表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/65

第47話:女騎士セシリアVSフェン

「……いいだろう。魔物風情が、騎士の誇りを傷つけた罪……その命で償ってもらうぞ」


女騎士団長が、歪な笑みを浮かべた。

奴が剣を振るうと、刀身に纏わりついた緑色の風が「ヒュオオオオ!」と唸りを上げる。

単なる風魔法じゃない。あれは奴自身の練り上げられた闘気と魔力が融合した、触れれば肉を削ぎ落とす「真空の鎧」だ。


「ルナ、下がっていなさい」

「えっ? でもお姉ちゃん! 私達二人なら秒殺だよ!?」

「ふふ、私の見せ場が無かったからね。ここで見てなさい。ルナ」


妹を制し、私は静かに前に出る。

優雅な動作に合わせ、大気中の水分を右手に収束させる。パキパキという凍結音と共に、ダイヤモンドダストを纏った一本の「氷の剣」を生成した。


「行くぞッ!」


女騎士が踏み込む。

石床が爆ぜるほどの加速。人間離れした速度だが、私の動体視力はそれを完全に捉えている。

真正面からの突き。私は氷剣で受け流す――つもりだった。


ガギィィィン!!


「くっ……!?」


接触した瞬間、私の氷剣が半分から砕け散った。

風の振動だ。奴の剣は超高速で振動しており、接触した物質を粉砕するチェーンソーのような性質を帯びている。

なるほど、物理防御を無効化する厄介な代物か。


「氷など、我が風の前ではガラス細工も同然!」


女騎士の追撃。

袈裟斬り、逆袈裟、突き。

私は砕けた剣を捨て、足元の床を一瞬で凍結させる。


キィィン!


氷の上を滑るようにバックステップし、致命傷を避ける。

だが、頬に熱さを感じた。剣は届いていないはずなのに、真空の余波が肌を裂いたのだ。

主様に頂いた大事な体に傷を……!


「逃がすかよ!」


女騎士がさらに加速する。

床が凍っているにもかかわらず、奴は足裏から風を噴射させ、ホバークラフトのように滑りながら追尾してくる。


「氷結・鏡面反射アイス・ミラー


指を鳴らす。

周囲の空中に、無数の薄い氷の板を出現させた。

私の姿が乱反射し、奴の視界を錯綜させる。


「小賢しい目眩ましを!」


女騎士は回転斬りを放ち、周囲の氷鏡を全て粉砕した。

パリーン! という音と共に、無数の氷の破片がキラキラと舞う。

だが、その隙に私は姿を消す。


「上か!?」


女騎士が直感で上空を見上げる。

正解。私は天井に張り付き、五指を開いて構えていた。


氷雨ダイヤモンド・レイン(ダイヤモンド・レイン)」


手から、針のように鋭い無数の氷柱を放つ。

広範囲を覆い尽くす弾幕。逃げ場はない。


「甘いッ! 風神・乱気流!」


女騎士が剣を天に突き上げると、局地的な竜巻が発生した。

降り注ぐ氷の針は、竜巻に巻き込まれて粉々に砕かれ、逆に私に向かって跳ね返ってくる。

私は天井を蹴り、空中で体を捻って自身の氷礫を回避するが、着地の瞬間に女騎士が肉薄していた。


「捕らえたぞ銀狼!」


必殺の間合い。

女騎士の瞳が勝利を確信して輝く。

この距離なら、風の振動剣で防御ごと両断できると確信しているのだろう。


私がなぜ、わざわざ砕かれやすい氷鏡や、迎撃されやすい氷雨をばら撒いたと思っている。


「……足元が、お留守ですよ」

「なッ!?」


女騎士が踏み込んだその一点。

石床だと思っていた場所は、私が砕かれた氷鏡の破片を敷き詰めた「超低摩擦のトラップ地帯」だ。


ツルッ。


踏ん張りが効かず、女騎士の体勢が大きく崩れる。

剣の軌道がわずかにズレ、私の髪の毛数本を切り飛ばして空を切った。


「しまっ――」


女騎士が体勢を立て直そうとした瞬間、私は空いた左手を床に叩きつけた。


「そこです」


ズガガガガガッ!


床の氷が一気に隆起し、鋭利な棘となって女騎士を襲う。

奴は咄嗟に風のバリアを張るが、下からの物理攻撃には脆い。鎧の隙間を氷の棘が突き上げ、脚と脇腹を浅く貫いた。


「ぐぅッ! あ、がぁ……ッ!」


女騎士が血を吐きながら後退する。

だが、倒れない。彼女は剣を杖にして立ち上がり、獣のような目で私を睨みつけた。


「はぁ、はぁ……やるな、獣人……! だが、まだだ!」


女騎士の魔力が爆発的に膨れ上がる。

大広間の空気がすべて吸い寄せられるような感覚。

自身の生命力すら魔力に変換し、最大最強の一撃を放とうとしている。


「我が全霊をかけた奥義……この城ごと貴様を切り刻む! 『絶剣・空牙』!」


女騎士の剣が、視認できないほどの透明な刃へと変貌する。

それは、触れるもの全てを原子レベルで分解する暴風の断罪。

地下空間全てを吹き飛ばすつもりか。


だが、遅い。

準備なら、とっくに整っている。


「……いいでしょう。その熱意に免じて、私のとっておきをお見せします」


私は両手を優雅に広げる。

攻撃ではない。防御でもない。

私が行ったのは、空間の「支配」だ。


「この部屋の湿度、いつからただの『霧』だと錯覚していました?」


指を弾く。

女騎士がハッとして上を見る。

激しい攻防の最中、私が放ち、砕かれ、蒸発したと思われていた大量の氷の粒子。

それらは消えたのではなく、微細な水分となって天井付近に充満し、飽和状態となっていたのだ。


私が氷を使えるということは、すなわち水を支配するということ。


「落ちなさい」


ズドンッ!!!!


一瞬で凝固させた数トンもの質量の氷塊が、天井から落下した。

女騎士の頭上直撃。


「な、あアアアアッ!?」


女騎士は奥義を放つ寸前で、上からの圧力に潰される。

風の鎧で必死に耐えるが、その重圧は動きを完全に封じるための「蓋」に過ぎない。


本命は、そこからだ。


「水分子の振動を停止させます。……お眠りなさい」


私の言葉と共に、絶対零度の波動が氷塊ごと女騎士を包み込む。


「久遠の棺・搦めエターナル・コフィン・バインド


「あ、ぐ……ッ! 体が、熱……いや、寒……!?」


落下した氷塊と、足元の氷、そして大気中の水分が融合する。

女騎士の体は、風の鎧ごと一瞬にして蒼白の氷漬けにされた。

剣を振り上げたポーズのまま、筋肉の繊維、魔力の回路、思考の電気信号に至るまで、全てが凍結により強制停止させられる。


静寂が戻った大広間に、氷の彫像が一つ、完成した。


「く、殺せ……! 騎士として……敗北の……屈辱に……」


氷の中で、かろうじて意識だけを残された女騎士が、微かな念話で訴えてくる。

だが私は、氷越しに彼女の目を見つめ、冷たく言い放った。


「殺しませんよ。主様の命令ですから」


圧倒的な実力差を見せつけた上で、氷像の表面を指でなぞる。


「そこで頭を冷やしていなさい。永遠に感じる時間をね」








挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ