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第39話:スライム娘『スー』のテクスチャバグ

 アリシアの町を後にし、俺たちは西へと続く街道を進んでいた。  鬱蒼とした森の中、木漏れ日が斑模様を描く静かな道だ。  だが、その静寂は不意に破られた。


 ガサガサッ。


 街道脇の茂みが揺れた。  俺たちが足を止め、警戒態勢をとると、そこから何かがおずおずと姿を現した。


「あ、あの……ご、ごめんなさい……。僕、怪しいスライムじゃなくて……」






※諸事情により服は着ています

挿絵(By みてみん)







 現れたのは、透き通るような水色の髪を持つ、華奢なショートカットの少女だった。  その肌は瑞々しく、太陽の光を受けて微かに光沢を帯びている。スライム特有の質感だ。  大きな瞳は怯えに揺れ、小動物のような愛くるしさがある。

 だが、俺の目は彼女の顔ではなく、その「全身」に釘付けになった。


 ――全裸だ。  比喩でもなんでもなく、生まれたままの姿だ。  何も身につけていない。  恥じらうように内股になり、大事そうに胸の前で両手を握りしめているが、その手の中にあるのは「虚空」だけ。  隠すべき場所は何も隠れていない。そして、彼女の胸には身の丈に合っていない豊満な乳房を携えていた。フェンや悠乃ほどの大きさはないが、きれいな釣り鐘型の形をしている(言わずもがなルナよりは圧倒的に大きい(笑))。そしてスライム族の体質なのか、ボディには一切の毛が生えていない。



「えっと……こ、この服……変じゃない、ですか……? お姉ちゃんが作ってくれたんですけど……」


 彼女は頬を染め、上目遣いで俺たちに尋ねてきた。  その仕草に合わせて、柔らかな肢体がプルンと揺れる。


(……ん?)


 俺の脳内で、とてつもない情報処理が走る。  確かに全裸であることはおかしい。異常事態だ。  だが、それ以上に俺の琴線に触れる、決定的な「属性」があった。


「お嬢さん……?」 「?」 「今……ご自身のことを『僕』って言いましたか……?」 「う、うん……そうだけど」


 ――ボクっ娘。  それは、希少価値の高い至高の属性。  全裸で、スライム娘で、しかも一人称が『僕』。  さらに「お姉ちゃんの手作り」という健気な設定まで付与されている。


 ドクンッ。  俺の中で何かが弾けた。


 俺は空を仰ぎ、両手を広げて絶叫した。


「有り難うこの世界の支配者よ! もうこの世界の謎とかどうでもいい! 俺を殺してくれてありがとうぅぅぅ!!」


「あ、ありがとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」


 俺の感謝の咆哮が、森の木々を震わせ、空へと吸い込まれていく。  実験体? 強制終了? 知るかそんなこと。  俺はこの瞬間のために生きていたんだ。この光景に出会えただけで、俺の人生はオールオッケーだ。


「うるさい!」


 ギリリッ!


「ぐえっ!? ごふっ……!」


 絶頂の瞬間、背後から万力のような力が俺の喉を締め上げた。  ルナだ。  彼女が氷点下の瞳で俺を見下ろしている。


「なーに発情してんのよ、このバカ兄貴」 「ぐ、ぐるじい……! く、首が……!」


(こいつ……甘えてくるときは俺のこと「お兄ちゃん♡」とか猫撫で声だしてくるくせに、こういう時だけ殺しにかかってきやがる……!)


 ◇


 ルナによる物理的な「冷却処理チョークスリーパー」のおかげで、俺の理性は強制的に再起動された。  俺は改めて、目の前の少女――スーを観察した。


(……やはり、おかしい)


 露出狂というわけではない。彼女の態度は、本当に「服を着ている」つもりなのだ。  俺は管理者ウィンドウを展開し、スーのデータを解析した。


 Check_Target : Sue (Slime_Variant) Equip : Sister's_Handmade_Dress (Data: Exist) Status : Error: Texture_Load_Failed (Target: Sue)


 ――ビンゴだ。  服のオブジェクトデータ自体は確かに存在する。  だが、スーの体に装着された瞬間だけ、何らかのシステム不具合でテクスチャ(画像データ)の読み込みに失敗し、「不可視設定インビジブル」になってしまっているのだ。


 つまり、彼女は「可愛い服を着ているつもり」だが、世界システム側がそれを表示できていない。  とんだ欠陥バグだ。だが、俺にとっては神バグだ。


「……あのな」 「はい?」


 俺は言いにくい事実を告げた。


「いや、服なんて着てないぞ。お前、全裸だ」 「えっ……?」


 スーの顔色がさっと変わった。  そして、みるみるうちに大きな瞳に涙が溜まっていく。


「そ、そんなことないです……! ちゃんと着てます……!」 「いや、見えてないんだって。ここも、そこも、真っ裸なんだよ」 「ひ、酷いです……! お姉ちゃんが一生懸命作ってくれたのに……! ないわけないもん……!」


 普段は気弱そうなスーだが、大好きな姉の服を否定されたことだけは許せなかったらしい。  彼女は顔を真っ赤にして、ボロボロと大粒の涙をこぼした。


「もういいです! 嘘つきの人たちなんて知りません!」


 スーは俺たちに背を向け、脱兎のごとく走り出した。  全裸のまま。青いお尻をプリプリと揺らしながら。


「あ、おい待て!」


 俺たちの制止も聞かず、彼女は街道の先へと消えていった。  その先にあるのは――城塞都市ウラスレートだ。


 ◇ ◇ ◇


 しばらくして。  俺たちは城塞都市『ウラスレート』の巨大な城門の前に到着した。  見上げるような石造りの門。行き交う人々。  ここは物流の拠点であり、多くの人間でごった返している。


 俺は門の影で、こっそりとシステムコンソールを開いた。


 Remote_View : Target [ Sue ]


 さっき飛び出して行った全裸のスライム娘。  このまま放置すれば、事案確定だ。  俺は遠隔視点で、彼女の様子をモニタリングすることにした。


 ――モニターに映し出されたのは、あまりにも残酷で、かつ眼福な光景だった。


 画面の中、ウラスレートのメインストリートを、一人の少女が歩いている。 スライム族の特性で完全な人間に擬態できているが…


 透き通るような肌。揺れる水色の髪。  そして――圧倒的な全裸。

 歩くたびに彼女の形のいい双丘が揺れる。これまたスライム族の特性だろう。とても柔らかそうに形を変えて揺れている。彼女は全く気付いていないが。


 彼女が歩を進めるたびに、都市の喧騒が波が引くように静まり返る。  パン屋の親父が、焼きたてのバゲットを地面に取り落とした。  巡回中の強面の騎士が、槍を持ったまま石像のように硬直した。  貴婦人方が「まあ!」と悲鳴を上げて、慌てて子供の目を手で覆う。


 町中の視線という視線が、一点に集中していた。  だが、スー本人はビクビクと身を縮こまらせながらも、その視線をポジティブに誤変換していた。


『(うぅ……すごい見られてる……恥ずかしい……)』 『(で、でも……ふふっ、これだけみんなが見てくるってことは、きっとお姉ちゃんの作ってくれた服が可愛いからだよね……♪)』


 彼女は恥じらいながらも、どこか誇らしげに、その美乳を張って歩いている。  「見てください、この素敵な服を」と言わんばかりの表情。  だが実際に見せつけているのは、あどけない先端と、滑らかな腹部のライン、そして無防備なデルタ地帯だ。  その健気な勘違いと、白日の下に晒された肢体のギャップが、見ていて痛々しいほどに愛おしい。


 お腹が空いたのか、スーは広場に面したオープンテラスの高級レストランに入った。  ウェイターが仰天してトレイをひっくり返す中、彼女は当然のように席に着いた。  ひんやりとした木の椅子の感触が、直接お尻の肉に伝わったのか、彼女が「んっ」と小さく声を漏らしてビクッと肩を震わせる。


「このTボーンステーキを一つください。」


 何故かレストラン側は客としてもてなしている。ふつう追い出すだろ。なんでそのまま全裸の変態女にサービスを提供できるんだよ。


 そして、ナイフとフォークでステーキを小さく切り、上品に口に運んだ。  もぐもぐ、と咀嚼する。  そのたびに、柔らかな頬が動き、連動して全身のゼリーのように柔らかそうな肉がプルプルと震える。  まるでデザートのプリンのような弾力。


 カラン、カラン……。  店中の客がフォークを取り落とした。  全員(男のみ)が食事の手を止め、そのシュールかつエロティックな光景をガン見している。静寂の中に、スーの咀嚼音だけが響く。


 そこへ、欲望を隠そうともしない男たちが群がってきた。


「へへっ、嬢ちゃん。……すげぇ格好だな」 「いい身体してるねぇ。いくらだ? 一晩どうだ?」


 男たちの下卑た笑いと、卑猥な勧誘。  だが、純真なスーにはその意味が通じない。彼女は男たちが「服を売ってくれ」と言っているのだと勘違いした。


『ひっ……! な、なんですかけだもの……!』


 スーはフォークを構えて威嚇した。


『し、失礼です……! この服は売り物じゃありません……! お金なんていりません!』


「金はいらない!? タダか! すげぇ!」 「奉仕精神の塊かよ! 天使か!」


 男たちが色めき立つ。  会話が致命的に噛み合っていない。地獄のすれ違いコントだ。  このままでは、スーが「勘違い」のまま連れ去られてしまう。


 だが、運命の時は唐突に訪れた。  食事を終え、男たちから逃げるように店を出たスーが、ふとショーウィンドウの前を通りかかったのだ。  そこは鏡屋だった。  職人が磨き抜いた、曇り一つない大きな全身鏡が、通りに向けて置かれている。


 スーは何気なく、自分の「自慢の可愛い服」を確認しようと、鏡を見た。  くるりと回って、裾の広がりを確認しようとした。


 ――そこに映っていたのは。


 服など一枚も身につけていない、生まれたままの姿で立ち尽くす自分自身。  大事なところも、恥ずかしいところも、すべてが丸見えの「全裸の少女」。


『……えっ……?』


 スーの動きが凍りついた。  瞬きをする。鏡の中の自分も瞬きをする。  自分の体を触る。ペタペタと確かめる。  鏡の中の自分も、同じように自分の肌を直接触っている。


 服はない。どこにもない。  あるのは、衆目に晒された、あられもない姿だけ。


 数秒の沈黙。  スーの顔色が、青から赤へ、そして限界突破した深紅へと変わっていく。  自分が今まで何をしていたのか。  どんな格好で、どんな顔をして、町を歩いていたのか。  全ての記憶が走馬灯のように駆け巡り――。










『きゃあああああああああああああああああああああッ!!!』


 悲鳴がウラスレートの空に響き渡った。


『いやぁぁぁ! 見ないでぇぇぇぇ!』






※諸事情により服を着ています


挿絵(By みてみん)





 スーは両手で必死に体を隠そうとするが、隠しきれるはずもない。  涙目で走り出した。  さっきまでの誇らしげな歩調とは打って変わって、羞恥心で今にも死にそうな全力疾走。  門番たちの静止も振り切り、とんでもない速度で町から飛び出してくる。  まさに、裸の王様ならぬ、裸のスライム娘の敗走だった。


「……あーあ」


 コンソールを見ていた俺は、天を仰いだ。  完全にトラウマレベルだ。これは早急に保護して、ケアしてやらないと彼女の精神が死ぬ。  俺はニヤけそうになる顔を無理やり引き締め(られてはいないが)、彼女が飛び出してくるであろう方向へと走り出した。


(続く)

運営さん 聞いてください


これはスライムなので 人間界のルールは適応されず r15指定のうちに入ります。豚や牛の全裸でどこの誰が通報するんでしょうか…? 


ハイ論破

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