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第21話:VSベルモット1

時間を少し巻き戻す。

 広場での「テスト」を行う直前のことだ。


「ああ、あと、ルナとフェン……悠乃も。ちょっと来てくれ」

「「……?」」


俺が声をかけると、三人は顔を見合わせた。

 今まで俺が、戦闘に関して誰かに相談することなど一度もなかったからだ。

 俺は彼女たちを物陰に連れて行き、システムウィンドウを小さく展開して見せた。


「これを見てくれ。……共同浴場の水質データだ」


`Target: Bath_WaterStatus: Poison (Type: 0x99A)Log: Modified by Administrator [ Vermouth ]`


Modifiedモディファイド……つまり、『書き換えられた』形跡がある」


俺は真剣な顔で三人に告げた。


「敵はただの毒使いじゃない。俺と同じ、この世界のルールを書き換える力を持った『管理者アドミニストレータ』だ」


「カ、カイと同じ力……!?」


悠乃が息を呑む。

 俺の力は規格外だ。それが敵にもいるとなれば、事態は一気に深刻になる。


「だから、役割分担を決める。敵の『管理者』は、絶対に俺が相手をする。俺のコマンド(権限)に対抗できるのは俺しかいない」


俺はフェンとルナに向き直った。


「だが、そいつが一人とは限らない。もし手駒のモンスターや、別の敵がいた場合は、二人で対応してくれ。……ルナ、危険な戦いになるけど、いけるか?」

「……任せてよ。以前の特訓の成果、見せてやるわ」


ルナが背中のブーメランを握りしめ、力強く頷く。

 フェンも「私の可愛い妹には指一本触れさせません」と頼もしく微笑んだ。


「そして悠乃。お前には一番重要な任務がある」

「う、うちにか?」

「ああ。もし戦闘になったら、お前は村人を誘導して安全な場所へ避難させてくれ。敵が村人を人質に取ったり、広範囲攻撃を仕掛けてきたりする可能性がある」


悠乃の表情が引き締まる。


「……分かった。村のみんなは、絶対にうちが守る」


作戦は決まった。

 そして現在――広場にて、化けの皮を剥がされた敵対者たちとの戦闘が幕を開けた。



「へぇ、私とやる気? いいわよ、デバッグしてあげる」


敵の管理者、ベルモットが指を鳴らす。

 瞬間、彼女の周囲に深紅のウィンドウが無数に展開された。


`Code: Summon_Object [ Obsidian_Lance ] x 50Attribute: Fire_Element`


「まずは挨拶代わりよ!」


彼女の頭上に、燃え盛る黒曜石の槍が50本も出現する。

 それらが一斉に、俺たち目掛けて射出された。

 物理的な回避は不可能。雨のような弾幕だ。


だが、俺は慌てない。

 飛来する槍の軌道を視界に捉え、カウンターコードを高速入力する。


`Target_Area: Radius 10mCommand: Delete_Object [ Obsidian_Lance ]`


ターンッ!


俺がエンターキーを叩いた瞬間。

 眼前に迫っていた50本の槍が、まるで映像のノイズのように「プツン」と消失した。

 熱も、衝撃も残らない。最初から無かったことになったのだ。


「チッ……! やっぱり『削除デリート』は使えるわよね」

「挨拶にしては殺意が高いな。次はこっちの番だ」


俺は攻撃に転じた。


`Create_Environment : [ Gravity_Well ] (重力井戸)Target : Vermouth`


ベルモットの足元の重力を局所的に10倍にする。

 彼女が膝をつく――はずだった。


「甘いわよ!」


`Interrupt : Cancel_EffectDefense : Floating_Shield`


ベルモットの周囲に半透明の障壁シールドが展開され、俺の重力操作を無効化した。

 さらに彼女は、シールドを足場にして空中へと跳躍する。


「悠乃! 今だ!」


俺の指示に、悠乃が即座に動いた。

 パニックになっている村人たちの前に立ち、大声を張り上げる。


「みんな! こっちじゃ! 牛舎の地下シェルターへ逃げるんじゃ!」

「で、でも……!」

「ええから走れ! カイたちが戦いにくいじゃろがい!」


悠乃の迫力ある号令に、村人たちが我に返って走り出す。

 よし、これで憂いはなくなった。

 俺は上空のベルモットに意識を集中した。



一方、地上ではフェンとルナが、擬態を解いた二体のモンスターと対峙していた。


「グルルルゥ……ッ!」


族長に化けていたタコ型モンスター『クラーケン・ウォーリア』が、濡れた触手を鞭のように振るう。

 岩をも砕く一撃がフェンに迫るが――。


「ふわぁ……」


フェンは手で口元を覆い、可愛らしくあくびをした。

 触手が彼女の体に当たる寸前。

 彼女の姿が霧のように揺らぎ、触手は空を切った。


「遅いです。そんな速度じゃ、私の残像すら捕まえられませんよ?」


フェンは瞬時に敵の背後へ回り込んでいた。

 その拳には、絶対零度の冷気が纏われている。


「お仕置きです。『氷狼掌フェンリル・パーム』」


ドンッ。

 軽く背中に触れただけに見えたが、その衝撃は内部を駆け巡る。

 クラーケン・ウォーリアの足が凍り付いたが、自らの足を捥いで脱出し、戦闘態勢に即座に入る。


「まだまだあああああああ!」


「…まだまだって何がですか?寝る時間までですか?…ああルナちゃんは…大丈夫そうですね…ああひまだなあ…何が悲しくてこんなことやってるんだろ…」

 圧倒的な実力差。フェンにとっては、準備運動にもならない相手だ。


そしてもう一方。

 ルナの前には、孫娘に化けていたコオロギ型モンスター『インセクト・ナイト』が立ちはだかっていた。


「キシャァァァッ!!」


敵は発達した脚力で跳躍し、残像が見えるほどの高速移動でルナを翻弄する。

 硬い甲殻は鉄の剣すら通さないだろう。


「……速いけど、動きが単調ね」


ルナは冷静だった。

 以前の特訓。そしてカイに貰った『力』への信頼。

 彼女は背中の巨大ブーメランを抜き放ち、大きく力任せに振りかぶった。


「いけぇッ!!」


ヒュンッ!!


手から離れたブーメランが、赤黒いオーラを纏って加速する。

 インセクト・ナイトはそれを察知し、横へ回避行動を取った。

 ――避けた。誰もがそう思った。


だが。


ギュンッ!!


ブーメランは空中で直角に近い鋭角ターンを描き、逃げた敵を正確に追尾した。

 きれいな弧を描き、インセクトナイトの背後に迫る。


ドゴォォォォォォンッ!!!


直撃。

 インセクト・ナイトの硬い甲殻が粉砕され、巨体が吹き飛んで民家の壁に激突した。


「すごっ……! 本当に当たった……!」


ルナ自身が驚くほどの威力。

 手元に戻ってきたブーメランを受け止め、彼女は自信に満ちた笑みを浮かべた。


「これなら……戦える!」



上空で俺と攻防を繰り広げていたベルモットが、地上の様子を見て眉をひそめた。


「ちっ、雑魚どもが。……にしても」


彼女の視線が、ルナに向けられる。

 正確には、ルナが手にしている『ブーメラン』に。


「あの武器……挙動がおかしいわね。質量と軌道ベクトルが弄られているんじゃないの?」


ベルモットは目を細めた。

 そして、俺を見てニヤリと笑う。


「なるほどね。武器データ(無機物)にパッチを当てて強化したわけだ。……優しい保護者さん」


ベルモットの指先が動いた。

 ターゲットは俺じゃない。地上のルナだ。

 彼女は俺への攻撃(魔法弾)を展開しながら、並列処理マルチタスクで別のコードを走らせる。


`Attack : [ Homing_Missile ] x 10 >> Target : KaiParallel_Process : Edit_Object [ Luna_Boomerang ]`


「ッ! 並列処理か……!」


俺は自分に迫るミサイルを迎撃するためにコードを入力する。

 だが、その一瞬の処理落ち(ラグ)を、敵は見逃さなかった。


`Code : Revert_to_Default (初期化)`


俺が防御コードを走らせると同時に、ベルモットのコードがルナの武器へ到達した。

 俺の『ロック』処理よりも、敵の『上書き』処理が一瞬速い。


カチッ。


「くらいなさいっ!!」


何も知らないルナが、トドメを刺そうとブーメランを投げた。

 だが。


ヒュン……。


ブーメランからは、先ほどの威力は感じられない。

 ただの木の塊として空を飛び、インセクト・ナイトの硬い甲殻に当たって――。


カコンッ。


乾いた音を立てて弾かれた。


「え……?」


ルナが目を見開く。

 何が起きたのか理解できない。ただ、最強の武器が通用しなかったという事実だけが残る。


「キシャァァァッ!!」


壁に叩きつけられていたインセクト・ナイトが、怒り狂って起き上がる。

 武器が弾かれ、丸腰になったルナへと、その鋭利な爪を向けて飛びかかった。


 俺は動こうとするが、ベルモットがそれを読んでいたかのように、俺の周囲に『牢獄ケージ』コードを展開して足止めにかかる。


「よそ見は禁物よ? さあ、どうするの管理者さん!」


ルナの目の前に、死の刃が迫る。


 頼れるのは、彼女自身の力だけ――。


(続く)






おまけ


挿絵(By みてみん)

きょうのおまけ 


挿絵(By みてみん)


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