第32話:元勇者 ブロッコリーの兆し アレク1/3
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(幕間:勇者の崩壊と、緑色の救済)
あれから、数日が過ぎた。
相変わらず、灼熱の火山での無意味な穴掘りは続いている。 だが、生活環境には明確な変化――いや、『格差』が生まれた。
なぜか、パーティの中で最も非力な女である私(魔法使い)が、一番良い待遇を与えられたのだ。 私の個室は、管理者権限による空調が完備され、ふかふかのベッドとプライバシーが守られている。食事も少しだけ彩りが豊かだ。 次に、戦士。彼は硬いベッドだが、少なくとも壁と扉のある個室で眠ることを許されたし、快適な空間であることは間違いない。
そして――勇者アレク。 彼だけが、地獄の底に落とされた。
彼に与えられたのは、作業場のド真ん中に設置された「全面ガラス張りの箱」だった。 壁も、天井も、床さえも透明。そこにトイレと汚い布団があるだけだった 寝る姿も、着替える姿も、そして排便や排尿といった生理現象の全てが、私たちや、監視する「獣」から丸見えの状態だ。 プライバシーなどという概念は、そこには存在しない。 彼は24時間、衆目に晒されながら、ただの「サンプル」として生きることを強いられたのだ。
そして、今日の食事の時間。 ついに、アレクの中で何かが「プツン」と切れた。
カラン、コロン……。
無機質な音と共に、今日の配給が出現する。 私の皿にはチキンソテー。戦士の皿には蒸し肉。 そしてアレクの皿には――茹でただけの、緑色の野菜が一房、転がっていた。
ブロッコリーだ。
以前のアレクなら、「ふざけるな!」と皿を叩き割っていただろう。 だが、今の彼は違った。 泥と排泄物の臭いが染み付いたガラスの檻の中で、彼はそのブロッコリーを、まるで聖遺物でも扱うかのように、震える両手で捧げ持ったのだ。
その瞳孔は極限まで開き、焦点が合っていない。 口元からは涎が垂れ、引きつった笑みが張り付いている。
「……あ、あぁ……。ありがとうございますぅぅ……」
アレクが、高い裏返った声で叫んだ。
「あぁ、見えます……! 私には見えます……! この房の、この小さなつぶつぶの一つ一つに……! この世の真理が、大いなる森の精霊たちが宿っているのがぁぁ……!」
彼はブロッコリーに頬ずりし、涙を流し始めた。
「この鮮やかな緑……! これこそが生命……! これこそが『世界樹』の縮図……! あぁ、素晴らしい……なんて素晴らしい造形美なのでしょうか……! 本来ならば、私のような無能な廃棄物が、触れることすら許されない高貴な存在……! それを……あぁ、それを、あの方が! 偉大なる管理者が! このゴミに『食してもよい』と! 慈悲を与えてくださったぁぁぁ!!」
アレクはガラスの壁に頭を打ち付け、獣がいる方向へ向かって土下座をした。 ガンッ! ガンッ! と額から血が流れるのも構わず、彼は狂ったように感謝の言葉を紡ぎ続ける。
「ブロッコリー様……ブロッコリー様……! 貴方はなぜ、そんなにも青々としているのですか……? 私を殺すためですか? それとも生かすためですか? 怖い……! 食べるのが怖い! 私の汚れた歯が、貴方の清らかな繊維を噛み千切る音が聞こえるのが怖い! 『キュッ』と鳴るあの音が! 森の悲鳴のように私の脳髄を溶かしていくのが! あぁ、でも食べたい! 食べなければ! これは義務! これは罰! これは至上の愛! 茎の硬い部分も、房の柔らかい部分も、全てが等しく神の恵み! マヨネーズなんて不純物は要りません! この青臭さこそが! 土の香りこそが! 私という個を塗りつぶしてくれる唯一の救済なのですからぁぁぁぁッ!!」
ガツガツガツッ!!
アレクは獣のようにブロッコリーに食らいついた。 咀嚼し、嚥下し、噎せ返りながら、それでも「ありがとうございます! 幸せです! 私は森です!」と意味不明な言葉を叫び続ける。
私と戦士は、言葉を失ってその光景を見ていた。 勇者は死んだ。 ここにいるのは、ただの壊れた玩具だ。
ふと、私は高台を見上げた。 漆黒の毛皮を纏った「獣」は、狂乱するアレクをじっと見下ろしていた。 満足するでもなく。嘲笑うでもなく。
ただ、退屈そうに。 まるで、予定通りの挙動を示すプログラムのエラーログを眺めるような目で、あくびを一つ噛み殺していた。
ガツガツガツッ!!
アレクは獣のようにブロッコリーに食らいついた。 茎の硬い部分も、房も、皿に残った緑色の汁までも、全てを舐め取った。
「……ごちそうさまでした。……あぁ、力が……緑が、満ちてくる……」
完食したアレクは、ゆっくりと顔を上げた。 その顔は、涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃだった。 だが。 その瞳だけが、先ほどまでの「怯え」とは違う、異様な光を宿していた。
「……フフッ」
アレクが笑った。 壊れた玩具のような乾いた笑いではない。 何か「とんでもない真理」に到達してしまった者の、底冷えするような笑みだ。
(……聞こえる。聞こえるぞ、森の声が……) (あの獣は……システムだとか効率だとか思っているんだろうが……分かっていない) (このブロッコリーの中にこそ……世界の『バグ』を利用する鍵があったんだ……)
アレクは、ガラス越しに、高台にいる獣を見上げた。 獣は退屈そうにあくびをしている。気づいていない。 飼い犬が、狂犬へと変貌しつつあることに。
「……待っていてください、カイ。そして黒い獣……」
アレクはボソリと呟き、残ったブロッコリーの欠片を愛おしそうに指で摘んだ。
「私は勇者じゃない……。、私は…自然だ……」
その背後で。 彼のステータス画面が一瞬だけノイズにまみれ、職業欄の文字が書き換わったことを、誰も知る由はなかった。
『 Job : Hero(勇者) 』
↓
『 Job : Broccoli_Berserker 』
(幕間・終わり)
おまけ
ブロッコリーにおびえる獣娘たち
新キャラの予感




