第24話:粘液の宴と、光合成する管理者
翌日。 ホルスタインの村は、真の意味での歓喜に包まれていた。 謎の毒は完全に消え去り、族長たちも無事帰還。 青空の下、広場には村中のテーブルが並べられ、復活したミルクとチーズ、そして大量の酒が振る舞われる「真・祝勝会」が開催されていた。
「カイ様、あーん♡」 「こっちのチーズも食べてくださいまし~!」
俺は村娘たちに囲まれ、至れり尽くせりの接待を受けていた。 右には牛柄ビキニのムーちゃん。左にはオーバーオールの悠乃。 さらにフェンとルナも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
平和だ。 昨日の洞窟での「族長ヌルヌル事件」というトラウマを除けば、完璧な異世界ライフだ。
だが。 この平和は、俺の腰ベルトの裏側から始まった「侵略」によって、唐突に終わりを告げた。
ポトッ。
俺のベルトから、緑色の小さな塊が落ちた。 昨日、洞窟からくっついてきたスライムの欠片だ。 そいつは地面に落ちると、広場に溢れる「濃厚なミルクの香り」に反応し、プルプルと激しく震えた。
ボボボボボッ!!
瞬間、異常増殖。 スライムは一瞬にして樽のような大きさになり、さらに分裂して数を増やした。 そして、本能のままに飛び掛かった。 ミルクの匂いがする、豊満な果実たちへ向かって。
「きゃあぁぁぁっ!?」 「な、なにこれぇ!?」
悲鳴が上がる。 スライムたちが村娘たちに襲いかかった。 そして、この洞窟産スライムには、ベルモットの趣味なのか、ある「特殊な性質」があった。 それは――「繊維だけを溶かす」という、紳士的すぎる特性だ。
ジュワァァァ……!
「い、いやぁっ! 服が、服が溶けちゃうぅ!」 「ダメぇ! そこに入ってこないでぇ!」
広場は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図……いや、酒池肉林の桃源郷へと変貌した。 粘度の高い緑色の液体が、娘たちの服をドロドロに溶かしていく。 露わになる白い肌。 弾けるような肢体。 そして、毒から回復してパンパンに張り詰めた胸元が、粘液に塗れてテラテラと輝きだす。
(……ごくり)
俺はジョッキ(中身は水)を持ったまま、その光景に釘付けになった。 見たい。 昨日は毒のせいで元気のなかった彼女たちが、今、健康的にミルクを出しながら、スライムにあーだこーだされている姿を。 これは「資料」だ。管理者の「監視義務」だ。
だが、その至福の時間を邪魔する声があった。
「主様! 大変です!」
フェンが俺の肩を揺さぶる。
「あのスライム、洞窟のやつです! 早くデリートしてください! このままだとみんなが!」
正論だ。 俺がコマンドを開けば、このスライムたちは一瞬で消滅する。 村の平和は守られる。
だが。 ここで消すということは、この眼前に広がる「ヌルヌル・パラダイス」を自ら閉園させるということだ。 そんなことが許されるか? いや、断じて否だ。
俺の脳内CPUが、0.0001秒で結論を弾き出した。
(……すまん、フェン。俺はクズになる)
俺はこめかみを押さえ、苦悶の表情を作った。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「主様!?」 「カイ!? どうしたの!?」
突然の絶叫に、フェンとルナが飛びついた。 俺はテーブルに突っ伏し、痙攣する演技(迫真)を魅せる。
「あ、頭が……! 頭が割れるように痛い……!」 「ど、どうして急に!?」 「わからん……! たぶん、昨日の管理者戦の反動だ……。脳の処理領域を使いすぎたんだ……。それに、洞窟の寒気でインフルエンザも併発したかもしれない……!」
「い、インフルエンザ!? 大変!」
フェンが真っ青になる。 よし、いいぞ。チョロいぞ。
「主様! なら病室に連れて行きます! ここにいたら危ないです! 静かな部屋で休んで……」
フェンが俺を担ぎ上げようとする。 待て待て待て! 病室なんかに行ったら、外の「スライム感謝祭」が見えなくなるだろうが! 俺はここで、この特等席で、事の顛末を見届けなきゃならないんだよ!
俺はフェンの腕の中で、再び絶叫した。
「ぬわあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「主様!? 今度はなに!?」 「カイ!? どうしちゃったのよしっかりして!」
ルナも涙目で俺の手を握る。 俺は虚ろな目で空を見上げ、震える声で告げた。
「ふ、二人とも……よく聞いてくれ……」 「は、はい!」 「この病は……特殊なんだ……」
俺はもっともらしい嘘を、全力で紡ぐ。
「この頭痛は……空の下……つまりこの場所じゃないと……治らないんだ……」 「えっ? 外じゃないとダメなんですか?」 「ああ……。俺の魔力回路は今、枯渇している。だから太陽の光を浴びて……光合成しないと……」
「こ、光合成……?」
「そうだ……。まるで天高く上る『ジャックと豆の木』の蔓のように……俺は日光の下にいなければ、死んでしまうんだ……ッ!」
支離滅裂だ。 人間は光合成しない。ジャックと豆の木も関係ない。 冷静に考えれば「何言ってんだこいつ」レベルの世迷い言だ。 だが、今の俺は「瀕死の英雄」というバフがかかっている。
フェンは真剣な顔で頷いた。
「そうなんですね!! 分かりました! 主様は植物と同じ構造だったんですね!」
信じた。 こいつ、俺が「実は野菜なんだ」と言っても信じそうだ。
ルナも、呆れたように、でも安堵したように溜息をついた。
「もー♡ それならそうと早く言ってよー。カイってば繊細なんだから」
――よかったー、二人がバカで。 俺は内心で安堵のガッツポーズを決めた。 これで俺は、「病人の療養」という大義名分のもと、堂々とこの広場に居座ることができる。
◇
こうして、俺の「光合成(という名の覗き)」が始まった。
「いやぁぁぁ! ねばねばぁ!」 「誰か助けてぇ~!」
目の前では、スライムたちが猛威を振るっている。 特に、あの牛柄マイクロビキニのムーちゃんが凄まじいことになっていた。
スライムの一体が、彼女のビキニの紐に絡みつき、パチンと弾いたのだ。 ただでさえ面積の少ない布地が、スライムの消化液で溶け落ちる。
ボロンッ。
たわわに実った果実が、重力に従って溢れ出した。 そこに、スライムが「待ってました」とばかりに覆いかぶさる。 透明な緑色のゼリー状の体が、彼女の胸の形に合わせて変形し、完全に密着する。
「ああんっ! 冷たいっ! 吸われてるぅ……!」
スライムが動くたびに、ムーちゃんの豊満な肉が波打ち、先端から白いミルクが滲み出してスライムの中に混ざっていく。 緑と白のマーブル模様。 芸術だ。これはもう、ルーブル美術館に飾るべきだ。
さらに奥では、給仕係のモモちゃんが、ホットパンツの中にスライムに入り込まれて悶絶している。 彼女が足をバタつかせるたびに、スライムが太ももの内側で「くちゃ、くちゃ」と卑猥な音を立てる。
「うぅ……カイ様ぁ……助けてぇ……」
彼女たちが涙目で俺を見る。 すまない。俺は今、光合成で忙しいんだ。 心のシャッターを切りながら、俺は「うぅ……頭が……」と呻いて視線をガン見状態で固定した。
◇
しかし。 数分もすると、俺の中に新たな「欲求」が芽生えてきた。 村娘たちのパニックシーンは確かに最高だ。 だが、何か足りない。 もっと身近な……そう、俺の「最推し」たちの姿が。
俺はチラリと横を見た。 俺を心配そうに覗き込んでいる、フェンとルナ。 そして、「村のみんなが大変じゃ! どうしよう!」とオロオロしている悠乃。
この三人は、まだ服を着ている。 無事だ。 きれいなままだ。
(……もったいない)
俺の中の悪魔が囁いた。 せっかくのスライムイベントだぞ? 村娘たちだけじゃ不公平だろ? メインヒロインたちも、等しくヌルヌルになるべきじゃないのか?
それに、俺が直接コマンドで消去するよりも、彼女たちが物理攻撃で戦ったほうが、スライムが飛び散って「事故」が起きる確率は格段に上がるはずだ。
俺は閃いた。 そうだ、これはチャンスだ。 俺は苦しげな声で、三人に告げた。
「フェン……ルナ……悠乃……」 「はいっ! ここにいます!」 「カイ、水飲む?」
俺は震える手で、スライムの群れを指差した。
「俺は……動けない……。だが、村のみんなが苦しんでいるのを見ていられない……」 「主様……」 「頼む……。お前たちの手で……あのスライムたちを退治してくれないか……? みんなを……救ってくれ……ッ!」
俺の「最期の願い(仮)」を聞いた瞬間、三人の表情が変わった。
「わかりました! 主様の名代として、私が殲滅してきます!」 フェンが立ち上がり、拳を構える。
「カイがそこまで言うなら……。やってやるわよ!」 ルナがブーメラン(ノーマル版)を抜く。
「村のみんなはうちが守る! 任しとき!」 悠乃がオーバーオールの胸元をドンと叩く。
三人の美少女が、戦場へと飛び出していく。 その背中を見送りながら、俺は心の中で満面の笑みを浮かべた。
(いけっ! フェン、ルナ、悠乃!) (そしてスライムたちよ、頑張れ! 負けるな! 物理攻撃をしてくる彼女たちの服を、その粘着力で剥ぎ取るんだ!)
俺の期待通り、スライムたちは新たな獲物――高レベルな魔力を持つ三人に反応し、一斉に向きを変えた。 飛び交うスライム。 舞い散る衣服の布切れ。 そして響き渡る、俺の愛するヒロインたちの悲鳴。
さあ、第二ラウンドの始まりだ。 俺は特等席で、しっかりと「光合成」させてもらうとしよう。
(続く)
おまけ
ブックマークとポイント、よろしくお願いします。このシーンをぜひとも書籍に…!




