第41話:ドキドキ!全裸スネークミッション
――早朝、未明。 東の空が白み始めた頃。 城塞都市ウラスレートの巨大な城門前。
(カイ視点:ログハウス内モニタールーム)
「通信チェック。……感度は良好だ。聞こえるか、スー」
俺は空中に展開した複数のモニターを見つめながら、念話(ウィスパー機能)を送った。 画面には、門の影に潜む全裸のスライム娘が映し出されている。 隣ではフェン、ルナ、悠乃も固唾を飲んで画面を見守っていた。
『は、はいっ……聞こえます、カイさん……!』
スーの震える声が返ってくる。
「いいか、今のウラスレートは早朝だ。人通りは少ないが、ゼロじゃない。誰かに見つかれば即通報、伝説の『全裸変態女』として指名手配だ」
『い、言わないでくださいぃぃ……!』
「泣くな。俺たちがついている。……行くぞ、オペレーション・ネイキッド・モーニング、開始だ!」
◇
(スー視点:ウラスレート城門)
僕は心臓が口から飛び出しそうだった。 朝の冷たい空気が、衣服のない肌を直接撫でていく。 乳首が外気に触れてツンと尖ってしまうのが分かって、顔から火が出そうだ。
目の前には、門番の詰め所。 椅子に座った衛兵が、槍を抱えたまま居眠りをしている。
「(ひぃぃ……起きないで……起きないでぇ……)」
僕は抜き足差し足で、衛兵の横を通り抜けようとした。 一歩、また一歩。 彼との距離、わずか1メートル。 その時。
「グガァッ!!」
衛兵が盛大ないびきをかいた。
「ひゃっ!?」
僕は驚いて飛び上がった。 その衝撃で、重力に従順な僕の胸が、たぷんっ、と大きく上下に揺れた。 白い肌が波打ち、柔らかな音が響く(気がした)。
「(ううぅ……ゆ、揺れた……恥ずかしい……)」
僕は涙目で胸を押さえ、なんとか門を通過した。
◇
(カイ視点)
「……ふむ」 「どうしたのカイ?」 「いや、今の『揺れ』のフレームレートを確認した。素晴らしい物理演算だ。スーの胸はフェンたちほど大きくはないが、その分、弾力と形状維持率が高い。……今の『たぷん』だけで白米三杯はいける」 「真面目なトーンで最低な分析しないでください」
フェンが呆れたように言った。 だが、第一関門は突破だ。
「スー、大通りに出るぞ。……む、警戒せよ! 前方からランナー接近!」
◇
(スー視点:大通り)
カイさんの警告に、僕はビクリと足を止めた。 朝もやの向こうから、健康的なスポーツウェアを着たお姉さんが、ポニーテールを揺らして走ってくる!
「ひっ!」
僕は慌てて、街路樹の横に積まれた木箱の陰に滑り込んだ。 冷たい木の感触が、素肌のお腹や太ももに押し付けられる。 これなら見えないはず……!
「(と、通り過ぎて……お願い……!)」
僕は木箱に裸の身体をぴたりと張り付かせ、小さくなって祈った。 足音が近づいてくる。 タッタッタッ……。 そして――僕の真横で止まった。
「ふぅー……ここらでちょっと休憩っと」
お姉さんが、あろうことか僕が隠れている木箱に足を乗せ、アキレス腱を伸ばし始めてしまった!
「(ええぇぇぇ!? なんでここで!? ウラスレート広いよね!?)」
息ができない。 距離はわずか30センチ。 お姉さんの荒い息遣いと、健康的な汗の匂いが漂ってくる。 対する僕は全裸でうずくまり、恐怖で震えている。
極限の緊張。 そのストレスに、スライムの体が反応してしまった。 僕の肌から、じわりと青い粘液が分泌され、太ももを伝って地面に垂れ落ちる。
ポタッ……ポタッ……。
「ん?」
お姉さんがストレッチを止め、地面を見た。
「なにこれ? なんか青いのが垂れてる……?」
お姉さんがしゃがみ込む。 視線が、液体の発生源――つまり木箱の裏へとゆっくり移動してくる!
『スー! 見つかるぞ! 上だ! 木に登れ!』
カイさんの指示が飛ぶ。 上!? そんなことしたら――いや、やるしかない!
僕は無我夢中で、背後の街路樹に飛びついた。 スライム特有の粘着力を全開にし、幹に手足を吸い付かせ、音もなくスルスルと登る。 お姉さんが木箱の裏を覗き込んだ瞬間、僕は頭上の枝の裏側に張り付いていた。
「あれ? 気のせいか……。なんだ、樹液か」
お姉さんは不思議そうに首を傾げ、また走り去っていった。
「はぁ……はぁ……よ、よかった……」
僕は安堵のため息をついた。 でも……今の体勢、死ぬほど恥ずかしい。 枝の裏側に張り付いているせいで、僕の体は下向きになっている。 重力に引かれて、胸とお尻がぷらんと垂れ下がり、無防備に揺れているのだ。 もし誰かが見上げたら、僕の全てが丸見えの絶景スポットだ。
◇
(カイ視点)
「……ごめん」 「どうしたんじゃカイ、鼻血が出とるぞ」 「いや、モニターのアングルが神すぎてな……」
画面には、下からのアングルで捉えられたスーの肢体が映し出されていた。 重力に従って雫のように形を変える美しい果実。 そして、無防備に晒された秘所。 枝にしがみつく必死な表情と、だらりと垂れ下がる肉感の対比。芸術点が高い。
「スー、次へ進め。路地裏を使え」
◇
(スー視点:路地裏)
僕は木から降りて、薄暗い路地裏を進んでいた。 ここなら人はいないはず……。
「むむっ……!」
曲がり角で、突然誰かと鉢合わせそうになった。 黒いフードを目深に被り、水晶玉を持った老婆。 ……占い師だ。しかしなぜか目を鉢巻のようなもので隠している。
「(ひっ……!)」
僕は慌てて壁に張り付き、息を殺して隠れた。 大丈夫。姿は見えていないはず。 修行の一環なのか、おばあちゃんは今見えていないはず。謎の鉢巻きのせいⅾ
だが、老婆は僕のいる方向をじっと見つめ、鼻をひくつかせた。
「……臭う……臭うぞ……」
老婆の目が、虚空を見つめて怪しく光る。
「ここにあるはずのない……『ドスケベピンク色』のオーラを感じる……!」
「(ええぇぇ!? な、なにその最低なオーラ!?)」
見えていないはずなのに、老婆が杖をつきながら、ジリジリと近づいてくる。
「見える……私には見えるぞ……。生まれたままの姿で、恥じらいながらも、どこか見られることに興奮している娘の姿が……!」
「(興奮してないですぅぅぅ!!)」
なんで当たるの!? このお婆ちゃん何者!? 僕は後ずさるが、路地は狭い。逃げ場がない!
「ほれ、そこじゃろ? こっちへ来なさい……ふふふ……若くてピチピチした気配じゃ……」
老婆が杖を振り回しながら迫ってくる。その杖の先が、僕の鼻先数センチをかすめる!
『スー! 逃げろ! 物理的に行け!』 『でも行き止まりです!』 『壁だ! 天井を伝って頭上を超えろ! お前ならできる!』
カイさんの無茶な指示。 でも、捕まったら変態占い師の餌食だ!
僕はスライムの粘着力を全開にして、垂直な壁を駆け上がった。 そのまま天井(建物の張り出し部分)に張り付き、逆さまになって移動する。 まるでスパイ映画のワンシーンみたいに。
僕は老婆の頭上を、逆さまの状態で通過する。
「む? 消えたか……?」
老婆は僕のいた場所で立ち止まり、キョロキョロと辺りを見回した。 そして、ふと上を見上げる。
「……まさかな。天井に全裸の娘が張り付いているなどという、エロ漫画のような展開があるわけが――」
その瞬間。 恐怖と緊張で緩んだ僕の体から、一滴の愛液(スライム粘液)が、ポタリと落ちた。
ペチャッ。
老婆の額に、青い雫が直撃する。
「ぬぉ!? ……こ、これは……聖水!? いや、愛液の波動を感じる……!」
老婆が混乱して踊りだした隙に、僕は必死でその場を離脱した。
◇
僕は路地を抜け、広場に出た。 ぜぇ……はぁ……。 怖かった……。あのお婆ちゃん、絶対ラスボスより強い……。
でも、あと少し。お姉ちゃんの店はもうすぐそこ――。
「ワンッ!」
「えっ?」
広場の中央。 そこに、一人の男性が立っていた。 大型犬を連れた、早朝の犬の散歩だ。
距離は10メートル。 遮蔽物なし。 隠れる場所なし。 犬が僕を見て、尻尾を振っている。 飼い主の男性が、ゆっくりとこちらを振り向こうとしている。
「(あ……)」
終わった。 隠れる場所なんて、どこにも――
「(い、いや……ある!)」
僕の目に入ったのは、広場に置かれた「あるもの」だけだった。
(続く)




