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第36話:『龍害』第一章の終わり

スライムの村へ向かう道中。

 俺たちは街道から少し外れた、見晴らしの良い花畑で足を止めた。

 今日は天気もいい。絶好の行楽日和だ。


俺は管理者権限でログハウスを展開し、その前のテラスでバーベキューセットを広げていた。


「ん~っ! 美味しい!カイ!私にあーんしなさいよ!」


挿絵(By みてみん)



「おいしいです!!」

「カイ、こっちの肉も焼けたで!」








ルナが頬を膨らませて肉を咀嚼し、フェンが甲斐甲斐しく俺の口に野菜を運び、悠乃がトング片手に肉をひっくり返す。

 鉄板の上では、俺が創造した霜降り肉と、新鮮な野菜がジュウジュウと音を立てて焼けている。

 香ばしい匂いと、美女たちの笑顔。


俺は冷えたエール(に見せかけた炭酸水)を飲みながら、ふと感慨にふけっていた。


(……思えば、遠くへ来たもんだな)


この世界に喚ばれて――いや、勇者アレクに「無能」だと罵られ、あの奈落の森に追放されたあの日。

 正直、死ぬと思った。

 あるいは、生き延びたとしても、孤独な復讐者として、暗く湿った人生を送るものだと覚悟していた。


だが、今はどうだ。

 俺の隣には、最強で美しい銀狼の姉妹がいる。

 豊満で母性溢れる牛人族の娘がいる。


「……みんな、ありがとうな」

「へ? 急になんですか?」

「いや……お前たちに出会えて、本当によかったと思ってさ」


俺が素直な言葉を口にすると、三人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。


「もう……。私たちだって、主様に会えて幸せですよ」

「そうよ。カイがいなきゃ、私なんてまだ姉様にコンプレックス抱えたままだったし」

「……これからもよろしくな、カイ」


彼女たちの笑顔が眩しい。

 この幸せを守るためなら、俺はどんな敵とも戦える。

 そう、心から思えた瞬間だった。


◇ ◇ ◇


一方その頃。

 カイたちが団欒を楽しんでいる場所から遥か彼方。

 勇者アレクが転送された活火山――『煉獄のイグニス・ピーク』。


そこには、異様な光景が広がっていた。


灼熱の溶岩流に囲まれた広場に、50人を超える「異形」の集団が整列している。

 人間、獣人、魔人、そして奇妙な野菜のような肌を持つ亜人たち。

 彼らは皆、一様に鋭い眼光と、ただの住人ではない「異質な気配」を纏っていた。


その頂点。

 黒曜石の玉座に、漆黒の毛皮を纏った『黒い獣』がふんぞり返っていた。


獣の背後では、あの日アレクたちがそうであったように、数人の人間や魔人たちが鎖に繋がれ、ツルハシを振るって労働させられている。

 だが、玉座の前に並ぶ50人は「側近」であり、幹部候補だ。


「……聞け、愚民ども」


黒い獣が、低い声で告げた。

 その声は拡声器を使ったように響き渡る。


「俺たちは、この世界をめちゃくちゃにしていいらしい」


獣がニヤリと口角を吊り上げる。


「野菜界、天狼「ガルム」を中心とした亜人連合、魔王軍、そして人間界……。いたるところで暗躍し、対立を煽り、秩序を破壊しろ。バグを撒き散らせ。破滅させろ。……この退屈な『世界』を、最高に盛り上げろ」


「「「御意!!」」」


50人の幹部たちが一斉に頭を下げる。

 その熱狂の中、一人の男が列を離れ、堂々と獣の前へと歩み出た。


黒い長髪を後ろで束ね、和装のような衣装に身を包んだ男。

 腰には長さの違う日本刀を三本差している。

 その佇まいは、異世界の住人というよりは、時代劇から抜け出してきた侍のようだ。


「……何の用だ、イシス」


獣が片眉を上げる。

 イシスと呼ばれた男は、獣を恐れることなく、対等な口調で語りかけた。


「報告だ。……人間サイドは、勇者アレクを、裏では『死亡扱い』として処理し、民衆には「魔王軍の幹部を撃破した英雄」というプロパガンダとして利用している。」


「ほう?」


「そして、神殿では今、新たな勇者を召喚するための儀式準備に入っている。……あんたの思惑通りに進んでるな」


イシスはニヤリと笑い、刀の柄に手を置いた。


「まあ、アレクが、まさかこっち(魔境側)にワープしてくるとは、あんたも予想外だったろうがな」


「ククッ……。まあな」


獣が喉を鳴らして笑う。

 イシスは目を細め、続けた。


「しかし……アレクが転移されたということは、向こう側には『強力な魔法使い』がいるということだ。それも、俺たちの知らない規格外のな」


獣は何も答えない。

 ただ、その赤い瞳が妖しく光っただけだ。


「……まあいい。全ては予定通りだ。あんたはここで座して待て。現場フロントは俺たちがかき回してやる」


イシスは踵を返し、風のように去っていった。


残された黒い獣は、頬杖をつき、独り言ちた。


……強力な魔法使い? 馬鹿を言え」


獣は知っている。


この世界において、特定の座標へ瞬時に物体を飛ばす処理は、魔法では困難だ。


それは、システム(OS)層に干渉できる『特権コマンド』だ。

管理者であればおおざっぱに座標を知っていた場合容易に転送できる。


「座標X-990からY-042への強制置換……。これは明らかに魔法の多義ではない。これはおれたちと同じ「管理者」による、コマンドだ。」


獣の赤い瞳が、見えざる敵を捕捉するように妖しく光る。


「魔法じゃない。……『コマンド』だ。俺たちと同じ穴のムジナが、もう一匹紛れ込んでやがる」


「あれは、俺たちの知らない『強力な管理者アドミニストレータ』がいることを示している」


獣の顔に、嗜虐的な笑みが浮かぶ。


「アレク……。あいつの反応。……あいつが『元・俺の部下』であることは確定だ」


かつて、灰色のビルの中で、自分に顎で使われていた哀れな部下。

 それが勇者アレクの正体だ。


「なら……アレクを飛ばしたお前も、こっちに来てるんだろう? ……ここでの名前が何かは知らないが」


獣は空を見上げた。

 その視線の先には、見えない「誰か」がいる。


「お前も、アレクと同じようにいじめてやるよ。……せいぜい絶望してくれ」


◇ ◇ ◇


場所は変わり――『野菜妖精のベジタブル・フォレスト』。

 鬱蒼と茂る巨大植物の森を、四人の影が歩いていた。


勇者アレク。魔法使い。戦士。

 そして、新たな案内人である野菜人の少女、『トマ美』だ。


トマ美のアレクを見る目は相変わらず赤いトマトの果汁のようにうっとりしている


「ねぇねぇアレク様……。私の体の中を流れる、この濃厚で真っ赤なリコピンを使って、貴方のその凛々しい体を蝕む『酸化』という名の老化、止めて差し上げましょうか? 緑黄色野菜の王様といえど、孤独なままではいつか萎びてしまう……。トマトという潤いがないと、貴方の鮮度は保てないんですよ……?」




挿絵(By みてみん)






トマ美がアレクの腕に抱きつき、プルプルのトマト肌を押し付ける。

 以前のアレクなら「離れろ化け物!」と叫んでいただろう。

 だが、今のアレクは違う。


「トマ美さん、そのお心遣いは感謝します。しかし……『永遠』とは、変化を受け入れぬ者の幻想に過ぎません。私がもし、貴女の力に頼って鮮度を永らえたとして、それは果たして『生きている』と言えるのでしょうか。萎び、枯れゆく過程にこそ、生命(野菜)の尊厳があると私は考えます。ですから、その手はお引きください」


「っ……! 枯れることさえも尊厳だなんて……。なんて孤高で、退廃的な美学をお持ちなの……! 拒絶されるたびに、その芯の強さにまた惚れてしまうわ……!」


アレクは慈愛に満ちた目で微笑み、優しくトマ美を受け流した。

 その手には、青々としたブロッコリーソードが一房、大切に握られている。


後ろを歩く魔法使いの女が、気味悪そうにアレクの背中を見た。

 彼女はずっと気になっていたことを、ついに口にした。


「ねえ、アレク。あんた、あの『黒い獣』のこと、知ってそうだったけど……なんなのあいつ?」


火山での無意味な労働の日々。

 アレクが獣を見た時の、あの異常な怯え方。

 それは単なる恐怖とは違う、もっと根源的な関係性を感じさせた。


「私達、ずっと一緒だけど……あんなやつのこと知らないわよ。あんたの知り合いなの?」


魔法使いの問いに、アレクは足を止めた。

 彼は空を見上げ、ブロッコリーを愛おしそうに撫でながら、静かに口を開いた。


「……世界とは、巨大なオフィスのようなものです」


「は? どういうこと!?」


「上層部が決定し、中間管理職が搾取し、我々のような末端が消費される。……逃げ場などないのです。異世界だろうと、地獄だろうと。……『彼』がいる限り」


「だから、はっきり言ってよ! 意味がわかんないわよ!」


魔法使いが苛立ちを露わにする。

 だが、その答えが出る前に――。


◇ ◇ ◇


(カイ視点)


バーベキューでお腹を満たした俺たちは、花畑に寝転んで空を見上げていた。

 青い空。流れる白い雲。

 フェンとルナと悠乃の穏やかな寝息。

 最高だ。これ以上の幸せはない。


俺はずっと、この穏やかな時間が続けばいいと思っていた。

 だが。


ブォンッ……。


突如、空の色が変わった。

 

 いつもの穏やかな青色の空ががノイズと共に消え、毒々しい真紅の文字が視界を埋め尽くす。


「……っ!? なんだ、これ……!?」


俺は身を起こした。

 空に流れる、俺にしか見えないシステムログ。

 それはただの通知などではない。もっと上位の、冷徹な「通告」だった。


真紅のシステムログ


> SYSTEM ALERT: Connection established.Sender: Admin (Root Authority)To: Subject_Kai

>

>

> `> [データ移行レポート]> 転送元 (Source): 現実世界 (Planet: Earth)> 転送先 (Dest): 隔離世界 (World: Isekai_09)**> ステータス: 魂データのインストール完了。`

>

> `> [死亡ログ訂正]> 地球での死因: 偶発的事故…… [FALSE] 否定> 真の死因: 上位存在による意図的な強制終了(Process Kill)> 備考: 《()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()》`

>


俺の思考が停止する。


(……は? なんの話だ?)


現実世界? 地球? インストール?

 『死因』?


そして…特に不吉な一文


`備考: 貴様の死は事故ではない。我々が「管理者」として選別し、殺害し、この世界へ実装した。`


ふざけるな。

 俺はこの世界で生まれ、この世界で育った。

 物心ついた時からこの空の下にいた。親の顔も覚えているし、ガキの頃に泥だらけになって遊んだ記憶だって鮮明にある。

 俺の人生は、確かにここにあったはずだ。


なのに、このログは何を言っている?

 俺が……「外」から連れてこられたデータだと?

 俺の記憶は、俺の人生は、作りインストールされたものだというのか?

 『強制終了プロセス・キル』……俺が死んで、ここに送られた?

 そんな馬鹿な。


だが確かに思い当たる…明らかに文明レベルの高い料理方法を知っていること。建築物の生成、備品、そして…このコマンドの能力。


ログは俺の混乱を無視して、無慈悲に続く。


Warning: System resources are critical.

Predicted Outcome: Fatal System Crash (Blue Screen)

Trigger: Rise of the Dragon

Command: Keep the System Alive.

《(命令:()()()()()()()()()()()()()())》

Connection Closed.


プツン、と赤い文字が消え、元の青空に戻った。


俺は呆然と空を見つめていた。

 情報の奔流。俺の出自を否定する記述。

 そして、最後に突きつけられた「システム(世界)を存続させろ」という言葉


冷たい汗が背中を伝う。

 俺はこの世界で、勇者パーティを追い出されてからも、必死に生きてきた。

 だが、俺自身が……そしてこの世界そのものが、誰かの掌の上で作られた「実験場」に過ぎないというのか?


「……主様?」


不意に、隣からフェンの声がした。

 彼女が不思議そうに、俺の顔を覗き込んでいる。

 その温かい瞳。柔らかな肌。

 彼女たちの存在も、データに過ぎないのか?


「どうされました? 空に、なにか?」


彼女には見えていない。

 この世界に生きる彼女たちには、空に浮かぶ「終わりの宣告」など、知る由もないのだ。


(……俺も、そっち側のはずだろ?)


俺は答えられなかった。

 ただ、自分の存在の根底が揺らぐような得体の知れない寒気に、震える指先を握りしめることしかできなかった。


◇ ◇ ◇


――同時刻。野菜妖精の森。


魔法使いの質問に、アレクはゆっくりと振り返った。

 彼は、かつての世界で、最も憎み、最も恐れ、そして決して逆らえなかった人物の顔を思い浮かべていた。


「……あの黒い獣の正体は」


アレクは空を見上げ、確信を持って呟いた。


「……私の、元ボス(上司)です。」


姿かたちは違えど、立ち居振る舞いでわかる。


そして、カイはおそらく…


(第1章・完)






おまけ

挿絵(By みてみん)




第一章終わり。ここまで見てくださった方へ。有り難うございます。

最初は30話ほど書き溜めた段階で投稿を開始、今では10万文字を優に越える作品になってくれました。


今現在62話まで書きためており、文字数のわりにゆっくり進んでおります。これも暇だからできることですね…ありがたい。


ぶっちゃけ自分でもエロ書いてんのかバトル書いてんのか冒険物書いてんのか迷走してんなーとも思いますが、はじめてにしては書けてる方だと自分に言い聞かせて書いてます。反省点はめっちゃ多いけど。


ふんだんに挿絵を使っておりますが、実際のキャラクターの服装とは程遠い、Bna回避を目的としたオーバーオール姿で進行することにしましたが、実際にはフェンとルナは マイクロビキニ姿でございます

それに悠乃の搾乳シーンやらルナのマッサージシーン、フェンとの良いシーンなども同様Ban回避で画像はマイルドなんてもんじゃないし、表現も超banを恐れた感じの言葉選びになっています。



というわけでトリマ見てくださってる方。有り難うございます。第二章もよろしくお願いします。


予定では スライム娘編 スライム村編 粘害編 とかになるんかな 

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