復している。
「あ、あれ……?」
「スパイ活動は継続してもらうが、これ以上責めるつもりはないよ。お前だって、上からの命令で動いてるだけの中間管理職なんだろ? 同情するよ」
「え、あ……は、はい……」
あまりの温度差に、セシリアはポカンと口を開けて俺を見上げた。
悪魔のような所業から一転、気さくな兄ちゃんのような態度。
この少年の底知れなさに、彼女は別の意味で戦慄し、そして完全に毒気を抜かれてしまったようだ。
「よし。じゃあ案内しろ。……この街の『主(豚)』のところへな」
俺はニッと笑い、城の奥を指差した。
おまけ
ごめんなさい…でもちゃんと覚醒シーンはあるんだよ…許して悠乃!




