表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/45

第31話:揺れる猫じゃらしと、尊厳の崩壊

人間の町へ向かう街道の途中。  俺たちは少し休憩をとることにした。  道端の岩に腰を下ろそうとした時、俺の視界に見覚えのある植物が入った。


「……お、これって」


 見た目は「猫じゃらし(エノコログサ)」にそっくりだ。  だが、サイズがデカイ。穂の部分だけで子供の腕くらいある。しかも、風もないのにゆらゆらと妖しく動いている。


 俺は管理者ウィンドウを開き、鑑定してみた。


『 オブジェクト名:ダンシング・グラス(踊り草) 』 『 特性:生物の動体に反応して、不規則に揺れ動く。小動物の狩猟本能を刺激する成分を放出する 』


「へえ、ここにも生えてたのか」


 以前、フェンと二人きりの時にこれを見つけて、大変なことになった記憶が蘇る。あの時のフェンは、普段のクールな姿からは想像もできないほど乱れていた。


(……待てよ?)


 俺はチラリと後ろを見た。  そこには、フェンの妹であるルナがいる。  姉妹なら、反応も同じなんじゃないか?  あのツンデレなルナが、猫のようにじゃれついてくるところ……見てみたい。


 俺はニヤリと笑い、その草を二本引き抜いた。  草の穂先が生き物のようにクネクネと動き出す。


「おいルナ、見てみろよ。面白い草があるぞ」


 俺はルナに向かって、猫じゃらしをフリフリと振ってみた。


 ◇ ◇ ◇



「おいルナ、見てみろよ。面白い草があるぞ」


 カイがニヤニヤしながら、巨大な猫じゃらしのような草を振っている。  私は呆れてため息をついた。


(……バカなの?)


 あいつ、私のことをなんだと思ってるのよ。  まさか、あんな子供騙しの草で、私が「わぁーい!」なんて飛びつくとでも?  私は誇り高き銀狼族よ。その辺の野良猫や犬とは格が違うの。


 確かに、その草からは妙に甘くて、本能をくすぐるような匂いが漂ってくるけど……。  そんなのに反応するのはそこらの猫ちゃんくらいよ。


「あのね、カイ。いい加減にして」


 私は腰に手を当てて、呆れ顔で言ってやった。


「私を誰だと思ってるの? そんなのに引っかかるようじゃ、誇り高き銀狼の血が廃るって――」


 言い切る前だった。


 バシュッ!!


 私の横を、黒い疾風が駆け抜けた。  あまりの速さに、前髪が舞い上がる。


「え?」


 私がポカーンとして視線を向けると、そこには信じられない光景があった。


「わふぅぅぅぅぅッ!! 待てぇぇぇぇッ!! 待つのですぅぅぅ!!」


 姉様だ。  あの完璧で、優雅で、私の憧れである姉様が。  四つん這いになって、舌を出して、尻尾を千切れんばかりに振り回しながら、カイの持っている草に飛びかかっている。


「……は?」


 思考が停止した。  姉様の黒いマイクロビキニが激しく食い込み、お尻がプリプリと揺れている。  獲物を狙うその目は、完全に野生の獣そのものだ。


「し、姉様……? なにして……?」


 私の声なんて届いていない。  カイが楽しそうに草を左右に振ると、姉様は残像が見えるほどの反復横跳びを繰り返している。  威厳? 誇り? そんなものはどこにもなかった。


 ◇ ◇ ◇



 ルナが口を半開きにして固まっている。  無理もない。姉のあんな姿を見せられたら、誰だってそうなる。


「え? ルナ、なんだって? 銀狼の誇りがどうしたって?」


 俺が意地悪く聞くと、ルナは顔を真っ赤にして俯いた。


「う……うるさいっ! 姉様があんな……あんな……!」


 まあ、ルナには効かなかったみたいだな。やはり個体差があるのか。  だが、予想外の伏兵がいた。


「……んぐっ」


 背後から、荒い鼻息が聞こえた。  悠乃だ。  彼女が顔を紅潮させ、オーバーオールの胸元を握りしめて震えている。


「ど、どうした悠乃? トイレか?」 「ち、違うんよ……! 体が……勝手に……!」


 悠乃の瞳孔が開いている。視線は俺の左手にある「もう一本の猫じゃらし」に釘付けだ。  牛人族は草食系だろ? 狩猟本能なんてあるのか?  ……いや、待てよ。「美味しそうな牧草」に見えているのかもしれない。


「もう……我慢できんっ!!」


 ドスドスドスッ!


 悠乃が突進してきた。  フェンほどの俊敏さはないが、その突進力は重戦車級だ。


「ちょ、悠乃まで!?」 「よこせぇぇぇ! そのフワフワしたやつ、よこせぇぇぇ!」


 こうして、俺の両手には二匹の獣が食らいつくことになった。  右手にフェン。左手に悠乃。


「ほらほら、こっちだぞー!」


 俺は両手を交互に動かした。


 シュバババッ!  ドスンドスンッ!


 この光景は壮観だった。  フェンは、しなやかなバネのように跳ね回る。  着地のたびに、黒ビキニに収まりきらない胸が、時間差で「ボヨンッ!」と跳ね上がる。引き締まった筋肉と脂肪のバランスが美しい。


 対して悠乃は、重量感たっぷりの揺れだ。  彼女がジャンプ(あまり飛べてないが)するたびに、オーバーオールの隙間から見える巨大な果実が、まるで水風船のように「ドプンッ! タプンッ!」と重苦しい音を立てて暴れ回る。  お尻の肉もすごい。デニム生地の中で、柔らかな肉が波打っているのが分かる。地震でも起きているんじゃないかというレベルだ。


「はふっ! 主様! 右! 右です!」 「ああっ! 逃げるな! 待てやコラァ!」


 銀狼の俊敏な揺れと、牛娘の重厚な揺れ。  二つの異なる物理演算が、俺の目の前でカオスなハーモニーを奏でている。


 ルナは遠くで、死んだ魚のような目をしていた。


「……こんなアホみたいなお姉様と悠乃……初めて見た……」


 ◇


 十分後。  俺の腕がパンパンになってきた。


「はぁ、はぁ……。ごめん、もう疲れた。ストップ」


 俺が手を止めると、フェンと悠乃も「はぁ、はぁ」と肩で息をして止まった。  全身汗だくだ。ビキニもオーバーオールも肌に張り付いている。


「……もう、情けないんだから」


 呆れ果てたルナが近づいてきた。  彼女は俺の手から猫じゃらしをひょいと奪い取った。


「こんな草の何がいいのよ。ほら」


 ルナが何気なく草を振った。


 ビクンッ!!


 フェンと悠乃の体が跳ねた。


「あっ……ル、ルナ……それ……」 「ルナちゃん……動かして……もっと……」


 二人が涎を垂らしそうな顔で、ルナに懇願する。  それを見たルナの表情が、ニヤリと歪んだ。


「……へぇ」


 彼女の中に眠る、サディスティックな何かが目覚めた瞬間だった。


「お姉様、悠乃。……欲しい?」 「ほ、欲しいです! 下さい!」 「お願いじゃ……!」


「ダメ。……ほら、取ってみなさいよ」


 ルナが高い位置で草を振る。  フェンと悠乃が必死にジャンプする。


挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



「あはは! すごい顔! ほらほら、こっちよ!」 「わふぅッ! ルナ! 意地悪しないで!」 「ああんっ! 届かんっ! ルナちゃんいけずぅ!」


 ルナは完全に楽しんでいた。  普段は敵わない姉や、豊満な悠乃を、自分の指先一つでコントロールできる優越感。  彼女は巧みな手首のスナップで、二人を右往左往させた。


「ほら、もっと腰を振って! もっと高く!」


 フェンと悠乃は、言われるがままに踊り狂った。  汗が飛び散り、胸が揺れ、お尻が震える。  それは一種の狂乱の宴であり、最高のご褒美タイムだった。


 結局、二人が泡を吹いて倒れ込み、全く歩けなくなるまで、ルナによる「調教タイム」は続いたのだった。


 ◇ ◇ ◇


 日が暮れた頃。  俺たちは街道を外れた森の中で野営をすることにした。  全員汗と泥でドロドロだ。


「風呂にするか」


 俺は管理者権限でログハウスを展開し、自慢の露天風呂にお湯を張った。  四人で仲良く(悠乃とフェンは半死半生だが)湯に浸かり、汗を流す。


「ふぅ……生き返る……」 「主様、背中流します……」 「あー、極楽じゃぁ……」


 風呂上がり。  リビングのテーブルには、俺が用意した今夜のメインディッシュが並んでいた。


「うわぁ! これなに!?」 「いい匂い……!」


 そこにあるのは、山盛りの『牡蠣カキ』料理だ。  海のないこの場所で、なぜ牡蠣があるのか? もちろん、俺の権限で創造したからだ。  悠乃のミルクで消耗したスタミナを回復するには、海のミルクこと牡蠣が一番だ。


「まずは、『牡蠣のバター醤油ソテー』だ」


 熱々の鉄板の上で、大粒の牡蠣がジュウジュウと音を立てている。  焦がしバターと醤油の香ばしい匂いが、湯気と共に立ち上り、食欲をダイレクトに刺激する。  表面はカリッと香ばしく、中はふっくらとジューシー。


「んむっ……! おいひぃ……!」


 ルナがハフハフしながら頬張る。  噛んだ瞬間、濃厚な牡蠣のエキスとバターのコクが口いっぱいに広がる。


「こっちは『牡蠣とほうれん草のクリームチャウダー』だ。悠乃のミルクをたっぷり使わせてもらったぞ」


 白いスープに、プリプリの牡蠣が浮いている。  スプーンで救って口に運ぶと、ミルクの優しい甘みと、牡蠣の潮の香りが絶妙にマッチして、五臓六腑に染み渡る。


「うちのミルクが……こんな美味しい料理になるなんて……!」 「最高です、主様。いくらでも食べられそうです」


 フェンも悠乃も、昼間の失態を忘れて夢中で食べている。  俺も冷えたビール(風の炭酸水)を流し込みながら、牡蠣を堪能した。  亜鉛とタウリン、そして悠乃のミルク効果。  今夜もまた、俺のステータスは上がりそうだ。


「いやーにしても…さっきのお姉さまと悠乃ちゃんの必死な姿…私、思い出しただけで笑っちゃいそう…フフフ…」「ルナー…忘れてよぉ…お願いだから…」「ルナちゃんって意外と意地悪さんやなぁ…」


 ルナがさっきの光景を思い出して笑っている。尊敬するお姉さまの姿と、しっかり者の悠乃のあんな狂喜乱舞する(猫じゃらしに向かって)姿を見たら…そりゃな…


「ごちそうさまでした!」


 満腹になった俺たちは、ふかふかのベッドに倒れ込んだ。  右にフェン、左にルナ、上に悠乃。  いつもの定位置に収まり、俺たちは泥のように眠りについた。


 明日は人間の町だ。  英気を養った俺たちなら、どんなトラブルも乗り越えられるだろう。  ……たぶん。


(続く)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ