第4話 規格外のログハウスと、失われた記憶の香り ※ フェンのハンバーグ食べてるところ追加
「……さて、と」
俺はコーヒーカップを置き、改めて視線を室内へと戻した。 そこには、さっきから目を白黒させて、挙動不審になっているフェンの姿があった。
「はわわわ……っ! 主様、こ、ここは本当にお家なのですか? お城の間違いではないのですか!?」
フェンは恐る恐る、部屋の中央に敷かれたペルシャ風の絨毯を、その真っ白な獣の前腕でぺたぺたと触っている。
無理もない。俺がコマンド入力で呼び出したのは、『最高級ヴィラ』のデータだ。 天井からは魔石を加工したシャンデリアが柔らかな光を投げかけ、壁一面の強化ガラスからは美しい森の緑が一望できる。
「ただの家だよ。まあ、ちょっと『設定』をいじって快適にはしてあるけどな。遠慮しないでくつろいでいいぞ」
「こ、こんなフカフカな床、歩くのが怖いです……! 今まで寝ていた森の湿った地面とは大違いで……」
そう言いながらも、フェンは好奇心に勝てず、リビングの巨大な革張りソファへダイブした。
「むにゃぁぁ……っ♡ 柔らかいですぅ……」
ボフンッ、という音と共に、彼女の豊満な肢体が高級ソファに沈み込む。 黒い革と、健康的な日焼けした肌。そして肘から先を覆う純白の獣毛。 そのコントラストが目に毒すぎる。仰向けになった彼女の胸元では、布面積の足りない漆黒のマイクロビキニが重力に負けて、今にもこぼれ落ちそうになっていた。
「気に入ってくれたみたいで何よりだ。さて……そろそろ飯にするか」
「はっ! そ、そうでした! 主様に食事を用意させるわけにはいきません! 私が獲物を狩ってきます! 丸焼きにすれば食べられますから!」
ガバッと起き上がったフェンが、勇ましく窓の外へ飛び出そうとする。
「丸焼き? 味付けは?」
「あ、味付け……ですか? 血の味と……あと焦げた匂いが香ばしいかと!」
フェンがキョトンとして答える。 どうやらこの世界の獣人族には、繊細な調理技術という概念があまりないらしい。素材の味勝負だ。
「いや、今日は俺に任せてくれ。うまいもん食わせてやるよ」
俺はニヤリと笑い、システムキッチンへと向かった。 アイテムボックスから、森で拾った「石ころ」を取り出し、コマンドを入力する。だが、今回は完成品を出すんじゃない。
『 対象:石ころ > データ置換:[ 最高級合い挽き肉 ] [ 新鮮な玉ねぎ ] [ パン粉 ] [ 牛乳 ] 』 『 追加生成:[ オリーブオイル ] [ ニンニク ] [ タイム(香草) ] 』
ポン、ポン、と調理台の上に食材が出現する。 俺はフライパンにたっぷりのオリーブオイルを敷き、包丁の腹で潰したニンニクと、フレッシュなタイム(ハーブの一種)を放り込んだ。
弱火でじっくりと加熱する。 チリチリ……という音と共に、ニンニクの香ばしさとハーブの爽やかな香りが立ち上り、オイルに移っていく。
「ふあぁぁ……!? な、なんですかこの香り!?」
ソファにいたフェンの鼻がひくひくと動いた。 彼女は吸い寄せられるようにキッチンへやってきて、カウンターから身を乗り出した。
「ただ肉を焼く匂いじゃありません……! もっと複雑で、脳みそがとろけそうな……これ、魔法の薬ですか!?」
「これは『アロゼ』の下準備だよ。肉の臭みを消して、香りを纏わせるんだ」
俺は香りの移ったオイルで、成形したハンバーグを焼き始めた。 ジューッ! 食欲を刺激する音が響き、肉の旨味が凝縮された香りが部屋中に充満する。
「うぅぅ……主様、すごいです。私たち獣人は、肉なんてただ焼いて食らうだけでした。こんな風に、草と油で魔法をかけるなんて……」
フェンが感嘆の声を漏らしながら、涎を垂らさんばかりに見つめている。 俺は焼き上がったハンバーグを皿に盛り、特製ソースをかけてテーブルへと運んだ。
◇
「んんっ――!? ふあぁぁぁ……っ♡」
一口食べたフェンが、頬を押さえて悶絶した。 その拍子に、テーブルの上に乗った豊かな胸がプルルンと揺れる。
「おいしい……! おいしすぎます主様! 噛んだ瞬間に肉汁が爆発しました! それに、この鼻に抜ける爽やかな香り……これのおかげで、いくらでも食べられそうです!」
「よかった。ニンニクとタイムがいい仕事してるだろ」
「はいっ! 毎日石ころがこんなご馳走になるなんて、夢みたいです……!」
尻尾をブンブン振りながらハンバーグを平らげていくフェン。 俺も自分の分を食べながら、今後のことを切り出した。
「なあフェン。俺たちはこれからどうするか、だけど」
「はい、主様」
「俺はこの森に来たばかりで、地理に疎いんだ。とりあえず、どこか人里……いや、俺たちのことを受け入れてくれそうな場所に向かいたいんだが、あてはあるか?」
追放された身だ。人間の街に戻っても、またアレクたちと鉢合わせる可能性があるし、バグ扱いされて迫害されるだけだろう。
フェンは少し考えてから、琥珀色の瞳を輝かせた。
「でしたら、私の故郷である『銀狼族の隠れ里』を目指すのはいかがでしょうか!」
「隠れ里?」
「はい! この森を北へ抜けた山岳地帯にあります。人間は立ち入れませんが、主様は私の命の恩人ですし、その……私の『つがい』ですから! きっと長老たちも歓迎してくれます!」
「つ、つがいは決定事項なのか……。まあいい、とりあえずそこを目指そうか」
当面の目標は決まった。 北の山岳地帯。まずはそこへ向かい、情報を集めるとしよう。
◇
食後の優雅な時間を過ごすと、俺はフェンにある提案をした。
「さて、寝る前に風呂にでも入るか」
「お風呂、ですか? 川で水浴びをするのですか?」
「いや、この家には『全自動洗浄機能付きバスルーム』があるんだ」
俺が案内したのは、白大理石で作られた広々とした浴室だ。 浴槽には、常に最適な温度(41℃)に保たれたお湯がなみなみと満ちており、疲れを癒やすジャグジー機能までついている。
「わぁ……お湯がボコボコしています! それに、いい匂いの泡まで……!」
フェンは目を輝かせると、ためらいなく首に着けていたチョーカーに手をかけ、パチンと外した。 続けて、ただでさえ際どいマイクロビキニの、腰の紐にするりと指をかける。
「ちょっと待て! 何をしてるんだ!」
「え? お風呂に入るんですよね?」
フェンは不思議そうに小首を傾げる。 彼女の指先が少し動けば、褐色の肌に残る『白い水着跡』が露わになる寸前だ。
「主様の背中をお流しするのは、従者の務めです! それに……この体、主様に綺麗にしていただきたいですし……♡」
「いや、今日は一人でゆっくり入りたい気分なんだ! 使い方は教えるから、俺のあとに入ってくれ!」
「むぅ……残念です。主様と肌を合わせる絶好の機会だと思ったのですが」
フェンは心底残念そうに耳を垂れた。 危ないところだった。 彼女の「忠誠心」という名のスキンシップ欲求は、留まるところを知らないらしい。俺の理性が爆発する前に、早々に風呂を済ませることにした。
◇
入浴を終え、俺たちは二階の寝室へと向かった。 キングサイズのベッドに入ると、フェンは当然のように布団の中に潜り込み、俺の腕にギュッと抱きついてきた。
風呂上がりの火照った体。石鹸の香りと、彼女自身の甘い獣の匂い。 背中には、温かい体温と柔らかすぎる二つの果実の感触が直に伝わってくる。
「主様……おやすみなさい。大好きです……」
フェンはすぐに深い眠りに落ちたようだ。無防備で幸せそうな寝顔だ。
だが、俺はすぐには眠れなかった。 暗闇の中で天井を見上げながら、ふと湧き上がった違和感について考えていた。
(……なんで俺、あんな料理の手順を知ってたんだ?)
ニンニクを潰して香りを出す。タイムを使って臭みを消す。 ハンバーグの作り方も、デミグラスソースの味も。 この世界の一般的な庶民料理じゃない。もっと高度で、洗練された知識だ。
それに、あの『コマンドプロンプト』だ。 delete、edit、administrator……。 あの文字列を見た瞬間、俺は意味を理解し、使いこなしていた。まるで、昔から当たり前のように使っていた『言葉』であるかのように。
(俺はカイ・ウォーカーだ。王都の下町で生まれて、勇者パーティの荷物持ちをして……)
そこまでの記憶はある。 だが、それとは別に、もっと別の『俺』がいるような気がする。 カイとしての人生とは接点のない、異質な知識の塊。
(職業:ノイズ……バグ……。俺自身が、この世界の人間じゃないってことなのか?)
考えれば考えるほど、頭の奥がズキズキと痛む。 答えは出ない。ただ、この力と知識がなければ、俺はとっくにベヒーモスの餌になっていたことだけは確かだ。
「……ま、今はいいか」
俺は思考を打ち切り、隣で温もりを伝えてくれるフェンの頭を撫でた。 彼女がいる。生きる力がある。 謎解きは、おいおいやっていけばいい。
明日は『隠れ里』へ向けて出発だ。 俺はフェンの寝息を聞きながら、ゆっくりと意識を手放した。
(続く)
大人の事情によりマイクロビキニではありません
書籍化したらマイクロビキニなるかもな!!!!!!!!
ポイントください




