第23話:狂信者の最期と、粘液まみれの救出劇
広場は静まり返っていた。 両腕の神経を破壊され、地面に転がされた管理者ベルモット。 ルナに引きずられてきた彼女は、痛みと恐怖で顔を歪めながらも、その瞳にはどこか常軌を逸した光を宿していた。
「……言え。本物の族長たちはどこだ」
俺はベルモットを見下ろし、冷徹に問いただした。 彼女は管理者だ。下手に尋問に時間をかければ、何らかのバックドアを使って逃走、あるいは自爆する可能性もある。
「ふふ……。言うと思う?」 「言わなきゃ、俺がお前の脳内ストレージを直接ハッキングして読み取るだけだ。……精神が崩壊するかもしれないがな」
俺が脅しをかけると、ベルモットの顔色がさっと変わった。同業者だからこそ、それがハッタリではないと理解できるのだろう。
「……座標:X-909, Y-320。ここから北へ十キロ……地下洞窟よ」
あっさりと吐いた。 だが、その直後。彼女はニヤリと口角を吊り上げた。
「でも、無駄よ。あの方……『黒い獣』様は、もう止められない」 「黒い獣……?」
その名前に、フェンの耳がピクリと反応した。 かつて彼女を瀕死に追いやった元凶。
「あの方は絶対よ……。恐怖も、支配も、全てがあの方の御心のままに……。私がここで情報を漏らしたことも、きっと織り込み済み……」
ベルモットは恍惚とした表情で、虚空を見つめた。 まるで恋焦がれる乙女のように。あるいは、神を崇める狂信者のように。
「ああ……嬉しい。私、最期まであの方の駒として役に立てるのね……」
ガリッ。
嫌な音がした。奥歯を噛み砕く音だ。
「なっ、止めろ!」
俺がコマンドを展開するが、遅かった。 彼女の口から紫色の泡が溢れ出す。即効性の猛毒だ。
「ヒヒッ……あはは……! 栄光あれ……あの方に……栄光あ……」
ガクッ。 ベルモットは不気味な笑みを張り付かせたまま、事切れた。 その死に様は、ただの敗北者ではない。洗脳された兵士の末路そのものだった。
「……気持ち悪いわね」
ルナが不快そうに顔をしかめる。 フェンも青ざめた顔で身を震わせた。
「あの女をここまで狂わせるなんて……。『黒い獣』、一体何者なんでしょう…私にも手をかけたやつと同一人物なのかも…」 「……その可能性は大いにあるな。だが、ロクな奴じゃないことだけは確かだ」
俺はベルモットの死体を(一応、システム的に消滅処理して)片付けると、二人に言った。
「行くぞ。族長たちを助け出す」
◇
示された座標は、村から少し離れた古い鉱山跡地だった。 入り口には禍々しい空気が漂っている。
だが、俺の心の中には、ある種の「期待」が芽生えていた。
(……待てよ。ベルモットは女だった) (そして捕らわれているのは、族長の孫娘ミミと、風呂番のナギさん……)
俺の脳内シミュレーターが高速回転を始める。 女管理者が、可愛い女の子を誘拐して監禁する。 その目的は? 拷問? いや、そんな非生産的なことはしないだろう。 ならば……。
(……いかがわしい実験か? あるいは、ベルモット自身の『歪んだ性癖』を満たすためのハーレム構築か?)
もしそうなら、今頃ナギさんたちは……。 服を溶かされ、あられもない姿で拘束されているかもしれない。
「……」
不謹慎? 知るか。男のロマンだ。 ベルモット、お前がもしそういう意図でここを作ったのなら、そのセンスだけは認めてやろう。
「主様? なんだか顔がニヤけてますけど」 「き、気のせいだ! さあ急ぐぞ! 一刻を争う!」
俺は鼻息荒く、洞窟の中へと踏み込んだ。
◇
洞窟の最深部。 そこは、俺の予想を遥かに超える地獄絵図――いや、桃源郷だった。
「きゃあぁぁぁっ!」 「やだぁ、ベトベトするぅ……!」
悲鳴が響く。 薄暗い空間には、無数の緑色のスライムが蠢いていた。 そして、壁際に拘束されているナギさんとミミちゃんの姿。
「こ、これは……ッ!!」
俺はガッツポーズをした。 正解だ。ベルモット、お前は天才だ。
風呂番のナギさんは、スライムの粘液で壁に張り付けにされている。 彼女の服は、スライムの消化液によって溶かされ、ボロボロだ。 白い肌が露わになり、そこをスライムの触手が這い回っている。
「んっ、くぅ……! 冷たい……! 入ってきちゃダメぇ……!」
ナギさんが身をよじるたびに、粘液が糸を引き、エロティックな音を立てる。 隣のミミちゃんも同様だ。まだ幼い肢体が、容赦なくヌルヌルにされている。
「お、お兄ちゃん……助けてぇ……!」
涙目で助けを求めるミミちゃん。 大丈夫だ、今助ける。だが、あと30秒だけこの光景を網膜(とHDD)に保存させてくれ。 俺は管理者としての責務(記録)を全うしようと、目を皿のようにしていた。
その時だった。
視界の端。 もう一人、捕らわれている人物がいることに気づいた。 族長のガウだ。 筋骨隆々の、ミノタウロスのオッサン。
彼もまた、スライムまみれになっていた。 屈強な胸板。太い腕。剛毛。 それらが、ピンク色のローションのような粘液でテラテラと光っている。 そして。
「いやあああああああああああああああああ!」
野太い絶叫が洞窟に轟いた。
「そこっ! そこはダメだぁぁぁ! ワシの敏感なところがぁぁぁ! んほォォォォォッ!!」
スライムが族長のパンツの中に侵入しているらしい。 オッサンが、乙女のような悲鳴を上げて、ビクビクと体を震わせている。
「…………」
俺の脳内メモリから、一瞬でナギさんたちのエロ画像が削除され、代わりに「ヌルヌル族長」の地獄画像が上書き保存された。
「……気持ち悪いわッ!!」
俺は叫んだ。 なんだあれ。誰得なんだ。 もっとこう、族長なら「ぬぐぉぉぉ! 離せ貴様ら!」とか勇ましく抵抗してろよ。なんで完全陥落してるんだよ。 キャラ崩壊も甚だしい。たくましかった 俺の中の族長を返せ。
「あ、目が……目が腐る……」
精神的ブラクラだ。 これ以上見ていたら、俺のSAN値がゼロになる。 精神衛生上、一刻も早くこの場を処理する必要があった。
「転送ッ! 全員まとめて村へ帰れェェェッ!!」
俺はヤケクソ気味にコマンドを叩き込んだ。
Target : [ Nagi ] [ Mimi ] [ Gau ] Command : Teleport >> [ Village_Plaza ]
シュンッ!
三人の姿が、スライムごと強制転移された。 洞窟に静寂が戻る。
「……はぁ、はぁ。危ないところだった」 「主様……今の、見なかったことにしましょう」
フェンが遠い目をしている。ルナは口元を押さえて吐きそうだ。 俺たちは無言で頷き合い、洞窟を後にした。
◇
その後、俺たちも村へと転移した。 村に戻ると、そこは歓喜の渦だった。
「族長たちが帰ってきたぞー!」 「カイ様が助けてくれたんだ!」
広場では、スライムから解放された(そして服を着せてもらった)三人が、村人たちに囲まれて泣いている。 族長も、何事もなかったかのように威厳を取り戻していた(俺と目が合うと、バツが悪そうに咳払いをした)。
「カイ殿! ありがとう! 貴殿は真の英雄だ!」 「おっぱいも治ったし、族長たちも帰ってきたし、最高じゃ!」
悠乃が俺の背中をバンバン叩く。 村娘たちの胸からは、再び豊かなミルクが溢れ出し、村はかつての活気を取り戻していた。
「さあさあ、今夜は祝勝会じゃ!」 「カイ様の周りに集まれー!」
俺は揉みくちゃにされた。 前後左右から、柔らかい感触が押し寄せる。 フェン、ルナ、悠乃、そして他の牛娘たち。 まさにハーレム。英雄へのご褒美だ。 俺は幸せに浸りながら、今日一日の疲れを癒やしていた。
だが。 俺は気づいていなかった。
俺の装備のベルトの裏側。 そこに、洞窟からこっそりと付いてきた「小さなプルプルしたもの」が張り付いていることに。
ピチャッ。
小さなスライムの欠片が、俺の体温を感じて嬉しそうに震えた。 それはまだ、誰の目にも留まっていない。 だが、この小さな「お土産」が、翌朝とんでもないパニックを引き起こすことになろうとは、今の俺は知る由もなかった。
(続く)




